2019.9.15
沼倉研史のアメリカ便り
                            昭48院化 沼倉 研史
 
 今回の台風15号は、月曜日の早朝に千葉県を直撃しました。台風は、進行方向右側の風が強いといわれていますが、その通りで、千葉市では最大瞬間風速毎秒57.5メートルを記録しました。もちろん新記録です。暴風雨の範囲が千葉市を通過するのには3〜4時間かかりましたが、その間木造の拙宅は地震の時以上に揺れ、不安な気持ちでただ待つしかありませんでした。最終的には、拙宅の損害は屋根瓦が小さな損傷を受けただけで、息子が屋根に登って修理することができました。ただ、雨漏りはかなりありました。翌日、診療のために、モノレールと電車を使って、千葉市の中心部、南部の病院へ出かけたのですが、特に屋根に損傷を受けた家屋が多数見受けられました。
 拙宅では、電気、ガス、水道、通信などの障害は何もありませんでしたが、後でニュースで確認したところでは、同じ区部でもライフラインに障害が出た地域が少なからずあったようで、列車の運行や、自動車での通行にかなりのトラブルが続きました。二日後に買い物に出ましたが、スーパーの生鮮食料品棚はからっぽで、配送トラックが来ていないとのことでした。1週間が過ぎても、停電している地区がかなりの残っているとのことで、通常の生活だけでなく、農業、漁業、製造業への被害が広がっています。
 まだ、損壊した家屋の修理が出来ていないところに、房総半島の南東沖に発生した強い熱帯性低気圧が近づいており、台風被害に追い打ちをかけることになる可能性が伝えられています。

沼倉研史
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220回(2019.9.15)

今週の話題

最近の台湾プリント基板市場

 以前に何度かご紹介しているように、台湾のプリント基板産業の動向は、世界の民生エレクトロニクス業界の先行きを予測する上での先行指標となっています。

今回の、半導体をはじめとする世界のエレクトロニクス産業の低迷についても、いち早くその兆候を示していました。(添付した台湾プリント基板産業の出荷動向、世界の半導体製品出荷動向のグラフをご参照ください。)

 グラフの読み方には、ちょっと予備知識が必要かもしれません。台湾の民生用エレクトロニクス製品の出荷は、毎年上半期はゆっくり立ち上がりますが、下半期は欧米のクリスマス商戦へ向けて、連続的に増大していきます。ちなみに、グラフではいずれも2月には大きく下落していますが、これは旧正月休暇による減産によるもので、毎年起きます。このように、台湾のプリント基板の出荷は、1年を1サイクルにして繰り返しながら、毎年成長を続けてきました。


 ところが昨年下半期の場合は、例年に比べて様子が違っていました。第3四半期までは順調な成長を遂げているかのように見えていたのですが、第4四半期に入ると、成長が止まってしまい、12月には大きく下落となりました。どう見ても、これは異常事態です。毎月、台湾プリント基板出荷データは、翌月の中旬には発表されます。これに遅れること2、3週間で、世界の半導体製品の出荷データが発表されます。昨年の場合、10月までは順調に伸びていましたが、11月には伸びが止まってしまい、12月には大幅下落となりました。これがトリガーとなり、世界の半導体業界は、2008年からの世界同時不況以来の低迷となります。


 業界のアナリストの多くは、2019年の下半期には反発し、2020年には回復に向かうとの見方をしています。しかしながら、最新の市場データを見る限り、楽観的な見方はできなくなってしまいます。まず、半導体の出荷動向は、連続減少傾向こそ止まったものの、はっきりした反発には至っていません。現状が踊り場的な状態で、今後再び減少に向かう可能性がないわけではありません。半導体のもっとも大きな需要家であるスマートフォンは、3年連続の減少が続いており、短期的に反発してくる可能性はなさそうです。スマートフォンの減少分を補ってあまりあるような新製品は見当たりませんし、話題の5G製品が、販売数に寄与するにはまだ時間がかかりそうです。

 台湾のプリント基板業界も、楽観的な見方はできなくなっています。7月に至って、出荷額は増加傾向になっていますが、前年同月比ではマイナス成長状態が続いています。プリント基板用の材料の出荷も低迷しています。さらに悪いことには、設備投資が非常に低いレベルに留まっています。このような状況は、プリント基板メーカーが、今後の需要について楽観視していないことを意味しています。台湾のプリント基板メーカーは、世界のエレクトロニクス生産センターともいえる、台湾のEMSメーカーと密接な情報網を構築しており、高い正確度でエンドユーザの資材調達情報を得ています。したがって、エンドユーザの販売予測や計画に変更があると、短時間の内に情報が基板メーカーに伝わります。その台湾基板メーカーが、今後の受給バランスに「守り」の姿勢を固めているわけですから、世界の民生エレクトロニクス市場の低迷は、しばらく続くと見るべきでしょう。メーカーによって、状況は違っているでしょうが、それぞれ然るべき対応策をこうじることが必要になっています。時間的余裕はあまりないでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


219回(2019.9.1)

今週の話題

JPCAショー2019(その4)

 今年のJPCAショーは、つまみ食い的に見ただけなので、全体をレビューできるような立場にはないのですが、フレキシブル基板に関連して目についたことがあります。それは、フレキシブル基板の信頼性を評価する試験装置のデモンストレーションが複数見られたことです。近年、フレキシブル基板の品質保証については、全数オープンショート試験が実施されるようになってきていますが、完成した回路の物理物性となると、メーカーとしてはなかなか手が出ないのが実情のようで、材料メーカーから提供されたデータシートで間に合わせるケースが少なくありません。中小のフレキシブル基板メーカーでは、標準的な試験設備も不十分で、担当する技術員さえ置いていない状態です。そのような中で、汎用性のある試験装置が商品化されてきているということは、大げさにいえば、業界全体のボトムアップに繋がることといえるでしょう。

 私が興味を持ったのは、ふたつの装置メーカーの製品です。ひとつはユアサ・システムズという装置メーカーのフレキシブル基板の機械的信頼性の評価装置です。(大手バッテリーメーカーのユアサとは関係ないそうです。)

 フレキシブル基板の機械的特性というと、IPC摺動試験、MIT折曲げ試験が頭に浮かびますが、このメーカーの装置は、アタッチメントを交換するだけで、ふたつの試験はもちろん、最近需要が増えている伸縮や捻れなど複数のモードで耐久試験ができるという優れものです。装置自体はコンパクトで、ジム机の上に収まる程度です。なかなか使えそうな装置です。

 もうひとつは、マイグレーション試験装置です。(不覚にもメーカーの情報を紛失してしまいました。心当たりのある方は教えてください。)マイグレーションとは、回路間に電位があると、導体の金属原子がマイナス側に移動する現象で、特に高温高湿の環境で著しく、放っておくと絶縁不良、短絡事故にいたります。このマイグレーション現象は、導体が銀の場合に著しく、銀インクを主要導体とする厚膜印刷回路では、深刻な問題になります。ところが、厚膜回路メーカーで、マイグレーション測定装置を備えているメーカーは決して多いとは言えない状況です。この装置メーカーの製品は、連続絶縁抵抗測定装置に、高温高湿チャンバーを備えていますが、コンパクトにまとまっています。この試験装置メーカーでは、受託試験も対応しているとのことです。

 ここでは、ふたつの試験装置しか紹介できませんでしたが、フレキシブル基板の試験項目は、他にもたくさんあります。今後、フレキシブル基板には新たな機能が付け加えられることが予想されます。材料メーカーや回路メーカーは、単に製品を作るだけでなく、その特性を評価する技術を確立し、できれば一般に公開してほしいものだと考えます。長期的には、そのメーカーの価値を高めることになりますし、業界全体のレベルアップにもなります。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


218回(2019.7.28)

今週の話題

JPCAショー2019(その3)

 今年のJPCAショーでは、厚膜印刷タイプのフレキシブル基板では、なかなか見るべきものがありました。画期的な技術というほどのものではないのですが、これまでのプリント基板技術では難しかったことができるようになっているところ価値がありそうです。

 これまで、厚膜印刷回路といえば、片面構成で、ラフな回路というのが、共通認識でした。ところが、最近の印刷技術と、印刷インクの性能の進歩はめざましく、銀インクで、幅50ミクロンの回路を量産することは、かなりの高い歩留まりでできるようになっているようです。小規模の量産であれば、30ミクロンの回路も形成が可能だとしています。スクリーン版メーカーは10ミクロン未満の線幅が可能だとのことです。

 多層化技術も進んでいます。両面ビアホール構造は、もうそれほど難しいものではなく、ビアホールの径も100ミクロン未満が実現しています。そもそも、厚膜回路技術にとって、多層構造は得意とするところなので、さまざまな多層構造が提案されています。多層の中に、導体層だけでなく、絶縁層や機能材料層も入れれば、軽く十層ぐらいになってしまいます。こうなると、寸法管理や位置合わせ技術がキーになってきますから、出来上がった回路のパタンズレをチェックすれば、だいたいそのメーカーの加工能力が推定できます。この分野では、実績が多い台湾メーカーが先行しているようです。

