2020.10.4
沼倉研史のアメリカ便り
                          昭48院化 沼倉 研史
 
米国の大統領選挙まで、1ヶ月となったところで、新たな問題が起き始めています。日本でも報道されているかと思いますが、トランプ大統領が、新型コロナウイルスに感染していたことがわかり、陸軍病院に入院することになりました。当初は、大したことはないとのアナウンスでしたが、発表の度に内容がかわり、メディアも疑心暗鬼になっています。
 今回はトランプ大統領だけでなく、側近や、国会議員など、ホワイトハウスの庭で行われた集会に参加した約10名に感染が確認され、クラスターが発生したものと考えられます。
 これから2、3日が山だとのことで、各メディアとも臨戦態勢です。

沼倉研史
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239回(2020.10.4)

今週の話題 

デジタル化の暴走

 デジタルとアナログとは対をなす言葉で、数学的には厳密な定義があります。しかしながら、最近ではデジタルという言葉が世の中にあふれ、デジタルといえば、高速の先端技術でスマートなイメージが出来上がっているようです。それに対してアナログといえば、遅くて不正確、時代遅れなどと、悪いイメージばかりです。コンピュータに弱い人は、自虐的に「自分はアナログ人間ですから、」と弁解したりします。もともと、デジタルにもアナログにも、そのような意味はないわけですが、現代の日本の社会では、全く新しい意味が一人歩きし始めています。それも、メディアの言葉遊びの範囲であれば、特に気に留めるほどのこともなかったのですが、政府がデジタル化のための省庁を創設する用意をしているとの、報道があり、事は無視できなくなりました。新しい省庁が作られるとなると、そのための法律が必要で、その影では権益とお金が動きだします。

 最初に思い出すのは、年金記録の消失問題です。政府は年金記録をデジタル化し、コンピュータ処理を行えるようにするために、何兆円も使いました。ハードだけでも2兆円といわれています。それでも、大きなトラブルがおきました。その対応だけでも、一兆円を越える人件費が使われたことでしょう。このようなデジタルシステムを作り上げた、ハードメーカーや、ソフトメーカーがペナルティーを取られたというような話は聞きません。

 もっと近い例では、マイナンバー制度があります。国民一人ひとりに番号を付けて、一元管理をしようというものです。このシステムを作りあげるためにも、何兆円もの予算が使われました。このデジタルシステムについても、多くの利点があると説明されていました。全てをデジタル管理するので、国民は一枚のカードを持つだけで良い、などと。ところが、個人のカードは増える一方です。私の場合で見れば、クレジットカードや診察券などを積み上げると、軽く5センチを越えるでしょう。とても持ち歩ける量ではありません。どのメーカーがハードやソフトを受注したか知りませんが、さぞかし美味しい仕事だったことでしょう。特に大きな問題は出ていないようですが、何せ使われていないのですから、トラブルが起きるはずもありません。ただ、膨大な金額の税金が使われただけです。

 最近流行っているのが、キャッシュレスの支払いです。支払いが簡単である、現金に触らないので清潔である、重い釣り銭を持たなくても済む、などと利点がたくさん挙げられていますが、一方で、支払いの不正が、見抜けにくい、お金の管理がルーズになってしまうなどの問題点がよく報告されるようになってきています。不正引き出し、不正送金のニュースなど枚挙に暇がありません。すべてがデジタル化のせいだとは言いませんが、アナログだったら起きなかった事件が少なくありません。

 先週は、東証のシステムが完全にダウンして、1日全く取引ができませんでした。銀行のATMや携帯電話会社の通信回線がダウンしたというニュースは毎週のように聞きます。これだけデジタルシステムのトラブルの事例が出てくるのは、氷山の一角で、実際には、その何倍かの事件が起きているのでしょう。ソフトメーカーに聞けば、事前に何重ものチェックを行なっているというに決まっています。事故が起きると、原因をよく調べて、二度と同じような事故が起きないように対処します、などとあまりにもアナログ的な説明です。

 そうはいっても、社会のデジタル化は進むでしょうし、トラブルも増えていくことでしょう。もう、自分で自己防衛するしかないのかもしれません。私はデジタル化という言葉が嫌いになりつつあります。

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マネージングディレクター 沼倉研史


238回(2020.9.20)

今週の話題 

コンピュータソフトトラブル

 コンピュータのトラブルについては、以前にも何度か書いたことがありますが、今回はかなり怒っております。私はもう四半世紀以上もアップルのユーザーで、最近は、アップルのノートブックPCを主に使ってきています。しかしながら、日常の業務に押し流されて、この何ヶ月か、データのバックアップをとることや、OSを新しいものにアップグレードすることを、怠っておりました。ところが、ある新しいソフトウエアをダウンロードするに際して、私のコンピュータのOSのバージョンは古くて対応できないことがわかりました。そこで、気は進まなかったのですが、最新のOSを入れることにしました。そして、これが大トラブルの始まりでした。

 何時間もかけて、新しいマックOSのインストールを終えて、さあ仕事を再開しようと、ファイルにしまってあった文書を取り出して、驚きました。文書のモードが全く変わってしまっているのです。似て非なるものに変わっていたといってよいでしょう。状況はまるで理解できません。まさにパニック状態です。とても、私のPC能力で、なんとかなるレベルのものではありません。もう真夜中でしたが、マックに強い友人を叩き起こし、調べてもらって分かったのは、新しいマックOSカタリーナが、マイクロソフトのオフィスの古いバージョンに対応していないことことです。マイクロソフトのオフィスといえば、我々が仕事でもっとも良く使うワード、エクセル、パワーポイントが含まれています。これらが使えないとなると、ウインドーズを使っているユーザーは、私がマックOSで作った文書を開けないか、読めないことになってしまいます。事態は深刻です。マックのエキスパートである友人がいうには、もっとも確実な対応策は、マイクロソフト・オフィスの新しいバージョンをインストールすることでした。値段は9ドル弱です。これくらいならば、大した費用ではないと判断し、切羽詰まっていた私は、急遽新しいマイクロソフト・オフィス365の購入を決め、ソフトを入れ替えることにしました。登録するために幾つかの個人情報を入れ、クレジットカードでの支払いを済ませると、やっとインストールです。(実は、この支払いも問題でした。)インストールを終え、なんとか仕事のための作業ができるようになったのは、翌日の夕方でした。

 作業を進めるにしたがって、まだいろいろな問題があることが分かってきました。まず出てきたのは、費用の問題です。ソフトの購入費が9ドル弱と理解したのは、まちがいで、実際にはこれは一月あたりの費用で、ネット上では、毎月この費用が私の銀行口座から自動引き去りをする契約となっていたのでした。これは、以前にはなかったことです。詐欺とまでいえないかもしれませんが、切羽詰まったユーザーに、長期の契約を迫るのは、あまり紳士的な商売とはいえないと思います。

 とりあえず今回のOS更新に関わるトラブルは収束しつつありますが、細かいところでは、まだ突発的に出ることがあり、尾を引きそうです。後になって、別のマックスペシャリストに聞いたところでは、この問題は、米国でも広く報告され、対応に追われているそうです。このスペシャリストによれば、別にマイクロソフト365の契約をしなくとも、対応できる方法があるのだそうですが、手続きは、かなり煩雑で、とても素人の手におえるものではないようです。

 今回のトラブルでは、いろいろと学ぶことが多かったのですが、素人のユーザーでは、対応が難しいところが問題です。私の場合、新たに発生する費用は、年間約1万円で、なんとか我慢できる範囲ですが、これ以上になると、公正取引委員会に訴えるべき案件になるかもしれません。


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237回(2020.8.30)

今週の話題 

コロナ禍のアメリカに出かけるとは!?

 新型コロナウイルスの感染は、いまだに拡大し続けており、特に米国の感染者数と死者の数は群を抜いて多く、人々の生活と経済に深刻な影響をもたらしています。そのような中、私は米国へ出かけることになりました。これは、私の持病の治療と、滞っている米国での仕事の問題を解消するためです。なにしろ、米国に4ヶ月以上行かなかったことは、この二十数年の間なかったのですから。

 まず、関係国の外国人の渡航許可状況を調べました。驚いたことに、米国は、日本人の渡航を制限していないのです。これは朗報でした。米国への渡航のハードルが低くなります。次はフライトの予約です。ネットで調べたところ、便数は大幅に減っているものの、日本からボストンに行くルートは何件かみつかりました。直行便はありません。値段が安いのは、いずれも他国の航空会社で、カナダのエア・カナダと、ドイツのルフトハンザが手の届く範囲の値段です。ただ、乗り継ぎ時間が長く、成田からボストンまで35時間もかかります。いろいろと考えた末に、エア・カナダを選ぶことにしました。何度も使った実績があり、eTA Canadaという渡航許可も得ていたからです。何かあった場合、対応が取りやすいと考えたわけです。カナダ国内の乗り継ぎは2回で、バンクーバーとモントリオールになります。代金をクレジットカードで支払い、予約が確定しました。これが、出発の2週間以上前で、一安心です。ところが、出発の2、3日前になって、モントリオールでの乗り継ぎを、トロントに変更するとの連絡が電子メールで入りました。このような変更はよくあることなので、さほど深刻には考えませんでした。ただ、ちょっといやな予感はありました。出発前日に、オンラインチェクインを試みましたが、うまくいきません。当日、空港で直接チェックインすることにしました。

