2017.9.3
沼倉研史のアメリカ便り
                            昭48院化 沼倉 研史
 
 
 ハリケーンハービーはテキサス州やルイジアナ州を中心に大きな被害をもたらしました。完全に水が引くまでには、まだ2週間ほどかかるとのことです。ハービー自体は、テキサス上陸後熱帯性低気圧に変わりましたが、勢力を維持したまま北東に進み、昨日ニューイングランド地方にかなりの雨をもたらしました。一方で、新しい大型ハリケーンIRMAが大西洋を西に進んでいます。現在の予想では、今後1週間以上をかけて、キューバをかすめたのち、米国東海岸を北上することになりそうです。予想進路は、気象予報会社によってかなり違っており、西寄りでは、ペンシルベニアの内陸にまで達するというものから、マサチューセッツの東の沖合をかすめるでけという予報までバラエティーに富んでいます。それだけ不確定さが高いということでしょう。ただ、共通しているのは、ハリケーンの規模で、米国東海岸に接近するまでにはカテゴリー4以上に発達するということです。これは、ハービーの規模を上回ります。これから10日ほどの間に、米国東海岸方面に出張などで出かける予定のある方は、天気予報にご注意ください。近くでなくても、長距離フライトは影響を受ける可能性があります。

沼倉研史
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185回(2017.9.3)

今週の話題

回復に向かう台湾プリント基板業界、その他の地域は?

 ほとんどの電子機器は、大なり小なりプリント基板を使います。しかも、新規のエレクトロニクス製品を立ち上げるにあたっては、まずプリント基板の製作から始まりますから、業界の試作モデルの動きを見ていれば、新製品のリリース状況が、ある程度推定できると言われる所以です。特に台湾は、世界の民生用エレクトロニクス製品の生産基地と言われるほど、市場シェアが高いので、そこで消費されるプリント基板の動きは、世界のエレクトロニクスの先行指標となっています。

 その台湾プリント基板産業は、2016年に、2009年以来となるマイナス成長を記録しました。これは、プリント基板の主要な需要家であるパーソナルコンピュータの低迷が続いた一方で、スマートフォンの成長が鈍化しているためです。今年に入っても、出荷状況は不安定で、例年の動きとは異なる、毎月上下を繰り返す状況が続いていました。年初からの出荷額累計は、マイナス成長が続いていました。しかし、第2四半期も終わり近くなって、プラス成長が安定して続くようになってきています。例年下期に入ると、台湾のエレクトロニクス産業は、年末商戦へ向けてのスパートがかかります。プリント基板の出荷も、直線的に増大します。今年は、上半期は不安定だったものが、下半期に入って、順調な成長傾向に戻ってきているようです。年初から7月までの出荷額累計は、前年同期比で2.6%のプラス生長になっています。この傾向が続けば、2017年通期の出荷額の成長率は、5%を越える可能性も出てきます。

 このような市場好転の背景には、パーソナルコンピュータ市場の回復があります。世界的には、未だにマイナス成長の領域にありますが、台湾メーカーに限ってみれば、プラス成長の領域に戻ってきています。米国内の量販店の展示を見ても、韓国、中国、日本メーカーの製品の影が薄いのに対して、台湾ブランド、および台湾製米国ブランドの製品には勢いが見られます。加えて、スマートフォンの新機種立ち上げが始まったことがあります。昨年に比べて、立ち上がりが1ヶ月ほど早まっており、しかも増加率が大きくなっています。このような市場の変化は、特にフレキシブル基板の需要に大きく反映されています。7月の出荷額では、前年同月比で、硬質基板が1.5%の成長に留まっているのに対して、フレキシブル基板は26.6%の大きな伸びになっています。年初からの累計でも、9.9%と二桁に近い成長を果たしています。通期では、ほぼ確実に二桁成長となるでしょう。台湾のフレキシブル基板生産の中に占める、米国アップル社が占める割合はかなり大きいのですが、今年はiPhoneの発売から10年の節目に当たりますので、9月には意欲的な新製品の発表が予定されているようです。当然のことながら、そのためのプリント基板の量産は始まっています。

 日本のプリント基板業界は、相変わらず足踏み状態が続いています。6月にはいくらか戻したものの、年初からの出荷累計は、金額で0.2%の成長、数量では、8.4%の増加となっています。つまり、生産量は増えているのに、売り上げは横ばい状態なのです。ただし、内容は、コアとなる主要品種によって大きく違っています。フレキシブル基板のコアになる、両面多層回路の6月の出荷額は、前年同月比で、47.7%の大幅増なのに対して、数量では5.3%の増加に留まっています。日本の大手フレキシブル基板メーカーの主要ユーザーは、海外のモバイル機器メーカーです。ユーザーが、販売単価の単純な値上げを受け入れることはありませんので、新モデルの立ち上げに伴い、高付加価値製品への移行が進んでいるものと考えられます。

 一方硬質基板のコア製品である、ビルドアップ基板は、金額で8.6%の減少、数量で7.6%の増加というアンバランスが生じています。背景には、基板メーカーが、仕事量を確保するために、ユーザーの値下げ要請を飲まざるをえないという構図が浮かび上がってきます。硬質基板メーカーの主要ユーザーは、国内の機器メーカーです。これらのメーカーの業績は低迷が続いているので、基板メーカーとしては、限られたパイの奪い合いとなりがちです。もう一つのコア製品であるリジッド系モジュール基板も低迷しています。出荷額で、12.7%の減少、出荷数量で2.6%の増加となっています。ここでも販売単価の下落が顕著です。モジュール基板の主要なユーザーは、半導体メーカー、半導体パッケージメーカーです。このところ、世界の半導体業界は好調で、着実に業績を伸ばしています。しかし、日本のモジュール基板メーカーは、すっかり取り残されているようで、韓国メーカーや台湾メーカーに市場を奪われているようです。

 順調な回復基調にあると言われる北米市場でも、プリント基板産業の業績はあまりかんばしくないようです。今年になって2月以降のB/Bレシオは、ずっと1.0より大きな値を維持しているのに、実際の出荷は増えていません。毎月の受注額はプラス成長を果たしているのに、出荷額の方は、マイナス成長の状況が続いています。年初からの出荷額の累計は、前年同期比で4.4%の減少となっています。今後、大きな改善の兆候がなければ、2017年もマイナス成長ということになりそうです。

 ドイツのプリント基板業界は、昨年から荒っぽい動きが続いています。年初から、6月までの出荷額の累計は8.1%の増加ということになっていますが、下半期まで維持できるかどうかは不透明です。

 韓国では、プリント基板業界の統計データがないのでわかりにくいのですが、出荷額の合計は、2013をピークにして、3年連続で減少しています。ここにきて大きいのは、Samsung社のスマートフォン、ギャラクシーノート7の発火事故の影響です。最近になって、失地を回復すべく、ギャラクシーノート8をリリースしましたが、2017年に、どの程度の効果が出せるのかはまだ未知数です。

 こうしてみると、世界のプリント基板業界全体としては依然として足踏み状態である中で、台湾だけが2、3歩先行してきているようです。台湾のプリント基板業界は、規模が大きく、技術的にもリードしているので、しばらくは、業界を牽引していくものと考えられます。注目していくべきでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


184回(2017.8.6)

今週の話題

アメリカ市場で復活するシャープ?

 シャープの親会社である台湾のEMSメーカー最大手Hon Hai Precisionは、米国と中国で新たにフラットパネルディスプレイとテレビの生産を開始することを公言していますが、最近になって米国市場でテレビの販売を開始することを発表しました。もちろん、シャープのテレビ技術とブランド力を活用してのことですが、それに先立って新しいシャープの新しいブランド名を作るというアナウンスがありました。これを聞いた時に、「アレッ」と違和感を感じました。というのは、シャープが台湾のホンハイに買収されてからも、アメリカ市場では、液晶テレビを初めとしていくつかのシャープ製品が販売されていたからです。北米市場で長い実績のあるシャープブランドを、あえて変更する必要性があるとは思えません。

 ちょっと気になるので調べてみたところ、なんと米国における「SHARP」や「AQUOS」などのブランド名を、中国の大手電機メーカーである海信集団に、去年売却していたのです。ですから、現在アメリカで販売されている電気製品は、日本や台湾のシャープの製品ではなく、中国メーカーのシャープ製品という、

ややこしいことになるのです。シャープとしては、米国でのテレビ事業の再開にあたって、「シャープ」ブランドの買い戻しの交渉をしたようですが、相手にされなかったようです。

 念のために、米国の量販店の様子を調べてみました。現在でも、「SHARP」の名前がついた大型液晶テレビや電子レンジが並んでいます。ロゴはかつての「SHARP」と同じです。よく見ると、後ろに「ROKU」との意味不明の添え書きがしてあります。しかし、日本製、あるいは日本ブランドであることを示す表示は見当たりません。はっきりしたメーカー名の表示もありません。よくよく見回したところ、梱包の底に、小さく「Made in China」の表示が見つかりました。表示の上では、嘘を言っているわけではありませんが、消費者が日本メーカーの「シャープ」と誤認識してくれることをねらっているのは明らかです。

 同じような話が、かつての大手電機メーカーだった三洋電機でもありました。ご存知の通り、「サンヨー(SANYO)」のブランドで世界的に知られていた同社は、2008年の世界同時不況による事業低迷から、自社努力による再生を諦め、2011年に、パナソニックに吸収合併され、その後のリストラにより会社としての実態も名目もなくなっています。ところが、米国では依然として「SANYO」ブランドのテレビやオーディオ製品が販売されているのです。この場合も中国の電気メーカーが、米国市場における「SANYO」ブランド名を買収し、自社製品の販売に使っているのです。量販店で調べてみましたが、やはり明確なメーカーや生産地の表示はありません。ご丁寧なことには、梱包の箱の表には、はっきりと「50 YEARS IN THE US!」と印刷されています。ここまでくると、虚偽の表示スレスレですが、結果的には表面的な表示に惑わされる方の負けです。ある筋から聞いたところによると、パナソニックはサンヨーのブランド名を十数億円で売却したのだそうです。中国のメーカーにしてみれば、ずいぶん安い買い物だったことでしょう。この程度の広告宣伝費用で、しかも短時日で、信用のあるブランドを構築することなど、ほとんど不可能でしょう。

 これらの例を見ていていろいろと考えさせられるところが少なくありません。まず感じるのは、日本メーカーのブランドの価値に対する認識の低さです。何十年もかけて築き上げたブランドの、市場における信頼感は、簡単にお金で評価できるものではありません。一方、安く売りに出ているブランドに目をつけて、すばやく自社製品のプロモーションに活用するすばやさには驚きです。ブランドがあるからといって、すぐさま売れるわけではありません。表示の切り替えには、それなりに準備が必要でしょうし、実際の販売店にはそれなりの売り込みと説得が必要でしょうから、1年足らずの短時間で必要な作業を完了させることは、それなりの能力と言えます。おそらくほとんどの日本メーカーにとっては、実現困難なことでしょう。実務的な作業としてはともかく、自尊心や見栄から、他社が使っていたブランド名を使うことなど思いつきもしないでしょう。

 それにしても、今回の事例で考えさせられるのは、思いもよらない形で、中国製品が欧米市場に入り込んできていることです。メーカーの買収やブランドの買収以外の手法もあるのかもしれません。改めて、米国で販売されているものを見渡してみると、疑わしい代物が少なからず見つかります。逆の目で見れば、東芝のブランドなどは、かっこうの標的になるでしょう。気が付いたら、周りは中国製品で固められていた、ということになりかねません。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


183回(2017.7.23)

今週の話題

M-Tech Japan 2017

 6月21日から3日間、東京ビッグサイトで、恒例の機械要素技術展(M-Tech)が開催されました。合わせて、設計・製造ソリューション展、3D&バーチャルリアリティ展、医療機器開発・製造展も開催されました。エレクトロニクス関連の部材を主に扱う展示会ではないのですが、機械加工や表面処理などで、エレクトロニクス分野ではなかなかお目にかかることがないユニークな技術に出会うことがあるものですから、私は毎年出かけることにしています。普段出会うことのない地方の中小メーカーに接することができるのも楽しみです。

