2020.5.17
沼倉研史のアメリカ便り
                            昭48院化 沼倉 研史
 
 世界的にみれば、新型コロナウイルスの感染が治ったといえるような状況ですが、落ち込んだ経済を復活させるために、規制を緩める動きが広がっています。特に米国では、感染が改善しているといえない状況なのに、政治的な意図のもとに、強引に規制緩和を進めようとする動きが見られます。はなはだ危険な動きといわざるをえません。

沼倉研史
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232回(2020.5.17)

今週の話題

ウエラブルデバイスで新型コロナウイルス の早期検出を

 世界的にみれば、新型コロナウイルスの感染は依然として拡大が続いており、なかなか収まりそうにありません。世界各国で、感染を抑え込む技術の開発を行っていますが、未だに確実な方法は見出されておりません。コロナウイルスの発症を抑えるワクチンの実用化は早くても来年になってしまいそうですし、特効薬として使えそうな薬品も試行錯誤しているような状況で、治療に確実な効果があるという薬品はまだ見つかっていません。現状では、患者の自然治癒力にたよるだけで、人工呼吸器などは、その補助をしているにすぎません。なんとも心持たない状況といってよいでしょう。

 診断の方は、ようやくPCR法による検査体制が整いつつありますが、検査に時間がかかることと、診断の信頼性が高くないことが難点となっています。一旦陰性の診断が出されても、その後の感染については、何も保証していないのです。現在、世界中で確実な検査方法を確立すべく、多くの研究機関、医療機関が、簡単で信頼性の高い技術を開発する努力を続けていますが、完成にはまだ時間がかかりそうです。コロナウイルス に直接反応するようなセンサーができれば、話は簡単なのですが、現実はそう都合よくは進んでくれないようです。まずは、コロナウイルスの活動メカニズムをよく理解することが必要です。

 ところで、全く異なる診断方法を考えてみました。これは、既存の診断技術にI技術を組み合わせるものです。すでにスポーツ医学などでは、アスリートの心臓の動きなどを検出して、無線でそのデータを連続的に集約して身体能力の解析に使われています。また、最近では、家庭でのヘルスケア用に、電子体温計、酸素濃度計、血圧計などが市販されています。これらの機器は医者の処方箋がなくても、一般市民がドラッグストアで購入することができます。これらのデバイスをそのまま使うことはできませんが、センサーデバイスとして、体の適当な部位に貼り付け、ブルートゥースチップを組み合わせ、計測したデータを、スマートウォッチのようなウエラブルデバイスに集約させることはそれほど難しいものではないでしょう。集められたデータはAI技術を駆使して解析すれば、肺炎などの重篤な病気の初期症状を検出することができるでしょう。この診断装置は、直接病原菌などを検出するものではありません。あくまで、症状から疾患を初期に検出するものです。検出しても、それでその疾患が確定するわけではなく、最終的にはPCRテストなどで判断することになります。それでも、このような診断装置には大きな意義があります。計測は継続的に行われていますので、安心感があります。一度陰性の結果がでても、引き続きデバイスを装着することにより、様子を観察することができます。さらに、AI技術には学習効果があり、実績が蓄積されることにより、診断精度が向上することが期待できます。また。このようなシステムはクラスターが発生しそうな、職場の従業員のモニタリングにも活用することができます。

 今のところ、このような診断システムは、机上検討のレベルで、具体的に実用化に向けて開発が進められているわけではありません。ただ、ここで使用を想定している要素技術は、確立されたものばかりですので、実現性は高いと思います。実は私が知らないだけで、どこかで実用化のプロジェクトが進められているかもしれません。つい2、3日前の米国の医学関係のニュースレターに、同じようなアイデアが紹介されていました。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


231回(2020.4.26)

今週の話題

台湾の新型コロナウイルス感染対策

 新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっています。もっとも感染の深刻な米国での感染者は100万人に近づいており、死者の数は5万人に迫っています。日本ではほとんど報道されていませんので、あまり知られていないかと思いますが、拙宅があるマサチューセッツ州では、この2、3週間で急激に感染が広がり、感染者数では、ニューヨーク州、ニュージャージー州に次いで3位となっています。州内の感染者は、5万人を越え、死者は2700人に達しています。このため、州政府は非常事態宣言を出し、ほとんどの会社は企業活動を停止しています。生活のために必要な食料品店やドラッグストアは営業を続けていますが、客の入場を大きく制限しているようです。今のところ、感染が収束する目処はほとんど見えておらず、市民のフラストレーションはたまる一方です。

 一方で、感染の広がりをほぼ封じ込めたと思われる国があります。日本の隣国台湾です。台湾での感染者数は約400人で、死者は6人だけです。(情報ソースにより若干の違いがあります。)もう、1ヶ月以上新規の感染者はでていないとのことです。市民の生活環境は、ほぼ平常通りで、多くの会社は通常の業務を続けているとのことです。ただ、海外への渡航はかなり厳しく規制されていて、海外からの入国はほぼできない状況のようです。

 そのような環境の中で、3月の台湾プリント基板産業は大きく反発しています。

 昨年の台湾プリント基板業界は不振が続いていました。通期では、かろうじてプラス成長を果たしたものの、第4四半期の10月をピークとして、毎月大幅下落を続けてきました。2月には、旧正月休暇の季節要因もあって、出荷額は底に達しました。ただ、新型コロナウイルス感染の影響は、それほど出ていないようにみえます。そして3月になると大きく反発することになりました。

 通常でも、3月は旧正月休暇の後になるので、プリント基板の生産は大きく上昇します。しかしながら、今年の反発は、季節要因からくるレベルを大幅に上回っています。3月の出荷額を、前年同月比で比べてみると、やく12.5%の増加です。これは、硬質基板でも、フレキシブル基板でも大きな差はありません。ただし、前月比では、硬質基板が27.2%の増加であるのに対して、フレキシブル基板は162.7%の増加という、けたたましい数値になっています。これは、フレキシブル基板メーカー最大手のZD Technology社が、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、中国での生産を一斉に休止したものの、3月には生産を復活させたことが大きく影響しているものと考えられます。同社の2月の出荷額は、ピーク時に比べて5分の1近くまで下落し、台湾の基板メーカーとして、4位まで順位を落としましたが、3月にはトップに返り咲いています。

 台湾のプリント基板業界の動きでもうひとつ気になることがあります。3月になって、銅張積層板などの原材料の調達量が増えていることです。また、設備投資の額も増えています。台湾の部材メーカーは、エンドユーザーとのコミュニケーションが非常によく、常に確度の高い需要予測を持っているといわれます。さて、今年の場合はどのような方向に動いていくのか、しばらくはマーケットの動きから目が離せません。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


230回(2020.4.5)

今週の話題

新型コロナウイルス感染の前と後で

 新型コロナウイルスの感染が中国の武漢から報告され始めたのは、1月下旬の旧正月休暇が始まった頃だと記憶していますが、2月は中国で急激に感染が広がり、3月になるとヨーロッパで急拡大します。3月後半になると、米国での感染が急拡大し、感染者の数では、一気にトップとなります。米国では現在でも拡大が続いています。

 私は、3月下旬に、米国から日本に戻る予定で、飛行機のチケットを取っていたのですが、3月中旬になると、風雲急を告げるようになってきました。状況は毎日悪化していきます。ニューヨーク州の患者の数は倍々で増え続けています。マサチューセッツ州は、だいぶ少ないとはいえ、3月20日ごろになると、増加率は一気に高まります。連邦政府や州政府は、毎日のように長時間のブリーフィングを行い、現状の説明と、一般市民への要請を行うのですが、状況が刻々変化するので、現在何が正しいのか、よくわかりません。一応、当初の予定通りに日本にもどることにして準備を始めましたが、確認したところ、私の自宅から、ボストンの空港まで行く手立てがないことがわかりました。高速バスも、鉄道も、タクシーも使えそうもないのです。しかも、仮に日本にたどり着いたとしても、素直に入国させてもらえる保証はありません。あちらこちらと電話をかけまくり、ようやくボストンの友人が空港まで、送り届けてくれることになりました。

 フライトはボストン発午前6:30と、朝早い便だったので、家を出たのは、午前2時半、1時間ほどで、ボストンローガン空港にたどり着きました。すでに、チェックインカウンターは開いていましたが、人影はまばらです。ところが、隣のカウンターで搭乗手続きをしている人を見てギョッとしました。頭のてっぺんから、足の先まで防護服で身をかため、顔面には大きなゴーグルをしています。なんとも異様な格好です。何かもめているようでしたが、こちらには、そのようなことに関わっている余裕はありません。車椅子をたのんで、早々にセキュリティチェックに向かいました。