 これまで、厚膜回路の本質的な欠点とされていたのが、銅箔回路に比べて、桁違いに大きい導体抵抗です。これを一気に改善する技術が提案されています。コロンブスの卵的な単純なアイデアですが、厚膜導体の上に、金属銅を薄くめっきする工法です。めっきの厚さにもよりますが、1ミクロン未満のめっき厚さでも、導体抵抗が一桁以上小さくできる可能性があります。私自身以前に検討したことがあるのですが、めっき処理をしてくれるメーカーがなく、保留になっていました。しかし、複数の回路メーカーが試みていますので、今後大きく伸びることが期待されます。

 なお、厚膜回路への銅めっき処理がもたらす影響として重要なのが、銀マイグレーションの抑制です。これは、余禄的なメリットですが、回路にマイグレーション対策をしなくても良いとなると、技術的なものだけでなく、コストの上でも大きなメリットになります。

 厚膜印刷回路のメリットとして大きいのが、基材や導体の選択肢が多いということがいえることです。添付した写真の例では、大面積の布地にスクリーン印刷で、圧力センサーアレイを形成しています。人が睡眠中に、マットレスにかかる荷重がどのように変化するかを見ようとするものです。ベッドの中に、汗による湿気がこもらないように、通気性の良い布地を基材として使っています。


 次回も、技術的な面でのトピックスの続きを紹介します。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


217回(2019.7.7)

今週の話題

JPCAショー2019(その2)

 多少ダウンサイズとなってしまった今年のJPCAショーですが、技術的にはたくさんの新技術、新製品を見ることができました。特に、フレキシブル基板に関連する分野では、新しい業界のトレンドを見ることができました。しかも、中堅のフレキシブル基板メーカーが、新技術、新製品を積極的に出しているのが目につきました。

 最初のキーワードはウエラブルです。今年は、何社かのメーカーが伸縮性のフレキシブル基板を出し、デモンストレーションをしていました。回路の構成はメーカーによって様々です。オーソドックスなアプローチは、細長いフレキシブル基板をスパイラル状に成形する手法です。導体は銅箔です。この手法であれば、安定した導体抵抗が得られますが、回路が大きくなってしまいます。これに対応するアプローチが、ウレタンゴムのような伸縮性のベース材料を使う方法です。導体としては、銅箔をエッチング加工する方法と、伸縮性の大きい導電性インクをスクリーン印刷する方法が提案されています。いずれの場合でも、導体抵抗を安定させるために、回路は蛇行させています。課題はカバーレイになりますが、各メーカーとも手の内を明かしてくれません。汎用性のあるカバーレイ材料ができていないのかもしれません。

 次は、透明な耐熱性のある透明フレキシブル基板です。これも、何社か複数のメーカーが透明なポリイミドフィルムをベースにした回路を出展していました。これらの回路メーカーは、ラミネートメーカーから銅張積層板を購入し、銅箔をエッチング加工しているとのことです。残念ながら、材料メーカーは、透明ポリイミドベースの銅張積層板を出展していなかったので、確実なところはわかりませんが、複数の銅張積層板メーカーで供給体制ができているとのことです。ここでも、カバーレイ材料が課題になっています。とりあえず、回路メーカーとしては、透明ポリイミドフィルムに接着剤を塗布した、フィルムカバーレイを使っているようですが、この構成では、透明ポリイミドフィルムの、せっかくの透明性、耐熱性を犠牲にしていることになります。回路メーカーとしては、スクリーン印刷が可能な、透明ポリイミド樹脂の実用化を待っていることになります。材料メーカーとしては、透明なポリイミドインクの開発を進めているようですが、実用化までには、もうしばらく時間がかかりそうです。

 3番目の話題は、5Gです。今年は、高周波領域でロスが少ない、言い換えれば、低い誘電率と誘電損失の絶縁材料を使ったフレキシブル基板が多く出展されました。具体的には、ベース材料として、LCP(液晶ポリマー)フィルムが、その候補として挙げられています。液晶ポリマーフィルムが、フレキシブル基板用材料として、商品化されたのは、1990年代のことですから、素材メーカーとしては、20年以上も機会を待っていたことになります。ところが、市場の動きは速く、現在生産が需要に追いつかない状況が続いているとのことです。なかなか、需給バランスをとるというのは、簡単ではないようです。

 次回も、技術的な面でのトピックスの続きを紹介します。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
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216回(2019.6.16)

今週の話題

JPCAショー2019(その1)

 6月5日から東京ビッグサイトで恒例のJPCAショー2019が開催されました。日本のプリント基板業界は、昨年の末から前年同月比で二桁のマイナス成長が続いており、業界最大のイベントの動向が注目されておりました。

 今年のJPCAショーいろいろと大きな変化がありました。第一に挙げられるのは、開催場所の変更です。従来は、東ホールを使っていましたが、今年は全てが西ホールへ移動しました。事務局の説明によれば、2020年のオリンピック、パラリンピックの開催へ向けての改修工事が入っているために、その都合で移動を余儀なくされたとのことです。来年のJPCAショーは、まさにオリンピック直前になりますので、さらなる移動を強いられ、これから新設される青海ホールに移ることになっており、交通の便が悪くなることは避けられません。

 西ホールへの移動によって、フロア面積はかなり縮小を余儀なくされたようです。これまで人気のあった各種セミナーの多くはキャンセルされてしまいました。

出展社数はだいたい前年並みとのことでしたが、前年まで大きなブースを構えていた大手基板メーカーや材料メーカーは、かなり狭いスペースでの展示をやりくりしなければならなくなったようです。受付を始めとして、各種案内やサービスは、かなり簡素化されています。業界が低迷しているので、展示会までが萎縮している感じがします。

 展示はかなり地味になってしまいましたが、来場者は少なくなく、業界の情報交換の場としては、相変わらず活発に使われていたようです。残念ながら、市場動向を楽観視する人はほとんどなく、市場の回復は、早くても第3四半期以降との見方が大勢です。特に深刻なのは日本のフレキシブル基板産業で、前年同月比で、2〜30%の減少が続いていて、回復の見通しが立っていないようです。これは、日本の大手メーカーが、海外のモバイル機器メーカーへの依存度が大きく、その反動がもろに降りかかっている状況です。日本メーカーの多くは、ひたすら、景気の回復を待つという対応のようです。一部のメーカーは、今後成長が見込める自動車分野に期待しているようですが、それとて、実際にビジネスになるまでには年単位の時間がかかるでしょうから、それまで会社がもつだろうかと心配しています。ところが、台湾筋の情報によれば、すでに3月、4月、5月と、硬質基板、フレキシブル基板とも回復に向かっており、台湾メーカーのしたたかさを感じます。

 以前は、台湾製といえば、日本製のコピーで、安いが品質が悪いというのが共通認識でしたが、現在では、その認識を変えざるを得ない状況です。今回の展示でも、台湾メーカーの製品では、ユニークなものがいくつもありました。しかも実用的で、すぐにでもビジネスになりそうなものが少なくありません。すでに、台湾のプリント基板産業の規模は、日本のそれを上回っていますが、今後その差は大きくなっていく一方のようです。

次回は、技術的な面でのトピックスを紹介します。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
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215回(2019.6.2)

今週の話題

エレクトロニクス業界の低迷は底を打ったか?

 今回のエレクトロニクス業界の低迷については腑に落ちない点がいくつかあります。

 市場の急落は昨年の12月に突然始まりました。それから3ヶ月間、世界の半導体製品の出荷、世界の電子部品の出荷、台湾のプリント基板業界の出荷、日本のプリント基板業界の出荷は減少しつづけました。それが、3月に入って、少し状況は変わってきています。



 世界の半導体製品の出荷額の下落は、かなり緩やかになっています。ただし。地域別に分けてみると、中国の3月の出荷額は、わずかですが反発して増加に転じています。その他の地域は、多少下落率は小さくなっているとはいうものの、依然として減少傾向にあります。特に北米の減少率は際立っています。グラフに出てくる傾向からだけでは、この先のことは予測しにくい状況が続いているといってよいでしょう。それでも、この先1〜2ヶ月の動きを観察すれば、予測の確かさは、はるかに良くなるでしょう。

 一方、台湾のプリント基板業界の出荷額は、3月から大きく反発にてんじています。これは、旧正月休暇による季節要因の影響を差し引いても、プラス成長になります。今年の3月の出荷額は、前年同月比でプラス成長になっていますし、4月は成長幅が拡大しています。台湾の経営者は、かなり早い時期に、今回の低迷を予測しており、その対策を進めていたようです。日本のプリント基板業界の出荷額は、1月、2月、3月と少しずつ増加していますが、前年同月比では二桁減少が続いており、減少率は広がっているかのように見えます。

 一見あまり関係がないように見える景気動向も、地域別、カテゴリー別に分けてみると、その因果関係がみえてきます。ある程度先の予測も可能です。少なくとも自分のテリトリーに関して見てみれば、一般メディアや市場アナリストなる人たちよりは、たしかな予測ができます。一般の会社員ならともかく、まがりなりにも経営者やマネージャーの肩書きを持っているような人々は、自分なりの情報収拾ソースを持ち、分析能力を備えておくべきでしょう。

 メディアは、米中の貿易摩擦による景気低迷を懸念していますが、実態経済、特にエレクトロニクス業界では、かなりフェイズがズレたところで、経済が動いているのです。むしろ、自分が関わっている市場へのアクセスから得られる情報の方が信頼できます。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


214回(2019.5.12)