 今年の場合、主催者側の発表によれば、2450社が出展したとのことで、ビッグサイトの東ホールは、各社のブースで埋め尽くされておりました。人出も相当なもので、3日間で十万人近い来場者があったとのことです。こうなると展示ブースの中はもちろん、通路や休憩所も人でいっぱいで、ちょっとベンチに座って一休みということもままなりません。よくこれだけ人が集まるものだと思いますが、インターネプコンなどの他の展示会に比べて、来訪者の目的が違っているようです。

 エレクトロニクス中心の大規模展示会では、業界の動向や、競合メーカーの動きを調べることを主目的に人を送り込むことが少なくありません。ところが、M-Techの来場者の多くは、メーカーで現場を預かるエンジニアのようなのです。女性の比率は、ぐっと小さくなります。彼らは、製造現場で課題を抱えていて、それを解決するための技術や、それを請け負う受託メーカーを探しているのです。最終製品の形態は種々雑多なものです。彼らは次世代の主流となるような画期的な技術を求めているわけではないので、対象となるのは中小メーカーで、多くは地方に拠点を置いている企業が多くなります。M-Techはそのようなメーカーとユーザーが出会う機会を提供する格好のイベントということができます。

 ところが、ここで問題があります。これらの地方の中小メーカーは、専門の営業スタッフを抱えているわけではないので、自力で中央の展示会に出展するには高いハードルがあります。そこで、県を初めとして積極的な地方自治体は、独自に大きなブーススペースを確保して、そこに地元の企業でユニークな技術を持つメーカーをまとめて、出展の斡旋をしています。各企業は、煩雑な準備作業や経費を最小限にして出展することができます。ただし、ほとんどの企業は、最小限度のブーススペースですので、展示できる内容は限られてしまいます。ブースのディプレイは垢抜けしているものではなく、来場者の目に止まりにくいものが少なくありません。今年の場合、多くの海外のメーカーが同じような方式で参加しており、台湾、韓国、タイ、中国などが巨大なブースを構えています。おそらく、出展社の半分以上は、このような大型集合ブースでの参加と考えられます。さながら大規模地方物産展の様相です。地方でまとめられているので、その自治体のブースに収容されている業種は雑多です。このような方式は、特定の技術や製品、メーカーを探しているエンジニアにとっては、あまり効率の良いものではありません。特定の技術がまとまったエリアにあるわけではないので、何社か候補のメーカーを比べてみようとすれば、各自治体のブースをローラー作戦で回らなければなりません。これには多大な時間と労力を要します。3日間通いつめた挙句に、成果がゼロということになりかねません。このようなイベントの主催者は、どうしても、出展社と来場者の数を増やすことに多くの労力を割くようですが、展示会の規模がここまで大きくなった現在は、より効率の良い展示会を目指してもらえないものかと思います。

 M-Techは元々、機械部品の加工技術を中心にして始まった展示会だと思います。現在でも、最も単純な機械部品であるネジやバネを主要製品として出展している企業が少なくありません。部外者から見れば、技術的にはかなり成熟しているように見える単純な機械部品でも、未だに新しい技術が開発されていることに感銘を受けました。しかも、国内での製造で、ビジネスが成立していることに驚きです。

 そのような状況でしたので、私は全体を見て周ることは、早々に諦め、一部の区域だけで、我慢することにしました。それでも、いくつか興味深い技術に出会いました。そのひとつは、医療機器のゾーンにあった会社です。この会社は、各種診断装置で肌に触れるセンサーモジュールを作っているとのことでしたが、電極部は伸縮性の素材の上に、導電性インクをスクリーン印刷で回路形成しているとのことでした。ブースの説明員によると、主要工程は国内の自社工場で処理しているとのことでしたが、自分たちが、印刷エレクトロニクスや伸縮性回路の量産を行っているとの意識はほとんど無いようでした。このケースは、必要に迫られて(ニーズ)、材料やプロセスを選択したもので、自社保有技術を活用して(シーズ)製品を開発したのではありません。どうしても、エンジニアは自分の開発した技術に思い入れがありますから、自社技術を中心に考えがちですが、ビジネスとして成功させるにはニーズ優先で考えるべきということを教えてくれているようです。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


182回(2017.7.2)

今週の話題

JPCAショー(続き)
           透明回路、伸縮性回路

 今年のJPCAショーでは、フレキシブル基板メーカー、材料メーカーの展示において、いろいろと新しい試みが認められました。中でも、共通の話題となっていたのが透明フレキシブル基板と、伸縮性フレキシブル基板です。両者とも、何年か前から見かけるようになってはいたのですが、最近のウエラブル・エレクトロニクス、メディカル・エレクトロニクスの進展に伴って一気に具体化した感があります。

 透明フレキシブル基板については、少なくとも4社のメーカーが出展しておりました。圧巻だったのは、沖電線のNPI(新製品紹介)プレゼンテーションだったと思います。会場に準備された椅子は満席状態で、多くの聴衆が立見席での聴講となりました。沖電線の説明によれば、基材は透明なポリイミドフィルムで、回路の透明性と耐熱性を確保するために、旭電化研究所と協力してめっき法により銅張積層板を開発しています。ベースに使われた透明耐熱性フィルムについては具体的なメーカーが明らかにされていませんが、複数のメーカーがあるとのことです。また、今回の開発に使われた材料は、透明ポリイミドフィルムのようですが、沖電線は他の耐熱性プラスチックフィルムを使って、機能性のフレキシブル・デバイスの可能性を指摘していました。沖電線は、このフレキシブル銅張積層板をエッチング加工して、両面スルーホール構成の回路を形成しています。また、プロセスの詳細は明らかにされていませんが、カバーレイについても、透明で、耐熱性のある材料、プロセスを開発しています。

 沖電線が自社のブースに展示したのは、複数のLEDをはんだ付け実装した三次元立体モジュールで、回路の耐熱性、柔軟性、透明性をアピールしていました。

 透明フレキシブル基板に関係して、材料メーカーによる透明耐熱性フィルムの展示は見受けられませんでしたが、透明カバーレイについては何社かの材料メーカーに積極的な動きが見られました。ただ、多くはスクリーン印刷を想定したインクタイプの材料で、ラミネーションを想定したフィルムタイプの材料は、1社が地味に紹介しているだけでした。インクタイプの材料でも、耐熱性と透明性を兼ね備えるためには、結構技術的なハードルが高いようです。そのような中で、透明ポリイミド樹脂を使った、三和化学の製品は、かなり完成度が高いように見受けられました。しばらくは、透明で耐熱性のあるフレキシブル基板の話題が続きそうです。

 一方、ウエラブル・エレクトロニクスの進展に伴い、伸縮性フレキシブル基板の話題もたくさん見受けられました。伸縮性回路と言っても、大きく分けて、二つのタイプがあるようです。ひとつ目は、細長いフレキシブル基板をスパイラル状に整形したもので、以前固定電話の受話器に使われていたカールコードの構造に似ています。フレキシブル基板の構成自体には、細長いこと以外には特別なことはあまりないのですが、極細ケーブルとなると、回路密度や整形後の信頼性にそれなりのノウハウが必要になるようです。多くのメーカーが、内視鏡やカテーテルのようなメディカルデバイスの用途を狙っているようです。

 もう一つの伸縮性回路のタイプは、ベース材料、導体材料自体が伸縮性を持っているものです。具体的には、ウレタンやシリコーンのようなゴム材料、さらには絆創膏などに使われる布材料が注目されています。このような場合、原理的に導体材料として銅箔が使いにくいので、現実には厚膜印刷回路が使われているようです。それでも、回路パタンとしては特殊なものになりそうです。結果として、回路加工プロセスとしては、スクリーン印刷が中心になります。このようなコンセプトの回路は、医療用の診察装置の電極として多くの実績があるのですが、特に材料メーカーとしては、より高い機能を付加することで、製品のマージンを大きくしようとの目論見のようです。さらにヘルスケア用の使い捨てデバイスとなれば、ある程度の量も出ると、期待が膨らみます。ただ、市場が大きくなると、参入メーカーも増え、競争も厳しくなりますので、価格は下がり、マージンも小さくなります。スクリーン印刷は、設備と材料があれば、比較的容易に実用化ができてしまいます。競争の厳しい市場で勝ち抜くには、それなりの工夫が必要です。ただし、安易な工夫はすぐに真似されるか、より優れた製品に取って代わられますので、定常的に新しいアイデアを創出していかなければなりません。その会社に総合的な体力が求められます。チャレンジする会社の成功を祈っています。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


181回(2017.6.19)

今週の話題

JPCAショー 2017

 プリント基板専門の展示会としては世界最大級のイベントであるJPCA SHOW 2017が6月7日から3日間、東京ビッグサイトで開催されました。何分にも、日本のプリント基板業界は長期縮小傾向にありますから、そろそろ新しい動きなど見られるのではないかと、出かけました。

 展示会場の大きさは、ほぼ昨年と同じくらいでしょうか。ただし、会場が細長くなっているので、大きくなっているような印象を受けます。出展社の顔ぶれは、だいぶ変わってきています。基板メーカー大手のCMK、イビデン、日本メクトロンといったところは健在ですが、展示製品の件名は多いものの、新規性のあるものはあまり見当たりません。かつて常連だった大手メーカーの名前が見えなくなっています。かえって中堅クラスのメーカーの存在感があります。今回は韓国と台湾のメーカーの出展はほとんど見られませんでした。代わって、中国の基板メーカーの出展が目立ちました。ただし、台湾メーカーに関しては、業界団体であるTPCAが、一大キャンペーンを張っているのが目立ちました。

 人出はずいぶん多くなっているように感じました。受付には朝から長い行列ができて、受付だけで30分以上かかるような状況でした。事務局に確認したところ、前年比十数%増加しているとのことです。海外からのビジターもかなりのもので、特に韓国と台湾からと見られる来訪者が少なくなかったようです。どうも一般庶民の考えることは皆同じで、このような市場の後退局面では、自分の手の内はあまり見せずに、同業他社の動きは確認しておきたいという後ろ向きの姿勢が見えてきます。

 かつて、プリント基板用の主要材料といえば、銅箔と銅張積層板でした。ところが、今年の材料メーカーの展示を見てみると、銅箔と銅張積層板関連の製品は極めてささやかで、ナノパウダー、ナノインクというような機能材料の新しい材料を前面に出して売り込んでいるようでした。意欲的だったのは化学品メーカーで、JCUや奥野製薬などが、半導体パッケージ用途を想定して、回路幅2、3ミクロンの超微細回路を形成するセミアディティブプロセスを提案しています。

 製造装置の展示では、従来タイプの設備の展示が減っています。典型的なのはドリリング装置で、従来の機械的な多軸ドリリング装置が減って、レーザー方式の装置に重心が移っているようです。露光装置やエッチング装置など、かつての主流製品は、目立たなくなっています。代わって増えているのが、フレキシブル基板の後加工装置です。RTRラインでのトリミング装置、補強板仮付け装置、外形加工装置など、細かい加工プロセスの自動化が進んでいるようです。

 基板の実装関係の展示はアクティブで、パナソニック、YAMAHAJUKIなどの主要実装機メーカーはいずれも大きなブースを用意し、デモンストレーションには多くの観客を集めていました。ただし、セールスポイントは細かい改善が中心で、各社とも、より高い生産性、信頼性、操作性などをアピールしています。以前に多く見られたEMSメーカーは、かなり減ってしまい、今年出展したのは、日本メーカーのUMCエレクトロニクス社だけでした。

 フレキシブル基板関連で今年話題になっていた技術が二つあります。耐熱性透明フレキシブル基板と伸縮性フレキシブル基板です。これらの技術については、新しい話題もあるので、次回のニュースレターで、もう少し詳しく紹介したいと思います。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


180回(2017.6.5)