 フライトは日本への直行便ではなく、テキサスのダラスで乗り継ぎです。ボストン/ダラスの飛行機は、ボーイング737で、座席数は200以上あります。これに優先搭乗してみると、機内はガラガラ、ちゃんと数えてみましたが、乗客はわずかに10名。おかげで、他の乗客との距離を十分過ぎるほどに取ることができました。あとで、聞いてみたら、米国の国内便は、いずれもこのような状況だそうです。一方、ダラス/成田は、ワイドボディのボーイング777、座席数は400以上あるのでしょうが、これがほとんど満席なのです。乗客の大半は日本人で、しかも。若い女性なのです。ちょっと見た感じでは、ビジネス関係ではなく、ツアー客のようです。今置かれている状況を考えると、複雑な思いです。

 成田に着いてからも、かなりの曲折を予想していたのですが、ちょっとしたインタビューと質問票があっただけで、解放となりました。ただし、公共の交通機関を使わないこと、少なくとも2週間は表に出ないように念を押されました。

 このように、コロナウイルス騒ぎで、右往左往している間に、エレクトロニクス産業の方も大きく変化してきています。コロナウイルスのパンデミックが始まる前に、世界のスマートフォン出荷は4年連続での減少がはっきりしています。世界の半導体製品の出荷も、大きくブレーキがかかっています。世界の民生用エレクトロニクス産業のバロメータとなっている、台湾のプリント基板産業の出荷の低迷が続いています。通常でも、1、2月の出荷は減少するのですが、前年同月比でもマイナス成長の幅が大きくなっています。特にフレキシブル基板の不振が目立っています。日本のプリント基板出荷も不調で、前年同期比での出荷がマイナス成長となっています。

 すでに、マイナス成長がはっきりしているところに、コロナウイルスのパンデミックが起きたわけですから、今後、すべての産業が減速することになるでしょう。なにしろ、コロナウイルスの感染メカニズムは、いまだにわかっておらず、ワクチンなどの治療方法の確立にも目処が立っていない現状では、明日のこともわかりません。このところ、市場調査会社が、かなり悲観的な予測を出してきていますが、それとても、確たる根拠があるとは思えません。とにかく、3日先のことがわからない現状では、これといった対応策をこうじることもできません。会社勤めをする者にとっても、経営者にとっても大変な状況になっていくことは間違いありません。おそらく起死回生のホームランのような回答はないのでしょう。とりあえず、今日、明日を、なんとか乗り切っていくしかないのかもしれません。ご成功をお祈りしております。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


229回(2020.3.15)

今週の話題

米国でも広がる新型コロナウイルス感染の影響

 3月に入って新型コロナウイルスの感染は、中国から世界中に広がっています。

米国では、連邦政府と州政府が微妙に異なる方針や施策を出していますので、それによる混乱が少なからず出ています。当地米国マサチューセッツ州でも、この2、3週間で、生活面で様々な影響が出てきています。小中高校、大学はほとんど休校になり、子供達は平日の昼間にも関わらず、家の外で遊んでいます。美術館、博物館、図書館のような公共施設もサービスを停止しています。地下鉄や鉄道のような公共の交通機関は、平常通り動いています。テレビでは、念入りな消毒が行われているとのニュースが出ていました。

 多くのイベントが予定をキャンセルされています。250人以上の人が集まる行事は禁止だそうです。100年以上の歴史を持つ、伝統のボストンマラソンも、とりあえず9月実施と延期になりました。すでにオープン戦が始まっていたメージャーリーグベースボールも、レギュラーシーズンは開幕も大幅延期です。シーズン終盤入っていた、バスケットボールとアイスホッケーも、突如中断となり、今後どうなるかわかりません。

 一般の企業活動は、ほぼ平常通り行われているようです。官公庁の窓口業務も平常通りです。銀行も開いています。ただ、客の数は少ないようです。ちょうど、税務申告の季節なので、先週2回ほど、ダウンタウンにある税理士事務所を訪問しましたが、普段と変わった様子はありませんでした。ちょっと見た目には、ダウンタウンの様子は、普段とはあまり変わりません。いつもに比べて、歩道を歩く人数は、いくらか少ないように感じますが、マスクをしている人はほとんどいませんので、外目にはコロナウイルスの感染をうかがわせるものはありません。車通りもいつもとかわりません。

 私も、この2週間は自宅にこもっていましたので、市中のことはよくわかりませんが、ショッピングセンターの駐車場はかなり車で埋まっています。店からは、カートに食料品や生活用品を満載した人々が次々と出てきます。平日の午前中にはあまりないことです。一部の市民は買いだめに走っているようで、いくつかの商品がスーパーマーケットの陳列棚から消えてしまいました。目に付くのは、ボトル入りの飲料水、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、衛生用品、缶詰などの保存食品といったところでしょうか。ただ、人々がパニックにおちっている様子はありません。売り切れになった商品も次々と補充されているからでしょうか。店売りの新聞も減ったり無くなったりしています。普段私が読んでいるボストングローブも売り切れです。普段は新聞など読まない人々が、確かな情報を得ようとして買っているのでしょう。

(写真上:売り切りが目立つ飲料水の棚、奥の方に補充の品物が到着したところ。)

 今回の感染騒ぎでかなり様子が変わったのがドラッグストアでしょう。最近の米国のドラッグストアでは。家庭用の多くの電子機器が販売されていますが、今回の感染騒ぎで一部の商品が売り切れ状態で、供給が全く追いつかないとのことです。代表的なものとしては、デジタル体温計、血液中酸素センサー、血圧計などがあります。これらの製品は画期的なものとはいえませんが。個人的な健康管理の意識が高まり、需要が急増しているものと考えられます。

 このところ、新型コロナウイルス感染騒ぎで、世界中の株式市場が激しく上下していますが、メディカル関連の企業の株価は比較的安定しているようです。具体的には、医薬品、ヘルスケア機器、衛生用品、消毒剤、洗剤などのメーカーになります。世界的な株安状態の中で、何か儲かるネタはないかと探している投資家の皆様の参考まで。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.
228回(2020.2.23)

今週の話題

新型コロナウイルス感染の影響

 新型コロナウイルスの感染が日本でも広がっています。初期においては、感染者や死亡者が中国武漢近辺に限られていましたが、この2週間ほどで、日本での感染者の数が一気に増え、死者も4名報告されています。これまでの感染者の大部分は、横浜に寄港した大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客、乗組員で、日本政府は、感染を限定される範囲に封じ込めることができると考えていたようです。しかしながら、この数日で状況は急速に悪化しています。検査をして陰性を確認してクルーザーから下船した乗船客が、自宅に戻ってから発症するような事例が出ています。また、感染ルートがはっきりしない感染者が毎日各地で報告されています。つまり、検査の信頼性が問われているわけです。今のところ、この先1週間どうなるかわからないような状況です。

 韓国は、この数日で集団感染が広がっています。毎日新たな感染者が百人単位で増えており、死者も7人となっています。当局は、この数日がヤマだといっていますが、それほど根拠があるとも思えません。おそらく想定外の感染拡大にパニック状態で、確実な対処ができていないというのが実情でしょう。

 中国での新たな感染者の数は、1日千人を下回るようになり、政府の当局者は、感染拡大を制御することに成功したかのような言い方をしています。しかしながら、現在でも毎日百人前後の死者が出ているようで、とても収まりつつあるというような状況ではありません。

 感染の拡大に伴い、日本の製造業、サプライチェーンへの影響が深刻になっています。幸か不幸か、今回のコロナウイルスの騒ぎが始まった時期と中国の春節の休みが重なったために、初期の段階では、経済や生活への影響があまり顕在化しませんでした。中国政府の初動も遅れてしまいました。しかし、1千万都市の武漢が封鎖されるにおよんで、事態が深刻になっていることを思い知らされることになりました。現在では、多くの日本の自動車メーカー、電子機器メーカーが、中国で組立や部品調達を行なっており、サプライチェーンは複雑に絡み合っています。そのほんの一部でも、機能不全となると、製品はできないことになります。春節の休みから1ヶ月が経過し、従業員は工場に戻りつつあるようですが、通常の稼動状態を回復するには、少なくとも2、3ヶ月はかかることになるでしょう。一方で、このところヴェトナムのメーカーが超繁忙状態になっているとの情報があります。中国メーカーからの調達を他国のメーカーへ移転する動きが加速しているようです。そのような観点では、ヴェトナムはもっとも頼りになる国かもしれません。