 8月上旬の出発当日、念の為、成田空港にはフライトの5時間前に着くようにでかけました。ところが、チェックインカウンターが開くのは、フライトの3時間半前で、出鼻をくじかれます。ようやくカウンターが開き、チェックインが始まります。私は、障害者扱いなので、優先チェックインカウンターで、あまり待たずに受け付けてくれます。しかし、カウンターの女性は、しばらく端末で処置していましたが、発券できません。半時間以上も待たされたあげく、カウンターの女性がいうには、新型コロナウイルスの感染への対応のため、eTA Canadaだけではカナダに入国できなくなり、発券できなくなったというのです。しかるべき許可を取得するか、他の航空会社を利用してほしいというのです。しかし、いまさら、ネットのエージェントと交渉するにはどれだけ時間がかかるかわかりません。へたをすると、成田で一泊しなければなりません。費用もかさみます。私は、チェックインカウンターの責任者と交渉することにし、私はエア・カナダのマイレージメンバーであり、身障者でもあるので、なんとか対応してほしいと要請しました。マネージャーは、何本かの電話をした結果、なんとか他の航空会社の便を確保することを約束しました。やがて、ユナイテッド・エアで、座席に空きがあるので、確保したことを伝えられました。彼女は車椅子で、私をユナイテッド・エアのカウンターまで送り届け、発券されるまで、付き添ってくれました。発券は短時間で完了し、今度はユナイテッドの車椅子で、ゲートへ向かいます。セキュリティチェックや出国手続きは、障害者用の特別なルートを使うので、行列に並ぶ必要はありません。搭乗ゲートにはほとんど人影はなく、私が搭乗すると、ただちにドアが閉められます。どうも私の到着を待っていたようです。座席に着いて驚きました。座席のほとんどが、空いているのです。乗客は、1列に一人以下で、ソーシャルディスタンスは十分とれます。すべての乗客が、3席を確保することができ、ゆっくりと寝ることができるほどです。

 さて、座席に着いて、改めて搭乗券を確認して、まだ問題含みであることがわかりました。乗り継ぎは、ニュージャージー州のニューアーク空港で、乗り継ぎ時間は90分足らずです。この空港で、米国への入国手続きが行われるので、時間的にはあまり余裕がありません。到着が1日近く早くなるので、ボストンについてから、自宅への移動手段も変えなければなりません。その連絡をする時間的な余裕もありません。搭乗券に印刷されたフライトスケジュールを見ながら、対応策を考えました。

 フライトそのものは順調でした。私を待っていたために、若干出発が遅れましたが、追い風のため、ニューアークへの到着は半時間以上も早くなりました。フライト中のサービスは、ほぼ通常通りでした。ただ、フライトアテンンダントは全て男性で、ちょっと違和感がありました。ニューアーク空港では、ドアの外側に車椅子とヘルパーが待機しており、入国手続き、荷物のピックアップ、ターミナルビル間の移動、セキュリティチェックなどは、スムーズに済ませることができました。そこで起きたのが、携帯電話の通信障害です。電波が弱いのか、なかなか繋がりません。それでも、出発間際になって、ようやくボストンでピックアップしてくれるはずの友人にも連絡をとることができました。

 ニューアークからボストン行きの乗り継ぎ便は中型機でしたが、乗客は20人足らずで、これもガラ空き状態でありました。このフライトもスムーズで、予定より、20分近く早く到着しました。これでは、航空会社の採算が赤字になるのも、当然のことでしょう。待っていた車椅子のヘルパーに聞いたところでは、あまりにも利用者が少なく、仕事にならないとのことでした。ヘルパーは、私の荷物をピックアップしてくれると、友人落ち合う約束の場所まで送ってくれ、あとは無事に家にたどり着くことができました。

 結果オーライということで片付けられるかもしれませんが、やはり非常時ですので、何が起きるか予測できないこともあります。肉体的にはともかく、精神的にはストレスが溜まる旅行でありました。家にたどり着いてから何日間は何も手につかない状態でした。皆さんが北米方面に旅行するにあたっては、十分下調べを行い、突発事故がおきることを想定して、十分な準備を行うことをお勧めします。

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マネージングディレクター 沼倉研史


236回(2020.8.2)

今週の話題 

通気性のあるフレキシブル基板

 世界中に新型コロナウイルスの感染拡大する中で、その対応は長期戦になりつつあります。とりあえずはワクチンと治療薬の開発ですが、大手製薬会社の開発状況をにらみながら、各国が権益を確保しようと鍔迫り合いが激しくなっています。一方で、新しい医療機器の開発も急ピッチで進んでいます。

 医療機器は、大きく分けて、診断装置と治療装置がありますが、いずれも直接、間接的に人体に触れる可能性があります。そこで、医療デバイスの開発や設計にあたっては、ウエラブル・エレクトロニクスの考え方を参考にすることが有効であるとかんがえられます。

 そのような中で医療用デバイスには、これまでの一般的なエレクトロニクスデバイスとは、かなり異なる性能が求められることになります。そのひとつが、通気性です。特に大型のセンサーアレイモジュールなどは、人が発する汗がこもらないように通気性だけでなく、吸湿性、肌触り性などが要求されることがあります。また、ある程度の伸縮性も必要です。ところが、これまでの標準的なフレキシブル基板のベース材料といえば、ポリイミドやPETなどのプラスチックフィルムなどで、ウエラブルデバイスが必要とする特性は望むべくもありませんでした。これまで、エレクトロニクス用の絶縁材料といえば、吸湿性や熱膨張係数はできるだけ小さいことが良いとされ、通気性ななどはまったく考慮されていませんでした。また、導体材料として使われている銅箔も問題になります。ある程度の柔軟性はあるというものの、ウエラブル用途で必要な伸縮性となると、ほとんどお手上げ状態といってよいでしょう。

 さて、メディカル機器やヘルスケア用機器がウエラブルデバイスとして、実用化が進んできますと、プラスチックフィルムに代わる絶縁材料が求められるようになったわけですが、答は身近なところにありました。それは、布です。人類は、何千年という時間をかけて、実に多様な繊維、布地を開発実用化してきました。この中から、適当なものを選んで若干の改質を加えれば、なんとかなりそうです。ただし、一つの布地で、全ての用途を満足させるようなスーパー材料ということにはならないでしょう。用途ごとに、適当な布地を選んで使うことになります。

 問題は導体の材料です。少なくとも、通常の銅箔を使うことはできないでしょう。布のような不均質な素材を、銅箔のような均質な材料と均質に張り合わせることは難しいでしょうし、仮にラミネートができたとしても、エッチングのような湿式化学プロセスで処理することは困難といって良いでしょう。現実的な回路形成方法としては、厚膜印刷プロセスということになります。厚膜印刷プロセスはほぼドライなプロセスですし、回路パタンが若干荒くなることを我慢すれば、比較的容易に回路パタンを描くことができます。

 現実には、布を基材として、銀インクで回路を描いたようなフレキシブル基板が、診療装置のセンサーモジュールとして実用化されています。大きな絆創膏に回路を描いたようなイメージでしょうか。ベッドやソファーにかかる荷重分布を測定する圧力センサーアレイも同じようなアイデアが使われています。シーツや毛布に多数の圧力センサーを配置したようなモジュールで、若干の柔軟性、伸縮性、それに通気性が必要でした。人がベッドに寝たり、ソファーに座ったりすると、家具にかかった荷重の分布を測定することができ、しかも時間の経緯による変化を見ることができます。スクリーン印刷は、ベッドのような大きな基材にも一回で印刷することができます。これらのアイデアは、すでに実用化がすすみ、実際の商品に使われるようになっています。

 今後ウエラブル・エレクトロニクスの発展に伴い、布地のような通気性のある材料へ回路を直接形成できる厚膜印刷技術は、重要性が増していくことでしょう。

 

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235回(2020.7.19)

今週の話題

新型コロナウイルス感染拡大下のプリント基板産業

 2020年上期は、新型コロナウイルスの感染拡大に振り回された半年でした。製造業はほぼあらゆる業種が、直接的、間接的に影響を受けているように見えます。ただ、感染拡大がさまざまな形で、広がっているので、複雑になっているサプライチェーンへの影響はさまざまで、今後の市場の動向は読みにくくなっています。日本のプリント基板需給状態で見ると、単純に需要が減っている一方で、特定の品種の出荷が短期的にスポット的に需要増となっています。台湾、韓国、中国、ヴェトナムなどでの動きは複雑です。

 台湾のプリント基板産業は比較的安定した需給バランスが続いているようです。1月は、前年比でマイナス成長となったものの、2月の旧正月休暇による生産の落ち込みは例年並みで、前年同月比で、プラス成長レベルを維持しています。ただ、これまでのような成長の勢いはなく、年率で5%程度の成長率です。回復率という観点では、フレキシブル基板に比べて、硬質基板の回復の方が先行しているようで、フレキシブル基板の回復が、1ヶ月程度の遅れで追従している形になっています。年初からの出荷額の累計では、硬質基板が4.4%の成長、フレキシブル基板が2.2%の成長、全体では3.8%の成長という具合です。一時はアップルのiPhoneへの依存度が非常に高かった、台湾のフレキシブル基板産業ですが、少しずつ体質を変えてきているようです。今回の新型コロナウイルス感染への対応は見事なもので、ほぼ完璧にコロナウイルスの感染の封じ込めに成功しているようです。現在の台湾の入出国の管理は極めて厳しく、外国人の入国はほとんど認められないようです。しかし、国内の移動、物資の輸送は、ほぼ平常通りおこなわれており、プリント基板メーカーの製造、出荷業務は大過なく行われているとのことです。ちょっと気になるのは、プリント基板の主要原材料である銅張積層板の出荷が、前年比でマイナス成長が続いていることです。これは、基板メーカーが当面の需要について慎重になっていることの現れで、今年の下半期の需要が順風満帆というわけにはいかないようです。