今週の話題

ボストンのサブウェイトロリーバス

 マサチューセッツ州の州都であるボストンは、合衆国きっての古都と言われる都市で、有数の観光地でもあるために、様々の形態の交通機関が集まっています。

市内には地下鉄が5系統複雑に敷設されており、郊外には放射状に伸びる10本ほどのCommuter Railがあり通勤通学者の足になっています。さらに、ニューヨークやメイン州ポートランドに至る長距離列車のアムトラックがあります。その他観光用には、トロリーバスや、モビーダックの愛称で知られている大型水陸両用車があります。

 さて、ボストンの地下鉄についてなのですが、私も5系統の内、シルバーラインと呼ばれている路線が一番新しいことは知っていました。一方で、ボストン空港内には、各ターミナルビルを周る幾つかのバス路線があり、その一つがシルバーラインと呼ばれていて、ダウンタウン方面に行くことも認識していました。しかし両者はまったく別のものだと理解しておりました。何分にも、一方は地下鉄で、一方はバスなのですから。ところが最近になって、前回のニュースレターでも触れたBoston Convention & Exhibition Centerに地下鉄で行くことになり、レッドラインのSouth Stationまで行って、シルバーラインに乗り換えるために、プラットホームを移動して驚きました。なんとそこにはレール軌道がないのです。しかし、他の乗客は当たり前のようにプラットホームで列を作って待っています。やがてやってきたのは、日本の地下鉄のイメージからは程遠い、2両編成のトロリーバスでした。

 しかしながら、そのトロリーバスの動きを見て、謎は氷解しました。シルバーラインとは、電気モーターとディーゼルエンジンを搭載したハイブリッドトロリーバスだったのです。強いて言えば、ハイブリッド・サブウェイ(地下)トロリーバスとでもいえる代物なのです。ダウンタウン地域では、専用の地下道を電気力で走り、郊外に出ると、トンネルから出て、架線のない一般道をディーゼルエンジンで走るのです。私が空港で見ていたのは、電気を取るためのパンタグラフは収納し、一見普通の大型バスにしか見えないトロリーバスだったのです。

 改めて、この交通システムをレビューしてみて、考えさせられるところが少なくありません。レール軌道がなく、トンネルの大きさを小さくできるので、施工費用は大幅に小さく抑えられます。トンネル内ではゴムタイヤを電気モーターで駆動して走るので、地下鉄に比べて、はるかに静寂です。地下鉄の駅と繋がっているので、改札のための業務、設備は最小限度で済みます。ただ、東京やニューヨークの地下鉄のような大人数の乗客には対応できません。おそらく、中規模都市や大規模地下鉄の支線や乗り継ぎ線として、力を発揮するのではないでしょうか。


 地下鉄の駅に繋がっているトロリーバスのプラットホーム
 (バスの上から出ている2本の黄色い線がパンタグラフ) 

 エコロジーの立場からすると、ちょっと不満が残るかもしれません。それは、ハイブリッドとはいっても、ディーゼルエンジンを使っていることです。しかし、二次電池の能力は日進月歩ですので、ディーゼルエンジンがバッテリーで置き換えられる日はそう遠くないことでしょう。(車両メーカーに確認しましたら、そのようなハイブリッドトロリーバスは、もう実績があるそうです。)

 ボストンのトロリーバスを見ていると、ハード面よりも運用に関するソフト面でのノウハウが大切な感じがします。特に、日本の地方都市で、これからの交通システムを担当されている方には、一度ボストンを視察されることをお勧めします。メーカーの方々は、自社のシステムの優れていること、利点ばかり強調します。弱点についてはあまり触れません。その点、ボストンのシステムは、(良きにつけ悪しきにつけ、)かっこうのお手本になるでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


179回(2017.5.21)

今週の話題

BIOMEDevice 2017 in Boston

 5月3日、4日と、Boston Convention and Exhibition Centerにおいて、医療機器関連のイベントであるBIOMEDeviceが開催されましたので、何年かぶりで出かけました。合わせてMD&M Event, PLASTEC NEW ENGLAND, Design & Manufacturing NEW ENGLAND and ESC (EMBEDDED SYSTEM CONFERENCE) も開催されています。日本ではあまり知られていないかもしれませんが、ボストンを中心とするニューイングランド地方は、医療技術の先進地域で、Massachusetts General Hospital(MGH) を始めとして多くの先進医療機関がある他に、数多くの医療用デバイスメーカーが活動拠点を置いています。その中には多くの中小ベンチャー企業が含まれています。このイベントは、このような医療機器メーカーを対象とした、テクニカル・コンファレンスが主体となっており、メーカーによる展示会はおまけのようなものです。コンファレンスに出席したエンジニアが、自分たちが計画している新しい医療デバイスを製作するのに必要な部材やメーカーを見つけるのを手助けしようという考えのようです。

 展示会には約400社の企業が出展していましたが、いずれも一コマかふたコマの小さなブースばかりですので、全体としてはかなりコンパクトにまとまっています。広大なコンベンションセンターの十分の一も使っていないでしょう。東京ビッグサイトと比べれば、東館のホール一つ程度です。この中で、日本メーカーのキャノンが、EMSメーカーとして、大きなブースを構えていて、目立つ存在となっておりました。

 出展者のサービス分野は実に多様で、様々な加工メーカーが含まれています。エレクトロニクス関連では、機構設計、回路設計から始まって、プラスチック成型加工、金属材料の各種加工、ハイブリッド材料の加工、各種表面処理、レーザー加工、各種印刷、プリント基板の製作、ワイヤーハーネスの製作、基板への部品実装、EMSサービス、検査分析等々、ファブレスメーカーや自分で工程を持たないメーカーが外注を考えている場合、ほとんどのプロセスを見つけることができるでしょう。しかも、個々のメーカーの技術は世界的に見ても、トップレベルか、それに準ずるものです。

 プリント基板関係では、硬質多層基板メーカーが2、3社と、だいぶ少なくなっているのが気になります。一方、フレキシブル基板メーカーは十社以上出展していましたが、地元のメーカーは少なく、多くは中西部や西海岸に拠点を置くメーカーです。それも、基本的に中規模のメーカーで、少量多品種を主に扱っているようです。ただ、いずれのメーカーとも、台湾や中国に協力工場を持っており、量産対応もできるとしています。技術的には、超微細回路というよりは、多層回路、多層リジッド・フレックスの形成、さらにはフライイングリード構造など、特殊な構成が多く見られます。最近のトレンドに乗って、スマートウォッチ用の高密度多層リジッド・フレックス、メガネタイプのウエラブルデバイス用に設計された複雑な構成のフレキシブル基板などが注目されました。米国メーカーも、民生機器の先端部分では関わってきているようです。

 個々の技術でも、医療用機器以外で使えそうなユニークな技術が少なからず見受けられました。3件だけ上げておきます。Sat Plating社は様々なプラスチック樹脂成形物に直接金属メッキを行うプロセスを確立しています。3Dモールド回路の形成に有効でしょう。PhotoMachinning社は様々なレーザーを駆使して、金属箔やポリイミドフィルムに1ミクロン未満の超微細穴を開けています。スブミクロンレベルのビアホールが可能になりつつあります。TechEtch社は異なるエッチャントを使って、複合ラミネート材料の三次元エッチングを実現しています。両面スルーホール構造と、フライイングリード構造を併せ持つフレキシブル基板でも容易に加工できるそうです。

 各メーカーに聞いてみますと、このようなユニークな技術の多くは、既存のユーザーの要求に基づいて、開発されているようです。TQCで言うマーケットインのアプローチと言ってよいでしょう。日本のメーカーの多くが行っているプロダクトアウトのアプローチとは対照的です。このようなアプローチでは、大化けはあまり期待できませんが、医療用機器のように、多品種少量生産で、特殊仕様が多い分野では有効なのでしょう。
 
DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


178回(2017.4.23)

今週の話題

ファインテック、フィルムテック・ジャパン

 機能材料の主要展示会であるファインテック・ジャパンが4月5日から3日間東京ビッグサイトで開催されました。元々、この展示会は有機材料素材を中心としていたと思うのですが、順次高機能フィルム展、高機能プラスチック展、高機能金属展、高機能セラミックス展、光・レーザー技術展、光通信技術展などが加わり、どんどん規模が大きくなりました。今年はそれに接着・接合EXPO、映像伝送EXPOが加わりました。事務局の発表によると、出展者は1600社を越えたそうで、拡張されたビッグサイトの東ホールのフロアのほとんどがブースで埋め尽くされました。来場者の数も相当なもので、初日からブース間の移動もままならないほどの混雑ぶりでした。そろそろ限界に近いようで、次回は装いを新たにして、年末の12月上旬に幕張メッセでの開催になるとのことです。

 とにかく、1日や2日でこのような大規模で、大混雑の展示会を、一通り見て回るということは、ほとんど不可能のような感じがします。私の体力を考えると、使える時間は1日足らずですので、はじめから、ファインテックとフィルムテックに限定して見て回ることにしました。それでも、気になるブースで話し込むと、15分や20分は、すぐに過ぎてしまいます。全体をレビューするなどということは、及びもつきません。気になったところだけを、ピックアップしてみることにします。

 大手の機能材料メーカーは、この展示会を重要視しているようで、いずれも大きなブースを用意しています。目立ったのは、大日本印刷、トッパン印刷、東洋紡、帝人、ユニチカ、クラレなどです。ただ、各社ともこれぞというような目玉製品はあまりなく、たくさんの小型新技術を並べています。それでも、多くの来場者が押しかけ、ブースの中に入ることもままならぬような状況です。そのようなわけで、個々の新製品について聞いて回ることは困難な状況でしたが、強いてまとめてみると、多くはディスプレイ、それもフレキシブルなOLEDパネルへの適用を目指しているようです。関連して、タッチパネルスクリーンへの応用も想定している様子が伺えます。ただ、ここに集まったビジターの多くは、同業他社の調査員のようで、すぐにビジネスに繋がることはなさそうです。なにしろ、日本国内には、OLEDパネルやタッチパネルのメーカーが極めて少ないのですから。

 キーワードとして、結構目に付いたのはウエラブル・エレクトロニクス用、メディカル・エレクトロニクス用の伸縮性材料と透明エレクトロニクス材料です。これまでフレキシブルな電子材料といえば、ポリイミドフィルムやPETフィルムが中心でしたが、伸縮性はありませんでした。そこで、多くの素材メーカー、特に繊維メーカーが伸縮性のある導電性材料の開発を進めているようです。また、これまで透明な導電材料といえば、ほとんどITOでしたが、ここへ来て、ピードット、銀ナノワイヤ、薄膜メタルメッシュなどの実用化が進んでおり、今回もそれぞれの分野で複数のメーカーが新技術を紹介していました。ちょっと気になったのは、ドイツのFraunhofer研究所が、幾つかのメーカーをまとめて、透明導電性フィルムをRTRで生産するシステムとしてアピールしていたことです。いずれにせよ、この分野はしばらくホットトピックスになりそうです。

 地味な展示でしたが、新しいピエゾフィルムにも注目したいと思います。これまで使い物になる有機圧電材料といえば、ポリフッ化ビニリデンぐらいでしたが、今回帝人はポリ乳酸の積層フィルムで圧電体を試作したものを発表しています。この分野も、ウエラブル・エレクトロニクスがらみで話題になりそうです。

 今回の展示で、プリント基板のメーカーはほとんど見られませんでしたが、台湾から中堅のフレキシブル基板メーカーが、少なくとも2社出展しておりました。展示サンプルを見る限りでは、最近の高密度回路、多層回路、実装技術の進歩は目覚ましく、台湾のフレキシブル基板メーカーの技術レベルは、日本の大手メーカーに比べても遜色がなくなってきています。

 印刷エレクトロニクスについては、ほとんど見ることができませんでしたが、高精細の印刷技術は一段と進んでいるようで、中沼アートスクリーンは6ミクロンのL/Sでのスクリーン印刷を実現したとのことでした。

 今回の展示会は、個人的には、なかなか興味深い新技術やメーカーを見ることができました。ただし、メーカーの説明員に聞いてみると、用途や応用技術について明確な見通しを持っているケースは少なく、実用化までにはもう数ステップの階段を越える必要がありそうです。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