 このような状況から、業界メディアは、今後エレクトロニクス業界が低迷することを予想しています。ところが、エレクトロニクス業界はすでにブレーキがかかっているといってもよい状況なのです。世界の半導体出荷は2018年年末から、2019年の第1四半期にかけて大きく下落し、第2四半期からはなんとか回復に向かいます。しかし、第4四半期には失速気味になり、年末には再び減少に向かっています。特に中国での下落が目立っています。台湾のプリント基板出荷も縮小傾向に向かっています。10月をピークにして、3ヶ月連続での大幅減少です。この後はコロナウイルス感染の影響が、大きく出てくることでしょう。今後、台湾のプリント基板出荷はさらに減少が続き、コロナウイルスの感染の結果とされることになるでしょうが、実際にはそれ以前に市場の縮小は始まっていたのです。これは民生用エレクトロニクス業界に、根源的に潜在する問題に起因しているといえます。一方、コロナウイルスの問題は、予測困難な自然災害のようなものです。現実的な問題として、明日のことでさえ予断を許さない状況です。企業の経営者にとっては、先が見えないところで、厳しい決断がせまられることになります。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


227回(2020.2.9)

今週の話題

インターネプコン 2020

 この2、3年、持病の具合が思わしくなかったので、展示会の視察は控えておりました。しかし、米国での養生が効いたのか、いくらか良くなってきましたので、1月15日から3日間東京ビッグサイトで開催されたインターネプコンに出かけることにしました。

 以前からインターネプコンは巨大化が進み、3日間全部かけても、見て回るのは困難になっていました。今年は、出展社も来場者もさらに増え、収拾がつかなくなっているようです。特に今年は東京オリンピック、パラリンピックのために、いつもの東ホールが使えなくなり、会場は、西ホール、南ホール、青梅ホールに分散させられ、非常に分かりにくくなっています。ブースの配置がよく分からず、見たい分野やメーカーを探し出すのは容易ではありません。私が会場にいられたのは4時間ほどでしたが、見たいと思っていたプリント基板関連の分野の3分の一も見ることができなかったと思います。



 そのようなわけで、展示ブースのほんの一部しか見ていませんので、全体のレビューなどできませんが、いくつか気になったトピックスをご紹介したいと思います。

 まず、目についたのは、セミアディティブ法による超微細回路の形成技術です。これは、プリント基板メーカーによるものではなく、JCUや奥野製薬などの化学品メーカーが、1〜2ミクロンの微細回路のサンプルを展示しておりました。残念ながら、これらのサンプルはチャンピオンデータで、今のところ実用性は、いまひとつだと思います。今後微細パタン用の接合技術や設計技術が確立されて実用化が進むものと考えられます。

 回路メーカーの共通トピックスとして挙げられるのは、5G対応の技術でしょう。ただ、いずれの回路メーカーも、5Gが目指す基板の構成はいまひとつ明確になっていないようで、各メーカーとも手探り状態のようです。強いて挙げれば、高周波領域での損失の小さい材料の選択ですが、まだ、特定の材料にしぼるにはいたってはいないようです。

 装置メーカーによる展示はあまりありませんでしたが、かつての瀬戸技研が、SETO Engineeringとして、復活しておりました。日本のプリント基板業界の地盤沈下に伴い、多くの製造装置メーカーが事業の縮小、廃業に追い込まれる中で、このような復活は心強いものがあります。

 今年の展示会で目立ったのは、中国メーカーの多さです。ディーラーを含めれば、10社以上がブースを構えておりました。これらのメーカーは、いずれも硬質基板とフレキシブル基板、さらには多層リジッド・フレックスも扱い製品として展示しています。ただ、展示されている製品サンプルをよく見てみると、その品質はいまひとつで、日本メーカーのレベルに追いつくには、もうしばらくかかるでしょう。ただ、そのコスト競争力を考慮すれば、それほど先のことではないでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


226回(2020.1.19)

今週の話題

素直に回復に向かわない世界のエレクトロニクス産業

 歳が改まり、メディアでは、景気の回復を期待する特集が目立ちます。市場は穏やかながら上昇傾向にあるとのことで、楽観的な予測が目立ちます。株式市場は最高値の更新が続いています。米中の貿易交渉が第一段階の合意に達したとの報道が流れると、株式相場は活況をていしています。

 しかしながら、エレクトロニクス業界の実情はかなりずれているといってよいでしょう。現代の民生エレクトロニクス市場を牽引しているのは、言わずと知れたスマートフォンですが、世界の出荷台数はすでに3年以上減少が続いており、近い将来に回復に向かうような動きはありません。また、スマートフォンの落ち込みを埋め合わせるような、新しいコンセプトの新技術や製品は見当たりません。業界やメディアは5Gを次世代の牽引技術として持ち上げていますが、具体的なビジネスとしてはなかなか先が見えてきません。

 実際の市場の動きを分析してみると、厳しい実情が見えてきます。世界の半導体市場は、一昨年の末に急落し、半年間低迷が続きました。添付したグラフが示していますように、昨年も下半期になるとようやく回復に向かいます。

 当初は世界一斉に出荷が増加しましたので、一気に回復に向かうかとの期待が持たれますが、このところ失速気味になっています。米国はまだ出荷が増えていますが、勢いはなくなっています。中国やその他のアジア諸国は、11月に至ってほとんど横ばいか、減少となっています。今後改めて増加に向かうのか、それとも再び減少するのかはわかりませんが、少なくとも素直に回復に向かうとも思えません。

 民生エレクトロニクス業界の先行指標となる、台湾プリント基板業界の動向もあまり思わしくありません。添付したグラフは、昨年末までの出荷状況を示したものですが、一昨年ほどではないものの、大きく下落しています。12月の出荷額は、前月比では8.2%の減少ですが、前年同月比では15.7%の増加となっています。結果として、2019年通期の出荷額は、2018年に比べて1.5%のプラス成長となります。大きく下落した一昨年末との比較ですから、プラス成長といっても、とても回復傾向にあると言えるほどのものではありません。





 台湾のプリント基板メーカーは、セットメーカーやEMSメーカーと密接なコミュニケーションを保っており、精度の高い需要予測を得ています。その基板メーカーが、製造能力を増強するための設備投資には慎重になっており、銅張積層板など原料の調達も控えめにしているようです。また、各種電子部品市場の動きも活況といえるほどのものではありません。

 これらのデータから推定してみますと、世界の民生エレクトロニクス市場が本格的に回復に向かうには、まだしばらく時間がかかりそうです。

 これに比べると、日本のプリント基板メーカーの状況ははるかに悪く、脆弱な体質にあるといえます。早急に然るべき対策をこうじないと、最悪の事態も想定しなければならない状況です。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


225回(2019.12.22)

今週の話題

体制が上がらない台湾プリント基板業界(続き)

 前回、10月の台湾のプリント基板業界の出荷があまり思わしくない状況にあることを紹介いたしました。先週になって11月のデータが出てきましたが、その数値はさらに悪化してきています。11月の台湾の上場基板メーカーの出荷額合計は、613.4億台湾ドルで、前月から5.6%減少となっています。前年同月比では、0.3%の減少になります。ただし、品種による違いは小さくありません。硬質基板は、前月比2.7%の減少でしたが、前年同月比では2.6%の増加となっています。月ベースの動きでは、8、9、10月と高いレベルで推移していたものが、11月になっていくらか減少に傾向が出てきたというところです。

 これに対して、フレキシブル基板の11月の出荷額は、前月比で11.2%の二桁減少で、前年同月比でも5.9%のマイナス成長になっています。つまり、硬質基板がほぼ前年並みか、若干プラスになっているのに対して、フレキシブル基板は、6月から直線的に伸びていたものが、10月をピークにして、鋭角的に減少に向かっています。(添付グラフ参照)ピーク値はほぼ前年並みですが、平均値としては、地盤沈下しています。


 いいかえると、例年に比べて出荷のピークは、半月から1月早くなり、全体のレベルが下がっていることになります。昨年は12月に大きく下げたわけですが、今年がどうなるかは、極めて不透明です。昨年は、クリスマス商戦シーズン途中でアップル社が生産計画を下方修正し、サプライチェーンに大きな混乱をきたしました。これに懲りた各メーカーはそれなりに対策をこうじているものと考えられますが、それで対応できる範囲で収まるかどうかは、なんともいえません。ある報道によれば、11月における中国のiPhoneの出荷は、35%以上減少したとのことで、その影響が懸念されます。

 一般に、台湾の基板メーカーは、EMSメーカーや機器メーカーと密接なコミュニケーションを持っていて、精度の高い需要予測を作っていて、材料の調達や設備投資には慎重です。このところ、フレキシブル基板用銅張積層板の出荷は、前年同月比で二桁のマイナス成長が続いています。また、生産能力を増やすための設備投資には消極的になっています。つまり、台湾のフレキシブル基板メーカーは、今後の需要予測について悲観的な予測をしていることがわかります。今年の台湾のフレキシブル基板市場はマイナス成長に終わる可能性が出てきました。しかし、台湾のエレクトロニクスメーカーは実にタフです。これまで、市場の需要が低迷すると、必ずや新しい市場を創造し、長期的にはプラス成長を維持してきました。既存ビジネスが縮小していく中で、新しいビジネスを作り出す活動が進んでいます。

