2018.4.24
沼倉研史のアメリカ便り
                            昭48院化 沼倉 研史
 
 
 このところ円/ドルの為替レートは一見安定しているかのように見えますが、年初に比べて数円以上円高に振れています。一方、ユーロに対してはジリジリと円安が進んでいます。メディアはあまり騒ぎませんが、輸出産業、輸入産業に少なからず影響が出てきそうです。
 ニューイングランドは新緑で、もっとも美しいシーズンを迎えます。

沼倉研史
マネージングディレクター
DKNリサーチ 
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196回(2018.4.22)

今週の話題

サンミナ・オウェゴ工場の閉鎖

 小さなニュースだったので、業界の方々も気に留めなかったかもしれませんが、米国のEMSメーカー大手のSanmina Corporationが、New YorkOwegoにあるプリント基板工場の閉鎖、操業停止を決定しました。

 サンミナといえば、1990年代、ITバブルに乗って、破竹の勢いでEMS事業を拡大していまし。(これは他EMSメーカーでも同様でした。)当時大手電子機器メーカーは、人手のかかる社内生産から、外部での委託生産に切り替える方向にあり、こぞって生産部門を従業員ごとEMSメーカーに売却しました。当時は右肩上がりの市況でしたから、買収価格も高く、銀行筋も積極的に資金を供給しました。買収に次ぐ買収で、サンミナはEMS事業だけではなく、プリント基板メーカーとして北米で最大規模の製造能力を持つに至りました。また、個々のプリント基板メーカーも、需要の増大を見込んで積極的に設備投資を続けました。材料メーカー、装置メーカーも同様で、まさにバブル景気だったといえます。

 しかしながら、バブルは長続きしませんでした。2001年に起きた、ITバブル崩壊により市場環境はすっかり変わってしまいます。需要は一気に縮小し、どのメーカーも過剰設備、過剰要員、過剰在庫に苦しむことになります。バブル崩壊後しばらくは、各メーカーとも、いずれ需要は回復してくるものと、高を括っていたようです。残念ながら、北米におけるプリント基板の需要がもどってくることはありませんでした。厳密にいえば、ある程度は戻ってきたのですが、ほとんど台湾メーカー、中国メーカーによって、需要は奪われていたのです。

 このような市況の変化は、北米のプリント基板業界に再編を強いることになります。大手メーカーの大規模工場は売却、閉鎖され、従業員はレイオフされます。バブル崩壊後2、3年で、北米のプリント基板市場から、十万人の雇用が失われたといわれています。百億円単位で新鋭設備を入れた工場に買い手がつかない状況が続き、メーカーは売却をあきらめ、操業停止、設備の叩き売りとなります。ある大規模工場では、梱包も解かれていない新鋭設備が、オークションにかけられ、購入価格の5分の一、十分の一というような捨て値で売却されていったそうです。私が住んでいるニューイングランドには、サンミナを含め、20以上のプリント基板工場が操業していましたが、大規模工場は全て閉鎖されています。この地域だけで、1万人の雇用が失われています。

 サンミナは全国ネットで多くのプリント基板工場を展開していましたが、量産のための大規模工場は、ほとんど閉鎖せざるを得ませんでした。そのような中で、ニューヨークのオウェゴ工場だけは、規模は縮小したものの操業は続けてきていました。それが、ついに閉鎖ということですので、個人的には感慨深いものがあります。

 90年代の北米のプリント基板産業は輝いていました。量産だけでなく、先端技術で、世界の業界をリードしていました。その主体となっていたのが、大手プリント基板メーカーと、大手エレクトロニクスメーカーのプリント基板部門でした。21世紀に入って、そのほとんどが無くなってしまったのです。これは、北米のプリント基板産業の技術開発力が失われてしまったことを意味します。

 現在でも、北米には200を越えるプリント基板メーカーがあるものと考えられます。そのほとんどは、従業員が百人未満の小規模メーカーです。中にはなかなかユニークな技術を持っているメーカーもありますが、世界のプリント基板産業をリードするようなものではありません。

 サンミナ・オウェゴ工場の閉鎖で、北米プリント基板産業の一時代が終わったように思えます。今後、北米プリント基板産業がどのような方向へ向かうのか、あまりバラ色の未来は描けませんが、日本のプリント基板産業にとっては、他山の石として、学ぶべきところが少なくないでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


195回(2018.4.8)

今週の話題

トイレの中のエレクトロニクス事情

 日米の二重生活をしていると、妙なところで、気にかかることが出てきたりします。そのひとつが、だれもが使うトイレの事情です。生活習慣の違いだけでは理解できない違いがあります。日本の家屋では、トイレ、お風呂、洗面所がそれぞれ独立した部屋になっているのに対して、米国では一部屋に一式全部が入っています。(アメリカではトイレのことをバスルームBathroomと呼ぶのはそのためでしょう。)使い方が違ってくるのは当然かもしれません。