 一方、日本のプリント基板産業は、今年の上半期に順調だったとはいいかねます。日本のプリント基板出荷額は、2、3、4月と連続して大きく増加しています。その増加の大部分は、硬質プリント基板、それもビルドアップ基板によるところが大きくなっています。ところが、5月には、もう息切れして、減少へと向かっています。フレキシブル基板に至っては、長期縮小傾向に歯止めがかからず、5月には、この2年間での最低を記録しました。特に両面多層回路の落ち込みは甚だしく、7ヶ月前のピーク時に比べて、出荷額は半減という悲惨な状況です。これは、大手メーカーの主要工場がいくつか閉鎖を余儀なくされる規模だといってよいでしょう。モジュール基板は相対的に安定しているといえる状況ですが、もともと日本メーカーの、世界のモジュール基板市場に占める割合は小さく、日本メーカーがリードして、市場を回復させることは期待できないでしょう。

 新型コロナウイルスの治療薬もワクチンも完成していない現状では、半年先に感染状況がどうなるかは、全く読めません。そのような中で、台湾と日本のプリント基板業界の対応を比べてみると、半年、1年後に大きな差となって現れてくることでしょう。

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マネージングディレクター 沼倉研史


234回(2020.6.28)

今週の話題

モノコック印刷回路(続き)

 前回モノコック印刷回路についてご紹介しましたところ、たくさんの方々から、様々なお問い合わせをいただき、驚いております。それだけ、このような三次元立体配線技術を必要とする需要が潜在的にあったということがいえるでしょう。

 前回も簡単に触れましたが、四半世紀も前の1990年代始めには、MID(Molded Interconnect Device)という配線技術が提案され、それを実現するために多くの技術開発努力がなされてきました。MID技術の基本概念は、モールド成形されたプラスチック部品や筐体の表面に、直接電子回路を形成して、コストの大きなフレキシブル基板や、その組立コストを削減しようとするものです。

残念ながら、これらの試みは成功したとは、言いかねるものでした。ほとんどの試みは、モールド成形したプラスチック部品の表面に、無電解メッキとフォトリソグラフィ、あるいはインクジェット印刷技術などを組み合わせて、回路を形成しようというもので、設計の自由度が小さく、適用できる範囲に限界がありました。また、導体の密着信頼性も問題でした。また、通常のプリント基板に比べて、試作にかかるコストや時間が大きいことも、実用上の障害になりました。

 一方、今回のモノコック印刷回路では、回路形成を平坦なベース材料の上で、スクリーン印刷で行います。このため、片面だけでなく、両面(2層)スルーホール回路、多層回路も形成することができます。通常のプリント基板の設計や製作と同じ感覚で処理できます。ベースの片側だけでなく、両側に回路を描き、その間をビアホールで繋ぐこともできます。この後、金型に入れた上で、加熱加圧して立体成形します。これには、パッケージ用のブロー成形などの技術が、ほとんど手を加えることなく使うことができます。

 もちろん、全く問題がないわけではありません。まず、厚膜印刷回路ですから、銅箔をエッチング加工した回路に比べて、導体抵抗はかなり大きくなります。熱成形では、コーナー部や、深絞り部にそれなりに機械的な歪みが生じますから、そのストレスを最小限に抑えられるような、設計上の配慮が必要です。現在、もコック回路用の銀インクが実用化されていますが、それを厚さ0.1㎜のPETシートの上に印刷するのであれば、コーナー部の曲率は2㎜以上、深絞りの段差は10㎜以内といった具合です。

 基本的に厚膜印刷回路ですから、通常のはんだ付けプロセスは適用できませんが、導電性接着剤を使ったチップ部品の表面実装プロセスが確立されています。プリント基板用のカードエッジコネクタ、フレキシブル基板用のFFCコネクタなどは、挿入部の厚さを合わせれば、大きな変更なしで使えます。(端子部にはカーボンを印刷するのが安全設計です。)新しい発想で、より適切な接続を試みるのも良いかと思います。

 モノコック印刷回路は、全体で見ると、画期的なものですが、個々のプロセスに分けてみると、さほど目新しいものはありません。そういう意味では、プリント基板や厚膜回路の経験があれば、だれでもできることになります。(もちろん、細かいところには、それなりにノウハウが必要です。)

 まずは、立体回路としての、モノコック印刷回路の基本を理解していただくために、オンラインセミナーを近日中に開催すべく、準備をしております。はっきりと日時が決まりましたら、改めてご連絡させていただきます。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


233回(2020.6.7)

今週の話題

モノコック印刷回路

 モノコック構造とは、自動車の設計用語で、従来の自動車の多くが、機械的な荷重を担うフレームと、外装であるボディーが別々に作られていたのに対して、両者を一体化させて設計製作されるものです。モノコック構造は、フレームを別に用意する場合に比べて、設計が難しいなどの問題はありますが、それを上回る多くのメリットがあるために、現在では一般商用車の構造設計の主流になっています。最近では、航空機や住宅の構造設計においても、同様の考え方が取り入れられています。ちなみに、モノコック(Monocoque)とはフランス語で、単一の船体、あるいは殻という意味になります。

 一方、多くの電子機器では、筐体と電気配線が別々に作られ、最終的に組立工程で一体化することになります。最近のモバイル機器では、配線のために許されるスペースがどんどん小さくなり、設計者は薄いフレキシブル基板を使わざるを得なくなっています。それでも、配線のためのスペースがゼロになるわけではありません。それが、機器のコストアップの大きな要因となっていることは、否定できない事実です。私は、これまで40年近くも、フレキシブル基板の設計、開発に関わってきましたが、最近になって、電子機器の配線にモノコック構造のアイデアを取り入れることにより、フレキシブル基板とそのためのスペースを大幅に削減できることに気がつきました。

 基本的な考え方はそれほど難しいものではありません。まず筐体となるプラスチックシート(熱可塑性樹脂が望ましい。)の上に、厚膜印刷法により、電子回路を描きます。片面回路だけでなく、両面ビアホール回路も可能です。次いで、回路全体を温めて柔くし、金型に入れて加圧し、熱成形します。これだけで、電子回路を内蔵した、3次元立体筐体が完成します。フレキシブル基板はもう必要ありません。電気配線は、完全に筐体の中に含まれることになり、そのためのスペース増加はわずか(0〜20ミクロン)なもので済みます。設計にもよりますが、組立も簡単になります。

 実は、このアイデアは、全く新しいものではありません。もう30年近くも昔のことになりますが、当時注目されていた三次元モールド回路を実現するための、一つのプロセス技術とし考案されました。残念ながら、当時の厚膜印刷技術は限られた能力しかなく、必要とするインク材料もなかったので、実用的な量産部品にまでにたどり着くことはありませんでした。しかしながら、この30年間でのスクリーン印刷技術の進展はめざましく、そこで使える導体インク、絶縁インクの性能も飛躍的に向上しました。それに、精密な熱成形技術の実現もあり、実用的な三次元立体印刷回路ができるようになりました。私たちは、このような複合技術で作られる印刷回路を、自動車の複合構造にちなんで、モノコック印刷回路と呼んでいます。添付した写真は、熱成形されたタッチスイッチ回路モジュールを、実用例として示しています。





 モノコック回路は、硬質基板とも、フレキシブル基板ともいえず、新しいカテゴリーが必要になるかもしれません。応用可能な用途はたくさん考えられますが、まだ、実施例が少なく、デザインガイドなどが整備されるまでには、しばらく時間がかかるかもしれません。応用できる範囲も、まだ明確ではありませんが、今後実施例が増えるにしたがって、新しい使い方が出てくるのではないかと思います。それには、回路加工メーカー、機器メーカー、材料メーカーの緊密な協力が必要です。皆様のご参加をお待ちしております。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


232回(2020.5.17)

今週の話題

ウエラブルデバイスで新型コロナウイルス の早期検出を

 世界的にみれば、新型コロナウイルスの感染は依然として拡大が続いており、なかなか収まりそうにありません。世界各国で、感染を抑え込む技術の開発を行っていますが、未だに確実な方法は見出されておりません。コロナウイルスの発症を抑えるワクチンの実用化は早くても来年になってしまいそうですし、特効薬として使えそうな薬品も試行錯誤しているような状況で、治療に確実な効果があるという薬品はまだ見つかっていません。現状では、患者の自然治癒力にたよるだけで、人工呼吸器などは、その補助をしているにすぎません。なんとも心持たない状況といってよいでしょう。

 診断の方は、ようやくPCR法による検査体制が整いつつありますが、検査に時間がかかることと、診断の信頼性が高くないことが難点となっています。一旦陰性の診断が出されても、その後の感染については、何も保証していないのです。現在、世界中で確実な検査方法を確立すべく、多くの研究機関、医療機関が、簡単で信頼性の高い技術を開発する努力を続けていますが、完成にはまだ時間がかかりそうです。コロナウイルス に直接反応するようなセンサーができれば、話は簡単なのですが、現実はそう都合よくは進んでくれないようです。まずは、コロナウイルスの活動メカニズムをよく理解することが必要です。