 一方、日本のフレキシブル基板業界の状況は深刻です。現在、日本のフレキシブル基板メーカーの主要ユーザーは米国のモバイル機器メーカーで、韓国メーカーや台湾メーカーとは競合関係にあります。その日本メーカーの出荷額は継続的に縮小してきており、年間あたりの減少率は20〜30%にも達しています。これは、業界がかなり差し迫った状況にあることを意味しています。早急に手を打たないと、業界全体が破綻しかねません。心配なのは、日本のメーカーに新しい市場をつくりだそうという気力が感じられないことです。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


224回(2019.12.1)

今週の話題

体制が上がらない台湾プリント基板業界

 台湾のプリント基板業界の出荷データは、世界のエレクトロニクスの中で、毎月最も早く、しかも詳しい市場データとして発表されます。しかも、台湾は世界の民生用エレクトロニクスの生産センターといわれるほどに、モノと情報が集まっていますので、その数値を追っていれば、世界のエレクトロニクス産業の動きをいち早く把握することができます。

 先日も、10月のプリント基板の出荷動向、輸出入、原材料の動き設備投資の動向などが、次々と発表されています。これらのデータを分析してみますと、次のようなことがわかります。

 2019年のクリスマス商戦向けの生産は、着実に立ち上がってきていますが、その勢いは目をみはるというほどのものではありません。10月の出荷額は、前年同月比でみますと、1.1%の増加で、かろうじてプラス成長を維持している程度です。これまでの台湾エレクトロニクス業界が、毎年二桁に近い成長率を維持してきていたのに比べると、いかにも物足りない感じは否めません。フレキシブル基板は比較的順調で、この4ヶ月直線的に出荷額を伸ばしていて、欧米向けのモバイル機器の需要が堅調なことがうかがえます。それでも、前年同月比での成長率は、1.3%で、年初からの出荷額合計は、いまだに0.64%のマイナス成長に留まっています。上半期のスロースタートが、いまだに足を引っ張っている形になっています。硬質プリント基板は、この3ヶ月天井に張り付いたような状況で、伸びていません。この後は下落に向かうことになるでしょう。

 台湾プリント基板業界の今後の動向について楽観的になれないのは、原材料の動きが遅いことが要因としてあげられます。フレキシブル基板用銅張積層板などは、前年同月比で20%近い減少となっています。新規設備投資も弱含みで、マイナス成長が続いています。台湾のプリント基板メーカーは、セットメーカーやEMSメーカーと、極めて緊密なパイプを持っており、精度の高い中長期的な需要予測を持っています。そのような台湾のプリント基板メーカーが、原材料の調達や、設備投資を控えているということは、少なくともこの数ヶ月の需要予測を控えめに見ていることの表れといえます。

 ふりかえってみますと、この2年間、台湾のエレクトロニクス業界は、米国のアップル社のiPhoneに振り回されてきました。アップル社は毎年投入する新モデルについて緻密な販売計画をつくり、サプライチェーンのメーカーに対して、部材の調達計画を示します。しかしながら、2017年、2018年と続けて計画通りに販売が伸びず、シーズン途中で、計画を下方修正せざるをえませんでした。iPhoneという、エレクトロニクス業界のコア製品だけに、その影響は、サプライチェーンのメーカーばかりでなく、多くの部材メーカー、関連ビジネスの企業におよびます。

 この2年間の失敗に学んだアップル社は、2019年には慎重な計画を作ったようです。いままでのところ、販売は計画の想定内で推移しているようです。しっかりと利益も出すことでしょう。しかし、サプライチェーンにとっては、ほとんど、成長はありませんので、マージンは削られることになります。世界的にみても、今後スマートフォンが大きく伸びることは期待できませんので、これから部材メーカーとしては、限られた市場の争奪戦になります。みなさん、その準備はできていますか?

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


223回(2019.11.10)

今週の話題

消費税率10%で変わる景色

 周知の通り10月1日から消費税率が、これまでの8%から、10%に引き上げられました。しかしながら、今回の場合、さまざまな例外措置があり、課税システムとしては、極めて複雑なものになってしまいました。このため、テレビを始めとする各種メディアは多くの特別番組を組み、いかにして節税をするかを紹介しておりました。ために、それなりに蓄えのある人々は、不動産や、車、白物家電などの価格が高いものの前倒し購入に走ったために、メーカーにとっては一時的に大きな需要となったようです。あまり蓄えのない家庭では、せいぜいトイレットペーパーや洗剤の買いだめで、わずかばかりの節税に努めていたようです。私などはお金もなければ、買い物にいく体力もないので、結局何もしませんでした。テレビでは、9月30日になっても、「まだ間に合う節税対策」と称して、増税から逃れるアイデアを紹介していました。最後の日は、多くの小売店が大混雑で、日本中が消費増税狂想曲に踊らされているかのようでした。このような騒動を見ていると、日本人とは極めて扇動に乗せられやすい民族だと感じてしまいます。

 一方、10月に入って1週間ほどの間に、私はスーパーマーケットやドラッグストアなどで、数件の買い物をしたのですが、大きな変化に驚きました。全ての小売店でキャッシュレジスターが新しいものに替わっているのです。単に装置が新しくなっているだけでなく、支払いシステム全体が変わっているのです。共通していえることは、これまでに比べて、店員一人当たりの生産性が30〜50%は上がっているようです。ただし、これは新しいレジスターシステムに100%よるものとはいえず、店員スタッフと買い物客に負担を強いるものになっています。あるスーパーマーケットの例では、客が買い物かごに商品を入れて、レジスターの脇の台に乗せると、スタッフは、商品を取り出し、バーコードをスキャンして、清算済みのかごに入れます。以前でしたら、かごが空になったところで、合計を出して、支払い処理を行っていました。ところが、新しいシステムでは、支払いは別に自動支払機があって、客はそちらに移動して、機械を相手に支払い処理をすると、おつりとレシートが出てきます。店員は、客が支払い処理をしている間に、次の客のかごの商品のスキャンを始めています。客が不慣れなこともあって、スキャンに比べて、支払いの時間の方が長くなりがちです。そのような状況に対応するためでしょう、一台のレジスターに対して、2台の自動支払機が設置されています。結局、このようなシステムでは、一人のチェックアウトスタッフが、スキャナーと2台の支払機をみることになり、その忙しさは倍加しています。ちょっと息抜く余裕もなくなってしまい。精神的にも肉体的にもそうとう負荷がかかっているように見えます。私だったらば、かなりの頻度で間違いを起こし、トラブルメーカーになることは間違いありません。

 そのほか、客のセルフサービスによるチェックアウトシステムを入れた店がいくつか見かけられました。しかしながら、こちらの人気は今一つで、客の大部分はスタッフのいるレジスターの前に行列を作っています。日本では、セルフサービスのチェックアウトはなじまないのでしょうか。ちなみに、ニューイングランドの大規模小売店ではかなりセルフサービスによるチェックアウトシステムを入れていますが、客の人気は今一つです。私も一二度試してみましたが、何かと面倒なことがあり、今は人間のいるところに並んでチェックアウトすることにしています。

 何かとトラブルを起こしそうな新しいチェックアウトシステムですが、消費税率の引き上げによって、確実に儲かっている会社があります。それは、レジスターなどの装置メーカーとソフトメーカーです。日本で営業している小売店の数は何百万に及ぶでしょうが、おそらくそのうちの過半数が、今回新しいレジスターに入れ替えるでしょう。装置メーカーは、システムの切り替えに際して、新しい機能を持ち、生産性の高いモデルの導入を勧めるでしょう。新しい機能を持ったレジスター(システム)は、従来品に比べて、倍、3倍の値段になるでしょうが、それに見合った能力を持っているとの説明です。このようなシステム切り替えによる装置の需要は、大まかに見積もっても、1兆円を越えることでしょう。これだけの大きな需要が半年とか、数ヶ月の内に出てくるのですから、考えてみれば恐ろしいことです。このような市場は、外国メーカーにとっては、海外のメーカーにとっては極めて参入しにくく、国内メーカー、それも一部の専門メーカーの独壇場になるでしょう。穿った見方をすると、消費税率の切り替えは、日本の装置メーカー、ソフトメーカーの陰謀ではないかと勘ぐりたくなります。ただし、このような需要は一時的なもので、長続きするはずもなく、やがて反動が来ることでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


222回(2019.10.20)

今週の話題

鉄筋コンクリート製の電柱を考え直す

 9月の台風15号、10月の台風19号と、関東地方は直撃を受け、多くの地域で停電、断水の障害が長期間続いています。その反省として、電線ケーブル類は地下に埋設すべし、との意見が少なからず出ています。さらに、専門家コメントとして、欧米では、ケーブル類は全て地下に収められていて、外観上も見苦しくない、としています。日本でも同様の措置をすべきだと。