 この20年で、日本の家屋のトイレ事情はずいぶん変わりました。ある統計調査によると、日本の家庭での温水洗浄便座(ウォッシュレット、WashletはTOTO社の登録商標)の普及率は80%をかなり越えているそうです。病院やホテル、デパートやショッピングモールなどを含む新築のモダンなビルは、最近では、標準的に温水洗浄便座を装備しているようです。今後日本では、温水洗浄便座の普及率は、上がることはあっても、下がることはないでしょう。最近ではいろいろな機能が付け加えられて、便器カバーの開閉まで自動になっているようです。操作には耐水性と意匠性の優れたメンブレンスイッチが標準的に使われていますここで消費されるセンサー、アクチュエーターの数はかなりのものでしょう。ちょっと気になるのは、信頼性と装置の寿命です。私が使った経験だけでも、三セット設置して、全て10〜15年で故障してしまいました。何分にも水とヒーターの制御の他に、機械的に微妙な動きを制御する機構を持たなければならないのですから、かなり信頼性の高いシステムを組み合わせなければならない事情があることは理解しますが、だからといって故障しても良いことにはなりません。

 一方、米国のバスルームにおける温水洗浄便座の普及率はといえば、かなり低いのが実情です。少なくとも、私の自宅以外では見たことがありません。(拙宅のトイレの温水洗浄便座を見て、自宅に設置した人は何人かいます。)歴史を紐解いて見ますと、そもそも温水洗浄便座は米国で開発され、初期においては日本の病院や養護施設用に輸入されていたのだそうです。しかしながら、本家の米国では一般家庭に普及することはなかったようです。ただ、自宅に設置した人の話としては、もう温水洗浄便座無しの生活は考えられないとのことですので、生活習慣の違いで毛嫌いされているわけではなさそうです。

 米国の公共トイレでのエレクトロニクス化はそれなりに進んでいます。便器の自動フラッシュ、洗面所の自動蛇口、自動ペーパータオルフィーダー、自動エアータオル、自動開閉のゴミ箱、等々。ただ、共通しているのは、信頼性が低いことです。センサーの前に手をかざしても、なかなか反応してくれません。諦めて、忘れたころに動いたりします。エレクトロニクスの自動装置の信頼性がこの程度であるならば、手動の方が良いくらいです。

 シカゴオヘア空港のトイレで、一つだけ感心したことがあります。一般にアメリカの空港ビルのトイレでは、便座の上に乗せる、使い捨てのペーパーカバーが備え付けられています。この便座カバーは、不安定で使い勝手の悪いことこの上もありません。ところが、シカゴオヘア空港の便座カバーは、ポリエチレンの袋状になっており、人が近づくと自動的に送られて新しいものに替えられます。これは、そこそこの信頼性で働いてくれます。

 欧米で発明開発された技術、製品が日本のメーカーによって、大きな事業として花開くというのはよくあるパタンですが、温水洗浄便座の場合、米国での普及が進んでいないだけに、米国メーカーにとっても、日本メーカーにとってもチャンスが残されていることになります。ただ、グズグズしていると韓国、台湾、中国の新興メーカーに油揚をさらわれてしまうことになりかねません。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


194回(2018.3.18)

今週の話題

米国の図書館事情、ITソースとして

 私はかなりの活字マニアかもしれませんが、年間200冊の単行本を読了することを目標にしていて、これを30年以上続けています。これらの本をすべて自費で購入することは、かなりの費用負担になりますので、現実には半分以上を図書館で借りることで済ましています。ですから、日本にいれば、週に1度は図書館へ出かけます。アメリカにいても、図書館はかなり利用しますが、主目的はちょっと違っていて、日本では書籍を借りることが中心であるのに対して、アメリカでは各種調査の資料集めが主体になっています。アメリカと日本では、公共図書館の目的が微妙に違っていますので、直接比較することにはあまり意味がないかもしれませんが、IT関連分野については、かなり差があるように見受けられますので、私が住んでいるHaverhill市の図書館を例にとって紹介してみたいと思います。

 Haverhill市は約7万人の人口を擁する、ニューイングランドでは大きめの都市ですが、図書館は一か所だけです。建物は新しく、築40年は経っていないでしょう。地下一階、一部三階建ての、それなりに凝ったデザインのビルです。他のニューイングランドの公共図書館が、いずれも100年以上の歴史を持つ建物を使っているのに比べると、かなり新しくモダンに見えます。内部を見たところ、蔵書はそれほど多いとはいえず、日本のちょっとした地方都市の公共図書館よりも少ない感じです。ただし、文学書や趣味の本の比率は低いようで、硬派の書籍の比率が相対的に高いようです。一方で音楽のCD、映画のDVDの点数はかなり多いようです。この図書館の職員は二十数名とのことでしたが、貸し出し業務は1、2名で大幅に省力化されています。基本的に貸し出しはバーコードで管理されています。利用者は自分の登録カードと借り出す物件のバーコードをリーダーにかざして処理すると、貸し出しリストがプリントアウトされます。返却するときも、返却口に入れると、バーコードリーダーが物件を確認してレシートをプリントアウトします。返却口は出入り口の外にも設置されているので、閉館時でも返却ができます。一度内部をちょっと見せてもらったことがありますが、ベルトコンベアが何本かあり、運送会社の配送センターというような趣でした。