 ところで、全く異なる診断方法を考えてみました。これは、既存の診断技術にI技術を組み合わせるものです。すでにスポーツ医学などでは、アスリートの心臓の動きなどを検出して、無線でそのデータを連続的に集約して身体能力の解析に使われています。また、最近では、家庭でのヘルスケア用に、電子体温計、酸素濃度計、血圧計などが市販されています。これらの機器は医者の処方箋がなくても、一般市民がドラッグストアで購入することができます。これらのデバイスをそのまま使うことはできませんが、センサーデバイスとして、体の適当な部位に貼り付け、ブルートゥースチップを組み合わせ、計測したデータを、スマートウォッチのようなウエラブルデバイスに集約させることはそれほど難しいものではないでしょう。集められたデータはAI技術を駆使して解析すれば、肺炎などの重篤な病気の初期症状を検出することができるでしょう。この診断装置は、直接病原菌などを検出するものではありません。あくまで、症状から疾患を初期に検出するものです。検出しても、それでその疾患が確定するわけではなく、最終的にはPCRテストなどで判断することになります。それでも、このような診断装置には大きな意義があります。計測は継続的に行われていますので、安心感があります。一度陰性の結果がでても、引き続きデバイスを装着することにより、様子を観察することができます。さらに、AI技術には学習効果があり、実績が蓄積されることにより、診断精度が向上することが期待できます。また。このようなシステムはクラスターが発生しそうな、職場の従業員のモニタリングにも活用することができます。

 今のところ、このような診断システムは、机上検討のレベルで、具体的に実用化に向けて開発が進められているわけではありません。ただ、ここで使用を想定している要素技術は、確立されたものばかりですので、実現性は高いと思います。実は私が知らないだけで、どこかで実用化のプロジェクトが進められているかもしれません。つい2、3日前の米国の医学関係のニュースレターに、同じようなアイデアが紹介されていました。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


231回(2020.4.26)

今週の話題

台湾の新型コロナウイルス感染対策

 新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっています。もっとも感染の深刻な米国での感染者は100万人に近づいており、死者の数は5万人に迫っています。日本ではほとんど報道されていませんので、あまり知られていないかと思いますが、拙宅があるマサチューセッツ州では、この2、3週間で急激に感染が広がり、感染者数では、ニューヨーク州、ニュージャージー州に次いで3位となっています。州内の感染者は、5万人を越え、死者は2700人に達しています。このため、州政府は非常事態宣言を出し、ほとんどの会社は企業活動を停止しています。生活のために必要な食料品店やドラッグストアは営業を続けていますが、客の入場を大きく制限しているようです。今のところ、感染が収束する目処はほとんど見えておらず、市民のフラストレーションはたまる一方です。

 一方で、感染の広がりをほぼ封じ込めたと思われる国があります。日本の隣国台湾です。台湾での感染者数は約400人で、死者は6人だけです。(情報ソースにより若干の違いがあります。)もう、1ヶ月以上新規の感染者はでていないとのことです。市民の生活環境は、ほぼ平常通りで、多くの会社は通常の業務を続けているとのことです。ただ、海外への渡航はかなり厳しく規制されていて、海外からの入国はほぼできない状況のようです。

 そのような環境の中で、3月の台湾プリント基板産業は大きく反発しています。

 昨年の台湾プリント基板業界は不振が続いていました。通期では、かろうじてプラス成長を果たしたものの、第4四半期の10月をピークとして、毎月大幅下落を続けてきました。2月には、旧正月休暇の季節要因もあって、出荷額は底に達しました。ただ、新型コロナウイルス感染の影響は、それほど出ていないようにみえます。そして3月になると大きく反発することになりました。

 通常でも、3月は旧正月休暇の後になるので、プリント基板の生産は大きく上昇します。しかしながら、今年の反発は、季節要因からくるレベルを大幅に上回っています。3月の出荷額を、前年同月比で比べてみると、やく12.5%の増加です。これは、硬質基板でも、フレキシブル基板でも大きな差はありません。ただし、前月比では、硬質基板が27.2%の増加であるのに対して、フレキシブル基板は162.7%の増加という、けたたましい数値になっています。これは、フレキシブル基板メーカー最大手のZD Technology社が、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、中国での生産を一斉に休止したものの、3月には生産を復活させたことが大きく影響しているものと考えられます。同社の2月の出荷額は、ピーク時に比べて5分の1近くまで下落し、台湾の基板メーカーとして、4位まで順位を落としましたが、3月にはトップに返り咲いています。

 台湾のプリント基板業界の動きでもうひとつ気になることがあります。3月になって、銅張積層板などの原材料の調達量が増えていることです。また、設備投資の額も増えています。台湾の部材メーカーは、エンドユーザーとのコミュニケーションが非常によく、常に確度の高い需要予測を持っているといわれます。さて、今年の場合はどのような方向に動いていくのか、しばらくはマーケットの動きから目が離せません。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


230回(2020.4.5)

今週の話題

新型コロナウイルス感染の前と後で

 新型コロナウイルスの感染が中国の武漢から報告され始めたのは、1月下旬の旧正月休暇が始まった頃だと記憶していますが、2月は中国で急激に感染が広がり、3月になるとヨーロッパで急拡大します。3月後半になると、米国での感染が急拡大し、感染者の数では、一気にトップとなります。米国では現在でも拡大が続いています。

 私は、3月下旬に、米国から日本に戻る予定で、飛行機のチケットを取っていたのですが、3月中旬になると、風雲急を告げるようになってきました。状況は毎日悪化していきます。ニューヨーク州の患者の数は倍々で増え続けています。マサチューセッツ州は、だいぶ少ないとはいえ、3月20日ごろになると、増加率は一気に高まります。連邦政府や州政府は、毎日のように長時間のブリーフィングを行い、現状の説明と、一般市民への要請を行うのですが、状況が刻々変化するので、現在何が正しいのか、よくわかりません。一応、当初の予定通りに日本にもどることにして準備を始めましたが、確認したところ、私の自宅から、ボストンの空港まで行く手立てがないことがわかりました。高速バスも、鉄道も、タクシーも使えそうもないのです。しかも、仮に日本にたどり着いたとしても、素直に入国させてもらえる保証はありません。あちらこちらと電話をかけまくり、ようやくボストンの友人が空港まで、送り届けてくれることになりました。

 フライトはボストン発午前6:30と、朝早い便だったので、家を出たのは、午前2時半、1時間ほどで、ボストンローガン空港にたどり着きました。すでに、チェックインカウンターは開いていましたが、人影はまばらです。ところが、隣のカウンターで搭乗手続きをしている人を見てギョッとしました。頭のてっぺんから、足の先まで防護服で身をかため、顔面には大きなゴーグルをしています。なんとも異様な格好です。何かもめているようでしたが、こちらには、そのようなことに関わっている余裕はありません。車椅子をたのんで、早々にセキュリティチェックに向かいました。

 フライトは日本への直行便ではなく、テキサスのダラスで乗り継ぎです。ボストン/ダラスの飛行機は、ボーイング737で、座席数は200以上あります。これに優先搭乗してみると、機内はガラガラ、ちゃんと数えてみましたが、乗客はわずかに10名。おかげで、他の乗客との距離を十分過ぎるほどに取ることができました。あとで、聞いてみたら、米国の国内便は、いずれもこのような状況だそうです。一方、ダラス/成田は、ワイドボディのボーイング777、座席数は400以上あるのでしょうが、これがほとんど満席なのです。乗客の大半は日本人で、しかも。若い女性なのです。ちょっと見た感じでは、ビジネス関係ではなく、ツアー客のようです。今置かれている状況を考えると、複雑な思いです。

 成田に着いてからも、かなりの曲折を予想していたのですが、ちょっとしたインタビューと質問票があっただけで、解放となりました。ただし、公共の交通機関を使わないこと、少なくとも2週間は表に出ないように念を押されました。

 このように、コロナウイルス騒ぎで、右往左往している間に、エレクトロニクス産業の方も大きく変化してきています。コロナウイルスのパンデミックが始まる前に、世界のスマートフォン出荷は4年連続での減少がはっきりしています。世界の半導体製品の出荷も、大きくブレーキがかかっています。世界の民生用エレクトロニクス産業のバロメータとなっている、台湾のプリント基板産業の出荷の低迷が続いています。通常でも、1、2月の出荷は減少するのですが、前年同月比でもマイナス成長の幅が大きくなっています。特にフレキシブル基板の不振が目立っています。日本のプリント基板出荷も不調で、前年同期比での出荷がマイナス成長となっています。

 すでに、マイナス成長がはっきりしているところに、コロナウイルスのパンデミックが起きたわけですから、今後、すべての産業が減速することになるでしょう。なにしろ、コロナウイルスの感染メカニズムは、いまだにわかっておらず、ワクチンなどの治療方法の確立にも目処が立っていない現状では、明日のこともわかりません。このところ、市場調査会社が、かなり悲観的な予測を出してきていますが、それとても、確たる根拠があるとは思えません。とにかく、3日先のことがわからない現状では、これといった対応策をこうじることもできません。会社勤めをする者にとっても、経営者にとっても大変な状況になっていくことは間違いありません。おそらく起死回生のホームランのような回答はないのでしょう。とりあえず、今日、明日を、なんとか乗り切っていくしかないのかもしれません。ご成功をお祈りしております。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


229回(2020.3.15)

今週の話題

米国でも広がる新型コロナウイルス感染の影響

 3月に入って新型コロナウイルスの感染は、中国から世界中に広がっています。

米国では、連邦政府と州政府が微妙に異なる方針や施策を出していますので、それによる混乱が少なからず出ています。当地米国マサチューセッツ州でも、この2、3週間で、生活面で様々な影響が出てきています。小中高校、大学はほとんど休校になり、子供達は平日の昼間にも関わらず、家の外で遊んでいます。美術館、博物館、図書館のような公共施設もサービスを停止しています。地下鉄や鉄道のような公共の交通機関は、平常通り動いています。テレビでは、念入りな消毒が行われているとのニュースが出ていました。

 多くのイベントが予定をキャンセルされています。250人以上の人が集まる行事は禁止だそうです。100年以上の歴史を持つ、伝統のボストンマラソンも、とりあえず9月実施と延期になりました。すでにオープン戦が始まっていたメージャーリーグベースボールも、レギュラーシーズンは開幕も大幅延期です。シーズン終盤入っていた、バスケットボールとアイスホッケーも、突如中断となり、今後どうなるかわかりません。