 これには、いくつかの点で、事実誤認があります。少なくとも、拙宅がある米国北東部のニューイングランドでは、状況は違っています。当地でも、ダウンタウンでは、たしかにケーブルの多くは地下に埋設されていますが、ちょっと中心街をはずれると、架空線だらけになります。甚だしいところでは、まるで蜘蛛の巣状態です。(添付写真をごらんください。)電線の地下埋設のコストは、架空線に比べて、はるかに高価なものになります。また、必要な工事も煩雑で長期間におよぶものになります。電力ケーブル、通信ケーブル、その他の各種ケーブルやパイプ類をまとめて管理するとなると、いろいろと面倒なことが出てきます。現実的に費用対効果を考えると、ケーブルの地下埋設が可能なのは、ダウンタウンのような人口密集地域に限られることになります。


 もう一つ注目すべきは、ニューイングランドで使われている電信柱が、ほとんど木製だということです。私は、ある時期から、注意して見ているのですが、鉄筋コンクリート製の電柱に出会ったことはありません。さすがに、高圧のケーブルとなると、木製電柱では対応できなくなるようですが、それでも鉄筋コンクリート製ではなく、鋼鉄製のパイプになります。今回の台風では、強風により多くの鉄筋コンクリート製の電柱が折れて、鉄筋がむき出し状態になっている様子が、報道されていました。一方、ニューイングランドでは、嵐で立木が倒壊したり、大枝が折れて、道が塞がれている様子は、よく報道されますが、電柱が折れる様子はほとんど見ません。

 これだけでは、状況証拠にすぎませんが、どうも、木製電柱は、鉄筋コンクリート製の電柱に比べて、機械的な強度が高いようです。弾性強度も大きいのではないかと考えられます。コスト的にもメリットがあるのかもしれません。少なくとも、密度や重量に関しては、木製電柱が有利といえます。重量が小さいだけに、取り扱いも楽でしょう。

 木材の優位性を示す別の事例があります。ニューイングランドでは、一般の住宅はほとんど木材で造られています。かつては煉瓦造りもあったようですが、最近の新築建造物は、基本的に木造です。さらに、最近では、かなりの高層ビルディングが木造になっているのです。添付写真が示しているように、6階建程度のビルが木造であることは珍しいことではありません。私が認識した範囲では、15階くらいの高層ビルがありました。

 木造といっても、木の質感を活かすような感覚的な理由ではないようです。写真でわかるように、木材は構造材として使われており、最終的に木材の表面は、壁材で覆われてしまいます。つまり、ビルが完成してしまうと、外観上は木造であることがわからなくなってしまうのです。ですから、構造材として木材を使う理由は、質感や外観上のものではなく、技術的な理由によるものだということができます。どなたか、本当の理由をご存知の方がおられましたらご教示ください。





 今回取り上げた、コンクリートや木材について、日本ではすでに評価は固まっており、議論の余地はないかのように見えます。日本の林業の衰退が語られるようになったのは、もうずいぶん以前のことのように記憶します。しかしながら、ニューイングランドの木材の使われ方をみていると、日本の林業にも、まだまだ活路を見出せる可能性があるように思えるのですが、いかがなものでしょうか。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


221回(2019.9.29)

今週の話題

道遠し、日本のエレクトロニクス産業の復活

 先週、再建中の日本のディスプレイメーカー大手JDI(株式会社日本ディスプレイ)が、出資を想定していた中国企業が手を引くことになり、再建計画を見直すことが余儀無くされているとのニュースが流れました。またか、という思いを持たれた方々は、少なくないでしょう。サンヨー、シャープ、パイオニア、東芝、エルピーダメモリー、ルネサスエレクトロニクス等々、この10年間で破綻したか、しかけた大手エレクトロニクス企業は、枚挙にいとまがないような状況です。かつて(1970〜80年代)世界のエレクトロニクス市場を席巻するほどの勢いがあった日本のエレクトロニクス産業の凋落ぶりは目を覆いたくなります。悪いことには、これらの企業の経営者から、まともな再建策が出てこないことです。海外の投資家から、見切りをつけられるのも当然といえるでしょう。

 高度経済成長時代には、同じ業種に大手メーカーが10社以上あっても、それぞれ成長することが可能でした。かつての通産省のリードによる、護送船団方式が、企業間のバランスをうまくとっていました。新しい冒険も、「みんなで渡れば怖くない。」という、今にしてみれば妙な企業間の信頼感がありました。

 ところが、この仲良しクラブが、事業を海外に展開するにあたって、摩擦が出てきました。新興の海外メーカーが、安い人件費を活用して、エレクトロニクス市場に侵入してきたのです。初期においては、日本メーカーのブランドや、高い品質によって、市場のシェアを維持することができました。しかし、この二十年間で新興メーカーといっても、経験を積むにしたがって、品質は向上し、着実に市場でのシェアを伸ばしていきました。気がつけば、海外市場での日本ブランドのエレクトロニクス製品のポジションはマイナーなものになっていました。具体的な例はいくらでも挙げることができます。テレビ、ビデオ、携帯電話、パーソナルコンピュータ、ゲーム機、半導体、ディスプレイ、電子レンジ、白物家電、等々。日本メーカーとしても、指を加えて見ていたわけではありません。それなりの手を打ってきてはいます。残念ながら、打ったという手も、今にしてみれば稚拙なもので、流れを変えるほどのものではありませんでした。「みんなで渡ったら、みなコケた。」ということでしょうか。

 追い詰められた日本メーカーに残された手はあまりないでしょう。それでも、日本の大メーカーは、護送船団方式の体質が抜けないようです。カンフル剤として、少なくない資金援助を募ったり、各メーカーの不採算事業部を統合して効率性を高めるなど、他力本願の動きが中心です。しかし、ダメなものをいくら集めてもダメで、ダメさ加減は大きくなるばかりです。

 そのような中で例外といえるのが、シャープのケースです。様々な曲折がありましたが、シャープは台湾のEMS最大手のホンハイ社に売却されて、100%子会社となりました。これが、シャープにとっては幸いでした。私は直接的にはホンハイとは取引はありませんので、間接的に得た情報ですが、ホンハイは金銭的には、実にしみったれで、価値が無いとなれば舌も出さないといわれています。一方で、自社の事業を拡大する上で価値があるとなれば、まとまったお金をポンと出します。ただし、出しっ放しではなく、事業の遂行にあたっては口も出しますし、手も出します。ホンハイは、シャープを買収するにあたっては、既存事業との組み合わせを真剣に検討したことは、想像に難くありません。その結果として、シャープは短期間のうちに業績を回復させ、再上場を果たしました。海外の事業も拡大させています。

 改めて、低迷する日本のエレクトロニクスメーカーの再建を考えてみるに、その要因の根の深さに唖然としてしまいます。はたして、自社努力だけで更生の道があるのかどうか、経営陣の奮起を期待したいと思います。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


220回(2019.9.15)

今週の話題

最近の台湾プリント基板市場

 以前に何度かご紹介しているように、台湾のプリント基板産業の動向は、世界の民生エレクトロニクス業界の先行きを予測する上での先行指標となっています。

今回の、半導体をはじめとする世界のエレクトロニクス産業の低迷についても、いち早くその兆候を示していました。(添付した台湾プリント基板産業の出荷動向、世界の半導体製品出荷動向のグラフをご参照ください。)

 グラフの読み方には、ちょっと予備知識が必要かもしれません。台湾の民生用エレクトロニクス製品の出荷は、毎年上半期はゆっくり立ち上がりますが、下半期は欧米のクリスマス商戦へ向けて、連続的に増大していきます。ちなみに、グラフではいずれも2月には大きく下落していますが、これは旧正月休暇による減産によるもので、毎年起きます。このように、台湾のプリント基板の出荷は、1年を1サイクルにして繰り返しながら、毎年成長を続けてきました。


 ところが昨年下半期の場合は、例年に比べて様子が違っていました。第3四半期までは順調な成長を遂げているかのように見えていたのですが、第4四半期に入ると、成長が止まってしまい、12月には大きく下落となりました。どう見ても、これは異常事態です。毎月、台湾プリント基板出荷データは、翌月の中旬には発表されます。これに遅れること2、3週間で、世界の半導体製品の出荷データが発表されます。昨年の場合、10月までは順調に伸びていましたが、11月には伸びが止まってしまい、12月には大幅下落となりました。これがトリガーとなり、世界の半導体業界は、2008年からの世界同時不況以来の低迷となります。