177回(2017.4.2)

今週の話題

東芝の行方

 日本の大手電気メーカーが低迷状態に陥ってから随分経ちますが、このところ東芝の巨額損失の問題がメディアを賑わしています。振り返ってみれば、護送船団方式の日本の電機メーカー全てが経営危機状態となってしまいました。そのような中で、サンヨーはパナソニックに吸収合併されて業界から消え、シャープは台湾のEMS最大手のホンハイ社の子会社となってなんとか生き延びていますが、事業の方向性はほぼ親会社によって決められるようになっています。(だからこそ、シャープは生き残れたわけで、それ自体は悪いことだとは言えません。)最近、海外のメディアがシャープについてのニュースをリリースする時は、“ホンハイ社の日本子会社の”と言う枕詞が必ず付いています。

 日立製作所は、重荷になっていたHDD事業を売却し、パナソニックはプラズマディスプレイ事業をクローズし、ソニーは多くの事業を切り離して、それぞれなんとか黒字化を果たしました。それでも、かつてのように、日本メーカーが世界のエレクトロニクス業界を引張っていく状況には多くの隔たりがあります。

 そこへ出てきた東芝の問題です。「東芝よ、お前もか!」という思いを持たれた方は少なくないでしょう。個人的な話になりますが、私は東芝とは40年近いビジネス関係を持ってきています。私は東芝の技術カルチャーには共感を覚えましたし、実際に技術先導で多くのプロジェクトが成功裏に進められました。私は部材のベンダーの立場でしたが、東芝は“信頼できる親方”というイメージでした。「東芝のエンジニアの要求であれば、かなりの無理をしてでも実現してやらなくては」という感覚がありました。実際に、それでほとんどうまくいきました。ところが、今回のWestinghouse問題です。まさに裏切られたという思いです。

 今回の問題が顕在化してから、米国量販店での日本ブランドの製品の動きに注意するようにしています。ある量販店で見た光景はショックでした。フロアに東芝ブランドの大型テレビが梱包のまま積み上げられ、その上に値札が付けられています。現物の展示はありません。その隣には、なんとWestinghouse社製の大型テレビが同じように積み上げられているのです。値段は同じです。東芝やWestinghouseが自社工場で組み立てていたとは考えにくいのですが、実際のメーカーの表示はありません。最近、東芝のテレビが売り場に並ぶことはありませんでしたので、これは明らかに、近々まともなメーカーのサービスが得られなくなることを見越しての、在庫一掃バーゲンセールです。だいたいWestinghouseが液晶テレビを販売していたことなど聞いたことがありませんでした。Westinghouseといえば、日本では原子力発電設備のメーカーという認識だったと思いますが、実際には総合電気メーカーとして液晶テレビの販売も行っていたのですね。ちなみに49インチの4Kテレビの価格は449.99ドル(5万円足らず)です。

 ところで、同じ売り場に、今は無いはずのサンヨーブランドの液晶テレビが堂々と展示されています。しかもご丁寧に、「米国で50年」と実績を強調する表示が見えます。もちろん、これはあの日本メーカーのサンヨーではなくて、そのブランド名を購入した中国メーカーの製品です。しかし、中国製であることを示す表示はありません。まさに、“サンヨーは死んでブランド名を残した。”ということでしょうか。ちなみに販売価格は、32インチサイズの液晶テレビで148ドル(1万7千円)です。少し地味ですが、シャープの液晶テレビも展示されています。こちらも、日本製とも台湾製とも表示がありません。しかし、以前に比べて、展示面積は確実に大きくなっています。これは、シャープ自身の努力の結果だとは思えません。明らかに、親会社のホンハイのネットワークによるものです。それでも結果オーライの範囲でしょう。このように、米国の家電量販店の展示を見ているだけで、間接的ではありますが、主要メーカーの動向が透けて見えてきます。

 さて、東芝の場合を考えてみますと、サンヨー、シャープのいずれのケースもあまり参考にならないかもしれません。しかし、残された時間はあまりにも少ないようです。今の経営陣に、この大きなハードルを越える能力があるかどうか疑問ですが、最悪のシナリオを想定しなければならない状況が近づいているようです。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


176回(2017.3.12)

今週の話題

蒸気漏れと黒かび騒動

 以前にご紹介したことがありますが、米国の家屋には標準的に地下室があり、そこにガス、水道、電源などのユーティリティーが収納されています。拙宅も例外ではなく、セントラル・ヒーティング用のボイラーと温水用の大型ヒータータンク、および関連する配管類が複雑に走っています。少し前のことになりますが、旅行から自宅に戻り地下室に入りますと、中は熱気と水蒸気に満ち、床には水が溜まっていて、保管してあった書類や書籍が水浸しになっていました。とにかく、当地では温水無しでは冬を越せませんので、早速業者を呼び、修理を依頼しました。ところが、その業者が言うには、拙宅の温水タンクは型式が古く、もう部品が入手できないので、全体を交換しなければならないとのことです。配管の繋ぎ直しを含めると、日本円で50万円を越える費用になってしまいます。同じ費用をかけるのであれば、トータルでコストダウンになるガス瞬間湯沸かし器に変える方が得だというのです。ちょっと判断がつきかねたので、何人かの知人に聞いてみたところ、驚いたことに、ほとんどが、最近温水タンク方式からガス瞬間湯沸かし器に変えたか、機会があれば変えたいとのことなのです。それで、私も決心がつき、ガス瞬間湯沸かし器を導入することに決めました。

 さて、瞬間湯沸かし器が設置されて、また驚きました。この瞬間湯沸かし器は日本からの輸入品で、メーカーはリンナイなのです。業者に聞いてみましたが、国産品の選択肢は無いとのことです。以前の温水タンクはヨーロッパからの輸入品でしたから、設置業者にしてみれば、調達先が大きく変わったことになります。

 私が興味を持たなかっただけからかもしれませんが、これまで米国内で、リンナイのガス湯沸かし器の広告など見たことがありません。一方、湯沸し器という設備の性格上、一般民生機器では要求されないような高い信頼性と安全性、それに加えて、施工業者が扱いやすいようなソフト面でのサービスが必要になります。リンナイが、そのようなハードルを乗り越え、米国で新しいビジネスを創りだしているということは尊敬に値することですし、他の分野で米国市場に参入しようとしている日本メーカーにとっては、学ぶべきところが大きいでしょう。

 今回の蒸気漏れ事件には後日談があります。瞬間湯沸かし器が設置されたからといって、地下室の水たまりや湿気が取り除かれたわけではありません。溜まっていた水をはき出し、除湿機を回しっぱなしにして、なんとか従前の状態を回復するには、2、3週間かかりました。その後になって気がついたのですが、高温多湿の状況で、地下室には黒カビが繁殖していたのです。これまた専門業者に見てもらったところ、このカビは発がん性の化学物質を放出する危険性の高いもので、しかるべき方法でクリーニングしなければならないとのことなのです。私は、地下室を実験室兼書庫、倉庫として使っていたので、中身はかなり多様です。中にある家具類、試験装置類、部材サンプル類、資料類を全て搬出処分した上でのクリーニングになります。高価な試験装置、実験装置と改めて入手が困難な資料類は業者に清掃してもらった上で残すことにしましたが、他は涙を飲んで廃棄することにしました。これまでに私が収集した各種文献やパンフレット類は一万件を超えていたと思いますが、その8割以上が廃棄処分となりました。収集のために費やした時間と労力、費用を考えると慙愧に堪えません。地下室の壁や天井に張り巡らされている断熱材も除去対象です。業者は巨大な産業廃棄物用のダンプコンテナを用意しましたが、これがほぼ満タンとなりました。

 さて、クリーニングですが、工場などで使うクリーンルームとは逆になります。地下室の中に巨大な送風機で空気を排気して、内側を負圧にします。カビの胞子などの危険な化学物質の放散を防ぐために、排気装置にはヘパフィルターが装着されています。作業者は、使い捨てのフード付き防塵服に身を固め、さらに高性能のマスクとゴーグルを装着するというものものしさです。

 まず空になった地下室で、大型バキューム掃除機で床に溜まっている塵埃を吸い取った後、高圧ジェットの水洗装置で天井、壁、床のカビを吹き飛ばしながら、汚れた洗浄水を高性能バキューム装置で吸い取ります。しつこい汚れはグラインダーを使って、削り取ります。それでも細かいところは、手で拭き取らなければなりません。これらの一連の作業のために、業者は高圧洗浄水と高性能バキューム装置を装備した専用の大型バンを用意しています。

 拙宅の地下室は約100平方メートルありますが、最終的に業者がクリーニングに要した時間は5日間で、平均して3、4人の作業者がかかりきりになりました。最終的に私がクリーニング業者に支払った金額は8500ドルで、日本円では百万円近くなります。この他、断熱材の再装着、家具や棚などを新たに購入する費用がかかりますが、おそらく数千ドルが追加されることになります。湯沸かし器を含めた合計のコストは、日本円で200万円近くになってしまいます。このような想定外の大きな臨時出費は、個人にとっては大きな負担です。幸い隣人が知恵を授けてくれ、家の保険会社と交渉した結果、一万ドルまでカバーしてくれることになりました。当初はコストの大きさに途方にくれましたが、いくらか気分が楽になりました。無駄になるかもしれませんが、アメリカでは保険に入っておくものであることを思い知りました。

 業者や知人に聞いたところでは、このような家のトラブルは決して珍しいことではなく、けっこう多くの人々が経験しているようです。最近日本でも、家庭の黒カビ対応の薬剤などが販売されていますが、米国のそれは、はるかに大規模で、安全性に神経質なものになっているようです。このようなところにも、米国の経済力と技術力の高さをうかがい知ることができます。良い勉強になりました。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


175回(2017.2.26)

今週の話題

コンバーテック・ジャパン 2017

 2月15日から3日間、東京ビッグサイトで、コンバーテック・ジャパン2017が開催されました。おそらくこの展示会は、元々エレクトロニクス関連のものではなく、材料の加工技術を主体としたものだったのでしょう。フィルム加工やラミネーションなどの大型装置が大きな部分を構成しています。しかしながら、機能材料、先端材料となると、どうしてもエレクトロニクス、それも基礎技術に関わってきます。コンバーテックも、展示ブースの過半数は先端エレクトロニクス関連、それも基礎技術といってよいでしょう。展示会の規模も次第に大きくなっており、今年は東館の1〜6ホールの全てを埋め尽くしています。来場者の数もかなりのもので、会場全体を埋め尽くしています。

 コンバーテックの特徴の一つは基礎技術の紹介が多いことですが、関連して、内外の様々な研究開発機関や大学が独自のブースを持って、最新の開発技術を展示しています。NEDO(新エネルギー・産業技術開発機構)はもっとも広いブースを用意して、様々な新規材料技術を展示しています。 AIST(産業技術総合研究所)、 JST(科学技術振興機構)、理科学研究所なども、それなりに大きなブースを構えています。その他、聞いたこともないような名前の研究機関やコンソーシアム(私が知らないだけかもしれませんが)のブースが並んでいます。

 海外からの参加も目立ちます。ドイツは巨大なパビリオンを用意し、有名なFraunhofer Instituteを筆頭に多くの新規技術を持つベンチャー企業を紹介しています。台湾と韓国のブースもかなりの大きさです。その他、私が見つけた国としては、スペイン、イタリア、スイス、オランダ、チェコ、タイ、イラン、中国、カナダなどです。意外なのは米国で、小さなブースで、幾つかの州の企業誘致をささやかにしていたことでした。海外からの出展で気になるのは、ディスプレイがあまりにも地味なことです。せっかくのユニークな技術も、これでは日本ではアピールしません。表示パネルを日本語にしろ、とまでは言いませんが、もう少し訴える展示がありうると思います。この辺りは、事務局がもう少し親切なアドバイスサービスをすべきでしょう。