 一般の企業活動は、ほぼ平常通り行われているようです。官公庁の窓口業務も平常通りです。銀行も開いています。ただ、客の数は少ないようです。ちょうど、税務申告の季節なので、先週2回ほど、ダウンタウンにある税理士事務所を訪問しましたが、普段と変わった様子はありませんでした。ちょっと見た目には、ダウンタウンの様子は、普段とはあまり変わりません。いつもに比べて、歩道を歩く人数は、いくらか少ないように感じますが、マスクをしている人はほとんどいませんので、外目にはコロナウイルスの感染をうかがわせるものはありません。車通りもいつもとかわりません。

 私も、この2週間は自宅にこもっていましたので、市中のことはよくわかりませんが、ショッピングセンターの駐車場はかなり車で埋まっています。店からは、カートに食料品や生活用品を満載した人々が次々と出てきます。平日の午前中にはあまりないことです。一部の市民は買いだめに走っているようで、いくつかの商品がスーパーマーケットの陳列棚から消えてしまいました。目に付くのは、ボトル入りの飲料水、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、衛生用品、缶詰などの保存食品といったところでしょうか。ただ、人々がパニックにおちっている様子はありません。売り切れになった商品も次々と補充されているからでしょうか。店売りの新聞も減ったり無くなったりしています。普段私が読んでいるボストングローブも売り切れです。普段は新聞など読まない人々が、確かな情報を得ようとして買っているのでしょう。

(写真上:売り切りが目立つ飲料水の棚、奥の方に補充の品物が到着したところ。)

 今回の感染騒ぎでかなり様子が変わったのがドラッグストアでしょう。最近の米国のドラッグストアでは。家庭用の多くの電子機器が販売されていますが、今回の感染騒ぎで一部の商品が売り切れ状態で、供給が全く追いつかないとのことです。代表的なものとしては、デジタル体温計、血液中酸素センサー、血圧計などがあります。これらの製品は画期的なものとはいえませんが。個人的な健康管理の意識が高まり、需要が急増しているものと考えられます。

 このところ、新型コロナウイルス感染騒ぎで、世界中の株式市場が激しく上下していますが、メディカル関連の企業の株価は比較的安定しているようです。具体的には、医薬品、ヘルスケア機器、衛生用品、消毒剤、洗剤などのメーカーになります。世界的な株安状態の中で、何か儲かるネタはないかと探している投資家の皆様の参考まで。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.
228回(2020.2.23)

今週の話題

新型コロナウイルス感染の影響

 新型コロナウイルスの感染が日本でも広がっています。初期においては、感染者や死亡者が中国武漢近辺に限られていましたが、この2週間ほどで、日本での感染者の数が一気に増え、死者も4名報告されています。これまでの感染者の大部分は、横浜に寄港した大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客、乗組員で、日本政府は、感染を限定される範囲に封じ込めることができると考えていたようです。しかしながら、この数日で状況は急速に悪化しています。検査をして陰性を確認してクルーザーから下船した乗船客が、自宅に戻ってから発症するような事例が出ています。また、感染ルートがはっきりしない感染者が毎日各地で報告されています。つまり、検査の信頼性が問われているわけです。今のところ、この先1週間どうなるかわからないような状況です。

 韓国は、この数日で集団感染が広がっています。毎日新たな感染者が百人単位で増えており、死者も7人となっています。当局は、この数日がヤマだといっていますが、それほど根拠があるとも思えません。おそらく想定外の感染拡大にパニック状態で、確実な対処ができていないというのが実情でしょう。

 中国での新たな感染者の数は、1日千人を下回るようになり、政府の当局者は、感染拡大を制御することに成功したかのような言い方をしています。しかしながら、現在でも毎日百人前後の死者が出ているようで、とても収まりつつあるというような状況ではありません。

 感染の拡大に伴い、日本の製造業、サプライチェーンへの影響が深刻になっています。幸か不幸か、今回のコロナウイルスの騒ぎが始まった時期と中国の春節の休みが重なったために、初期の段階では、経済や生活への影響があまり顕在化しませんでした。中国政府の初動も遅れてしまいました。しかし、1千万都市の武漢が封鎖されるにおよんで、事態が深刻になっていることを思い知らされることになりました。現在では、多くの日本の自動車メーカー、電子機器メーカーが、中国で組立や部品調達を行なっており、サプライチェーンは複雑に絡み合っています。そのほんの一部でも、機能不全となると、製品はできないことになります。春節の休みから1ヶ月が経過し、従業員は工場に戻りつつあるようですが、通常の稼動状態を回復するには、少なくとも2、3ヶ月はかかることになるでしょう。一方で、このところヴェトナムのメーカーが超繁忙状態になっているとの情報があります。中国メーカーからの調達を他国のメーカーへ移転する動きが加速しているようです。そのような観点では、ヴェトナムはもっとも頼りになる国かもしれません。

 このような状況から、業界メディアは、今後エレクトロニクス業界が低迷することを予想しています。ところが、エレクトロニクス業界はすでにブレーキがかかっているといってもよい状況なのです。世界の半導体出荷は2018年年末から、2019年の第1四半期にかけて大きく下落し、第2四半期からはなんとか回復に向かいます。しかし、第4四半期には失速気味になり、年末には再び減少に向かっています。特に中国での下落が目立っています。台湾のプリント基板出荷も縮小傾向に向かっています。10月をピークにして、3ヶ月連続での大幅減少です。この後はコロナウイルス感染の影響が、大きく出てくることでしょう。今後、台湾のプリント基板出荷はさらに減少が続き、コロナウイルスの感染の結果とされることになるでしょうが、実際にはそれ以前に市場の縮小は始まっていたのです。これは民生用エレクトロニクス業界に、根源的に潜在する問題に起因しているといえます。一方、コロナウイルスの問題は、予測困難な自然災害のようなものです。現実的な問題として、明日のことでさえ予断を許さない状況です。企業の経営者にとっては、先が見えないところで、厳しい決断がせまられることになります。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


227回(2020.2.9)

今週の話題

インターネプコン 2020

 この2、3年、持病の具合が思わしくなかったので、展示会の視察は控えておりました。しかし、米国での養生が効いたのか、いくらか良くなってきましたので、1月15日から3日間東京ビッグサイトで開催されたインターネプコンに出かけることにしました。

 以前からインターネプコンは巨大化が進み、3日間全部かけても、見て回るのは困難になっていました。今年は、出展社も来場者もさらに増え、収拾がつかなくなっているようです。特に今年は東京オリンピック、パラリンピックのために、いつもの東ホールが使えなくなり、会場は、西ホール、南ホール、青梅ホールに分散させられ、非常に分かりにくくなっています。ブースの配置がよく分からず、見たい分野やメーカーを探し出すのは容易ではありません。私が会場にいられたのは4時間ほどでしたが、見たいと思っていたプリント基板関連の分野の3分の一も見ることができなかったと思います。



 そのようなわけで、展示ブースのほんの一部しか見ていませんので、全体のレビューなどできませんが、いくつか気になったトピックスをご紹介したいと思います。

 まず、目についたのは、セミアディティブ法による超微細回路の形成技術です。これは、プリント基板メーカーによるものではなく、JCUや奥野製薬などの化学品メーカーが、1〜2ミクロンの微細回路のサンプルを展示しておりました。残念ながら、これらのサンプルはチャンピオンデータで、今のところ実用性は、いまひとつだと思います。今後微細パタン用の接合技術や設計技術が確立されて実用化が進むものと考えられます。

 回路メーカーの共通トピックスとして挙げられるのは、5G対応の技術でしょう。ただ、いずれの回路メーカーも、5Gが目指す基板の構成はいまひとつ明確になっていないようで、各メーカーとも手探り状態のようです。強いて挙げれば、高周波領域での損失の小さい材料の選択ですが、まだ、特定の材料にしぼるにはいたってはいないようです。

 装置メーカーによる展示はあまりありませんでしたが、かつての瀬戸技研が、SETO Engineeringとして、復活しておりました。日本のプリント基板業界の地盤沈下に伴い、多くの製造装置メーカーが事業の縮小、廃業に追い込まれる中で、このような復活は心強いものがあります。

 今年の展示会で目立ったのは、中国メーカーの多さです。ディーラーを含めれば、10社以上がブースを構えておりました。これらのメーカーは、いずれも硬質基板とフレキシブル基板、さらには多層リジッド・フレックスも扱い製品として展示しています。ただ、展示されている製品サンプルをよく見てみると、その品質はいまひとつで、日本メーカーのレベルに追いつくには、もうしばらくかかるでしょう。ただ、そのコスト競争力を考慮すれば、それほど先のことではないでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


226回(2020.1.19)

今週の話題

素直に回復に向かわない世界のエレクトロニクス産業

 歳が改まり、メディアでは、景気の回復を期待する特集が目立ちます。市場は穏やかながら上昇傾向にあるとのことで、楽観的な予測が目立ちます。株式市場は最高値の更新が続いています。米中の貿易交渉が第一段階の合意に達したとの報道が流れると、株式相場は活況をていしています。

 しかしながら、エレクトロニクス業界の実情はかなりずれているといってよいでしょう。現代の民生エレクトロニクス市場を牽引しているのは、言わずと知れたスマートフォンですが、世界の出荷台数はすでに3年以上減少が続いており、近い将来に回復に向かうような動きはありません。また、スマートフォンの落ち込みを埋め合わせるような、新しいコンセプトの新技術や製品は見当たりません。業界やメディアは5Gを次世代の牽引技術として持ち上げていますが、具体的なビジネスとしてはなかなか先が見えてきません。