 日本の図書館に比べて力が入っているのが、リファレンス部門です。ここには、司書が2、3名常駐していて、利用者が探しているものを短時間で見つけ出してくれます。当該図書館になければ、ネットワークを通じて全米の図書館にあたってくれます。可能ならば無料で取り寄せてくれます。私がネット検索でどうしても見つけられなかった米国海軍の大元の記録を、短時間で探し出してくれました。これは、マイクロフィルムになっていて、リーダーで直に見ることもできますし、プリントアウトも可能です。最近では、メモリーステックを持参すれば、無料でデジタルコピーを取ることが許されています。私の場合、千枚以上をプリントアウトしたところで、職員が気付き、アドバイスしてくれましたが、後のまつりで、机の上には、厚さが10センチ以上の紙の束ができておりました。

 圧巻なのはPC検索部門で、20台以上のデスクトップPCが常時無料で利用できるのです。ここにはトレイナーと呼ばれる専門スタッフがいて、利用者のレベルに合わせて、いろいろとアドバイスしてくれます。先入観で判断するのは問題かも知れませんが、利用者の多くはPCを自分で購入できないか、PCを使える個人的なスペースを持てない人々のように見受けられます。最近のように、IT化が急激に進むと、世の中にIT格差が生じることが懸念されますが、アメリカの公共図書館では、そのギャップを埋める役割を果たしているようです。

 Haverhill図書館で触れておかなければならないのがSpecial Collection Roomです。これは、この地方の歴史を記録した、さまざまな文書類のコレクションです。この中には各種公文書、個人的な手紙や日記、古地図や図面、ポスターなどが集められています。申し込めば、だれでも直に手に取って見ることができますし、デジタルカメラやスキャナーでデジタルコピーを取ることができます。残念なことには、この図書館も人手不足だとのことで、この部門は週に二日しか開けられません。器や入れる中身もあるのに、整理して利用できるようにするための人件費を予算化できなかったところに問題がありそうです。ニューイングランドの他の町の公共図書館では、歴史好きのボランティアを活用している例が多く見られます。いずれにせよ、日本の公共図書館とは、行こうとしているゴールが若干違っているようです。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


193回(2018.2.25)

今週の話題

ナノテック・ジャパン2018  

 2月14日から3日間、東京ビッグサイトで、恒例のナノテック2018が開催されました。最近私の体力が落ちているので、ちょっと迷いましたが、プリンタブル・エレクトロニクス2018も同時開催されるとのことだったので、ちょっとだけ覗くつもりで出かけたのですが、なかなか充実した展示があり、はからずも長居をしてしまいました。まだまだ興味深い展示がありそうだったのですが、時間切れであきらめざるを得ませんでした。

 この展示会の特徴は、素材や表面処理、特に大学、高専、研究機関からの出展が多いことです。また、海外からまとまった数の参加が非常に多いことは、普段情報が入ってこない地域の企業と接触できる機会となります。興味深い展示は少なからずあったと思うのですが、何分にも限られた時間でしたので、今回はプリンタブル・エレクトロニクスに対象を絞って見ることにいたしました。それでも、価値ある新しい技術を見逃している可能性は少なくありません。

 印刷技術については、装置メーカーが意欲的で、新しい技術が紹介されていました。注目されるものを何点か上げてみると、まず目についたのはスクリーン印刷機メーカーのミノグループです。同社では、スクリーン印刷機にパタン転写装置を組み合わせて、非平面への印刷を可能にしています。これまで、曲面への転写というと、小さな面積のものに限られていましたが、新しい機構を導入することにより、かなり印刷面積が大きくなったようです。印刷対象は、凸面でも、凹面でも適用可能です。これは、いろいろと使える場面がありそうです。

 東レエンジニアリング社は、Roll to Rollプロセスを想定した900㎜×3000㎜の印刷ワークが可能という、超大型のインクジェット印刷システムを紹介していました。さすがに印刷機実物の展示ではなく、TFTアレイを印刷形成したサンプルはなかなかの迫力です。ただ、大きさだけで比べるのであれば、スクリーン印刷では量産実績がありますので、使い勝手などで優位性がだせるかどうかが気になります。

 高速印刷機では、日本電子精機社の展示が充実していたように思います。エレクトロニクス用のグラビア印刷機やフレキソ印刷機については、同社の製品は完成度の高いレベルにあるといえるでしょう。ただ、印刷能力の限界から、実用的な用途にたどり着くのには、まだ時間がかかりそうです。