 世界から集まってきたユニークな新規技術を見て回ることは楽しいものです。ただ、私自身、見て回ったのは半日だけですので、展示会の全貌を語ることはとてもできません。せめて2日は必要です。一方、目につくのは流行語の氾濫です。今年多かったのは、ウエラブル、フレキシブル、IoTなどです。その他、定番として、ナノ、CNT、グラフェン、3Dなどの名前も氾濫しています。残念ながら、技術そのものは玉石混淆で、大部分は石です。石の中には、磨けば、玉になりそうなものも少なくありません。典型的なのが、表面処理や表面改質の技術です。プラズマ処理やコロナ処理の技術を売り込んでいる会社は少なからずありましたが、最終用途への効果が、今ひとつはっきりしないためか、なかなか具体的な用途に繋がっていないようです。

 印刷エレクトロニクスは、コンバーテックの大きなテーマの一つで、多くの企業や団体が、様々な形で参加しています。3Dプリンターは、今年も人気で、大きなブースに多くの観客を集めていました。ただし、細かな部分で技術の進歩は見られるものの、次第にその限界が明らかになってきているようです。当初万能テクノロジーであるかのように語られていただけに、期待はずれの感じは拭えません。フィギュアの細かい細工ができるようになっても、ちょっと使えば飽きてしまいます。

 従来型の印刷エレクトロニクスはそれなりに進歩が認められるようです。特に応用技術の展開が広がっているようです。従来のフォトリソグラフィ/エッチング技術ではできない分野での応用が、実用化に繋がっています。加工技術としては、相変わらずスクリーン印刷が中心ですが、インクジェット印刷機でも、かなり完成度の高い装置が紹介されておりました。エレクトロニクス用グラビア印刷機やフレキソ印刷機も進歩が認められますが、応用開発が進んでいないようです。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


174回(2017.2.12)

今週の話題

古いビルディングに新しいオフィス

 個人的なことになりますが、私はいくつかの疾患を抱えています。それだけに医療機関を訪問する頻度も多くなっているわけですが、米国では基本的にプライマリードクター(かかりつけ医)の紹介が必要になります。実は最近になって、私のプライマリードクターのクリニックが隣町に引っ越しました。とりあえず新しいオフィスを訪問してみますと、以前のオフィスに比べてはるかに大きいのですが、築100年以上の古いレンガ造りのビルなのです。おそらく、20世紀初頭に建設された機械加工工場を再開発したものなのです。

 ニューイングランドでは、このような古い工場ビルの再開発は珍しいことではありません。日本では、都市の再開発といえば、スクラップ&ビルトですが、当地では、基本的に古いビルを壊すことはせず、少なくても基本構造を活かして内装外装のみを変更します。ニューイングランドには19世紀後半から20世紀初頭にかけて建てられ、現在は廃屋になっている工場ビルがおびただしい数で残っています。当地では、これらの古いビルをリニューアルして、新しい用途に使えるようにする仕事が一大産業になっているのです。新しい用途は幅広く、オフィス、レストラン、養護施設、アパート、タウンハウス、貸し倉庫、立体駐車場など様々です。違った業種での工場も少なくありません。

 古い工場の基礎はレンガ造りですので、まずその補強を行います。次いで水回り、ガス、電気、通信、冷暖房のための配管類を敷設します。最近では、WiFiなどのITがらみの設備も標準装備となっています。外装はそのままのケースも少なくありませんが、レンガは表面を削ると真新しく見えるので、アンティークな感じを維持しています。私の住んでいるHaverhillでは、新しいレンガ壁に、アーティストが大きな壁画を描く試みがなされていて、街を散策する楽しみになっています。窓は二重か三重のガラスサッシですが、レンガの外壁にマッチしています。内装はいろいろで、配管類がむき出しの例もあれば、築百年の気配を全く感じさせないものもあります。

 私の行きつけのクリニックの例でいえば、外装にはあまりお金を使っていないようで、二十世紀初頭そのままです。ただし車椅子のためのスロープや、自動ドア、エレベータなどは標準装備です。オフィススペースや待合室のスペースは、新旧折衷です。部分的にレンガの壁や柱をむき出しにしていますが、全体としては、モダンな中にアンティークな感じが出ています。(添付写真をご覧ください。)目には見えませんがフリーのWiFiサービスが行き届いています。

 診察室の内装は、古いビルであることを感じません。個室の設備も、最新の大病院と比べて遜色ありません。(当地のクリニックでは、外来でも患者は個室に入り、ドクターの方がまわって歩きます。)個室には、患者用の診察ベッドの他に、各種ガスの配管類があります。データサービスの端末も用意されていますが、最近のほとんどのドクターは大型のタブレット端末を持ってきます。ドクターに先立ってナースが来室し、血圧や酸素濃度などの測定を行いますが、この時もデータはタブレット端末から入力します。タブレットの画面を見せてもらったわけではありませんが、診察時の会話から察するに、他の医療機関とのデータシェアができているようで、かなりの高速データ通信が可能になっているようです。

 日本では都市の再開発というと、既存の建物を廃棄して、更地にすることを前提にしています。一方、当地ニューイングランドでは、古い建物をできるだけ活かす形で、新しい使い方を考えます。当地のある不動産屋が言っていましたが、今にも崩れ落ちそうな建物でも、何がしかの価値があるものなので、売却にあたって取り壊すことはないそうです。一方で、古い設備に新しい設備を繋ぐための様々な部材(特にパイプ、ケーブル、窓など)が次々に開発実用化されてきていて、一大産業となっています。

 聖書には、「新しいぶどう酒は、新しい革袋に」という言葉がありますが、当地では、様々な知恵を出して、古い建物に新しいオフィスや設備を入れる努力を続けています。長い目で見れば、この方が環境に優しく、持続可能な社会を構成できることは明らかです。

 (写真上)私がお世話になっているクリニックの古くて新しい待合室

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


173回(2017.1.22)

今週の話題

インターネプコン・ジャパン 2017

 日本のエレクトロニクス業界の露払いともいえるインターネプコン・ジャパンが、1月18日から3日間東京ビッグサイトで開催されました。今年のエレクトロニクス業界の動向を占う上で良い機会なので、早速出かけました。

 人、人、人が最初のインパクトです。駅から会場入り口まで、おびただしい人数の来場者の列が続き、吸い込まれています。会場は、昨年からさらに大きくなっています。主催者の発表では、2200件の会社や団体がブースを構えたとのことです。これまで、東館には6つのホールがありましたが、今回から二つのホールが加わりました。その増設スペースも、もういっぱいで、通路さえもギリギリまで狭くして、ブースを押し込んでいます。そこに、大量の来場者が押し寄せるのですから、移動さえままなりません。主催者発表では、3日間で十数万人の来場者があったとのことですが、かなり説得力のある数字です。もう落ち着いて、見て回るにはそろそろ限界かもしれません。主催者としては、少しでも出展者を増やしたいのでしょうが、効率的な展示会を運営しようとするのであれば、分割などの抜本的な改革をして欲しいものだと思います。

 インターネプコンがここまで大きくなったのには、幾つか理由があります。その一つが、多くのイベントを寄せ集めることです。今回の場合、インターネプコンの他には、プリント配線板EXPO、半導体パケージング技術展、微細加工EXPO、電子部品・材料EXPO、微細加工EXPO、ウェラブルEXPO、ロボデックス展、エレクトロテスト・ジャパン、ライトテックEXPOといった具合です。さらに自動車関連で、カーエレクトロニクス技術展、EV-HEV駆動システム技術展、クルマの軽量化技術展、コネクティッドカーEXPO、自動車部品&加工EXPO、スマート工場EXPOと続きます。タイトルからわかるように、展示会場の半分ぐらい車関連の技術です。こうなると、展示会を満遍なく見て回るのは、ほとんど不可能です。早々に諦めて、プリント基板と実装関連の分野に絞って見て回ることにしました。

 さて、プリント基板ですが、他の分野が大変な混雑であるのに対して、気が抜けるくらいに来場者が少ないのです。出展者も限られています。大手メーカーで出展しているのは、日本CMK、日本メクトロン、メイコーなどの一部大手メーカーだけで、大部分の大手メーカーは出展を見合わせています。日本のプリント基板業界は、長期縮小傾向の中にあります。このような市場環境でこそ、積極的なプロモーション活動する必要があると思うのですが、日本のエレクトロニクス企業は、景気が悪くなると、逆に広告宣伝費を削減することが多いように思います。これでは、新しい顧客や仕事を獲得するのは容易ではないですね。

 中堅基板メーカーでは、ユニークな展示をしているメーカーが何社か見られました。沖プリンテッドサーキットは超高多層基板を、OKプリントは米国軍規格の承認を取得した、高信頼性多層リジッド・フレックスなどを前面に押し出しています。いずれも民生用量産品ではなく、産業用や航空宇宙用などの高い信頼性を要求される用途を想定しているようです。ホットトピックスとしては、ウエラブル・エレクトロニクスに関連して、伸縮性や透明性のあるフレキシブル基板や素材の発表が目立ちました。東洋紡は、電気的に機能性がある伸縮性布地でデモンストレーションを行っており、多くの聴衆を集めていました。

 半導体パッケージ関連では、今後の技術的な方向性としては、各メーカーともFO-WLCSPFI-WLCSPということで一致しているようです。いずれにせよ、回路パタンはさらに微細化が進むわけで、セミアディテブプロセスが中心となるものと考えられます。そのような加工プロセスでは、表面処理が重要になります。このため、JCU、上村工業、奥野製薬などの薬液メーカーが積極的な展示を行っています。即実用性があるとは思えませんが、可能性としては、5ミクロン未満の回路ができるとしています。

 日本の基板メーカーが消極的なのに対して、台湾や中国のメーカーの出展はかなり目立ちました。展示されている回路サンプルを見る限りでは、微細加工能力、多層加工能力は日本メーカーに比べて遜色ないところまで来ているようです。ただ、これといった技術的な特徴が見当たらないのも実情です。また、基板ブローカーの出展も結構ありました。以前ブローカーというと、製品を右から左に流すだけで、品質はあてにならない、というのが共通認識でした。しかしながら、最近ではある程度システマティックな管理をしているようで、生産管理、品質管理も向上しているようです。

 実装、組み立ての分野では寡占化が進んでいるかのように見えます。実装機メーカーやはんだ付け装置、材料メーカーは、大規模なブースで活発なデモンストレーションを展開していましたが、海外メーカーの出展は少なく、国内メーカーもYAMAHAなどの少数のメーカーに限られています。また、かつては雨後の筍のように新規参入が見られたEMSメーカーも、今回目立ったのはUMC社ぐらいです。同社は、売り上げが1000億円を越え、世界のトップ10入りを果たしたようです。現在話題になっているメキシコでの生産を立ち上げているとのことです。

 残念ながら、車関連のブースは全く見ておりません。なにしろ、会場の半分近くが車関係の展示という状況ですので、展示会全体の半分以上は見ていないことになります。日本の民生用エレクトロニクス業界では、「苦しい時の車頼み」と言われています。民生用エレクトロニクスの不振が続くと、多くの部品、回路メーカーが、車載用エレクトロニクスの市場でのビジネス獲得に走ります。しかしながら、一般のメーカーが新たに車関係のビジネスを獲得するには時間がかかります。そうこうしているうちに、景気が回復してくると、もう車市場への熱意は覚めてしまいます。しかし、今回の民生エレクトロニクス市場の低迷は未曾有のもので、未だに回復の兆しさえ見えません。それだけに車市場への期待が高まっていて、今回の展示になっているのでしょうが、果たして良い成果が得られますかどうか、経緯を見守りたいと思います。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


172回(2016.12.25)

今週の話題

セミコン・ジャパン 2016

 日本のエレクトロニクス業界の一年を締めくくるセミコン・ジャパン2016が、12月14日から3日間、東京ビックサイトで開催されました。低迷が続く日本の半導体産業の動向を見るには良い機会ですので、見学に出かけることにしました。ところが、まず出かける前から、出鼻を挫かれることになってしまいました。自分の身の回りを見渡した限りでは、招待状が見当たらないのです。普通、この手の展示会に一度でも出かけると、その後何年かは招待状が送られて来るものですが、それがないのです。心当たりのある会社の知人に問い合わせてみましたが、やはり見つかりません。しかたなく、ネットでホームページを探し、オンライン登録をしました。そのホームページも、お世辞にも親切といえる代物ではありませんでした。私のように、海外から日本に出張してきた技術者やビジネスマンが、ちょっと立ち寄ってみようかと思っても、ホームページにアクセスした段階で挫折してしまいそうです。