今週の話題

ドラッグストアのエレクトロニクス

 以前に、米国のドラッグストアには、様々な家庭用電子機器があふれていることをご紹介しましたが、もう少し詳しく見てみましょう。ドラグストアの陳列棚に展示されているということは、特に医者の処方箋が無くても、購入し、使用できることになり、適切な価格帯が設定できれば、大きな需要が期待できます。現在、私の行きつけのドラッグストアの場合で見ますと、陳列棚の大きなスペースを占めているのは、血圧計と血糖値センサーです。

 まず、血圧計ですが、最近では日本でも家庭用の簡易モデルが、かなり普及していますが、とにかくアメリカのドラッグストアでは品揃えが圧倒的です。アメリカでは患者も多様ですから、血圧計のタイプも多くなるのでしょう。病院で使うような上腕部に巻きつけるタイプ、指に巻きつけるコンパクトタイプに分かれますが、それぞれに複数のモデルが出ています。最近のトレンドは、データ処理のスマート化です。測定されたディジタルデータは、そのまま、あるいは編集された上で、スマートフォンなどのデバイスに無線で送られます。その利便性により、価格に差がついているようです。

 メーカーを確認してみると、日本のオムロン社ブランドに存在感があります。(添付写真参照)同じような仕様の製品であれば、オムロンブランドは20%以上高い価格になっています。オムロン社の長い実績には信頼感があるようです。

 血糖値センサーはアメリカ合衆国の特殊性がよく見えてきます。米国に少しでも滞在したことがある方は認識されていることと思いますが、アメリカは極端なまでの肥満社会です。成人の半分以上が病的なレベルでの肥満体で、4、5千万人の人々が糖尿病を患っており、何らかの治療を必要としているといわれています。

 このため、米国のテレビや新聞は、ダイエットやエクササイズマシンの広告があふれ、一大産業となっています。米国の肥満体が生活習慣病であることは明らかですが、アメリカ人にとって、これまでの食生活を変えることは容易ではないようです。そのような社会環境の中で、血液中のグルコース濃度を測定することが、糖尿病診断の上で重要であることはかなり前から認識されていました。初期においては、注射器で採血し、化学分析を行っていました。やがて、針状のグルコースセンサーを血管に挿入し、グルコース濃度を連続的に測定できるようになりました。現在家庭用に製品化されている製品は、厚膜回路技術を使った使い捨てのセンサーの上に、微量の血液を垂らし、グルコース濃度を測定しているようです。(添付写真参照)これらの血糖値センサーもスマート化が進んでおり、無線で測定データをスマートフォンへ送り、編集するシステムになってきています。

 かつては、医療用電子機器といえば、価格は高いものの、数が少ない、という認識であったかと思います。しかしながら、検査装置が家庭に持ち込まれるようになり、製品の低価格化、大量消費が進んでいるようです。数千万人の患者が、毎月1個の使い捨てセンサーを消費するだけで、需要は膨大なものになることがわかります。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
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213回(2019.4.21)

今週の話題

モノコック印刷回路

 先月の台湾旅行は短期間でしたが、様々な会社やメーカーの人々とお話しすることができ、日本や欧米ではお目にかかれない技術やビジネスに出会うことができました。そのひとつが、モノコック印刷回路とでもいうべき技術で、フレキシブル基板とリジッド基板の中間に位置することになるかと思います。

 モノコック印刷回路を製作するには、まず少し厚めのPETフィルムか、ポリカーボネート(PC)フィルムの上に、スクリーン印刷で銀インクを印刷して回路を形成します。PETフィルムやPCフィルムは加熱することにより、立体的に成形することができます。冷やせば、3次元の形が維持されることになります。(写真参照)この構成であれば、印刷回路は機器筐体の一部を担うことになります。モノコック印刷回路と呼ばれる所以です。

熱成形されたモノコック印刷回路(両面スルーホール構成)

 このようなモノコック印刷回路の基本的なアイデアは、かなり前からからあり、それなりに量産化の試みもなされていました。しかしながら、熱成形時に断線が生じやすく、信頼性がない、試作に手間がかかる、などの課題があり。民生用途で量産化されるには至っていません。台湾のフレキシブル基板メーカーでは、ベース材料、導体用インク材料、熱成形のための加工条件などを、徹底的に見直し、新しいインク材料なども開発して、実用的な技術としてまとめ上げました。さらに導電性接着剤を使って、部品実装や、ケーブルの接続も可能になっています。(写真参照)


部品を実装し、筐体にはめ込まれたモノコックスイッチ回路(円形の表示部の中央部分を押すとスイッチングする。)

 3次元成形回路というと、樹脂をモールド成形して形成するモールド回路が有名で、30年以上前から、量産化のために様々なアプローチがなされてきていますが、実用レベルで成功しているとはいえない状況です。一方、モノコック印刷回路は、万能とはいえませんが、適用範囲を限定してやれば、十分実用性があるところにきているようです。メーカーでは、現在デザインルールを作成中で、近い将来、カスタマーに届けたいとのことです。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


212回(2019.4.7)

今週の話題

最近の台湾印刷エレクトロニクス事情

 ひさしぶりで台湾に行ってまいりました。桃園市にあるITRI(工業技術研究院)で開催された小規模の技術セミナーのゲストスピーカーとして招かれたためです。テーマは印刷エレクトロニクスとフレキシブルエレクトロニクスです。

規模の小さな集まりだったのですが、政府から助成金が出ているとのことで、予定していた人数を大幅に上回る参加申し込みがあり、かなりお断りしなければならない状況だったとのことです。参加者は、素材メーカー、インクメーカー、パッケージメーカー、プリント基板メーカー、フレキシブル基板メーカー、デバイスメーカーなどなどの他、ベンチャー企業とおぼしき企業名がならんでいます。何しろ台湾の企業は、漢字表記を見ただけでは、事業内容はほとんどわかりません。ただ、その発表や発言を見ていると、具体的、かつ積極的で、極めてビジネスライクです。日本では印刷エレクトロニクスというと、なかなかビジネスが立ち上がってこないという、研究者の嘆き節がよく聞かれますが、台湾では、愚痴をこぼしている暇があったら、どんどん売り込めというような勢いに圧倒されます。私個人にとっても新しい情報は少なくなく、刺激的でした。その例を2、3ご紹介ます。

 印刷インクに関する新規技術は少なくなかったのですが、興味深かったのは、銀の錯体化合物から導体インクを調整し、印刷焼成プロセスで金属銀となり、高い導電率が得られるというものでした。基本的なアイデアは以前からあったと記憶していますが、実用化したところに、敬意を表したいと思います。シリコーン樹脂系の材料システムも、医療用、ヘルスケア用のデバイスを構成する上で実用的なものといえます。シリコーン樹脂は耐熱性が高く、伸縮性があり、化学的に安定なので、医療危機に多用されていますが、安定すぎて印刷インクとの密着性がよくありません。ところが、台湾のある材料メーカーは、ベースシート、導電性インク、カバーレイ材料を同系統のシリコーン樹脂で構成し、全体のバランスをとっているので、密着性、伸縮性良好です。しかも、このシリコーン樹脂は透明なので、使い勝手が良さそうです。

 印刷で形成する圧力センサーにも実用化の進んだものがありました。メーター角以上の大きなサイズの伸縮性シート(あるいは布)の上にマトリックス状にピエゾ圧力センサーを印刷形成し、2次元圧力センサーアレイとした製品は迫力がありました。現在、ベッドや車椅子の荷重分布測定装置として実用化進められているのだそうで、すでにカスタムデザインの受注生産に入っているとのことです。このような印刷で構成する圧力センサーは日本メーカーの製品でもありますが、短期間でここまでシステムとして製品を組み上げてしまうところに、台湾の回路メーカーの凄みを感じます。

 スクリーン印刷で形成する、靴底荷重分布センサーは、もう特別な技術ではないようです。このような、圧力分布センサーは、米国でも複数の企業から販売されていますが、実際の生産は台湾メーカーが行なっているのかもしれません。

 その他、ちょっと中心話題からははずれますが、ある基板材料メーカーでは、キャスティング法で、透明ポリイミド樹脂をベースとした銅張積層板の実用化に成功したとアピールしていました。ここでは、日本メーカーをリードしているようです。

 断片的な情報で恐縮ですが、印刷エレクトロニクスやフレキシブルエレクトロニクスで、着実に実用化が進んでいることを体感した台湾ツアーでした。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


211回(2019.3.18)

今週の話題 

世界の半導体製品も急ブレーキ

 昨年の12月に至って、台湾のプリント基板業界と、世界の半導体製品の出荷が急落したことは、先にお知らせした通りですが、年が改まって1月になっても、下落傾向は続いています。(添付グラフ参照)

 いずれの地域とも12月、1月の出荷額は連続下落していますが、特に、この1〜2年で大きく成長していた中国と北米の下落率の大きいことが目立っています。ピークだった昨年10月に比べると、1月の出荷額は、全体で15%の減少率です。地域別では、北米が20%以上、中国が19%以上の下落率となっていて、縮小の大きな部分をなしていることがわかります。ヨーロッパ減少率は5%。日本が6%、その他のアジア諸国が7%となっています。グラフの下降率を見る限りでは、減少率があまりにも大きいために、現段階ではどの辺りで底を打つのか見当がつきません。