 印刷プロセスの実用化という観点で実例を示していたのが、エレファンテック社です。同社はインクジェット印刷のプロセスを活用してプラスチックフィルムの上に銀インクの回路パタンを形成し、その上に金属銅を無電解めっきして、厚膜導体の低い導電性を補っています。基本的に、同社はフレキシブル基板メーカーで、印刷プロセスを使うことにより、短納期を安価にサービスできることを、セールスポイントにしています。しかしながら、中小フレキシブル基板メーカーの試作納期もかなり短くなっていますので、どこまで競合できるかが課題です。

 厚膜印刷で機能回路まで作り上げたのが、ヒューチャー・インク社です。同社はスクリーン印刷だけで、フレキシブルサブストレートの上に、高感度圧力センサーを構築しています。皮膚に貼り付けて脈拍を検出するデモンストレーションを行っていましたが、いろいろと応用展開がありそうです。2次元センサーアレイなどはすぐにできそうです。

 時間切れ寸前になって、巡り合ったのがオランダパビリオンのブースです。なんと、いくつもの印刷回路モジュールが展示されているではありませんか。その中の一社Holst Centre社は、スクリーン印刷プロセスを使って、フレキシブルな厚膜導体回路を形成するだけでなく、受動部品やセンサーデバイスを実用化しているのです。無造作にならべられたたくさんのサンプルが、多くの実績を物語っています。責任者に直接聞いたところでは、ヨーロッパでは、同様の印刷サービスを行っているメーカーが何社かあるのだそうで、私たちの知らないところで、プリンタブル・エレクトロニクスのビジネスが動いているようです。もっと詳しい話を聞きたかったのですが、もう時間がありませんでした。

 プリンタブル・エレクトロニクス以外で、気になる技術が何件かありました。繊維メーカーのグンゼ社は、‘ニット配線’と称して、伸縮性の導電性織物を発表しています。導電性の繊維を織り込んで、一方向にだけ導電性を持たせた伸縮性のある布を開発しています。実用化のためには、もう一工夫ひつようでしょうが、なかなか面白いアイデアです。

 回路形成のための新しいセミアディティブプロセスを提案していたのが、大阪産業技術研究所(ORIST)です。一見地味な技術ですが、プラスチック樹脂の上に導体金属を直接無電解めっきする技術をベースにしており、今後増大するウエラブルエレクトロニクス分野では、価値のある基礎技術になるものと考えられます。

 ナノテックの全貌を見たというのには程遠いのですが、今年も多くのユニークな技術や企業に出会いました。来年はもっと時間をとってじっくりみたいと思います。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


192回(2018.2.11)

今週の話題

好調続く台湾プリント基板業界

 世界の民生エレクトロニクスの生産基地である台湾のプリント基板産業の出荷状況が好調です。例年、台湾のプリント基板産業の出荷額は、年末商戦に向けて、初夏から体制が上がり、10〜11月にピークを形成、あとは減少傾向となります。ところが、2017年の場合、年末商戦向けの出荷は例年よりも1ヶ月早く始まり、月ごとに出荷額が増え続けますが、10月には減少に転じます。前年同月比の成長率も下がります。これでシーズンは終わったかと見えましたが、11月には再び増加となり、前年同月比の成長率は20%を越えます。さすがに、12月の出荷額は減少していますが、成長率はさらに上昇しています。

 2017年における台湾プリント基板産業の合計出荷額は、前年比9.6%増の5944億台湾ドルとなっています。日本円に換算すれば、約1兆8千億円です。これは、日本のプリント基板業界全体の3〜4倍の規模です。世界的な景気回復が伝えられる中で、他の国や地域のプリント基板産業が前年並みか微増に留まっています。それに比べて、台湾は規模、成長率とも際立っており、世界のプリント基板産業での存在感を増しています。

 品種による違いは小さくありません。出荷額では27.1%を占めるフレキシブル基板が、成長率では大きく上まわっています。硬質基板の成長率が4.2%に留まっているのに対して、フレキシブル基板の成長率は27.1%となっています。12月に限ってみると、実に69.6%の成長率です。市場規模の4分の一程度のフレキシブル基板が、全体の伸び率の大きな部分を担っていることがわかります。年末の段階で、メーカーの状況を聞いたところ、大手フレキシブル基板メーカーの製造部門は、いずれも超繁忙状態で、新規の受注を断らざるを得ない状況だとのことです。

 このような、台湾フレキシブル基板業界の繁忙さは、米国のアップル社の影響が大きく寄与しています。アップル社は昨秋リリースしたiPhone8iPhoneXの販売が計画未達と伝えられていますが、それでも、実際に組み立てを行なっている台湾のEMSメーカーの生産体制は、かなり高いレベルを維持しています。加えてアップル社は、ノートブックPCのマックブック、タブレットPCのiPad、スマートウォッチのアップルウォッチの新しいモデルが、順調に出荷を伸ばしているようで、主要構成部品であるフレキシブル基板の出荷も、着実に増えているようです。