 さて、展示会の方ですが、規模はほぼ昨年と同じくらいでしょうか。かつて幕張メッセで開催されていたピーク時に比べると半分以下になっているかもしれません。私は最終日の昼ごろから出かけたのですが、いつものような喧騒さがありません。それなりに人出はあるのですが、芋の子を洗うような、というほどではありません。ブースの説明員と来訪者が活発に議論し合っているような光景もあまり見当たりません。かつて、日本の半導体産業が世界市場を牽引していた頃は、韓国や台湾のメーカーが、調査のために多くの技術者を送り込んできたものですが、このような光景はほとんど見られません。もう、日本から学ぶことはなくなってしまったかのようです。

 今年のメインテーマはIoTでしたが、その意味するところが非常に広いために、出展者はなかなか的をしぼりきれないようです。中には、かなりのこじつけと見られても仕方がないようなものも、少なからず見受けられました。良いテーマを設定することは、主催者の責任ですが、参加者がテーマに引きずられて、ビジネスにならなければ、本末転倒というものでしょう。

 かつてセミコンといえば、半導体メーカーやパッケージメーカーが主役だったと思うのですが、今年の場合で見れば、主要メーカーはほとんどブースを出していません。これでは、日本の半導体産業の動向を知ることはできそうもありません。展示会の主役は装置メーカーが中心です。ただし、企業によって、ブースのディスプレイには大きな差がありました。一番目立っていたのは、前工程の製造装置メーカーのDISCO社でしょう。圧倒的に広いブースに、最新鋭の装置を多数展示した他に、多くの説明員を配置して活発なプロモーション活動が見られました。これと対照的だったのが米国の前工程装置メーカー最大手のApplied Materials社でしょう。かなり大きなブーススペースを用意していたのですが、実際の装置やパネルを展示することはなく、ほとんどのスペースはラウンジとなっていました。これは、昨年も同じようなものでしたが、会社の意図がよく理解できません。

 もっとも人を集めていたのは、ミニマル・ファブのデバイス製作のデモンストレーションでしょう。これは産総研が主導して始めたもので、これまでのような、製造規模の大型化を志向するのではなく、多品種小規模生産能力を高めることにより、半導体デバイスに新たな分野を開こうとするもののようです。まだ、試行が始まったばかりで、具体的な成果に結びついていないようですが、期待は高まっているようです。

 今回特に目に付いたのは、地方の中小企業や、大学、高専などの出展が非常に多かったことです。これは、主催者が地方自治体などに働きかけて、隠れた優秀な技術を中央で紹介しようとするものです。普段中央ではなかなか見られない埋もれた技術をみることができることは結構なことだと思います。ただ、現実には玉石混淆の状態で、実際に使い物になるものに巡り合うには、それなりの意識を持って見てまわることが必要でしょう。

 何分にも限られた時間での視察でしたので、全貌を概観するには程遠い状況ですが、残念ながら、日本の半導体産業の復活の兆しはなかなか見えてこないようです。それでも、地方の中小企業などに、ユニークな技術のヒントになるようなものも見受けられ、今後の展開に期待したいと思います。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)

dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


171回(2016.12.11)

今週の話題

2016年のプリント基板業界は?

 今年も残り少なくなりました。そろそろ、今年のプリント基板業界の動きをレビューし、新年度の方向性を考えてみるのもよいかと思います。

 まず台湾プリント基板業界ですが、台湾メーカーは海外生産分(主に中国)を入れれば、まちがいなく世界のトップメーカーということになります。台湾は世界の民生用エレクトロニクスの生産拠点のポジションになっていますから、そこで使われるプリント基板の多くは、ほとんど台湾メーカーによって製造供給されています。したがって、台湾の基板メーカーの動きを見ていれば、世界の民生エレクトロニクス業界の動向を窺い知ることができます。今世紀に入ってからの台湾のプリント基板産業は、2009年のリーマンショックの時を別にすれば、ずっとプラス成長を続けてきました。ただ、最近成長率は小さくなってきていました。そして、今年は前年同期比がマイナス成長で始まりました。しかし、月を追うごとに出荷額は増大し、夏にはついにプラス成長に転じました。その要因としては、ずっと低迷していたパーソナル・コンピュータの回復が寄与しているものと推定されました。台湾のエレクトロニクス業界は、年末商戦に向けて体勢が上がっていきますから、年間でもプラス成長を果たすかとも思われました。ところが、9月には勢いが止まり、10月には前年比でマイナス成長幅が広がる結果になっています。(−4%)硬質基板は前年比で完全にマイナス成長です。フレキシブル基板は、まだ伸びていますが、前年同期比ではマイナス成長が続いています。これは、回復しているように見えたPC市場が失速したことと、スマートフォンの市場が飽和に近づいて、伸び代がなくなってしまったことが主な理由のようです。残念ながら、残りの2ヶ月で、エレクトロニクス業界が急反転するような気配はありません。したがって、2016年における台湾プリント基板業界は、2009年以来初めてのマイナス成長を経験することになりそうです。減少幅は、2.5〜3.5%でしょう。来年も、第1四半期は同じような状況が続くでしょう。これだけ長く不振が続けば、タフな台湾メーカーは何がしかの手を打ってきますから、第3四半期には新しい展開が期待されます。

 日本のプリント基板業界は、昨年久しぶりのプラス成長(+6.1%)を果たし、回復に向かうのではとの期待が膨らみました。ところが新年のふたを開けてみると、年初から7〜8%のマイナス成長、しかも月を経るごとにマイナス幅は広がっているようにさえ見えます。大黒柱ともいえるビルドアップ基板は、出荷額が毎月大きく上下する不安定さですが、長期的な観点でみれば、縮小傾向が続いていると言わざるをえません。何しろ主要な需要家である国内の携帯端末メーカーがジリ貧状態ですから、しかたがありません。二番目の柱である両面多層フレキシブル基板は、主要な需要家が海外の携帯端末メーカーであり、大きな需要変動に振り回されています。年に一度のスポット需要が出ますが、ベースとしては縮小傾向にあることには変わりありません。三番目の柱であるモジュール基板も冴えません。世界規模では、主な需要家である半導体サブストレートの市場が回復しているのに対して、日本のモジュール基板メーカーは、受注に結びつかず、じりじりと減少しています。9月の出荷額は過去の最低記録に並びました。

 このような状況ですから、残りの第3四半期に環境が一気に好転し、プラス成長に変わる可能性は極めて小さいでしょう。現実的には10%以上のマイナス成長の可能性があります。これは、昨年のプラス成長分を完全に帳消しにしてしまう減少幅です。来年の動向も、少なくとも上半期には楽観的な見通しは立てにくい状況です。

 今日では、世界市場の中における北米のプリント基板生産はマイナーな存在になってしまいましたが、米国が強い産業用機器や航空宇宙産業の中に占める存在感は小さくありません。今年の場合、第3四半期までは、多少上下はあるものの、全体としては4〜5%の成長が見込まれていました。ところが、10月の出荷額は、前年同期比で8.3%のマイナス成長というところまで落ち込んでしまいました。受注も1.8%の減少となり、見通しがつかなくなりました。少なくとも、数%以上のプラス成長はなくなり、せいぜい2%台の成長に止まるでしょう。

 ドイツはヨーロッパ最大のプリント基板生産国ですが、今年は、第3四半期までは、そこそこのプラス成長が記録されていました。ところが、9月になって、予想外の減少があり、年初からの累計は、一気に0.8%のマイナス成長というところまで落ち込んでしまいました。受注額も、9月になって弱含みで推移していますから、通期でマイナス成長になる可能性が出てきました。

 私は韓国のプリント基板業界について、信頼できる統計データを持っていません。しかしながら、第4四半期になって大きな混乱になっていることは予想できます。何しろ、韓国エレクトロニクス業界を背負って立つ、サムソン電子のスマートフォン、ギャラクシー・ノート7が全面生産停止状態になっているのですから。サムソン系の大手フレキシブル基板メーカーは、開店休業の状態だと伝えられています。今のところ、サムソン電子からは、生産再開の目処さえでてこない状況です。

 このように、2016年における世界のプリント基板業界を一覧してみますと、とても楽観的にはなれない状況です。おそらく全体では、3%前後のマイナス成長ということになるのではないでしょうか。さらに困ったことには、少なくとも2017年の第1、第2四半期ごろまでに、市場が回復してくるような材料が見当たりません。基板メーカーにとっては、極めて厳しい状況が続くことになります。とにかく、じっと我慢をして、市場の回復を待っていても、状況は改善されそうもありません。年末年始の休みには、真剣に打開策を考えてみるべきでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


170回(2016.10.30)

今週の話題

あなたはどんなコーヒーがお好きですか?

 私はコーヒーが好きですが、コーヒー通と言えるほどではありません。ただ、学生時代までは、米国に住んでいた伯父が定期的にコーヒーの缶を送ってくれましたので、ほとんどインスタントコーヒーというものを知らずに成人しました。社会人になって初めてインスタントコーヒーというものを飲んだ時には、なんと粉臭いものだと思った記憶があります。

 米国へ出かけるようになって、アメリカ人が大変なコーヒー好きであることを知りました。仕事中はもちろん、車の運転中や、会議中でも、自分のカップやポットを手放しません。ヨーロッパ人から見ると、アメリカ人は野蛮であるという理由になっています。会社のオフィスやホテルなどは、たいてい大型のコーヒーメーカーが設置されていて、いつでも飲めるようになっています。ただし、コーヒーの味に関しては鷹揚で、アメリカンコーヒーといえば、中身が薄くて量ばかり多いことの代名詞になっています。それでも、カフェインについては気にする人が少なくないようで、多くの場合、レギュラーの他にデカッフェ(カフェイン抜き)コーヒーが用意されています。

 その大味なアメリカンコーヒーの文化が変わろうとしています。誰が始めたのか知りませんが、米国ではカートリッジ式のコーヒーメーカーが急速に広まってきています。これは、アイスコーヒー用のガムシロップが入っているようなパッケージに、カップ一杯分の挽かれたコーヒー豆が封入されており、このカートリッジを専用のコーヒーメーカーにセットしてスイッチを押せば、1分足らずでお好みのコーヒーが一杯だけ出来上がるという寸法です。(もちろんカップは、あらかじめ排出口にセットしておかなければなりません。)つまり、このコーヒーメーカーであれば、家族や職場のコーヒー嗜好が違っていても、個々に対応することができるわけです。

 かつてのコーヒーメーカーといえば、まことに大雑把な道具で、タイマーなどを除けば、エレクトロニクスが入り込む余地などはありませんでした。しかし、新しいカートリッジ式のコーヒーメーカーは、様々な機能が付けられ、エレクトロニクスの塊のようになっています。特に最近のトレンドは、自分で挽いた豆でもコーヒーがいれられるように、ハイブリッド式になっています。コーヒーメーカーとしては一回り大きくなり、別にカートリッジ用のコンテナも必要になりますので、狭い日本の台所では使いにくいかもしれません。

 このカートリッジ式のコーヒーは、メーカーや販売店に大きな変化をもたらしています。スーパーマーケットでは、すでにカートリッジパッケージの棚が、従来の缶や袋入りパッケージのスペースを圧倒するようになっています。また、地方の中小コーヒーブランドメーカーにとっては、市場を広げるチャンスと映っているようで、こぞってカートリッジパッケージを出しています。カートリッジは、一箱あたり、10個か12個入っていますので、ちょっと味見してみようかという筋には手ごろなわけです。ちなみに、カートリッジ1個あたりの価格は、50〜80セント程度になります。