 実際の市場の動きを分析してみると、厳しい実情が見えてきます。世界の半導体市場は、一昨年の末に急落し、半年間低迷が続きました。添付したグラフが示していますように、昨年も下半期になるとようやく回復に向かいます。

 当初は世界一斉に出荷が増加しましたので、一気に回復に向かうかとの期待が持たれますが、このところ失速気味になっています。米国はまだ出荷が増えていますが、勢いはなくなっています。中国やその他のアジア諸国は、11月に至ってほとんど横ばいか、減少となっています。今後改めて増加に向かうのか、それとも再び減少するのかはわかりませんが、少なくとも素直に回復に向かうとも思えません。

 民生エレクトロニクス業界の先行指標となる、台湾プリント基板業界の動向もあまり思わしくありません。添付したグラフは、昨年末までの出荷状況を示したものですが、一昨年ほどではないものの、大きく下落しています。12月の出荷額は、前月比では8.2%の減少ですが、前年同月比では15.7%の増加となっています。結果として、2019年通期の出荷額は、2018年に比べて1.5%のプラス成長となります。大きく下落した一昨年末との比較ですから、プラス成長といっても、とても回復傾向にあると言えるほどのものではありません。





 台湾のプリント基板メーカーは、セットメーカーやEMSメーカーと密接なコミュニケーションを保っており、精度の高い需要予測を得ています。その基板メーカーが、製造能力を増強するための設備投資には慎重になっており、銅張積層板など原料の調達も控えめにしているようです。また、各種電子部品市場の動きも活況といえるほどのものではありません。

 これらのデータから推定してみますと、世界の民生エレクトロニクス市場が本格的に回復に向かうには、まだしばらく時間がかかりそうです。

 これに比べると、日本のプリント基板メーカーの状況ははるかに悪く、脆弱な体質にあるといえます。早急に然るべき対策をこうじないと、最悪の事態も想定しなければならない状況です。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
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225回(2019.12.22)

今週の話題

体制が上がらない台湾プリント基板業界(続き)

 前回、10月の台湾のプリント基板業界の出荷があまり思わしくない状況にあることを紹介いたしました。先週になって11月のデータが出てきましたが、その数値はさらに悪化してきています。11月の台湾の上場基板メーカーの出荷額合計は、613.4億台湾ドルで、前月から5.6%減少となっています。前年同月比では、0.3%の減少になります。ただし、品種による違いは小さくありません。硬質基板は、前月比2.7%の減少でしたが、前年同月比では2.6%の増加となっています。月ベースの動きでは、8、9、10月と高いレベルで推移していたものが、11月になっていくらか減少に傾向が出てきたというところです。

 これに対して、フレキシブル基板の11月の出荷額は、前月比で11.2%の二桁減少で、前年同月比でも5.9%のマイナス成長になっています。つまり、硬質基板がほぼ前年並みか、若干プラスになっているのに対して、フレキシブル基板は、6月から直線的に伸びていたものが、10月をピークにして、鋭角的に減少に向かっています。(添付グラフ参照)ピーク値はほぼ前年並みですが、平均値としては、地盤沈下しています。


 いいかえると、例年に比べて出荷のピークは、半月から1月早くなり、全体のレベルが下がっていることになります。昨年は12月に大きく下げたわけですが、今年がどうなるかは、極めて不透明です。昨年は、クリスマス商戦シーズン途中でアップル社が生産計画を下方修正し、サプライチェーンに大きな混乱をきたしました。これに懲りた各メーカーはそれなりに対策をこうじているものと考えられますが、それで対応できる範囲で収まるかどうかは、なんともいえません。ある報道によれば、11月における中国のiPhoneの出荷は、35%以上減少したとのことで、その影響が懸念されます。

 一般に、台湾の基板メーカーは、EMSメーカーや機器メーカーと密接なコミュニケーションを持っていて、精度の高い需要予測を作っていて、材料の調達や設備投資には慎重です。このところ、フレキシブル基板用銅張積層板の出荷は、前年同月比で二桁のマイナス成長が続いています。また、生産能力を増やすための設備投資には消極的になっています。つまり、台湾のフレキシブル基板メーカーは、今後の需要予測について悲観的な予測をしていることがわかります。今年の台湾のフレキシブル基板市場はマイナス成長に終わる可能性が出てきました。しかし、台湾のエレクトロニクスメーカーは実にタフです。これまで、市場の需要が低迷すると、必ずや新しい市場を創造し、長期的にはプラス成長を維持してきました。既存ビジネスが縮小していく中で、新しいビジネスを作り出す活動が進んでいます。

 一方、日本のフレキシブル基板業界の状況は深刻です。現在、日本のフレキシブル基板メーカーの主要ユーザーは米国のモバイル機器メーカーで、韓国メーカーや台湾メーカーとは競合関係にあります。その日本メーカーの出荷額は継続的に縮小してきており、年間あたりの減少率は20〜30%にも達しています。これは、業界がかなり差し迫った状況にあることを意味しています。早急に手を打たないと、業界全体が破綻しかねません。心配なのは、日本のメーカーに新しい市場をつくりだそうという気力が感じられないことです。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
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224回(2019.12.1)

今週の話題

体制が上がらない台湾プリント基板業界

 台湾のプリント基板業界の出荷データは、世界のエレクトロニクスの中で、毎月最も早く、しかも詳しい市場データとして発表されます。しかも、台湾は世界の民生用エレクトロニクスの生産センターといわれるほどに、モノと情報が集まっていますので、その数値を追っていれば、世界のエレクトロニクス産業の動きをいち早く把握することができます。

 先日も、10月のプリント基板の出荷動向、輸出入、原材料の動き設備投資の動向などが、次々と発表されています。これらのデータを分析してみますと、次のようなことがわかります。

 2019年のクリスマス商戦向けの生産は、着実に立ち上がってきていますが、その勢いは目をみはるというほどのものではありません。10月の出荷額は、前年同月比でみますと、1.1%の増加で、かろうじてプラス成長を維持している程度です。これまでの台湾エレクトロニクス業界が、毎年二桁に近い成長率を維持してきていたのに比べると、いかにも物足りない感じは否めません。フレキシブル基板は比較的順調で、この4ヶ月直線的に出荷額を伸ばしていて、欧米向けのモバイル機器の需要が堅調なことがうかがえます。それでも、前年同月比での成長率は、1.3%で、年初からの出荷額合計は、いまだに0.64%のマイナス成長に留まっています。上半期のスロースタートが、いまだに足を引っ張っている形になっています。硬質プリント基板は、この3ヶ月天井に張り付いたような状況で、伸びていません。この後は下落に向かうことになるでしょう。

 台湾プリント基板業界の今後の動向について楽観的になれないのは、原材料の動きが遅いことが要因としてあげられます。フレキシブル基板用銅張積層板などは、前年同月比で20%近い減少となっています。新規設備投資も弱含みで、マイナス成長が続いています。台湾のプリント基板メーカーは、セットメーカーやEMSメーカーと、極めて緊密なパイプを持っており、精度の高い中長期的な需要予測を持っています。そのような台湾のプリント基板メーカーが、原材料の調達や、設備投資を控えているということは、少なくともこの数ヶ月の需要予測を控えめに見ていることの表れといえます。

 ふりかえってみますと、この2年間、台湾のエレクトロニクス業界は、米国のアップル社のiPhoneに振り回されてきました。アップル社は毎年投入する新モデルについて緻密な販売計画をつくり、サプライチェーンのメーカーに対して、部材の調達計画を示します。しかしながら、2017年、2018年と続けて計画通りに販売が伸びず、シーズン途中で、計画を下方修正せざるをえませんでした。iPhoneという、エレクトロニクス業界のコア製品だけに、その影響は、サプライチェーンのメーカーばかりでなく、多くの部材メーカー、関連ビジネスの企業におよびます。

 この2年間の失敗に学んだアップル社は、2019年には慎重な計画を作ったようです。いままでのところ、販売は計画の想定内で推移しているようです。しっかりと利益も出すことでしょう。しかし、サプライチェーンにとっては、ほとんど、成長はありませんので、マージンは削られることになります。世界的にみても、今後スマートフォンが大きく伸びることは期待できませんので、これから部材メーカーとしては、限られた市場の争奪戦になります。みなさん、その準備はできていますか?