 ただし、台湾のフレキシブル基板メーカーといっても、アップル社の主要ベンダーとなっているのは、ZD Technology社とFlexium社の2社だけで、2社の合計出荷額は、1300億台湾ドルを越えています。両社とも、2017年の出荷額は、それぞれ前年比で30%を越えています。日本のフレキシブル基板メーカーの主要エンドユーザーがアップル社であることは同じなのですが、主要ベンダーとしてのポジションは弱くなっているように見受けられます。アップル社向けのフレキシブル基板ベンダーとしては、最近韓国メーカーが参入してきていますが、まだ安定したメーカーとしてのポジションを確立するには、もうしばらく時間がかかりそうです。

 台湾のフレキシブル基板メーカーが、アップル社のサプライチェーンの中で優位にあるのは、納入先のEMSメーカーが台湾メーカーだということです。(実際の組み立ての大部分は中国で行われています。)これは、単に距離が短いだけでなく、コミュニケーションやコストの面でも、効いてきます。かつては、日本のフレキシブル基板メーカーが技術力や品質面で優位にあったのですが、その優位性はほとんどなくなっています。このままでは、日本メーカーのシェアは減り続けることになるでしょう。残念ながら、出荷統計の数値は、日本メーカーの地盤沈下を裏付けているようです。

 年が改まると、台湾のエレクトロニクスメーカーの生産体制は、新年と旧正月休暇のために、1月2月と縮小します。そのため、フレキシブル基板の出荷も減少します。問題は、どの程度減少するか、3月の反発が十分に起こるかどうかです。その程度によって、2018年における、世界の民生用エレクトロニクスの動向を予測できることになります。これからしばらくは、台湾のプリント基板市場の動向に注目です。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.
191回(2018.1.21)

今週の話題

インターネプコン 2018

 1月17日から3日間、東京ビッグサイトで、47th INTERNEPCON 2018が開催されました。他のエレクトロニクス関連の展示会が、いまひとつ盛り上がらない中で、INTERNEPCONだけは、毎年規模が大きくなってきています。今年の場合、出展社は2500社を越え、ビッグサイトの全てのフロアを使っても収容しきれず、通常なら使わないロビースペースや通路にまではみ出してブースを設営するような状況です。来場者の数も相当なもので、通路は人で溢れ、ブース間の移動もままなりません。これはもう、効率の良い探索を行えるレベルを越えています。3日間フルに使っても、ほんの一部にしかまともに見ることができません。

 INTERNEPCONといっても、昔ながらの部分はほんの一部で、関連して多くのイベントが併設されています。特に自動車関連の展示ははるかに大きく、全体の半分近くを占めています。その他にロボット関連、スマート工場、ウエラブルなどの新しいテーマのイベントが加えられ、展示会としての規模は膨れ上がっています。

この巨大な展示会の全貌をレビューするなどという無謀な試みは、早々にあきらめ、私の仕事に関係の深いプリント基板、パッケージ、電子材料に焦点を合わせて、集中的に見て回ることにしました。しかし、この目論見はうまくいかないことがわかりました。たとえば、プリント基板メーカーを考えた場合、プリント基板のゾーンにブースを構えているメーカーは、ほんの一部で、多くのメーカーは、自動車関連のゾーン、ロボット、ウエラブル関連のゾーンなどに分散しているのです。そして互いのゾーンは、かなり離れているのです。このような状況ですから、プリント基板の展示について全体をレビューすることなど、ほとんど不可能なのです。やろうとするのであれば、事前に出展社のリストの中から、プリント基板メーカーをピックアップして、ブースの位置を確認しておき、緻密な巡回ルートを作っておく必要があります。しかし、2500社におよぶ出店者リストには、プリント基板メーカーをいう目印が付いているわけではないので、メーカー名がわかっていない限り、かなり難しい作業になります。主催者にはこのような状況をなんとか改善していただきたく、善処をお願いしたいと思います。

 というようなわけで、特定の分野といえども、全貌を把握することは困難な状況でしたので、目についたものを、つまみ食い的に紹介することで我慢しなければなりません。

 まず、プリント基板関連ですが、中国メーカーの進出が顕著です。(おそらく10社以上)特にフレキシブル基板メーカーが目立ちます。台湾メーカーは確認できませんでしたが、もしかしたら、台湾ゾーンが別に何箇所かあったようなので、そちらに入っているのかもしれません。その他、タイの大手メーカーであるKCE社、ヨーロッパの最大手であるAT&S社が大きなブースを構えています。中国メーカーは、いずれもフレキシブル基板やリジッド・フレックスを出展しています。ただ、サンプルを見る限りでは、スマートフォンなどの量産品に使えるレベルではありません。ただ、この勢いで、実力を付けていけば、早晩日本や台湾、韓国の大手メーカーに追い付いてくることでしょう。海外メーカーでも、さすがにAT&S社は別格で、多層基板、フレキシブル基板、リジッド・フレックスとも、信頼性が高いと思われる製品を並べています。スマートフォンの主要メーカーにも採用されているようです。