 業界のアナリストの多くは、2019年の下半期には反発し、2020年には回復に向かうとの見方をしています。しかしながら、最新の市場データを見る限り、楽観的な見方はできなくなってしまいます。まず、半導体の出荷動向は、連続減少傾向こそ止まったものの、はっきりした反発には至っていません。現状が踊り場的な状態で、今後再び減少に向かう可能性がないわけではありません。半導体のもっとも大きな需要家であるスマートフォンは、3年連続の減少が続いており、短期的に反発してくる可能性はなさそうです。スマートフォンの減少分を補ってあまりあるような新製品は見当たりませんし、話題の5G製品が、販売数に寄与するにはまだ時間がかかりそうです。

 台湾のプリント基板業界も、楽観的な見方はできなくなっています。7月に至って、出荷額は増加傾向になっていますが、前年同月比ではマイナス成長状態が続いています。プリント基板用の材料の出荷も低迷しています。さらに悪いことには、設備投資が非常に低いレベルに留まっています。このような状況は、プリント基板メーカーが、今後の需要について楽観視していないことを意味しています。台湾のプリント基板メーカーは、世界のエレクトロニクス生産センターともいえる、台湾のEMSメーカーと密接な情報網を構築しており、高い正確度でエンドユーザの資材調達情報を得ています。したがって、エンドユーザの販売予測や計画に変更があると、短時間の内に情報が基板メーカーに伝わります。その台湾基板メーカーが、今後の受給バランスに「守り」の姿勢を固めているわけですから、世界の民生エレクトロニクス市場の低迷は、しばらく続くと見るべきでしょう。メーカーによって、状況は違っているでしょうが、それぞれ然るべき対応策をこうじることが必要になっています。時間的余裕はあまりないでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


219回(2019.9.1)

今週の話題

JPCAショー2019(その4)

 今年のJPCAショーは、つまみ食い的に見ただけなので、全体をレビューできるような立場にはないのですが、フレキシブル基板に関連して目についたことがあります。それは、フレキシブル基板の信頼性を評価する試験装置のデモンストレーションが複数見られたことです。近年、フレキシブル基板の品質保証については、全数オープンショート試験が実施されるようになってきていますが、完成した回路の物理物性となると、メーカーとしてはなかなか手が出ないのが実情のようで、材料メーカーから提供されたデータシートで間に合わせるケースが少なくありません。中小のフレキシブル基板メーカーでは、標準的な試験設備も不十分で、担当する技術員さえ置いていない状態です。そのような中で、汎用性のある試験装置が商品化されてきているということは、大げさにいえば、業界全体のボトムアップに繋がることといえるでしょう。

 私が興味を持ったのは、ふたつの装置メーカーの製品です。ひとつはユアサ・システムズという装置メーカーのフレキシブル基板の機械的信頼性の評価装置です。(大手バッテリーメーカーのユアサとは関係ないそうです。)

 フレキシブル基板の機械的特性というと、IPC摺動試験、MIT折曲げ試験が頭に浮かびますが、このメーカーの装置は、アタッチメントを交換するだけで、ふたつの試験はもちろん、最近需要が増えている伸縮や捻れなど複数のモードで耐久試験ができるという優れものです。装置自体はコンパクトで、ジム机の上に収まる程度です。なかなか使えそうな装置です。

 もうひとつは、マイグレーション試験装置です。(不覚にもメーカーの情報を紛失してしまいました。心当たりのある方は教えてください。)マイグレーションとは、回路間に電位があると、導体の金属原子がマイナス側に移動する現象で、特に高温高湿の環境で著しく、放っておくと絶縁不良、短絡事故にいたります。このマイグレーション現象は、導体が銀の場合に著しく、銀インクを主要導体とする厚膜印刷回路では、深刻な問題になります。ところが、厚膜回路メーカーで、マイグレーション測定装置を備えているメーカーは決して多いとは言えない状況です。この装置メーカーの製品は、連続絶縁抵抗測定装置に、高温高湿チャンバーを備えていますが、コンパクトにまとまっています。この試験装置メーカーでは、受託試験も対応しているとのことです。

 ここでは、ふたつの試験装置しか紹介できませんでしたが、フレキシブル基板の試験項目は、他にもたくさんあります。今後、フレキシブル基板には新たな機能が付け加えられることが予想されます。材料メーカーや回路メーカーは、単に製品を作るだけでなく、その特性を評価する技術を確立し、できれば一般に公開してほしいものだと考えます。長期的には、そのメーカーの価値を高めることになりますし、業界全体のレベルアップにもなります。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


218回(2019.7.28)

今週の話題

JPCAショー2019(その3)

 今年のJPCAショーでは、厚膜印刷タイプのフレキシブル基板では、なかなか見るべきものがありました。画期的な技術というほどのものではないのですが、これまでのプリント基板技術では難しかったことができるようになっているところ価値がありそうです。

 これまで、厚膜印刷回路といえば、片面構成で、ラフな回路というのが、共通認識でした。ところが、最近の印刷技術と、印刷インクの性能の進歩はめざましく、銀インクで、幅50ミクロンの回路を量産することは、かなりの高い歩留まりでできるようになっているようです。小規模の量産であれば、30ミクロンの回路も形成が可能だとしています。スクリーン版メーカーは10ミクロン未満の線幅が可能だとのことです。

 多層化技術も進んでいます。両面ビアホール構造は、もうそれほど難しいものではなく、ビアホールの径も100ミクロン未満が実現しています。そもそも、厚膜回路技術にとって、多層構造は得意とするところなので、さまざまな多層構造が提案されています。多層の中に、導体層だけでなく、絶縁層や機能材料層も入れれば、軽く十層ぐらいになってしまいます。こうなると、寸法管理や位置合わせ技術がキーになってきますから、出来上がった回路のパタンズレをチェックすれば、だいたいそのメーカーの加工能力が推定できます。この分野では、実績が多い台湾メーカーが先行しているようです。

 これまで、厚膜回路の本質的な欠点とされていたのが、銅箔回路に比べて、桁違いに大きい導体抵抗です。これを一気に改善する技術が提案されています。コロンブスの卵的な単純なアイデアですが、厚膜導体の上に、金属銅を薄くめっきする工法です。めっきの厚さにもよりますが、1ミクロン未満のめっき厚さでも、導体抵抗が一桁以上小さくできる可能性があります。私自身以前に検討したことがあるのですが、めっき処理をしてくれるメーカーがなく、保留になっていました。しかし、複数の回路メーカーが試みていますので、今後大きく伸びることが期待されます。

 なお、厚膜回路への銅めっき処理がもたらす影響として重要なのが、銀マイグレーションの抑制です。これは、余禄的なメリットですが、回路にマイグレーション対策をしなくても良いとなると、技術的なものだけでなく、コストの上でも大きなメリットになります。

 厚膜印刷回路のメリットとして大きいのが、基材や導体の選択肢が多いということがいえることです。添付した写真の例では、大面積の布地にスクリーン印刷で、圧力センサーアレイを形成しています。人が睡眠中に、マットレスにかかる荷重がどのように変化するかを見ようとするものです。ベッドの中に、汗による湿気がこもらないように、通気性の良い布地を基材として使っています。


 次回も、技術的な面でのトピックスの続きを紹介します。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


217回(2019.7.7)

今週の話題

JPCAショー2019(その2)

 多少ダウンサイズとなってしまった今年のJPCAショーですが、技術的にはたくさんの新技術、新製品を見ることができました。特に、フレキシブル基板に関連する分野では、新しい業界のトレンドを見ることができました。しかも、中堅のフレキシブル基板メーカーが、新技術、新製品を積極的に出しているのが目につきました。

 最初のキーワードはウエラブルです。今年は、何社かのメーカーが伸縮性のフレキシブル基板を出し、デモンストレーションをしていました。回路の構成はメーカーによって様々です。オーソドックスなアプローチは、細長いフレキシブル基板をスパイラル状に成形する手法です。導体は銅箔です。この手法であれば、安定した導体抵抗が得られますが、回路が大きくなってしまいます。これに対応するアプローチが、ウレタンゴムのような伸縮性のベース材料を使う方法です。導体としては、銅箔をエッチング加工する方法と、伸縮性の大きい導電性インクをスクリーン印刷する方法が提案されています。いずれの場合でも、導体抵抗を安定させるために、回路は蛇行させています。課題はカバーレイになりますが、各メーカーとも手の内を明かしてくれません。汎用性のあるカバーレイ材料ができていないのかもしれません。