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
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223回(2019.11.10)

今週の話題

消費税率10%で変わる景色

 周知の通り10月1日から消費税率が、これまでの8%から、10%に引き上げられました。しかしながら、今回の場合、さまざまな例外措置があり、課税システムとしては、極めて複雑なものになってしまいました。このため、テレビを始めとする各種メディアは多くの特別番組を組み、いかにして節税をするかを紹介しておりました。ために、それなりに蓄えのある人々は、不動産や、車、白物家電などの価格が高いものの前倒し購入に走ったために、メーカーにとっては一時的に大きな需要となったようです。あまり蓄えのない家庭では、せいぜいトイレットペーパーや洗剤の買いだめで、わずかばかりの節税に努めていたようです。私などはお金もなければ、買い物にいく体力もないので、結局何もしませんでした。テレビでは、9月30日になっても、「まだ間に合う節税対策」と称して、増税から逃れるアイデアを紹介していました。最後の日は、多くの小売店が大混雑で、日本中が消費増税狂想曲に踊らされているかのようでした。このような騒動を見ていると、日本人とは極めて扇動に乗せられやすい民族だと感じてしまいます。

 一方、10月に入って1週間ほどの間に、私はスーパーマーケットやドラッグストアなどで、数件の買い物をしたのですが、大きな変化に驚きました。全ての小売店でキャッシュレジスターが新しいものに替わっているのです。単に装置が新しくなっているだけでなく、支払いシステム全体が変わっているのです。共通していえることは、これまでに比べて、店員一人当たりの生産性が30〜50%は上がっているようです。ただし、これは新しいレジスターシステムに100%よるものとはいえず、店員スタッフと買い物客に負担を強いるものになっています。あるスーパーマーケットの例では、客が買い物かごに商品を入れて、レジスターの脇の台に乗せると、スタッフは、商品を取り出し、バーコードをスキャンして、清算済みのかごに入れます。以前でしたら、かごが空になったところで、合計を出して、支払い処理を行っていました。ところが、新しいシステムでは、支払いは別に自動支払機があって、客はそちらに移動して、機械を相手に支払い処理をすると、おつりとレシートが出てきます。店員は、客が支払い処理をしている間に、次の客のかごの商品のスキャンを始めています。客が不慣れなこともあって、スキャンに比べて、支払いの時間の方が長くなりがちです。そのような状況に対応するためでしょう、一台のレジスターに対して、2台の自動支払機が設置されています。結局、このようなシステムでは、一人のチェックアウトスタッフが、スキャナーと2台の支払機をみることになり、その忙しさは倍加しています。ちょっと息抜く余裕もなくなってしまい。精神的にも肉体的にもそうとう負荷がかかっているように見えます。私だったらば、かなりの頻度で間違いを起こし、トラブルメーカーになることは間違いありません。

 そのほか、客のセルフサービスによるチェックアウトシステムを入れた店がいくつか見かけられました。しかしながら、こちらの人気は今一つで、客の大部分はスタッフのいるレジスターの前に行列を作っています。日本では、セルフサービスのチェックアウトはなじまないのでしょうか。ちなみに、ニューイングランドの大規模小売店ではかなりセルフサービスによるチェックアウトシステムを入れていますが、客の人気は今一つです。私も一二度試してみましたが、何かと面倒なことがあり、今は人間のいるところに並んでチェックアウトすることにしています。

 何かとトラブルを起こしそうな新しいチェックアウトシステムですが、消費税率の引き上げによって、確実に儲かっている会社があります。それは、レジスターなどの装置メーカーとソフトメーカーです。日本で営業している小売店の数は何百万に及ぶでしょうが、おそらくそのうちの過半数が、今回新しいレジスターに入れ替えるでしょう。装置メーカーは、システムの切り替えに際して、新しい機能を持ち、生産性の高いモデルの導入を勧めるでしょう。新しい機能を持ったレジスター(システム)は、従来品に比べて、倍、3倍の値段になるでしょうが、それに見合った能力を持っているとの説明です。このようなシステム切り替えによる装置の需要は、大まかに見積もっても、1兆円を越えることでしょう。これだけの大きな需要が半年とか、数ヶ月の内に出てくるのですから、考えてみれば恐ろしいことです。このような市場は、外国メーカーにとっては、海外のメーカーにとっては極めて参入しにくく、国内メーカー、それも一部の専門メーカーの独壇場になるでしょう。穿った見方をすると、消費税率の切り替えは、日本の装置メーカー、ソフトメーカーの陰謀ではないかと勘ぐりたくなります。ただし、このような需要は一時的なもので、長続きするはずもなく、やがて反動が来ることでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
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222回(2019.10.20)

今週の話題

鉄筋コンクリート製の電柱を考え直す

 9月の台風15号、10月の台風19号と、関東地方は直撃を受け、多くの地域で停電、断水の障害が長期間続いています。その反省として、電線ケーブル類は地下に埋設すべし、との意見が少なからず出ています。さらに、専門家コメントとして、欧米では、ケーブル類は全て地下に収められていて、外観上も見苦しくない、としています。日本でも同様の措置をすべきだと。

 これには、いくつかの点で、事実誤認があります。少なくとも、拙宅がある米国北東部のニューイングランドでは、状況は違っています。当地でも、ダウンタウンでは、たしかにケーブルの多くは地下に埋設されていますが、ちょっと中心街をはずれると、架空線だらけになります。甚だしいところでは、まるで蜘蛛の巣状態です。(添付写真をごらんください。)電線の地下埋設のコストは、架空線に比べて、はるかに高価なものになります。また、必要な工事も煩雑で長期間におよぶものになります。電力ケーブル、通信ケーブル、その他の各種ケーブルやパイプ類をまとめて管理するとなると、いろいろと面倒なことが出てきます。現実的に費用対効果を考えると、ケーブルの地下埋設が可能なのは、ダウンタウンのような人口密集地域に限られることになります。


 もう一つ注目すべきは、ニューイングランドで使われている電信柱が、ほとんど木製だということです。私は、ある時期から、注意して見ているのですが、鉄筋コンクリート製の電柱に出会ったことはありません。さすがに、高圧のケーブルとなると、木製電柱では対応できなくなるようですが、それでも鉄筋コンクリート製ではなく、鋼鉄製のパイプになります。今回の台風では、強風により多くの鉄筋コンクリート製の電柱が折れて、鉄筋がむき出し状態になっている様子が、報道されていました。一方、ニューイングランドでは、嵐で立木が倒壊したり、大枝が折れて、道が塞がれている様子は、よく報道されますが、電柱が折れる様子はほとんど見ません。

 これだけでは、状況証拠にすぎませんが、どうも、木製電柱は、鉄筋コンクリート製の電柱に比べて、機械的な強度が高いようです。弾性強度も大きいのではないかと考えられます。コスト的にもメリットがあるのかもしれません。少なくとも、密度や重量に関しては、木製電柱が有利といえます。重量が小さいだけに、取り扱いも楽でしょう。

 木材の優位性を示す別の事例があります。ニューイングランドでは、一般の住宅はほとんど木材で造られています。かつては煉瓦造りもあったようですが、最近の新築建造物は、基本的に木造です。さらに、最近では、かなりの高層ビルディングが木造になっているのです。添付写真が示しているように、6階建程度のビルが木造であることは珍しいことではありません。私が認識した範囲では、15階くらいの高層ビルがありました。

 木造といっても、木の質感を活かすような感覚的な理由ではないようです。写真でわかるように、木材は構造材として使われており、最終的に木材の表面は、壁材で覆われてしまいます。つまり、ビルが完成してしまうと、外観上は木造であることがわからなくなってしまうのです。ですから、構造材として木材を使う理由は、質感や外観上のものではなく、技術的な理由によるものだということができます。どなたか、本当の理由をご存知の方がおられましたらご教示ください。





 今回取り上げた、コンクリートや木材について、日本ではすでに評価は固まっており、議論の余地はないかのように見えます。日本の林業の衰退が語られるようになったのは、もうずいぶん以前のことのように記憶します。しかしながら、ニューイングランドの木材の使われ方をみていると、日本の林業にも、まだまだ活路を見出せる可能性があるように思えるのですが、いかがなものでしょうか。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
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221回(2019.9.29)

今週の話題

道遠し、日本のエレクトロニクス産業の復活

 先週、再建中の日本のディスプレイメーカー大手JDI(株式会社日本ディスプレイ)が、出資を想定していた中国企業が手を引くことになり、再建計画を見直すことが余儀無くされているとのニュースが流れました。またか、という思いを持たれた方々は、少なくないでしょう。サンヨー、シャープ、パイオニア、東芝、エルピーダメモリー、ルネサスエレクトロニクス等々、この10年間で破綻したか、しかけた大手エレクトロニクス企業は、枚挙にいとまがないような状況です。かつて(1970〜80年代)世界のエレクトロニクス市場を席巻するほどの勢いがあった日本のエレクトロニクス産業の凋落ぶりは目を覆いたくなります。悪いことには、これらの企業の経営者から、まともな再建策が出てこないことです。海外の投資家から、見切りをつけられるのも当然といえるでしょう。

 高度経済成長時代には、同じ業種に大手メーカーが10社以上あっても、それぞれ成長することが可能でした。かつての通産省のリードによる、護送船団方式が、企業間のバランスをうまくとっていました。新しい冒険も、「みんなで渡れば怖くない。」という、今にしてみれば妙な企業間の信頼感がありました。

 ところが、この仲良しクラブが、事業を海外に展開するにあたって、摩擦が出てきました。新興の海外メーカーが、安い人件費を活用して、エレクトロニクス市場に侵入してきたのです。初期においては、日本メーカーのブランドや、高い品質によって、市場のシェアを維持することができました。しかし、この二十年間で新興メーカーといっても、経験を積むにしたがって、品質は向上し、着実に市場でのシェアを伸ばしていきました。気がつけば、海外市場での日本ブランドのエレクトロニクス製品のポジションはマイナーなものになっていました。具体的な例はいくらでも挙げることができます。テレビ、ビデオ、携帯電話、パーソナルコンピュータ、ゲーム機、半導体、ディスプレイ、電子レンジ、白物家電、等々。日本メーカーとしても、指を加えて見ていたわけではありません。それなりの手を打ってきてはいます。残念ながら、打ったという手も、今にしてみれば稚拙なもので、流れを変えるほどのものではありませんでした。「みんなで渡ったら、みなコケた。」ということでしょうか。

 追い詰められた日本メーカーに残された手はあまりないでしょう。それでも、日本の大メーカーは、護送船団方式の体質が抜けないようです。カンフル剤として、少なくない資金援助を募ったり、各メーカーの不採算事業部を統合して効率性を高めるなど、他力本願の動きが中心です。しかし、ダメなものをいくら集めてもダメで、ダメさ加減は大きくなるばかりです。