 その他のエレクトロニクス部材の生産にも影響が広がっています。世界の電子部品の出荷額は、昨年の第4四半期に入ると、減少傾向がみられましたが、12月にはガクンと急激に落ち込んでいます。(添付図参照)いずれの電子部品も急落していますが、特にこの一年間で大きく出荷を伸ばしていた受動部品の落ち込みが目立っています。

 とりあえず2月は中華圏の旧正月休暇のために、さらに減速することでしょう。その先の予測についても悲観的な発言が目立ちます。モバイル機器を扱う台湾のサプライチェーンのメーカーは、本格的な回復は、クリスマス商戦への生産が始まる第3四半期以降になるとの見方です。それとて、はっきりした根拠があるわけではありません。

 ところで、今回の世界的なエレクトロニクス市場の急落について不審な点があります。それは、日本のエレクトロニクス業界の動きがほとんど連動していないことです。強いて言えば、日本の電子部品の出荷額がいくらかの減少の傾向が見られるくらいで、ほとんどの電子機器やプリント基板の出荷は安定な状態が続いています。

 これを喜んで良いのか、悲しんで良いのかは、議論が分かれるところです。日本のエレクトロニクス企業は、一部の電子部品メーカーを除いて、世界のエレクトロニクス業界のメインストリームに寄与できなくなっていることは周知の事実です。新たなガラパゴス化の進展でしょうか。日本のエレクトロニクス産業が独自の発展をしていくのであるならば、それはそれで悪いことではありません。しかしながら、実情は日本のエレクトロニクス産業が、世界の流れから取り残されつつあるというべきなのでしょう。これは一企業の動きでなんとかなるものではありません。業界をあげて、さらに政府の後押しを加えて、長期的な観点で対応を考えて、行動していく必要があるでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


210回(2019.2.24)

今週の話題

世界の半導体製品も急ブレーキ

 先に、12月の台湾のプリント基板産業の出荷が急落したことをお知らせし、他のエレクトロニクス産業へも波及する可能性があることをお伝えしましたが、その懸念は的中しました。2018年12月には、世界の半導体製品の出荷額も急落しています。(添付グラフ参照)12月における世界の出荷額の合計は、400億ドルの大台を割り込んで、382億ドル台まで落ち込みました。(前月比−8%)前年同月比では、かろうじて0.6%のプラス成長を維持しています。今回の急落は、特に北米(−12%)と中国(−9%)で顕著です。このような急落は、2008年の世界同時不況以来のことですが、2017年以降に大きく伸びていた地域ほど、落ち込んでいることが特徴です。(欧州:−4%、日本:−2%、その他のアジア諸国:—4.7%)アップルのiPhoneの販売不振は、落ち込みのきっかけにはなったかもしれませんが、それだけで、業界の動きになっているとはいえないでしょう。

 半導体産業は、現在のエレクトロニクス産業の基幹をなすものですから、それが不振となれば、その影響は極めて大きなものになり、関連して多くの電子部品、電子材料、電子機器に波及することが懸念されます。まだ、12月は、落ち込みの気配が見えたような段階で、今後さらに悪化するのか、それとも、今回の落ち込みは踊り場てきなもので、早々に回復に向かうのか、まだ不透明な状況が続きそうです。しばらくは市場の動きから目が離せません。

 ただ、最近の半導体製品の出荷(生産)動向には不可解な動向があったのも事実です。この2、3年間、世界の半導体製品の出荷額は、かなり一本調子に増加し続けました。民生用のエレクトロニクスの主体をなすスマートフォン、薄型テレビの成長率は、かなり小さくなっていましたし、そこで消費される電子部品の成長率も穏やかなものでした。半導体製品の成長率だけが突出していたのです。その大きな成長率は、中国によるところが大きく、北米、その他のアジア諸国が続いていました。これは、あきらかに作り過ぎでした。業界の成長バランスは崩れており、業界内部の歪が蓄積されていることが推定されました。そして、今回の急落ですから、ある程度必然性があったのかもしれません。

 少し前のことですが、業界の集まりで、半導体の異常な成長率が話題になったことがありました。その時、ある半導体材料メーカーの営業畑の長老的な立場にある人が言うことには、半導体業界にはシリコンサイクルというものがあり、各メーカーは振り回されているのだそうです。これは、業界で大きなシェアを持つメジャーのメーカーといえども例外ではなく、それがシリコンサイクルによるものだとわかっていても、目の前に需要がぶら下がっていれば、生産能力を増すために設備投資に走ってしまうのだそうです。人間は、相当痛い目にあっても、学習効果はなく、しばらく時間がたてば、また同じ過ちを繰り返すのだそうです。

 今回の半導体市場急落に関して、もう一つ不可解なことがあります。それは、金融市場の反応が鈍いことです。ニューヨークを初めとして、最近の世界の主要な株式市場は、米中貿易摩擦などの政治的な動きに対して神経質になっており、ちょっとしたニュースや噂でマーケットは大きく変動しています。ところが、今回の半導体業界の急落に関しては、株式市場はこれといった反応を見せていません。今後、半導体業界の低迷が長期化するようであれば、いずれは株価に反映されてくるのでしょうが、短期的には、無関係を装っているかのように見えます。経験者にいわせれば、最新のAI技術をもってしても、シリコンサイクルの渦から逃れることは困難なのだそうです。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


209回(2019.2.10)

今週の話題 

スマート・スピーカー

 最近家人がグーグルのスマート・スピーカーを買ってきました。家人はわりと気軽に使っていますが、私は気後れがして、なかなか試すことができないのです。生命のない電子デバイスに向かって話しかける自分を思い描いて、自分の話す言葉に、スマート・スピーカーが応えてくれるだろうか、と考えると、なんとも気恥ずかしさが先に立ってしまいます。それでも、意を決して、話しかけてみました。「OKグーグル!」という呼びかけには、ほぼ確実に反応します。今日や明日の天候予測についての問い合わせにもきちんと答えてくれます。英語での問い合わせにも反応しますが、答えは日本語です。(このスマート・スピーカーは日本で購入しています。)スポーツのゲームの結果や、外為市場、株式市場のデータも即座に答えが出てきます。しかしながら、明日の株価の予想については、回答は無く、「お役にたてず申し訳ありません。」とのお詫びでした。

 ところで、米国では、多くの企業や機関が電話での問い合わせに対して、人件費削減のために、カスタマーサービスを自動化しています。現在では、銀行、航空会社、病院、保険会社などに電話しても、生身の人間が電話口に出ることは、まずありません。合成音声が、選択肢を並べて、イエスかノー、又は数字で応えることを要求してきます。これも一回では確実に聞き取れないので、二回、三回と繰り返します。選択肢を数字で選ぶ時は、番号をボタンで入力するので確実ですが、音声で応えるとなると大変です。こちらの発音が悪いのか、それとも先方の音声認識能力が悪いのか、なかなかスムーズに伝わりません。数値確認の問い合わせがきますから、違っていたら、元にもどってやり直しです。4桁以上の数値を伝えるとなるとかなりの作業になります。数値の確認ができて、やっとスタートポイントです。次の選択肢のステップに向かうわけですが、この先いくつのステップがあるのかわからないので、フラストレーションはどんどんたまる一方です。

 結局、最後のステップまで行っても、満足のいく対応は得られず、「その他」か、人間による対応を求めることが少なくありません。そうすると、人間の担当者は現在他のカスタマーに対応しているので、しばらく待つことを求められます。この待ち時間が問題で、どれくらいかかるのか読めません。その間、こちらは何もできませんので、まったく無駄な時間になります。1回の問い合わせの電話に30分や1時間かかることはザラですので、ある程度時間に余裕がある時でないと、このような電話はかけられません。

 このような電話によるカスタマーサービスにどのようなAI技術が使われているかわかりませんが、スマート・スピーカーの音声認識能力は大幅に進化していることは間違いないでしょう。しかしながら、完璧というのにはかなりの距離が残っているのも事実です。(もしかしたら、越えようもない大きなギャップがあるかもしれません。)実際にスマート・スピーカーと会話をしていて、いつの間にか、自分の話す言葉が、スマート・スピーカーの標準言語になっていることに気がついて、愕然としました。スマート・スピーカーを使いこなそうとして、実は私の方が飼いならされていたのです。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


208回(2019.1.20)

今週の話題

台湾エレクトロニクス業界急落

 その昔、「アメリカの経済がくしゃみをすると、日本の経済は肺炎になる。」といわれたものでした。それを現代では、「台湾のエレクトロニクス産業がくしゃみをすると、中国と日本のエレクトロニクス産業は肺炎になる。」と言い換えなければならなくなっています。

 今週発表された、12月における台湾のプリント基板業界の出荷額は、予想を大きく越える減少となっています。12月における台湾のプリント基板上場メーカーの売り上げは491億台湾ドルで、前月から21%の減少です。前年同月比では、19%の減少になります。これまで、台湾プリント基板メーカーの出荷ピークは11〜12月で、新年の1月は減少に向かい、2月は旧正月のために、一時的に停滞するというパタンを繰り返してきました。しかも、毎年市場は着実に成長、拡大を続けてきました。ところが、今年の場合、ピークは10月で、11月には減少に転じ、前年比成長率はほぼゼロの水準にまで下がってしまいました。そして12月は、さらなる大幅の下落に至ったわけです。(添付したグラフをご覧ください。)