 次は、透明な耐熱性のある透明フレキシブル基板です。これも、何社か複数のメーカーが透明なポリイミドフィルムをベースにした回路を出展していました。これらの回路メーカーは、ラミネートメーカーから銅張積層板を購入し、銅箔をエッチング加工しているとのことです。残念ながら、材料メーカーは、透明ポリイミドベースの銅張積層板を出展していなかったので、確実なところはわかりませんが、複数の銅張積層板メーカーで供給体制ができているとのことです。ここでも、カバーレイ材料が課題になっています。とりあえず、回路メーカーとしては、透明ポリイミドフィルムに接着剤を塗布した、フィルムカバーレイを使っているようですが、この構成では、透明ポリイミドフィルムの、せっかくの透明性、耐熱性を犠牲にしていることになります。回路メーカーとしては、スクリーン印刷が可能な、透明ポリイミド樹脂の実用化を待っていることになります。材料メーカーとしては、透明なポリイミドインクの開発を進めているようですが、実用化までには、もうしばらく時間がかかりそうです。

 3番目の話題は、5Gです。今年は、高周波領域でロスが少ない、言い換えれば、低い誘電率と誘電損失の絶縁材料を使ったフレキシブル基板が多く出展されました。具体的には、ベース材料として、LCP(液晶ポリマー)フィルムが、その候補として挙げられています。液晶ポリマーフィルムが、フレキシブル基板用材料として、商品化されたのは、1990年代のことですから、素材メーカーとしては、20年以上も機会を待っていたことになります。ところが、市場の動きは速く、現在生産が需要に追いつかない状況が続いているとのことです。なかなか、需給バランスをとるというのは、簡単ではないようです。

 次回も、技術的な面でのトピックスの続きを紹介します。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


216回(2019.6.16)

今週の話題

JPCAショー2019(その1)

 6月5日から東京ビッグサイトで恒例のJPCAショー2019が開催されました。日本のプリント基板業界は、昨年の末から前年同月比で二桁のマイナス成長が続いており、業界最大のイベントの動向が注目されておりました。

 今年のJPCAショーいろいろと大きな変化がありました。第一に挙げられるのは、開催場所の変更です。従来は、東ホールを使っていましたが、今年は全てが西ホールへ移動しました。事務局の説明によれば、2020年のオリンピック、パラリンピックの開催へ向けての改修工事が入っているために、その都合で移動を余儀なくされたとのことです。来年のJPCAショーは、まさにオリンピック直前になりますので、さらなる移動を強いられ、これから新設される青海ホールに移ることになっており、交通の便が悪くなることは避けられません。

 西ホールへの移動によって、フロア面積はかなり縮小を余儀なくされたようです。これまで人気のあった各種セミナーの多くはキャンセルされてしまいました。

出展社数はだいたい前年並みとのことでしたが、前年まで大きなブースを構えていた大手基板メーカーや材料メーカーは、かなり狭いスペースでの展示をやりくりしなければならなくなったようです。受付を始めとして、各種案内やサービスは、かなり簡素化されています。業界が低迷しているので、展示会までが萎縮している感じがします。

 展示はかなり地味になってしまいましたが、来場者は少なくなく、業界の情報交換の場としては、相変わらず活発に使われていたようです。残念ながら、市場動向を楽観視する人はほとんどなく、市場の回復は、早くても第3四半期以降との見方が大勢です。特に深刻なのは日本のフレキシブル基板産業で、前年同月比で、2〜30%の減少が続いていて、回復の見通しが立っていないようです。これは、日本の大手メーカーが、海外のモバイル機器メーカーへの依存度が大きく、その反動がもろに降りかかっている状況です。日本メーカーの多くは、ひたすら、景気の回復を待つという対応のようです。一部のメーカーは、今後成長が見込める自動車分野に期待しているようですが、それとて、実際にビジネスになるまでには年単位の時間がかかるでしょうから、それまで会社がもつだろうかと心配しています。ところが、台湾筋の情報によれば、すでに3月、4月、5月と、硬質基板、フレキシブル基板とも回復に向かっており、台湾メーカーのしたたかさを感じます。

 以前は、台湾製といえば、日本製のコピーで、安いが品質が悪いというのが共通認識でしたが、現在では、その認識を変えざるを得ない状況です。今回の展示でも、台湾メーカーの製品では、ユニークなものがいくつもありました。しかも実用的で、すぐにでもビジネスになりそうなものが少なくありません。すでに、台湾のプリント基板産業の規模は、日本のそれを上回っていますが、今後その差は大きくなっていく一方のようです。

次回は、技術的な面でのトピックスを紹介します。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


215回(2019.6.2)

今週の話題

エレクトロニクス業界の低迷は底を打ったか?

 今回のエレクトロニクス業界の低迷については腑に落ちない点がいくつかあります。

 市場の急落は昨年の12月に突然始まりました。それから3ヶ月間、世界の半導体製品の出荷、世界の電子部品の出荷、台湾のプリント基板業界の出荷、日本のプリント基板業界の出荷は減少しつづけました。それが、3月に入って、少し状況は変わってきています。



 世界の半導体製品の出荷額の下落は、かなり緩やかになっています。ただし。地域別に分けてみると、中国の3月の出荷額は、わずかですが反発して増加に転じています。その他の地域は、多少下落率は小さくなっているとはいうものの、依然として減少傾向にあります。特に北米の減少率は際立っています。グラフに出てくる傾向からだけでは、この先のことは予測しにくい状況が続いているといってよいでしょう。それでも、この先1〜2ヶ月の動きを観察すれば、予測の確かさは、はるかに良くなるでしょう。

 一方、台湾のプリント基板業界の出荷額は、3月から大きく反発にてんじています。これは、旧正月休暇による季節要因の影響を差し引いても、プラス成長になります。今年の3月の出荷額は、前年同月比でプラス成長になっていますし、4月は成長幅が拡大しています。台湾の経営者は、かなり早い時期に、今回の低迷を予測しており、その対策を進めていたようです。日本のプリント基板業界の出荷額は、1月、2月、3月と少しずつ増加していますが、前年同月比では二桁減少が続いており、減少率は広がっているかのように見えます。

 一見あまり関係がないように見える景気動向も、地域別、カテゴリー別に分けてみると、その因果関係がみえてきます。ある程度先の予測も可能です。少なくとも自分のテリトリーに関して見てみれば、一般メディアや市場アナリストなる人たちよりは、たしかな予測ができます。一般の会社員ならともかく、まがりなりにも経営者やマネージャーの肩書きを持っているような人々は、自分なりの情報収拾ソースを持ち、分析能力を備えておくべきでしょう。

 メディアは、米中の貿易摩擦による景気低迷を懸念していますが、実態経済、特にエレクトロニクス業界では、かなりフェイズがズレたところで、経済が動いているのです。むしろ、自分が関わっている市場へのアクセスから得られる情報の方が信頼できます。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
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214回(2019.5.12)

今週の話題

ドラッグストアのエレクトロニクス

 以前に、米国のドラッグストアには、様々な家庭用電子機器があふれていることをご紹介しましたが、もう少し詳しく見てみましょう。ドラグストアの陳列棚に展示されているということは、特に医者の処方箋が無くても、購入し、使用できることになり、適切な価格帯が設定できれば、大きな需要が期待できます。現在、私の行きつけのドラッグストアの場合で見ますと、陳列棚の大きなスペースを占めているのは、血圧計と血糖値センサーです。

 まず、血圧計ですが、最近では日本でも家庭用の簡易モデルが、かなり普及していますが、とにかくアメリカのドラッグストアでは品揃えが圧倒的です。アメリカでは患者も多様ですから、血圧計のタイプも多くなるのでしょう。病院で使うような上腕部に巻きつけるタイプ、指に巻きつけるコンパクトタイプに分かれますが、それぞれに複数のモデルが出ています。最近のトレンドは、データ処理のスマート化です。測定されたディジタルデータは、そのまま、あるいは編集された上で、スマートフォンなどのデバイスに無線で送られます。その利便性により、価格に差がついているようです。

 メーカーを確認してみると、日本のオムロン社ブランドに存在感があります。(添付写真参照)同じような仕様の製品であれば、オムロンブランドは20%以上高い価格になっています。オムロン社の長い実績には信頼感があるようです。

 血糖値センサーはアメリカ合衆国の特殊性がよく見えてきます。米国に少しでも滞在したことがある方は認識されていることと思いますが、アメリカは極端なまでの肥満社会です。成人の半分以上が病的なレベルでの肥満体で、4、5千万人の人々が糖尿病を患っており、何らかの治療を必要としているといわれています。

 このため、米国のテレビや新聞は、ダイエットやエクササイズマシンの広告があふれ、一大産業となっています。米国の肥満体が生活習慣病であることは明らかですが、アメリカ人にとって、これまでの食生活を変えることは容易ではないようです。そのような社会環境の中で、血液中のグルコース濃度を測定することが、糖尿病診断の上で重要であることはかなり前から認識されていました。初期においては、注射器で採血し、化学分析を行っていました。やがて、針状のグルコースセンサーを血管に挿入し、グルコース濃度を連続的に測定できるようになりました。現在家庭用に製品化されている製品は、厚膜回路技術を使った使い捨てのセンサーの上に、微量の血液を垂らし、グルコース濃度を測定しているようです。(添付写真参照)これらの血糖値センサーもスマート化が進んでおり、無線で測定データをスマートフォンへ送り、編集するシステムになってきています。