 日本メーカーでは、CMK、メイコー、パナソニック、デンソーなどの大手の他に、中堅やベンチャー企業として、大洋工業、沖PCB、沖電線、K2、P-ban.comなどの名前が見えます。業界の大手メーカーの多くが出展していないのはさみしいところです。ちょっとユニークだったのは、デンソーのPalapシステムで、液晶ポリマーを使って、高速伝送用の多層基板、フレキシブル基板、リジッド・フレックス、部品内蔵基板を実現しています。液晶ポリマーを使う試みは、決して新しいものではありませんが、いよいよ量産レベルで実用化に入ったということでしょうか。高周波回路用低損失材料として、米国のRogers社が、フッ素系のラミネート材料を持ち込んできていますが、日本の多層基板メーカーに受け入れられるかどうか興味深いところです。

 日本のリジッド基板メーカーの多くは、リジッド・フレックスを手がけるようになっているようです。ただ、展示されたサンプルを見る限りでは、スマートフォンのようなモバイル機器に採用されているとは思えません。硬質基板に比べて市場の伸び代が大きいと考えられる、フレキシブル基板市場に、なんとか食い込もうとする意図が感じられます。これは中国メーカーも同じです。

 ファインパタン関係では、JCU、奥野製薬、上村工業、石原ケミカル、日本エレクトロプレイティング・エンジニヤースなどの薬品メーカーの展示が意欲的です。それぞれ独自のセミアディティブプロセスによる、10ミクロン未満の高密度のサブストレートやフレキシブル基板の実現を目指しているようです。あるメーカーによれば、2ミクロン未満の回路も実現可能だとのことです。その他、スパッタリングプロセスの置き換えによるフレキシブル銅張積層板の量産を目指しているメーカーもあるようです。この分野は、今後目玉になるものと考えられますが、参入しようとしているメーカーも多いので、今後主導権争いが激しくなることでしょう。

 ちょっと唐突かもしれませんが、興味深かったのは、フレキシブル基板の電気検査装置です。ヤマハファインテックは、4点式のビアホールテスターを実用化していますが、これが主要なスマートフォンに使われるフレキシブル基板メーカーでは、標準的に装備するようになってきているとのことなのです。この検査は、従来のオープン/ショート検査ではなく、抵抗値の閾値によって選り分けます。つまり、これまで信頼性保証の基準があいまいだったビアホールの半断線のような不良も、全数検査により検出しようというものです。フレキシブル基板にも、半導体IC並みの品質保証体制が要求されているということです。このような情報は、ブースに展示されているわけではなく、説明員との会話によってはじめて得られる情報です。

 パッケージ関連で、まったく新しいタイプのメーカーにめぐりあいました。ドイツの企業で、AEMtecという名前の会社です。この会社は、産業機器用に、少量多品種でさまざまの半導体パッケージを受託生産しているのです。個々の技術でみると、それほど特別なものはないのですが、それぞれ信頼性の高い技術を採用しており、モジュール全体として見るからに安定感があります。今回展示していたサンプルはフレキシブル基板のサブストレートに直接半導体チップを搭載するCOF(Chip on Flex)とでもいえるもので、民生用のそれとは似て非なるものです。米国の航空宇宙用の設計とも違っています。使っているフレキシブル基板の設計からして違っています。それなりに高い実装密度で、はんだ接合、ワイヤボンディング、ダイレクトボンディングなどを採用しています。現在主に扱っているのは、光学素子だそうです。

 規模が大きくなり過ぎて、かなりフラストレーションがたまる展示会ではありましたが、それなりに得るものもありました。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


190回(2017.12.24)

今週の話題

SEMICON JAPAN 2017

 12月13日から3日間、東京ビッグサイトで、恒例のSEMICON JAPAN 2017が開催されました。もう10年以上低迷が続いている日本の半導体業界ですが、今年は会場を、これまでの幕張メッセから、東京ビッグサイトへ移して、心機一転を図ったようです。そのためか、来場者の数は増えているように感じます。展示の規模はこれまでとあまり変わっていませんが、内容は新しい技術も加わり、質的な変化をもたらしているようです。

 かつてはDRAMを中心に、世界の半導体業界を席巻しているかのように見えていた日本の半導体業界ですが、近年では、組立、検査まで含めて、韓国、台湾、中国メーカーに主要市場を奪われてしまい、日本メーカーとしては新しい方向性が求められています。これは、半導体製品メーカーばかりではなく、材料メーカー、製造装置メーカーにも求められるところです。