 今回の下落は、特にフレキシブル基板メーカーに大きく影響が出ています。前年同月比で、硬質基板メーカーの出荷額が8%の減少で、一桁でのマイナスで留まっているのに対して、フレキシブル基板メーカーのそれは、38.5%のマイナスと、目を覆いたくなるような数字です。個別のメーカーでは、最大手のZDテクノロジーが41%のマイナス、2番手のフレキシアムが44.7%のマイナスと、状況はさらに悪くなります。

 今回の急落に至った要因としては、アップル社のiPhoneの生産計画が下方修正されたことがあげられます。9月にiPhoneの新モデルが発表された時に、その販売価格が高くなっていることに懸念が挙げられていました。最近、世界のスマートフォン市場は飽和状態に近くなっており、2018年は良くて前年並み、悪くすればマイナス成長となることが予想されていました。したがって、サプライチェーンの各メーカーとしては、それなりの準備はしていたと考えられますが、下落幅は予想をかなり越えるものだったようです。

 影響は、プリント基板メーカーだけではありません。半導体メーカー、その他の部品メーカー、材料メーカー、組立メーカー、装置メーカーなど、全てのエレクトロニクス企業に大きな影響が出てきます。アップル社のiPhone用の部材、フレキシブル基板を納入している日本のメーカーのビジネスにとっても、大きな打撃になります。一方、台湾のエレクトロニクスメーカーの多くは、量産を中国で行なっており、中国メーカーもその影響を免れられません。iPhoneの受託生産をしている台湾EMS最大手のフォックスコンは、中国で進めていた新しいiPhone専用の組立工場の建設をキャンセルしました。

 台湾のiPhoneサプライチェーンのメーカー何社かに聞き取りをしてみましたが、いずれのメーカーも今回の事態を深刻に捉えており、市場の低迷は、少なくとも2019年第1四半期は続き、回復は第2四半期以降になると分析し、対応策を考えているようです。ほんの数ヶ月前には、多くの部材メーカーの生産能力が需要に追いつかず、組立メーカーの購買部門が十分な調達ができない状況であったことに比べると、手のひらを返したような変わりようです。なお、iPhoneのサプライチェーンには、韓国の部材メーカーがかなり入っており、少なからず影響を受けているようです。直接関係があるかどうかわかりませんが、北米プリント基板業界の受注額が、11月からだいぶ落ち込んでいます。北米の半導体、大型コンピュータ、EMSメーカーの出荷も減少に転じています。

 考えてみれば、日本のエレクトロニクス企業経営者にとって、実に恐ろしい時代になったものです。つい先日までは、自社のハイテク製品がアップル社に採用され、サプライチェーンの重要な部分を担っていると胸を張ってアピールしていたものが、わずかな市況の変化により、経営の重い負担になってくるのですから。このような事態は以前に何度も経験しているはずですが、世は情報化時代となり、市場の変化の振幅は大きく、かつ短いピッチでおきるようになってきています。エレクトロニクス企業の経営者は、このような厳しい環境の中での舵取りの責任を負わされているわけです。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


207回(2018.12.16)

今週の話題

台湾エレクトロニクス失速か?

 台湾のプリント基板業界の月次出荷実績は、翌月の中旬にはリリースされます。(正確には、プリント基板メーカーとして上場しているメーカーの売上高)11月のデータは、先週発表されました。その結果は、ある程度予想はされていたとはいうものの、かなりショッキングな数字が並ぶことになりました。

 まず目につくのは、出荷額の総額が10月をピークにして、11月は完全に減少傾向になっていることです。合計はもちろん、硬質基板、フレキシブル基板のいずれもが減少傾向に転じています。例年であれば、クリスマス商戦向けの生産のピークは11月ですから、約1ヶ月早く息切れしてしまった感じです。特にフレキシブル基板の用途の主体はアップル社のモバイル機器ですので、iPhoneXの新モデルの販売不振が影響しているようです。もう1つ重要な点は、前年同月比でわずかですがマイナス成長(−0.27%)となったことです。硬質基板はわずかながらもプラス成長になっていますが、フレキシブル基板は2.91%のマイナス成長になっています。ただ、このマイナス成長は、突然やってきたのではなく、7月をピークにして、成長率は徐々に下がってきていたのです。悪くすれば、今後マイナス成長幅は大きくなります。(添付グラフを参照してください。)


 アップル社はこの9月に、今年のiPhone新モデルを発表しました。その中で、上位機種は十万円を越える価格で、当初から売れ行きには疑問が出ていました。ただ、アップル社自身は、公式には販売計画などを出していませんので、全てはサプライチェーン筋の噂や憶測によるところというのが実情です。しかし、アップル社は昨年も販売計画の下方修正が行われましたので、今年の場合、関連業界のメーカーとして、それなりに警戒はしていたようです。残念ながら、この下方修正の予測は当たったわけで、今後サプライチェーンのメーカーは‘対応に追われることになります。

 サプライチェーンの中で、まず直接的に影響を受けるのは、最終組み立てを請け負うEMSメーカーですが、最大手である台湾のホンハイは、iPhoneX用に計画していた新工場の稼働をキャンセルしたと伝えられています。iPhone用のカスタム設計の部材、モジュールへの影響も少なくありません。具体的には、筐体、プリント基板、ディスプレイパネル、カメラなどの各種モジュールがあります。そのまた、原料になる各種プッラスチック、金属材料、銅張積層板なども、多くは特別仕様になっていて、そうそう簡単には他の用途への転用することはしにくい仕組みになっています。ただ、遡ってみると、プリント基板用材料は、夏口から在庫を絞る動きが出ており、今回の事態を予測していたようです。

 日本メーカーも無傷ではいられません。特に大手フレキシブル基板メーカーは、アップル社への依存度が大きいので、その影響が懸念されます。しかし、今年の日本のフレキシブル基板メーカーの出荷動向を見てみると、長期縮小傾向が続いており、すでに世界市場でのレースから脱落している可能性があります。そこに材料を供給するメーカーは、事態の正確な分析と対応が必要でしょう。

 世界のスマートフォン市場におけるiPhoneのシェアは高々20%程度です。その1品種に過ぎない製品の販売計画に若干の下方修正が加えられるだけで、世界の民生エレクトロニクス産業に激震が走るわけです。部材メーカーにとって、アップル社のサプライチェーンメーカーとして認められることは、誇らしいことのように見えるかもしれませんが、それを維持するためには、かなりの痛みを伴うもので、それなりの努力が必要になります。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


206回(2018.12.2)

今週の話題

アメリカの竜巻警報

 最近日本でも自然災害のひとつとして竜巻(トルネード)のニュースが取り上げられるようになりましたが、トルネードの本場は、何と言ってもアメリカです。

それもアメリカ全土ではなく、中西部から南部にかたよっています。私は1990年代に中西部のミネソタ州に2年ほど住んでいましたが、3回ほどトルネード警報に出会っています。一度は私がアパートで一人住まいをしていた時で、夜遅く、管理人がドアをノックする音で起こされました。聞けばトルネード警報が出ており、速やかに安全なところに避難すべしとのこと。部屋のテレビをつけてみると、どのチャンネルも避難を呼びかけています。しかし、このアパートには、シェルターはおろか、地下室もありません。外は雷雨です。仕方なく、階段の下あたりで、オロオロしていると、1時間もしないうちに警報は解除となりました。しばらくして、私は同じ町の築百年の一軒家(このあたりでは珍しくない。)を買って引っ越しましたが、この家にはかなり広い地下室と、頑丈そうなシェルターが備わっていました。

 その後私は、マサチューセッツに移りましたが、この地方はトルネードとは縁のないところで、たまに注意報が出る程度で、実際に被害がでたというニュースは記憶にありません。ところが先月、そのめったに出ないトルネード警報が出たのです。テレビの地元チャンネルは全て、気象予報士とアナウンサーが切迫した様子で、緊急避難を訴えています。ただ、場所はマサチューセッツ州も南東部で、高級別荘地のケープコッドの近くです。拙宅のある地域からは100キロメートル以上も離れていますので、とりあえず直接の影響はなさそうです。しばらくは、テレビの実況を見ることにしました。




 テレビでは、レーダーによるトルネードの現在位置(複数)と規模、今後の予測が、何百メートル単位、分刻みで伝えられるのです。もともと、トルネードの影響が出る範囲は小さな地域に限定されますから、冷静に予報を見て、しかるべき対応をしていれば、少なくとも、人的な損害は最小限度に抑えることができるでしょう。実際に、ニュースでトルネードによる物的損害のニュースはよく出ますが、人が死傷したというニュースはほとんど見ません。トルネード警報が効果的に使われているということでしょう。

 一方日本の竜巻についての警報システムについてですが、ニュースを見ている範囲では、実況の把握や予測が十分になされているとは思えません。建物などに突風による損壊があると、後日気象庁の担当者が現地を検分して、後で確かにこれは竜巻によるものと考えられますなどとの報告が出てきます。とても予報や警報など出せる状況ではないようです。

 私は、日本の気象庁の観測システムは、ハードの能力、配置密度とも世界のトップレベルだと理解しています。さらに世界最高速のスーパーコンピュータを駆使した解析、予報能力もトップレベルと言ってよいでしょう。それが、こと竜巻に関しては、米国の民間気象予報会社に比べて大きく遅れをとっているということはどういうことでしょう。

 今年の日本は、自然災害によって多くの人的、物的損害がでています。年々増えているような印象さえ受けます。ことは竜巻だけではないかもしれません。身の周りを見渡して、危険の芽を摘んでいくことが大事ですね。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)

dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


205回(2018.11.11)

今週の話題

今年のクリスマス商戦の売れ筋商品は?       