 コーヒーのタイプという意味で、独自の文化を作っているのが韓国かもしれません。こちらは、カップ一杯分のインスタントコーヒーが、スティックタイプのパッケージに入っています。それぞれ、ブラック、ミルク入り、砂糖入り、全部入りなどが用意されています。飲む方にしてみれば、カップにスティックの中身をあけ、お湯を注ぐだけですから、極めてお手軽です。最近韓国の企業でのミーティングとなると、出てくるコーヒーは、スティックタイプで、自分の好みで選ぶことになります。末端での梱包は、だいたい一箱にスティックが50本か、100本入っており、スーパーのコーヒー売り場では、大きな箱が所狭しと、積み上げられています。コーヒーブランドの選択の余地はあまりなさそうです。

 残念ながら、最近の日本のコーヒー文化や習慣について、私はほとんど知りません。比較してみると、面白いかもしれません。たかがコーヒーかもしれませんが、ちょっと新しいアイデアで、装置はもちろん、パッケージ材料を含めて、新しいビジネスが創出されてきています。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


169回(2016.10.16)

今週の話題

CEATEC JAPAN 2016

 10月4日から4日間、千葉の幕張メッセにおいて恒例のCEATEC JAPANが開催されました。低迷が続いている日本の民生エレクトロニクス業界で、回復への動きがあるかどうかを見るのには良い機会ですので、様子を見に出かけました。

 展示会の規模としては、前年とほぼ同じです。しかし来場者はかなり多くなっているように見受けられました。変な言い方かもしれませんが、今年の展示にはゲームや体験コーナーのような娯楽的な要素が少なく、即実際のビジネスに結びつくような、現実的な製品や技術をアピールするものが多かったように思います。来場者の方も、物見遊山の雰囲気はあまりなく、何か業界の動向をつかみたいという真剣な眼差しが感じられました。共通のトピックスとしては、IoTとロボッティクスが挙げられます。それにウエラブル・エレクトロニクスが加わっています。おそらく主催者の要請に応じたものなのでしょうが、産業技術総合研究所のような研究機関、JEITA、NHKNTT、その他の各種団体が、大きなブースで、近未来のエレクトロニクス技術を紹介するデモンストレーションやプレゼンテーションを繰り広げています。(規模が大きい割には、聴衆の集まり具合は今ひとつです。)私は聞きませんでしたが、主催者が用意したキーノートセッションでは、入り口の前に、おびただしい人数の行列ができていました。

 かつてエレクトロニクスショー(CEATECの前身)といえば、大手民生用エレクトロニクス産業の担い手を自認する大手メーカーが大規模ブースを連ねたものですが、今年は、ソニー、東芝、キャノンが出展していませんでした。それぞれお家の事情がありそうです。最近台湾企業への身売りで話題になったシャープはやや小ぶりのブースでの参加です。かつて積極的だった韓国、台湾の大手エレクトロニクスメーカーの出展もありません。代わって、中国のエレクトロニクス大手のLENOVO社とHUAWEI社が大きなブースを出しています。また、自動車メーカーのトヨタ、ホンダ、それにドイツのアウディ社が出展していたのが目を引きました。

 これらの中で注目され、多くの来場者を集めていたのは、最も大きなブースを用意したパナソニックだったかもしれません。パナソニックは、特別目玉のトピックスをアピールするのではなく、十件ほどのアイテムを並べて個別にデモンストレーションを行っています。多くは、ホームエレクトロニクス、キッチンエレクトロニクスとでもいうべきもので、かなり現実的な製品イメージを打ち出しています。パナソニックは、かつてのプラズマディスプレイのように一極集中の方向ではなく、同社が強い販売力を持つ家電で地道な商品開発を進めようとする意図があるように感じます。他の大手メーカーは、特定の技術コンセプトにテーマを絞り、IoTに関連した近未来を描くようなデモンストレーションになっています。ただし、IoTの概念が広範囲にわたっているので、各メーカーのコンセプトはバラバラで、今後どのようなビジネスになるのか、ちょっとイメージをつかみにくくなっていたような印象を受けました。中国の大手2社は、スマートフォンやタブレットPCを主体とした最新の主要製品の紹介が中心で、未来技術の方向性までは出していません。

 去年も感じたことですが、電子部品メーカーは今年も積極的なデモンストレーションが見られました。村田製作所やTDKを始めとする十社を超える大手部品メーカーは、大手エレクトロニクスメーカー並みの大きなブースを並べています。この中には外資系を含む大手コネクタメーカーが含まれます。ただ展示の内容はだいぶ違っています。多くはIoTに関連する近未来の技術の紹介を行うと同時に、最新鋭の製品を展示しています。大手メーカーの新技術紹介のプレゼンテーションには、いずれも多くの聴衆を集めていました。

 化学メーカーや材料メーカーの出展はそれほど多くありませんでしたが、幾つかユニークな新材料の発表がありました。例をあげれば、厚さ4ミクロンのフレキシブルなガラステープ(日本電気硝子)、伸び縮みするケーブル(旭化成)、銅繊維で形成した半透明で導電性の不織布(巴川製紙所)、透明性の高い圧電フィルム(東邦火成)などがあります。いずれのメーカーも具体的な用途のアイデアはあまりないようです。私は、このようなユニークな素材好きで、とりあえず何件か用途を思いつきましたが、皆さんはいかがですか。

 今回は、海外からの参加はそれほど多くはありませんでしたが、その中で、台湾メーカーの出展が際立っていました。かなりの数の委託加工メーカーが、まとまってブースを連ねているのは、なかなか壮観なものでした。その点、日本ではこのような中小企業をまとめるプロモーターがいないのでしょうか、同様のメーカーの出展は目につきませんでした。

 私が関係するところでは、プリント基板メーカーの参加を期待していたのですが、私の気がついたところでは、台湾のメーカーと日本のケーブルメーカーが、製品の一つとしてフレキシブル基板を展示していただけです。依然として地盤沈下が進む日本のプリント基板業界としては仕方がないのでしょうか。

 全体を総括してみると、CEATEC JAPANは、日本のエレクトロニクス産業の縮図のようです。未だに低迷しているイメージは拭えませんが、メーカーによっては戦略的な新しい方向性が出てきているようです。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


168回(2016.10.2)

今週の話題

木製ビルディング

 何ヶ月か前のことになりますが、当地ニューイングランドの電柱がほとんど木製で、建造物にも多くの木材が使われていることをご紹介しました。その後、外を出歩く時は気をつけるようにしているのですが、新たに気が付いたことがいくつかあります。

 まず電柱ですが、これまでにコンクリート製のものは全く見ていません。基本的に木製ですが、一部高架用のものには鉄製のものがありました。一方、ダウンタウンでは、電柱そのものがありません。ニューイングランドには、多くの小さな町が点在していますが、その多くは17世紀の植民時代からの歴史を持っており、ダウンタウンは昔のレンガ造りの景観を残しています。ただ、20世紀初頭の古写真を見ますと、少ないながらも架空線や電柱が見受けられますので、当初はあったのでしょう。おそらく第二次大戦後、街の景観を大切にするために、電線の地下埋設、あるいは共同溝化が進められたのでしょう。最近になって東京もケーブルの地下化が語られていますが、米国の田舎町に比べて半世紀以上の遅れということになります。

 次に以前にも紹介した木造建築ですが、その後、どんどん積み重ねられて、写真のように6階まで達してしまいました。これで、高さではともかく、容積ではHaverhillで最も大きなビルディングということになりそうです。

木造ビルディングの写真です
 (写真 木造ビルディング) 

 ただ、このような木造の高層ビルは、ニューイングランドではそれほどめずらしいことではなく、それなりに気を付けていれば、かなり目にすることができます。アパートや集合オフィスビルなどは、かなりの大きさまで木材が使われています。建て方は、基本的にツーバイフォー工法のようで、かなりの比率で合板が使われています。鉄筋コンクリートに比べてひ弱そうに見えますが、それなりの強度は確認されているのでしょう。ところが、最終的にこの木造構造のビルの外壁には、レンガのような(擬)パネルが貼り付けられ、一見したところ、外観はあたかもレンガ造りのように見えます。したがって、木材をビルの構造材に使うことは、決して見た目や、ノスタルジーを満足させるためではなく、技術的、経済的なアドバンテージがあるということになるでしょう。

 少なくとも19世紀以前には、このような木造ビルの工法はなかったのでしょうから、20世紀後半以降に実用化されたものなのでしょう。少なくとも日本では見たことも、聞いたこともありません。(私が知らないだけかもしれませんので、ご存知の方がおられたら教えてください。)

 このような環境から、再開発が進む東京駅近辺の高層ビル群に出かけると、私はめまいがしてしまいます。一方で、大工さんがノコギリやカナヅチを使って(現在ではほとんど電動ですが)、高層ビルを建てていることは、見ていても興味は尽きませんし、なんとなく愉快です。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


167回(2016.9.4)

今週の話題

ボストンの自転車利用状況

 最近ボストンに列車で行くようになって気がついたことですが、ボストン市内での自転車利用環境は、東京のような日本の大都市とは随分違っているようです。ボストンは、日本で言えば京都に相当する古都で、毎日多くの観光客が訪問しています。これらの観光客のために、ボストンでは様々な観光バスが市内を回っています。その多くは窓ガラスがないオープンな構造で、観光客は直に街の空気に触れることができます。有名なのが、通称ダックツアーと呼ばれる水陸両用車です。通常のバスより一回り大きいくらいの車体に、四つのタイヤの他にスクリューが装備されており、観光客はダウンタウンの他に、ボストンの北側を流れるチャールズリバーからの景観を楽しむことができます。

 一方、ボストンで注目したいのは、自転車での観光です。欧米では、エコロジー志向もあってか、ある程度体力のある人は自転車での観光を希望しています。小回りがきくし、自由度が大きいことが理由です。このような観光客のために、ボストン市内の主要な駅などにレンタル自転車のステーションが設置されていて、随時借り出すことができるようになっています。ステーションは無人で、セルフサービスです。利用者はペイステーションで、クレジットカードを使って支払いを済ませれば、希望の自転車を借り出すことができます。返却は他のステーションでもできます。参考までに、ボストン北駅の様子の写真を添付いたします。


 (写真 ボストン北駅の自転車ステーションの様子)

 確か東京でも同じようなサービスシステムの試みをしているのを見たことがあります。しかしながら、ボストンの方がはるかにスマートで、規模が大きいようです。システムの電源には太陽電池が使われています。利用率も高いようで、私がその場にいた20分足らずのうちに、2、3人の利用者が借りて行きました。残念ながら、システム全体のメーカーは確認できませんでしたが、ペイステーションの設計が似ているので、カナダのメーカーだと思います。このようなシステムの技術的なハードルはそれほど高いとは思えません。しかし、このような分野では日本メーカーはなかなか入り込めないようです。

 ところで、私が住んでいる町からボストンまでは、通勤列車で1時間強かかります。この通勤列車には、自分の自転車の持ち込みが可能で(ラッシュ時を除く)、結構利用者を見かけます。また、バスでも、自転車を装荷できるような装置を装備している例が少なくありません。個人用のRV車やキャンピングカーに複数の自転車を積んでいることは極めて一般的です。長距離や大人数での移動には、列車や大型車を使い、旅行先での細かい移動には自転車で、ということのようです。

 車社会の先端を走っていて、エネルギー浪費大国のように理解されている米国の交通事情ですが、エコロジカルな自転車の利用でも進んでいる面が少なくありません。最近、日本でも大型のRV車が走っているのをよく見かけるようになりました。しかし自転車を積んでいるのを見かけることはほとんどありません。ソフト面、システム面での進歩が追いついていないように感じます。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.