 そのような中で例外といえるのが、シャープのケースです。様々な曲折がありましたが、シャープは台湾のEMS最大手のホンハイ社に売却されて、100%子会社となりました。これが、シャープにとっては幸いでした。私は直接的にはホンハイとは取引はありませんので、間接的に得た情報ですが、ホンハイは金銭的には、実にしみったれで、価値が無いとなれば舌も出さないといわれています。一方で、自社の事業を拡大する上で価値があるとなれば、まとまったお金をポンと出します。ただし、出しっ放しではなく、事業の遂行にあたっては口も出しますし、手も出します。ホンハイは、シャープを買収するにあたっては、既存事業との組み合わせを真剣に検討したことは、想像に難くありません。その結果として、シャープは短期間のうちに業績を回復させ、再上場を果たしました。海外の事業も拡大させています。

 改めて、低迷する日本のエレクトロニクスメーカーの再建を考えてみるに、その要因の根の深さに唖然としてしまいます。はたして、自社努力だけで更生の道があるのかどうか、経営陣の奮起を期待したいと思います。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


220回(2019.9.15)

今週の話題

最近の台湾プリント基板市場

 以前に何度かご紹介しているように、台湾のプリント基板産業の動向は、世界の民生エレクトロニクス業界の先行きを予測する上での先行指標となっています。

今回の、半導体をはじめとする世界のエレクトロニクス産業の低迷についても、いち早くその兆候を示していました。(添付した台湾プリント基板産業の出荷動向、世界の半導体製品出荷動向のグラフをご参照ください。)

 グラフの読み方には、ちょっと予備知識が必要かもしれません。台湾の民生用エレクトロニクス製品の出荷は、毎年上半期はゆっくり立ち上がりますが、下半期は欧米のクリスマス商戦へ向けて、連続的に増大していきます。ちなみに、グラフではいずれも2月には大きく下落していますが、これは旧正月休暇による減産によるもので、毎年起きます。このように、台湾のプリント基板の出荷は、1年を1サイクルにして繰り返しながら、毎年成長を続けてきました。


 ところが昨年下半期の場合は、例年に比べて様子が違っていました。第3四半期までは順調な成長を遂げているかのように見えていたのですが、第4四半期に入ると、成長が止まってしまい、12月には大きく下落となりました。どう見ても、これは異常事態です。毎月、台湾プリント基板出荷データは、翌月の中旬には発表されます。これに遅れること2、3週間で、世界の半導体製品の出荷データが発表されます。昨年の場合、10月までは順調に伸びていましたが、11月には伸びが止まってしまい、12月には大幅下落となりました。これがトリガーとなり、世界の半導体業界は、2008年からの世界同時不況以来の低迷となります。


 業界のアナリストの多くは、2019年の下半期には反発し、2020年には回復に向かうとの見方をしています。しかしながら、最新の市場データを見る限り、楽観的な見方はできなくなってしまいます。まず、半導体の出荷動向は、連続減少傾向こそ止まったものの、はっきりした反発には至っていません。現状が踊り場的な状態で、今後再び減少に向かう可能性がないわけではありません。半導体のもっとも大きな需要家であるスマートフォンは、3年連続の減少が続いており、短期的に反発してくる可能性はなさそうです。スマートフォンの減少分を補ってあまりあるような新製品は見当たりませんし、話題の5G製品が、販売数に寄与するにはまだ時間がかかりそうです。

 台湾のプリント基板業界も、楽観的な見方はできなくなっています。7月に至って、出荷額は増加傾向になっていますが、前年同月比ではマイナス成長状態が続いています。プリント基板用の材料の出荷も低迷しています。さらに悪いことには、設備投資が非常に低いレベルに留まっています。このような状況は、プリント基板メーカーが、今後の需要について楽観視していないことを意味しています。台湾のプリント基板メーカーは、世界のエレクトロニクス生産センターともいえる、台湾のEMSメーカーと密接な情報網を構築しており、高い正確度でエンドユーザの資材調達情報を得ています。したがって、エンドユーザの販売予測や計画に変更があると、短時間の内に情報が基板メーカーに伝わります。その台湾基板メーカーが、今後の受給バランスに「守り」の姿勢を固めているわけですから、世界の民生エレクトロニクス市場の低迷は、しばらく続くと見るべきでしょう。メーカーによって、状況は違っているでしょうが、それぞれ然るべき対応策をこうじることが必要になっています。時間的余裕はあまりないでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


219回(2019.9.1)

今週の話題

JPCAショー2019(その4)

 今年のJPCAショーは、つまみ食い的に見ただけなので、全体をレビューできるような立場にはないのですが、フレキシブル基板に関連して目についたことがあります。それは、フレキシブル基板の信頼性を評価する試験装置のデモンストレーションが複数見られたことです。近年、フレキシブル基板の品質保証については、全数オープンショート試験が実施されるようになってきていますが、完成した回路の物理物性となると、メーカーとしてはなかなか手が出ないのが実情のようで、材料メーカーから提供されたデータシートで間に合わせるケースが少なくありません。中小のフレキシブル基板メーカーでは、標準的な試験設備も不十分で、担当する技術員さえ置いていない状態です。そのような中で、汎用性のある試験装置が商品化されてきているということは、大げさにいえば、業界全体のボトムアップに繋がることといえるでしょう。

 私が興味を持ったのは、ふたつの装置メーカーの製品です。ひとつはユアサ・システムズという装置メーカーのフレキシブル基板の機械的信頼性の評価装置です。(大手バッテリーメーカーのユアサとは関係ないそうです。)

 フレキシブル基板の機械的特性というと、IPC摺動試験、MIT折曲げ試験が頭に浮かびますが、このメーカーの装置は、アタッチメントを交換するだけで、ふたつの試験はもちろん、最近需要が増えている伸縮や捻れなど複数のモードで耐久試験ができるという優れものです。装置自体はコンパクトで、ジム机の上に収まる程度です。なかなか使えそうな装置です。

 もうひとつは、マイグレーション試験装置です。(不覚にもメーカーの情報を紛失してしまいました。心当たりのある方は教えてください。)マイグレーションとは、回路間に電位があると、導体の金属原子がマイナス側に移動する現象で、特に高温高湿の環境で著しく、放っておくと絶縁不良、短絡事故にいたります。このマイグレーション現象は、導体が銀の場合に著しく、銀インクを主要導体とする厚膜印刷回路では、深刻な問題になります。ところが、厚膜回路メーカーで、マイグレーション測定装置を備えているメーカーは決して多いとは言えない状況です。この装置メーカーの製品は、連続絶縁抵抗測定装置に、高温高湿チャンバーを備えていますが、コンパクトにまとまっています。この試験装置メーカーでは、受託試験も対応しているとのことです。

 ここでは、ふたつの試験装置しか紹介できませんでしたが、フレキシブル基板の試験項目は、他にもたくさんあります。今後、フレキシブル基板には新たな機能が付け加えられることが予想されます。材料メーカーや回路メーカーは、単に製品を作るだけでなく、その特性を評価する技術を確立し、できれば一般に公開してほしいものだと考えます。長期的には、そのメーカーの価値を高めることになりますし、業界全体のレベルアップにもなります。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


218回(2019.7.28)

今週の話題

JPCAショー2019(その3)

 今年のJPCAショーでは、厚膜印刷タイプのフレキシブル基板では、なかなか見るべきものがありました。画期的な技術というほどのものではないのですが、これまでのプリント基板技術では難しかったことができるようになっているところ価値がありそうです。

 これまで、厚膜印刷回路といえば、片面構成で、ラフな回路というのが、共通認識でした。ところが、最近の印刷技術と、印刷インクの性能の進歩はめざましく、銀インクで、幅50ミクロンの回路を量産することは、かなりの高い歩留まりでできるようになっているようです。小規模の量産であれば、30ミクロンの回路も形成が可能だとしています。スクリーン版メーカーは10ミクロン未満の線幅が可能だとのことです。

 多層化技術も進んでいます。両面ビアホール構造は、もうそれほど難しいものではなく、ビアホールの径も100ミクロン未満が実現しています。そもそも、厚膜回路技術にとって、多層構造は得意とするところなので、さまざまな多層構造が提案されています。多層の中に、導体層だけでなく、絶縁層や機能材料層も入れれば、軽く十層ぐらいになってしまいます。こうなると、寸法管理や位置合わせ技術がキーになってきますから、出来上がった回路のパタンズレをチェックすれば、だいたいそのメーカーの加工能力が推定できます。この分野では、実績が多い台湾メーカーが先行しているようです。

 これまで、厚膜回路の本質的な欠点とされていたのが、銅箔回路に比べて、桁違いに大きい導体抵抗です。これを一気に改善する技術が提案されています。コロンブスの卵的な単純なアイデアですが、厚膜導体の上に、金属銅を薄くめっきする工法です。めっきの厚さにもよりますが、1ミクロン未満のめっき厚さでも、導体抵抗が一桁以上小さくできる可能性があります。私自身以前に検討したことがあるのですが、めっき処理をしてくれるメーカーがなく、保留になっていました。しかし、複数の回路メーカーが試みていますので、今後大きく伸びることが期待されます。

 なお、厚膜回路への銅めっき処理がもたらす影響として重要なのが、銀マイグレーションの抑制です。これは、余禄的なメリットですが、回路にマイグレーション対策をしなくても良いとなると、技術的なものだけでなく、コストの上でも大きなメリットになります。

 厚膜印刷回路のメリットとして大きいのが、基材や導体の選択肢が多いということがいえることです。添付した写真の例では、大面積の布地にスクリーン印刷で、圧力センサーアレイを形成しています。人が睡眠中に、マットレスにかかる荷重がどのように変化するかを見ようとするものです。ベッドの中に、汗による湿気がこもらないように、通気性の良い布地を基材として使っています。


 次回も、技術的な面でのトピックスの続きを紹介します。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


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