 11月の第4木曜日はサンクスギビングデーの休日で、アメリカ人にとっては、家族とともに七面鳥のディナー共にするもっとも大切な日のひとつですが、その翌日の金曜日は、ブラックフライデーと呼ばれ、米国の小売業の売り上げが大きな日といわれています。(今年は11月23日)この日からその年のクリスマス商戦が始まるためです。このため、各小売業では、ハロウィーンが終わると、本格的なクリスマスセールのキャンペーンに入ります。ですから、この時期に電器量販店のディスプレイを見れば、各メーカーや小売店の力の入れ具合、その年の売れ筋商品がある程度わかります。

 今年目立ったのは韓国サムスン電子の積極攻勢です。特に、スマートフォン、タブレットPC、ノートブックPC、スマートウォッチ、薄型テレビを総合的にリンクさせたプロモーションで、ギャラクシーのバッテリー発火事故で失われた信頼をなんとか回復しようという意気込みが伝わってきます。

 クリスマス商戦を引っ張るのは、やはり薄型テレビです。主導するのは、相変わらず、韓国のサムスン、LGの両社です。これに日本のソニーが続いています。さらに、日本、米国、中国のブランドメーカーが加わります。実際にどこの国で製造しているのかは不明です。この数年韓国メーカーが前面に出していた曲面テレビは、控えめになっています。売り込みの主体は価格です。50インチのUHD液晶テレビで400ドルを下回る小売価格が通り相場のようです。LGなど先行メーカーは有機ELを前面に押し立てて、シェアを確保する戦略のようです。

 今年あたりのクリスマス商戦のキーワードは「音」かもしれません。テレビメーカーは外付けの高音質スピーカーセットを売り込んでいます。この分野では、ソニーも結構いいポジションにいるようです。また、米国のBOSEのようなハイエンドの音響機器メーカーの進出が目立ちます。音響製品としてのヘッドフォン、イアフォンは百花繚乱の状況です。特にワイヤレス化には目を見張るものがあります。「音」で忘れてならないのは、スマートスピーカーです。昨年は各メーカーとも、様子見的な感じがありましたが、今年は一気に満開となりました。メーカーの数も少なくありませんが、ここでは、グーグル社に一日の長があるようです。それにしても、50インチの薄型テレビが400〜800ドルぐらいになりますが、その嵩や重量は相当なものです。一方、ちょっと高級な音響製品は、200〜500ドルで、重量当たりの単価でははるかに大きなものになります。何か物の価値がわからなくなってしまいます。

 世界的にスマートフォン市場の成長が鈍っているとのことですが、それは売り場の雰囲気でも感じます。サムスン電子とアップルを除けば、新顔デビューのグーグルがちょっと目立っています。限られた市場の取りあいになるので、キャリアの競合が激しくなっています。アメリカの場合は、AT&TSprintVerizonの3社です。ご丁寧なことに、家電量販店では3社がiPhoneGalaxyを購入した場合の比較を掲示してユーザーの便宜を図っています。

 パーソナルコンピュータ、タブレットPC市場もこの数年低迷していますが、この分野では、アップルが高級機種の新モデルを次々と導入しており、マージンを確保する戦略がうかがえます。いっぽうで、マイクロソフトの最初のハード製品として注目されるデタッチャブルPCは、いまひとつ波に乗り切れないようです。いかにマイクロソフト社といえども、ハードを販売するとなると、勝手が違うようです。。

 ゲーム機は任天堂のスイッチ、ソニーのプレイステーション4、マイクロソフトのエックスボックスが互角の戦いを繰り広げています。昨年まで劣勢だった任天堂の失地回復が顕著です。今年は、ソフト中心のキャンペーンになっています。その中で目を引くのは、VRのためのゴーグルディスプレイです。

 ウエラブルデバイスは、スマートウォッチで安定期に入ったようで、大きな変化は見当たりません。アップルウォッチ対その他大勢という構図ができあがりつつあるようです。その他の中には、米国のfitbitGarminなどがどんぐりの背比べをする中で、韓国のサムスン電子がどのように食い込めるか注目されます。

 デジタルカメラは風前の灯という感じです。小売店も販売に力が入っていません、量販店は、売り場は維持しているものの、新モデルなどはなく、販売員もろくに配置していない状況です。一方で、セキュリティシステム用のカメラは増えています。これは、カメラ単体ではなく、トータルのシステムでの売り込みです。いくつかのメーカーが打ち出しているのは、乳児、幼児のモニタリングシステムです。米国では、親が幼児だけを放置することを厳しく禁じており、今後大きな需要が見込めるかもしれません。

 ドローンは、戦国時代に入ってきているようです。メーカーの数が増えているだけでなく、機種のバラエティが広がっています。メーカーは、これまでのエレクトロニクス企業とは一線を画していますので、別の産業と考えた方が良いのかもしれません。

 こうしてきてみると、民生用エレクトロニクス機器での日本メーカーの存在感は極めて薄くなっていることは否めません。はっきりブランド名が確認できるのは、ソニーと任天堂ぐらいです。今のままでは、日本ブランドの回復は難しい状況です。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


204回(2018.10.14)

今週の話題

ボストン地下鉄の改札システム

 私がマサチューセッツに移ってきてから、早いもので、もう20年が過ぎてしまいました。州都のボストンは、東京やニューヨークに比べて変化は少ないのですが、20年も経てば、それなりに変わってきています。そのひとつが市内を走る地下鉄です。地下鉄といっても、電車そのもののことではなく、料金と支払いシステムのことです。

 ボストンの地下鉄は5つの路線があり、域内2.75ドルの均一料金システムです。20年前は85セントでしたから、3倍以上に値上がりしたことになります。以前は、駅の窓口で、85セントでチケットの代わりのコインを買い、これを改札口の投入口に入れ、リボルバー式のバーを自分で廻して、入場するというのんびりしたものでした。

 ところがこの数年で、ボストン地下鉄の改札システムは大幅に変わりました。運営会社のMBTAは、世界でもっとも便利な改札システムと自画自賛していますが、実際にはどうでしょうか。

 料金は相変わらず、域内均一料金です。ユーザーは、まず自動販売機で、プリペイドチケットである、チャーリーチケット、あるいは、チャーリーカードを購入します。支払いは自動販売機によって違いますが、現金、クレジットカード、デビットカードなどが使えます。私は使ったことはありませんが、スマートフォンどの直接支払いも可能なようです。さすがに、小切手での支払いは受け付けていないようです。

 さて改札口ですが、改札には透明なアクリルパネルの扉があり、通常は閉じています。客はチケットを挿入するか、カードをタッチします。チケットは戻ってくるので、回収します。ただ、これだけではゲートは開きません。一歩前進して

アクリルパネルに近づくと、初めてゲートが静かに両側にスッと開くので、客はゲートを通過することができます。(添付写真参照)

 

 日本の地下鉄と違うのはこれからです。ボストンの地下鉄は均一料金なので、入る時はチケットが必要ですが、出る時はいらないのです。改札口の外側にはチケットを挿入する口や、カードをタッチする所がありますが、改札の内側には何もないのです。客が内側からゲートに近づくだけで、扉は開きます。ただ、かなり近づかないとセンサーが働かないようで、最初の時は私もパネルの前でうろたえてしまいました。ボストンは観光地ですので、お登りさんが多いので、改札でトラブっている人をよく見ます。ちょっと大きな駅では、案内係の職員が待機しています。

 問題なのは、郊外の駅です。郊外に出ると、路線は地上に出ることが多く、駅舎も改札もなく、ただ道路から少しだけ高くなっている安全地帯があるだけです。電車から降りる客は、問題なくスムーズに出られますが、新たに乗り込む客はお金を払うかチケットを乗り口の挿入口に入れなければなりません。これは無人自動化ができていませんので、運転手さんか、車掌さんが処理することになります。その駅でのお客さんが多いと、長時間停車することになりかねません。ラッシュアワーには、停車が長時間におよび、後続の電車が連なっていることがあります。

 ボストンの地下鉄は、車体やインフラが古く、お世辞にもスマートとはいえません。全体の効率も、それほど良いとはいえないようです。しかし、ボストンの地下鉄は、そこに住んでいる住民や来訪者にとってなくてはならないものです。料金収入のシステム化、効率化はかなり進んできているようなので、これからは、サービスの向上に努めてほしいものだと思います。日本のメーカーにも、技術面、ソフト面で参加できる可能性が少なからずあると思います。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)

dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


203回(2018.9.24)

今週の話題

今年の台湾プリント基板業界は?       