 今年あたりのSEMICONを見たところでは、主要テーマとして”World of IOT”が掲げられ、各メーカーとしては、関連して新しい市場を模索している様子がうかがえます。ただし、大手半導体製品メーカーからの出展は無く、現在の主要製品であるプロセッサー、メモリー、撮像デバイスなどの動向は、いまひとつ見えてきません。一方で、新規市場を拓くべく、各メーカーは少量多品種への対応をアピールしています。典型的なのがミニマルラボで、多様な製造装置を並べ、多様な半導体デバイスを、試作から中規模まで生産しようというものです。横河電機は、社内で消費する産業機器用の特殊半導体デバイスを社内加工するために、一通りのウエーハープロセスの他に、設計、組立、評価検査までの設備を装備しており、これを活用して、ファブレスメーカーの小規模試作から対応して、新規半導体デバイスのビジネスを取り込んで行こうとの戦略のようです。

 私の個人的な興味としては、デバイスのパッケージ、組立、およびそこで使われるサブストレート材料などが中心なのですが、残念ながら今年の場合、この分野でのメーカーの出展はそれほど多くはありません。それでも、各々の分野ごとに代表的なメーカーがブースを出していましたので、それらを紹介したいと思います。新光電気工業は、パッケージ材料メーカーとして、一通りの製品をそろえていて、それぞれ業界のトップレベルのサブストレートを紹介しています。今年の展示では、それに加えてウエラブルデバイス用に、フレキシブルサブストレート、医療用デバイス向けに伸縮性サブストレートを紹介しています。これらのサブストレートを加工するには、フレキシブル基板の技術、厚膜印刷技術などを採用していて、要素技術自体は新しいものではないものの、回路設計と組合せはユニークで、実用性の高いものに仕上がっています。新光電気のように、半導体パッケージを中心に製品群をそろえてきていたメーカーが、メディカル分野にテリトリーを広げていること自体、業界の方向性の変化を表していると言えるでしょう。東レエンジニアリングは、実装関連の各種製造装置の主要メーカーですが、今年はフリップチップボンダーを中心にして、自動検査装置、さらに関連会社のレイテック社の高密度フレキシブル基板を組み合わせて、特にウエラブルデバイスでの用途展開を図っているようです。

 今回SEMICON JAPANは、限られた時間範囲での視察でしたので、半導体業界の全貌をレビューすることはできませんが、一方で、ウエラブルデバイス、メディカルデバイスの分野で、特にフレキシブルデバイス技術の新しい展開を垣間見ることができたかと思います。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


189回(2017.12.10)

今週の話題

新元号問題

 今上陛下のご退位と徳仁親王殿下のご即位のスケジュールが決まり、2019年5月1日から新しい元号に変わることになります。一般メディアでは、2019年のカレンダーや手帳をどのように対応させるかを心配しています。印刷業界では、新年度のカレンダーや手帳を、新年の半年以上前から準備を始めます。ところが、政府は新年号を半年前に公表するとしています。そうすると、新年までに2ヶ月しかありませんから、とても間に合いそうもありません。関連企業はどのように対応するか頭が痛いところでしょう。

 そもそも日本が元号を使うようになったのは大化の改新が行われた西暦645年とされていますが、きちんと制度が定まったのは、文武天皇5年(701年)の大宝で、以後現在の平成まで、1300年以上も連綿と続いています。ただし、現在の一世一元(一人の天皇に一つの元号)が決められたのは、明治になってからで、これまでに適用されたのは、大正天皇と昭和天皇だけです。明治天皇が即位したのは慶応年間で、明治天皇の在位は二つの元号にまたがっています。

 ところで、一般メディアではあまり取り上げていないようですが、IT業界では、より深刻な問題があります。それは、様々なソフトウェアの年号の切り替えです。西暦2000年に際して一騒動起きたY2K(2000年)問題に似ています。昭和から平成に替わった時代は、まだIT時代が始まる前のことで、多くのソフトウェアが、平成という年号がいずれ替わるものであるということを想定して作られていなかったと思います。その後30年で、ネットワーク技術の進展に伴い、ITシステムは極めて複雑なものになり、一元的に管理することは極めて難しいものになっています。少なくとも、平成という年号を新しい年号で入れ替えれば済むというものではありません。(日本のお役所の書類は、西暦ではなく、日本の元号で記入することになっていますから、その紙を作り変えるだけで、膨大な労力と費用が必要になります。)例えば、運転免許証の有効期限の表示などが面倒なものになることはすぐに理解できるでしょう。また、昭和末期に生まれた人の年金受給資格を計算するのも、3つの元号にまたがるだけにややこしいものになりそうです。コンピュータ上の年金記録が失われて大問題になったのは、記憶に新しいところです。