166回(2016.7.31)

今週の話題

路線バスの車椅子用昇降装置

 米国で私が住んでいるマサチューセッツ州のHaverhillという町は、人口7万人足らずの市ですが、米国では中堅規模の位置付けになると思います。人口の規模で見れば、マサチューセッツ州の中で、5、6番目の大きさです。言い換えれば、大部分の町は人口の規模で数千にも届かないのですが、それでも市政と称しています。それだけ人口が希薄なわけで、“普通の生活”を営むには自家用車は必需品です。しかしながら、人口の何%かは車の運転ができないか、車を持つことができない人々がいるわけで、そのような人たちのために公共交通機関が整備されています。Haverhill市の場合、近隣の市をいくつかまたがってカバーするバスのサービスがあります。Haverhill市内には十本ほどの路線があり、昼間はそれぞれ1、2時間の間隔で運営されています。路線内は均一料金で、1ドル30セントです。62歳以上のシニアシチズンは半額になります。バス停のようなものは無く、路線の道端に立っていて手を上げて合図をすれば、止まってくれます。降りるときは、運転手さんに、降りたい場所を告げておけば、そこで止まってくれます。

 実は、私はHaverhill市に15年以上も住んでいて、この公共バスを使う機会がありませんでした。(大部分の市民は一生使うことがないでしょう。)ところが、最近ひょんなことから乗り合わせることになりました。あるクリニックで特殊な癌検診を受けることになったのですが、自分で車を運転してきてはいけないというのです。幸い、私の自宅からバス路線までは徒歩で2、3分の距離なので、この路線バスを使うことにしました。

 さて、拙宅の近くで首尾よくバスを捕まえることができ、大人の半額の65セントを支払って、席に着きました。支払いに際して、年齢を確認できるIDを見せろ、などと野暮なことは言いません。私の外見は、立派な老人なのです。あらかじめ乗っていた客は7、8人でしょうか、やはり年配者が多いようです。いくらも走らないうちに、大きな病院の正面入り口に止まりました。私は気が付かなかったのですが、入り口には電動車椅子に乗った、中年の女性が待っていたのです。運転手さんが一言アナウンスすると、他の客は一斉に立ち上がり、後部座席に移動してスペースを空けます。一方で運転手さんは自動昇降機を開いて、車椅子を待ちます。車椅子の女性は、慣れた様子で決められたスペースへ移動し、備え付けの装置を使って車椅子を固定します。運転手さんはそばまで来て確認し、昇降機を収納して、発車オーライです。この間、わずか2、3分のことでした。関わった人々全てが、当たり前のことのように整然と行動したことに感動しました。やがて、バスがダウンタウンに近づくと、とある養護施設の前で停車し、車椅子の女性は、自動昇降機を介して何事もなかったかのように降りて行きました。

 このことがあってから、バスに乗るたびに気を付けているのですが、パブリックであるかどうかに関わらず、自動昇降機が設備されているようです。おそらく法律か何かで義務付けられているのでしょう。しかし自動昇降機をバスに設備するには、1台あたり百万〜二百万円はかかるでしょう。バスの運賃収入だけで償却することは極めて難しいと考えられますので、何がしかの補助金が出ているのでしょう。一方、バスメーカーや昇降機メーカーにしてみると、障害者のためとはいえ、出血までしてサービスしているとは考えられません。大儲けまではできないかもしれませんが、それなりに、かなりの規模のビジネスになっていて、利益も出ているのではないかと考えられます。米国ではこのような障害者支援設備の技術は日進月歩です。メーカー間の競争も少なからずあります。

 一方、日本の障害者支援のための設備状況を考えてみると、残念ながらかなりの差があると言わざるをえません。私自身障害者に近い状況ですので感じるのですが、日本の社会環境は、障害者が健常者と同等に生活するには程遠い状況です。日本では、障害者対応というと、何か慈善事業で、寄付やボランティアに頼るのが当たり前であるかのように捉えられがちです。それは歪んだ見方であるように思います。

 日本の政治家は、景気刺激策というと、公共事業に金を回すことであるかのように理解している人々が少なくないようですが、現実には土建業者を儲けさせるだけです。政府や地方自治体の予算が、障害者支援設備に回されれば、設備メーカーの仕事量も確保できますし、障害者自身の活躍範囲も広がることになります。心ある政治家は、考えていただきたいと思います。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)

dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


165回(2016.7.17)

今週の話題

透明回路、伸縮する回路、異なる市場の反応

 皆さんに読んでいただいているこのDKNリサーチニュースレターは日本語ですが、実は英語バージョンも出ており、原則的に毎週交互に発行されています。以前は両方とも毎週発行していたのですが、私の体力をかなり消耗するので、現在の頻度に減らしました。ただし、英語版は日本語版を英訳しているわけではありません。内容はかなり違っています。日本語版は、読者の大部分が日本にいることを想定していて、海外の業界情報お伝えしています。一方、英語版では、主に日本の業界情報を海外の皆さんにお送りしています。日本語版は約1300名の方々に送付されますが、会社内や友人同士で回覧されることが多いようで、末端の読者は数千人に及ぶものと思われます。英語版は約800名の方々にお届けしていますが、一般の読者の他に、業界メディアにも配信されており、そのメディアがDKNリサーチニュースレターをコピーしてそのまま掲載することが多いので、世界中では1万人以上の業界人の方々が読んでいるものと推定されます。(なお、DKNリサーチでは、無断コピー、無断転載、無断翻訳を認めています。)

 このように、性格が異なる日本語版と英語版とでは読者からの反応は違っていて当然ですが、面白いことに、内容がほとんど同じ場合でも反応は微妙に違っているのです。典型的な例としてJPCAショーのように日本で開催される大規模の展示会に関するレポートのケースがあります。最近では、展示会が大型化しているのに対して、私の体力がついていかないので、全体をくまなく見て回るのは難しいところで、独断と偏見で注目技術や新製品を取り上げることになります。最近取り上げたものには、透明な回路と伸縮する回路があります。いずれも業界の主流からは外れる製品技術ですが、メインストリームに逼塞感があるだけに、かえって注目を浴びています。この数ヶ月、私もニュースレターで取り上げました。

 日本語版読者の反応は化学品メーカー、材料メーカーからのものが多いようで、調査会社、メディアからの問い合わせも少なくありません。質問の多くは、主要用途は何か、成長するのか、市場規模はどのくらいか、といった類のものが少なくありません。具体的なユーザー名を教えて欲しい、紹介して欲しいとの依頼もあります。話を聞いてみると、類似の製品を開発しているが、具体的な用途を見つけるに至っていない、という状況が浮かび上がってきます。このような場合、私の立場上、具体的なポテンシャルカスタマーの情報は出せないことが多く、実際のビジネスに結びつくことはほとんどありません。一方、英語版の読者からの反応はストレートで、メーカーを教えて欲しい、その製品はどこで手に入れられるか、値段はいくらかといった類のものです。用途については、詳しく教えてくれるか、逆に全くノーコメンントかに分かれてしまいます。秘密保持契約を結ぶと、教えてくれることもあります。どうもこれらの会社では、現在進行中の新製品の開発プロジェクトがあり、実用化のためのミッシングリンクの一つとして、透明回路や、伸縮性フレキシブル基板を求めていたということのようです。このような場合、新しいビジネスが成立する可能性は高いようです。仮に新しい技術や製品が、ユーザーの要求を100%満足させるものでなくても、メーカーの方がフレキシブルに対応できれば、実際のビジネスに結びつく確率は高いようです。

 このような日本市場と米国市場の違いは、TQCでいうマーケットインとプロダクトアウトの関係に近いと言えるかもしれません。日本がプロダクトアウトで、米国がマーケットインです。日本では、メディアが特定の技術にスポットライトを当てると、まるでファッションのように皆が群がってきます。メインストリームのバスに乗り遅れるなということのようです。しかしながら、結果は思わしくなく、具体的なビジネスが立ち上がることは少なく、やがて熱が冷めたかのように尻つぼみになってしまうことが少なくありません。米国もかつては同じようなアプローチでビッグビジネスを目指す大型企業が少なからずあったのですが、2001年のITバブル崩壊で流れが変わったように思います。特に中堅や小規模な企業が、ユニークなアイデアを基盤にして地道なアプローチをするケースが多いように思います。

 透明回路、伸縮性フレキシブル基板は、まだファッションと言えるほどの話題になっているとはいえない段階ですが、その兆しは出てきています。日本のメーカーに聞いてみると、市場からの反応は少なからずあるものの、具体的にビジネスに結びついたものはほとんどないようです。一方米国では、私が関係しているものだけでも、何件かのプロジェクトが実際の用途を想定して試作が進められています。すでに商品化され、量産が始まっているものもあります。

 そもそも成功とか失敗とかいう筋合いのものではないかもしれませんが、日本とアメリカの間では結果に大きな違いが出てきそうです。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)

dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


164回(2016.6.26)

今週の話題

トロント空港の動く歩道EXPRESS

 私は年に数回ボストンと成田の間を往復していますが、多くの場合、直行便ではなく、途中どこかで乗り継ぎになります。日本航空に直行便があるのですが、目玉が飛び出そうなほど高価なので、そうそう手が出ません。そうすると、どこで乗り継ぎをするかということになりますが、日本の多くの方々は、シカゴかニューヨーク、ワシントンDCあたりを使うのではないでしょうか。かつては私もそうだったのですが、最近私はエア・カナダでトロント経由というルートを結構使っています。カナダのトロントというと遠回りのような印象を持たれるかもしれません。ところが、そうではないのです。メルカトール図法で描かれた世界地図で、ボストンと成田を結ぶと、トロントはかなり外れた位置になります。しかし、地球儀上でボストンと成田を結んでやると(いわゆる大圏コースと呼ばれる最短コース)、トロントはその真下に位置していることがわかります。つまり、乗り継ぎ便の最短コースということになりますので、時間的にも短くなります。その割には、米国の主要なエアラインに比べて、エアチケットの価格は、低目になっているので、いきおいこのコースを使うことが多くなります。

 ところで、このトロントの空港についてですが(正式にはToronto Pearson International Airportという名前です。)、他の空港では見られない色々とユニークなことがあります。その一つが動く歩道です。とにかくトロント空港は巨大で、ターミナルビル内での移動距離は数百メートルにも及びます。これを旅行者が自分の足で歩き通すのは結構苦痛ですので、動く歩道が設置されています。動く歩道自体は成田空港や東京駅にもありますので、それほど珍しいものではありません。しかし、トロント空港の場合、同じ方向に2系統の動く歩道が並列して設置されているのです。一方は一般的な動く歩道と同じで、ノーマルです。もう一方が特殊で、EXPRESS(急行)と呼ばれており、ノーマルの3倍のスピードで走ります。ただ速いだけだったらさほど驚くほどのことはないのですが、この「高速動く歩道」は、乗り口では、ノーマルの動く歩道と同じ速度なのです。(利用者の安全性を考えたら当然のことですが)この「高速動く歩道」では、乗って間も無くすると、スピードが3倍になり、高速走行が続きます。そして、降り口が近くなると、再びスピードは遅くなり、利用者は安全に降りることができます。これは、「高速動く歩道」の金属製のユニットが、途中で伸び縮みすることを意味します。

 正直なところ、私が初めてこの「高速動く歩道」に出会った時は狼狽えてしまいました。何分にも、私はメカニズムが解らないものには触れないたちなのです。あいにく、「高速動く歩道」は乗り口に戻ってじっくり見ることは簡単ではありません。そこで、2回目に「高速動く歩道」に出会った時には、乗る前から注意力を集中して、その動きを観察することに努めました。その結果、「高速動く歩道」の基本的なメカニズムはだいたい理解することができたように思います。わかってみれば、あまりにも正統派的なアイデアで少々がっかりもしたのですが、一方で、装置の性格上極めて高い信頼性、安全性を確保しつつ、利用者に違和感を感じさせない設計に感心した次第です。「動く歩道」を高速にしたいという要求が出てきた時に、システムの設計者にどれだけ経験の蓄積があったかわかりませんが、少なくとも、幾つか越えなければならないハードルがあったはずです。それを認識しつつ、そのようなプロジェクトを受注し、実際に完成させたメーカーに敬意を表したいと思います。残念ながら、この「高速動く歩道」を設計、実用化させたメーカーは確認できていません。

 ここまで話を進めてきて、「高速動く歩道」の原理がどのようになっているのかをあかせないのは不本意ではありますが、言葉だけで説明するには難しいものがあります。皆さんも自分で考えてみてください。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)

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