 これまでなんども紹介していることですが、台湾プリント基板産業の需要家の大きな部分は、台湾の大手EMSメーカー、OEMメーカーで、世界の民生用エレクトロニクスに直接リンクしていて、台湾の基板業界の動きを見ていれば、世界の民生エレクトロニクス業界の動きを類推することができます。

 台湾プリント基板業界の一年の動きを見ていると、新しい出荷パターンができつつあることがわかります。年初の2月は、旧正月休暇のために、出荷は大きく縮小します。このところ、前年同期比でマイナス成長になるまで落ち込むことが多くなっています。しかし、3月には、前年並み以上のレベルまで戻し、以後年末商戦に向けて月を追うごとに出荷を伸ばし、10〜11月にピークを形成し、11月〜1月は若干の減少傾向となります。そして1年間の累計では、ある程度のプラス成長を記録するという結果になります。このような出荷のパターンは、欧米のエレクトロニクスメーカー、特に米国のアップル社の販売計画に依存するところが大きくなっています。最近では、モバイル機器の比率の増大に伴い、フレキシブル基板の比率が高まっているようです。昨年の場合、アップル社の新しいiPhoneの販売が、計画未達となってしまったために、年末になってサプライチェーンの部材メーカーには、少なからず混乱がありました。

 

 今年の動きを見てみますと、8月までは順調に推移しているように見えます。8月の出荷額合計は611億台湾ドルで、前年同月比13.1%の増加です。品種別では、硬質基板が12.6%の増加、フレキシブル基板が14.1%の増加と拮抗しており、硬質基板の伸びが目立っています。7、8月の単月出荷額は、すでに前年の最高値を越えています。この傾向が続けば、2018年の出荷額は、これまでの記録を大幅に更新することが期待されます。年初から8月までの累計出荷額では、硬質基板が9.9%、フレキシブル基板が22.0%の増加で、フレキシブル基板の成長率が目立っています。両者の合計では、12.7%の成長率です。例年の傾向が繰り返されるのであれば、年末へ向けて成長率は高まりますから、年間での出荷額は15%越えることも十分ありえます。

 しかし、市場の需要の伸びを不安視する向きがないわけではありません。9月になって発表されたアップル社のiPhoneの新モデルの価格帯はかなり高く、市場の需要は限られたものに終わるのではないかと懸念されています。このため、サプライチェーンの部材メーカーは在庫の調整に苦慮しているようです。米国と中国の貿易戦争の影響も不安定要因です。なにしろ、台湾メーカーの製品のかなりの部分が中国での生産となっているのですから。

 台湾のエレクトロニクス業界、プリント基板業界が具体的なところで、色々な議論が活発に進んでいるのに比べると、残念ながら、日本のプリント基板業界の状況は思わしくありません。日本の基板業界は、硬質基板、フレキシブル基板、モジュール基板に分けられますが、2008年の世界同時不況で落ち込んでから、伸び悩み、いずれも鳴かず飛ばずの状況が続いています。硬質基板の場合、主要なユーザーは、国内のエレクトロニクス機器メーカーですが、民生部門は、2008年以来低迷が続いており、回復の兆しはありません。それに比べると、フレキシブル基板のユーザーは、欧米のモバイル機器メーカーであり、一時は繁忙な時期もありましたが、この2年は横ばいかジリ貧状態になっています。モジュール基板の主要ユーザーは、半導体デバイスメーカーですが、世界の半導体業界が伸びているのに対して、日本メーカーは主要な需要を取り込めていないようです。

 台湾の基板業界の生産額が、日本のそれを越えてからずいぶん時間がたちましたが、今後その差が縮ったり、逆転することはなさそうです。この流れを変えるには、構造的な変革が必要であると考えられます。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.
202回(2018.9.2)

今週の話題

ドラッグストアの電子機器

 以前から多少気にかかっていて、一度きちんと見ておこうと考えていたのが、米国の家庭用医療電子機器の事情です。私自身いくつか病気を抱えていますので、月に何度かはクリニックや薬局を訪問しているのですが、自分のこと以外はなかなか気がまわらないというのが実情でした。先日、主治医が出してくれた薬の処方箋をドラッグストアへ持っていき、調剤を待っている間に、店の中をちょっと見て回りました。今頃になって気が付いたのはお恥ずかしい次第ですが、なんとアメリカのドラッグストアは、電子機器だらけでした。ドラッグストアで陳列棚に製品が並んでいるということは、医者の処方箋がなくても買えるということで、全国レベルでの市場規模は何百万台を越えるということです。日本では医療用電子機器は高価で、台数が出ないという認識がありますが、アメリカでは、もう完全に民生用電子機器の扱いです。種類も豊富ですし、メーカーも複数出ているようです。

 ちょっと目についたものを挙げてみましょう。まず、種類も数も多いのが、血圧計です。最近では、日本でも家庭用血圧計がずいぶん普及してきていますが、アメリカのそれは圧倒的です。単純に血圧をデジタル表示するだけでしたら、十ドル台です。最新のものは様々な機能がついているようで、連続測定、メモリー付き、無線機能付き、等々、圧倒されます。ただ、この分野では、日本のオムロンブランドの製品が、かなり幅をきかせています。全体の中では、高い信頼性、高級機種とイメージが普及しているようです。高級といっても、数十ドルから百ドル程度までです。

 次いで多いのが、グルコースモニタ(血糖値計測器)関連の製品です。米国では、肥満過多で定常的に血糖値を測定しなければならない糖尿病患者が数千万人いるのだそうで、市場は膨大で、しかも大きくなっています。先日ある学会の昼食会に出席したところ、隣に座ったスマートな妙齢の女性が、デザートのケーキを前にして、さかんに自分の腰のあたりを気にしているのです。何をしているのかを聞いたところ、彼女は痩せ型であるにもかかわらず糖尿病で、血糖値を定常的にモニタリングしていて、そのレベルを確認しながら、糖分の多いケーキなどを食べるかどうかを決めているとのことでした。

 初期のグルコースセンサーは、センサー素子を注射針の中に収納し、これを血管に挿入する形であったため、患者の痛みを伴い、感染症の危険性もありました。しかし、最近のモデルでは、大きく改善されているようです。

 日本ではあまり見ませんが、米国では、初期診断項目のひとつとして、血液中の酸素濃度があります。これが95%を下回ると、呼吸機能が不足していると診断され、酸素吸入の措置が施されます。最近では酸素吸入のためのボンベを引いて歩いている人を結構見かけますので、家庭用酸素濃度計も必要になってきているということでしょう。

 アルコールセンサーなるものもありました。飲酒後、自分でアルコール濃度を確認した上で、運転すべきかどうかを判断するための測定器でしょうか。

 セラピーデバイスとして、ペイン・レリーフなる機器がかなりの種類出ています。これは絆創膏状の電極を、筋肉痛のある部分に貼り付け、電気的に痛みを取り除くデバイスのようで、箱の表示には薬を使わないとアピールしています。日本では医療機関で類似品を見たことがありますが、米国では、患者が家庭で使えるようになっているようです。

 これは面白くなってきました。わずか10分か20分、ドラッグストアの中を歩いただけで、これだけの情報が得られるのですから。これらの医療用電子機器には、いずれも特殊なフレキシブル基板が使われているものと考えられ、その市場規模はかなりのものでしょう。今後定点観測を続け、新しい状況が出れば、改めて報告したいと思います。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.
201回(2018.8.12)

今週の話題

アメリカ人は水遊びがお好き!

 日本でも夏休みシーズンとなれば、家族連れで海へレジャーに出かける方は多いと思いますが、自分の船(クルーザー)で外洋へ出かけるとなると、極めて少数派でしょう。日本では、クルーザーを持って維持するのには、相当の費用がかかりますし、一般的にそれだけのお金をもっているのはお年寄りで、外洋でフィッシングをするだけの体力も気力もないでしょう。(もちろん船を操縦するには運転免許も必要です。)一方、海好きの若者にはお金がありませんから、所詮かなわぬ夢物語でしょう。ところが、アメリカやカナダでは、一般庶民でも手が届きそうな現実的な夢になっています。

 昔聞いた話ですが、釣り好きの中流アメリカ人の夢は、海辺か川岸に自宅を持ち、庭の桟橋から自分のクルーザーで外洋に出かけることだそうです。ただ、夢といっても、かなり実現性の高い夢です。私の知人の中にも、結構います。私が住んでいるHaverhillという町には、Merrimack Riverという中型河川が流れていますが、大西洋まで20km程度で、中型クルーザーで遡れる限界になります。このため、川の両岸の家では、夏になると浮き桟橋が出され、船が係留されています。以前に、このような川岸の中古の家の値段を調べてみたことがありますが、安い価格帯で、船の値段を含んでハーフミリオンドル(5、6千万円)が通り相場のようでした。これくらいであれば、中流会社員でも手が届きそうな範囲です。もっと安くあげようとすれば、マリーナを利用する手があります。ここでは、普段は、船を陸の上のガレージにしまっておき、使いたいときに桟橋に出しておいてもらいます。Merrimack Riverでも、海が近くなると、このようなマリーナがたくさん並んでいて、シーズンともなれば、川はクルーザーやヨットで埋め尽くされてしまいます。(添付写真をご覧ください。)一番お手軽なのは、普段は自宅の敷地の中に船を駐車(船?)しておき、使いたい時に、船をキャリアに乗せ、ピックアップトラックや大型のバンで引っ張って、出かける方法です。大きな湖や川には、このような利用者のために、船を漕ぎだすためのスロープとキャリア用の駐車場が用意されています。あちこち、場所を変えて遊びたい人にとっては、この方が、機動性があって便利かもしれません。ニューイングランドの高速道路は、夏の週末ともなれば、船を牽引して行楽地へ向かう車が「水」を求めて連なります。