 かつては、医療用電子機器といえば、価格は高いものの、数が少ない、という認識であったかと思います。しかしながら、検査装置が家庭に持ち込まれるようになり、製品の低価格化、大量消費が進んでいるようです。数千万人の患者が、毎月1個の使い捨てセンサーを消費するだけで、需要は膨大なものになることがわかります。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.
213回(2019.4.21)

今週の話題

モノコック印刷回路

 先月の台湾旅行は短期間でしたが、様々な会社やメーカーの人々とお話しすることができ、日本や欧米ではお目にかかれない技術やビジネスに出会うことができました。そのひとつが、モノコック印刷回路とでもいうべき技術で、フレキシブル基板とリジッド基板の中間に位置することになるかと思います。

 モノコック印刷回路を製作するには、まず少し厚めのPETフィルムか、ポリカーボネート(PC)フィルムの上に、スクリーン印刷で銀インクを印刷して回路を形成します。PETフィルムやPCフィルムは加熱することにより、立体的に成形することができます。冷やせば、3次元の形が維持されることになります。(写真参照)この構成であれば、印刷回路は機器筐体の一部を担うことになります。モノコック印刷回路と呼ばれる所以です。

熱成形されたモノコック印刷回路(両面スルーホール構成)

 このようなモノコック印刷回路の基本的なアイデアは、かなり前からからあり、それなりに量産化の試みもなされていました。しかしながら、熱成形時に断線が生じやすく、信頼性がない、試作に手間がかかる、などの課題があり。民生用途で量産化されるには至っていません。台湾のフレキシブル基板メーカーでは、ベース材料、導体用インク材料、熱成形のための加工条件などを、徹底的に見直し、新しいインク材料なども開発して、実用的な技術としてまとめ上げました。さらに導電性接着剤を使って、部品実装や、ケーブルの接続も可能になっています。(写真参照)


部品を実装し、筐体にはめ込まれたモノコックスイッチ回路(円形の表示部の中央部分を押すとスイッチングする。)

 3次元成形回路というと、樹脂をモールド成形して形成するモールド回路が有名で、30年以上前から、量産化のために様々なアプローチがなされてきていますが、実用レベルで成功しているとはいえない状況です。一方、モノコック印刷回路は、万能とはいえませんが、適用範囲を限定してやれば、十分実用性があるところにきているようです。メーカーでは、現在デザインルールを作成中で、近い将来、カスタマーに届けたいとのことです。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


212回(2019.4.7)

今週の話題

最近の台湾印刷エレクトロニクス事情

 ひさしぶりで台湾に行ってまいりました。桃園市にあるITRI(工業技術研究院)で開催された小規模の技術セミナーのゲストスピーカーとして招かれたためです。テーマは印刷エレクトロニクスとフレキシブルエレクトロニクスです。

規模の小さな集まりだったのですが、政府から助成金が出ているとのことで、予定していた人数を大幅に上回る参加申し込みがあり、かなりお断りしなければならない状況だったとのことです。参加者は、素材メーカー、インクメーカー、パッケージメーカー、プリント基板メーカー、フレキシブル基板メーカー、デバイスメーカーなどなどの他、ベンチャー企業とおぼしき企業名がならんでいます。何しろ台湾の企業は、漢字表記を見ただけでは、事業内容はほとんどわかりません。ただ、その発表や発言を見ていると、具体的、かつ積極的で、極めてビジネスライクです。日本では印刷エレクトロニクスというと、なかなかビジネスが立ち上がってこないという、研究者の嘆き節がよく聞かれますが、台湾では、愚痴をこぼしている暇があったら、どんどん売り込めというような勢いに圧倒されます。私個人にとっても新しい情報は少なくなく、刺激的でした。その例を2、3ご紹介ます。

 印刷インクに関する新規技術は少なくなかったのですが、興味深かったのは、銀の錯体化合物から導体インクを調整し、印刷焼成プロセスで金属銀となり、高い導電率が得られるというものでした。基本的なアイデアは以前からあったと記憶していますが、実用化したところに、敬意を表したいと思います。シリコーン樹脂系の材料システムも、医療用、ヘルスケア用のデバイスを構成する上で実用的なものといえます。シリコーン樹脂は耐熱性が高く、伸縮性があり、化学的に安定なので、医療危機に多用されていますが、安定すぎて印刷インクとの密着性がよくありません。ところが、台湾のある材料メーカーは、ベースシート、導電性インク、カバーレイ材料を同系統のシリコーン樹脂で構成し、全体のバランスをとっているので、密着性、伸縮性良好です。しかも、このシリコーン樹脂は透明なので、使い勝手が良さそうです。

 印刷で形成する圧力センサーにも実用化の進んだものがありました。メーター角以上の大きなサイズの伸縮性シート(あるいは布)の上にマトリックス状にピエゾ圧力センサーを印刷形成し、2次元圧力センサーアレイとした製品は迫力がありました。現在、ベッドや車椅子の荷重分布測定装置として実用化進められているのだそうで、すでにカスタムデザインの受注生産に入っているとのことです。このような印刷で構成する圧力センサーは日本メーカーの製品でもありますが、短期間でここまでシステムとして製品を組み上げてしまうところに、台湾の回路メーカーの凄みを感じます。

 スクリーン印刷で形成する、靴底荷重分布センサーは、もう特別な技術ではないようです。このような、圧力分布センサーは、米国でも複数の企業から販売されていますが、実際の生産は台湾メーカーが行なっているのかもしれません。

 その他、ちょっと中心話題からははずれますが、ある基板材料メーカーでは、キャスティング法で、透明ポリイミド樹脂をベースとした銅張積層板の実用化に成功したとアピールしていました。ここでは、日本メーカーをリードしているようです。

 断片的な情報で恐縮ですが、印刷エレクトロニクスやフレキシブルエレクトロニクスで、着実に実用化が進んでいることを体感した台湾ツアーでした。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


211回(2019.3.18)

今週の話題 

世界の半導体製品も急ブレーキ

 昨年の12月に至って、台湾のプリント基板業界と、世界の半導体製品の出荷が急落したことは、先にお知らせした通りですが、年が改まって1月になっても、下落傾向は続いています。(添付グラフ参照)

 いずれの地域とも12月、1月の出荷額は連続下落していますが、特に、この1〜2年で大きく成長していた中国と北米の下落率の大きいことが目立っています。ピークだった昨年10月に比べると、1月の出荷額は、全体で15%の減少率です。地域別では、北米が20%以上、中国が19%以上の下落率となっていて、縮小の大きな部分をなしていることがわかります。ヨーロッパ減少率は5%。日本が6%、その他のアジア諸国が7%となっています。グラフの下降率を見る限りでは、減少率があまりにも大きいために、現段階ではどの辺りで底を打つのか見当がつきません。

 その他のエレクトロニクス部材の生産にも影響が広がっています。世界の電子部品の出荷額は、昨年の第4四半期に入ると、減少傾向がみられましたが、12月にはガクンと急激に落ち込んでいます。(添付図参照)いずれの電子部品も急落していますが、特にこの一年間で大きく出荷を伸ばしていた受動部品の落ち込みが目立っています。

 とりあえず2月は中華圏の旧正月休暇のために、さらに減速することでしょう。その先の予測についても悲観的な発言が目立ちます。モバイル機器を扱う台湾のサプライチェーンのメーカーは、本格的な回復は、クリスマス商戦への生産が始まる第3四半期以降になるとの見方です。それとて、はっきりした根拠があるわけではありません。

 ところで、今回の世界的なエレクトロニクス市場の急落について不審な点があります。それは、日本のエレクトロニクス業界の動きがほとんど連動していないことです。強いて言えば、日本の電子部品の出荷額がいくらかの減少の傾向が見られるくらいで、ほとんどの電子機器やプリント基板の出荷は安定な状態が続いています。

 これを喜んで良いのか、悲しんで良いのかは、議論が分かれるところです。日本のエレクトロニクス企業は、一部の電子部品メーカーを除いて、世界のエレクトロニクス業界のメインストリームに寄与できなくなっていることは周知の事実です。新たなガラパゴス化の進展でしょうか。日本のエレクトロニクス産業が独自の発展をしていくのであるならば、それはそれで悪いことではありません。しかしながら、実情は日本のエレクトロニクス産業が、世界の流れから取り残されつつあるというべきなのでしょう。これは一企業の動きでなんとかなるものではありません。業界をあげて、さらに政府の後押しを加えて、長期的な観点で対応を考えて、行動していく必要があるでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


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