 船といっても、日本の釣り船とは全くイメージが違います。4、5人乗りの最新のクルーザーともなると、エレクトロニクスの塊といってもよいほどです。自動運転システムは、自動車のそれを先回りして実用化が進んでいます。当たり前のことですが、はっきりした道路標識があるわけではないので、レーダーやGPS、オートクルージングは、かなり以前から標準装備ですし、フィッシング用の魚群探知装置も、複数台備えています。何人かの人間が何日間か過ごすわけですから、冷蔵庫や電子レンジなどの台所用品も必要です。陸地から離れていて、携帯電話の電波が届かない地域に出る可能性もありますから、最近では衛星通信を使ったネットワーク通信設備も備えていることでしょう。これらの電子機器は、一般家庭用の製品をそのまま流用というわけにはいきません。限られたスペースに収納しなければならないので、コンパクトでなければなりません。船の中というのは、振動、温度、塩水など、どれをとってみても過酷な環境ですから、機器の信頼性の仕様は、数段高いものが要求されることでしょう。当然コストは高いものになりますが、エンドユーザーや船舶メーカーは、それを受け入れる状況にあります。携帯電話やテレビなどの民生用電子機器に比べれば、市場ははるかに小さいのですが、北米ではそこそこの規模で需要が見込めます。日本やアジア諸国では、あまり語られることがない市場ですが、ささやかな日本の夏休みの傍で、雄大なマリンスポーツの市場について思い描いてみるのはいかがでしょうか。

写真:Merrimack River河口のマリーナに繋留された多くのクルーザーやヨット



DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


200回(2018.7.22)

今週の話題

災害復興、アメリカでの実体験

 先日の西日本豪雨では、200名以上の方々が命を奪われ、多くのご家族が住む家が壊滅的な被害を受け、猛暑の中で不便な避難生活を強いられています。被災された方々には心より、お悔やみ申し上げます。1日も早く日常を回復されますようお祈り申し上げます。

 このような災害のニュースを聞くたびに感じるのは、日米間の対応の違いです。実は、私自身、マサチューセッツ州の現在の家に引っ越してから、被害の程度はたいしたことはないのですが、この18年間で3回ほど被災しています。もっとも最近の事件は、昨年末に起きたもので、旅行で留守にしている間に、台所の冷蔵庫の製氷機に水を供給するパイプのコネクターが破損して、水が漏れ続け、一階のフロアが水浸しになっていたというものです。このため、一階のフロアの床の大部分と壁の一部、それに地下室の天井を修理ということになりました。ちなみに、拙宅は地上二階、地下一階に屋根裏部屋という構造で、合計の床面積は約350平米です。

 被災して最初のアクションは、保険会社との交渉です。電話連絡だけで、検査員がやって来て調査した結果、浸水した床、壁、天井の清掃と再建は保険でカバーされることになりました。その間、家具と什器類は、外に出さなければならないので、そのための引っ越し、一時保管するための倉庫料は、再建費用の中に含まれます。友人のアドバイスでは、工事中のホテル滞在費も請求すべきとのことでしたが、二階が実質無傷で、そこで生活、仕事が続けられたので、特に請求はしませんでした。最終的に保険会社が支払いに応じたのは、約2万5千ドルで、4回に分けて支払われました。この間、清掃作業と再建業者との調整、交渉が行われます。

 清掃作業といっても、ボランティアが行う「お掃除」のレベルではありません。それは、エキスパートが、機械化された装置を使った、高効率で高品質のもので、かつ安全を保証されています。破壊的ともいえる、床やカーペットを剥がし、壁もほとんど除去されます。業者によれば、浸水による基本構造へのダメージは、開けて見ないと解らないのだそうです。実際に、壁の隙間に、リスが死んでいるのが見つかり、そのまわりは、構造材が腐っていました。

 清掃作業と前後して、家具や什器類の、ストレージルームへの移送が行われます。引越し業社が来て、部屋ごとに段ボール箱に梱包し、運び出します。これは一般の引越し作業とほとんど同じで、セトモノやガラス器などは、破損しないようように、1つずつ丁寧に梱包されます。清掃作業を終えた部屋は、ほとんど骨組みと外壁しか残っていません。電気配線も一部は除去されています。これらの作業に先立って、業者からは、前払金の支払いが要求されますから、ある程度まとまった現金を用意しなければなりません。保険会社からの支払いがあれば、問題ないのですが、持ち合わせがなければ、それだけ工期が遅れることになります。

 後は、普通の改築とかわりません。新しいフローリンング、カーペットを敷き詰め、電気配線を確認してから、壁を塗ります。部屋の内装が終わると、倉庫に預けていた家具類を運び入れ、元々あった位置に戻します。頼めば、什器類、本やファイル類も、元の位置に戻してくれることでしたが、完全に元通りになるとは思えなかったので、細かいところは自分でやることにしました。

 一連のプロセスで、被災者が力仕事をすることはありません。捨てるか、残すかの判断や、戻す家具の位置を現場で指示することぐらいです。費用はほとんど保険でカバーされます。清掃業者、再建業者、引越し業者は、ビジネスとして、作業をしているわけで、損失はありません。お金を出す保険会社とて、慈善事業をしているわけですから、ビジネス全体としては、マイナスにはなっていないはずです。その証拠に、後で保険会社から、一連の対応について評価するアンケートの依頼がきています。

 個人的には、隣人や会社の仲間援助がありましたが、行政やボランティアの支援は、基本的にもらっていませんし、要請もしていません。そのような観点で日本の災害復興プロセスをみていると、行政は「お上のお慈悲」で、支援を与えるという感覚をぬぐえませんし、被災者は、ひたすら行政の補助を待つ、という構図にみえます。運が良ければ、ボランティアがやってきてくれて、力仕事を手伝ってもらえたという美談がニュースで伝えられます。

 アメリカでは、「自分の生活は自分で守る。」という考えで貫かれているようにみえます。一方、日本の人々は、あまりに受け身です。日本とアメリカの歴史や社会慣例を考えれば、一概にどちらが良いということはできません。私の経験から考えて、一般の日本人が、多少英会話ができるくらいで、保険会社や業者との交渉をまとめることは簡単ではないと思います。

 それにしても、東日本大震災の後の、多くの自然災害の頻発に際しての行政の対応を見ていると、あまり進歩しているようには見えません。その点、アメリカのシステムは学ぶべきところが少なくありません。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
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199回(2018.7.8)

今週の話題

M-Tech Japan2018

 6月20日から3日間、東京ビッグサイトで、第22回機械要素技術展(M-Tech Japan 2018)が開催されました。主催者の発表によれば、今年の出展者は2500件を越えたのだそうで、多くの企業や団体のブースが広大なビッグサイトのフロアを埋め尽くしました。これは、もう3日間をフルに使っても、まわりきれるものではありません。仮に1社あたり、1分でまわるとしても、全部をみてまわるには、40時間以上かかるわけで、現実的ではありません。

 もともと、M-Techは機械系の技術を主体とした展示会ですが、エレクトロニクスと結びつくものが少なくありません。特に、素材、複合材、表面処理などの分野では、ユニークな材料や加工技術に出会えるのが楽しみです。

 今回の展示の企業をみると、県や地域単位でまとまって大きなブースを構えている例が目立ちます。個々の企業のブースは小さいので、件数としては、大きなものになります。全出展者の内、少なくとも半分以上は、このような地方公共団体がまとめて出展するに至ったものと考えられます。また、海外の国政府や地方政府も、同様の動きです。特に台湾、タイ、中国、さらに遼寧省、大連などの地方政府が大きなブースを構え、多くの企業があまりスマートとはいえない展示をしています。

 普段は、なかなか目にすることがない地方の企業や技術に接することができるのが、このような展示会の価値といえます。しかしながら、出展者の過半数がこのような地方の中小企業で占められるようになると、展示会はあたかも地方物産展の様相を呈してきます。出展を組織化した地方自治体としては、できるだけ多くの企業を参加させたいので、あまり業種の詳細にはこだわらず出展をうながします。その結果として、展示物のテーマは的が絞られず散漫になってしまいます。一方で来場者の方は、何か特定の分野の新技術や新製品を求めているわけですから、地方に工場を出すことでも考えていないかぎり、特定の県や地方に興味があるわけではありません。せっかくその地方のブースに足を止めても、お目当ての技術や製品がなければ、早々に次の県や地方に歩を進めることになります。これが30回、50回ともなると、いささかウンザリです。かなり我慢強い方でも、途中で諦めてしまうでしょう。それまでに、お目当ての企業に出会えれば、ラッキーといってよいでしょう。トータルでは、効率が良いとはいえません。

 主催者としては、一社でも多くの出展社を参加させ、一人でも多くの来場者を集めることが目標なのでしょうが、これだけ出展者が多くなると、そろそろ効率、それも来訪者が効率よく、探している技術や製品に巡り会えるようなシステムを構築してほしいものだと思います。

 このような中で、併設されていた「ヘルスケア・医療機器開発展」は、医療機器、部材にテーマを絞った展示会になっていました。このゾーンには約200社がブースを構えていましたが、それでも範囲が広すぎるのかなかなか焦点が絞りきれません。

 1件だけ目についたものをご紹介したいと思います。それは、ハヤシレピック株式会社が展示していた、ペルチェ式電子クーラーシステムです。ペルチェ効果やペルチェ素子自体は決して新しいものではありませんが、医療用部分冷却装置としてモジュール化、商品化したところに関心しました。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


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