 しかし、新元号問題はシステムエンジニアリングの会社にとっては、一時的とはいえ、大きなビジネスチャンスになります。一般企業やお役所は、そのための要員を抱えているわけではありませんから、この30年間に導入された膨大な量のソフトを自力でチェック、修正することは困難です。いきおい、専門のシステムエンジニアリング会社に委託せざるをえません。おそらく、政府や地方自治体の多くはそのための予算を用意していません。規模の小さい地方自治体にとってはつらいことですが、SE会社にとっては棚からぼた餅的なビジネスになります。特に元のシステムを作ったメーカーにとっては、随意契約になる可能性が高いので、有利になります。

 さらにSE会社にとって都合が良いことは、この仕事のゴールがはっきりしないこと、ここまでやれば大丈夫という基準がないことです。元号切り替えに際して、特に大きな問題が生じなければ、自分たちの仕事が完璧だったと言えますし、もしトラブルが発生すれば、事前の想定が不十分だったと言い訳することができます。これは、Y2K問題の時に経験済みです。多くの企業や、政府、団体が、SE会社に煽られて、膨大な費用をつぎ込みましたが、大したトラブルは発生しませんでした。しかし、元号切り替えでは、多くの書類に変更が必要になるので、無傷というわけにはいきません。

 日本の元号制度は、古代中国に習って作られたものですが、現在の中国では使われていません。台湾では、元号のようなものを見る事がありますが、これは孫文が中心となって中華民国を建国した年(1912年)を始まりとしたもので、昔の中国の元号とは違います。かつて、朝鮮やヴェトナムのような中国文化圏では、元号が使われた事があるようですが、現代ではほぼ消滅しています。つまり、現在でも元号制度を使っている先進国は日本だけということになります。したがって、元号切り替えによって、問題が起きるのは、ほぼ日本に限られることになります。

 普段、日本国内に暮らしている分には、それほど不便を感じないかもしれませんが、海外に出かけることが多くなると、西暦で統一する方が便利であることは疑問の余地はありません。仮に今回の切り替えは乗り切れるとしても、2、30年後には、また同じ問題が確実に巡ってきます。しかも、状況はもっと複雑になっていることでしょう。今回の元号切り替えに際して、政府は長期的、かつグローバルな観点で対応をしなければなりません。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


188回(2017.11.19)

今週の話題

ブラックフライデー、今年の売れ筋商品は?

 十月末のハロウィーンが終わると、米国はブラックフライデー(今年は11月24日)に向けて、一斉にクリスマス商戦に入ります。ですから、この時期に、大手量販店のキャンペーンを見れば、その年の売れ筋商品と主要メーカーの力の入れ具合が分かってしまいます。ということで、ニューイングランド地区の大手量販店を何軒か回ってみました。

 まず目に付くのは、やはり薄型テレビです。少し前までは、韓国のSamsungLGの存在が圧倒的でしたが、今年は、他のメーカーの進出が目立ちます。店によっては、日本のソニー製品に対して、韓国メーカー並みに展示スペースをとっています。その他は、日本、米国、ヨーロッパ、中国などのブランドが並んでいます。(実際のメーカー、製造国は別)ただ、各メーカーとも、特徴を出すのには苦労しているようです。基本的に今年の製品は高精細の4Kタイプで、見栄えをアピールしていますが、違いは明確ではありません。これまでLGがセールスポイントにしていた曲面テレビは、だいぶトーンダウンしています。いきおい、価格競争が激しくなっているようです。50インチサイズの4Kテレビに、400ドル以下、300ドル以下という値段が付いていますが、日本に比べてどうなのでしょうか。小売店としては、別売りのオプションを付けて、違いを出そうとしているようです。際たるものが、高音質スピーカーで、サウンドバーと称する横長の製品がたくさん出ています。また、高級音響機器の老舗である米国のBOSE社は、スピーカーを中心に据えたテレビセットをアピールしています。価格は安くありません。また、家庭シアター用の豪華テレビセットも、かなり出ています。こちらは、1500〜2000ドルといったところでしょうか。

 音響関連では、高音質ヘッドセットのプロモーションが目立っており、各メーカーとも力を入れているようです。ここでも、米国のBOSE社は別格です。高級品は数万円にもなりますから、下手な大型テレビよりも値が張ることになります。重量あたりの値段では、はるかに上回っているわけです。

 スピーカーということで、今年華々しくデビューしているのが、スマートスピーカーで、多くのメーカーが新製品を出してきています。ただ、製品のコンセプト、機能、価格帯が絞り込めていないようで、各社各様です。各社とも、今年は様子をうかがうといったところでしょうか。

 スマートフォンは、今年もキャンペーンの中心です。火災事故からの復活をかけるSamsungGalaxy 8AppleiPhone 8, Xが真正面から火花を散らす様相で、他のメーカーの存在は影が薄くなっています。一方で、米国では、大手キャリアによる囲い込み競争が激しく、ATTVERAIZONSPRINT3社のつばぜり合いとなっています。家電量販店などでは、3社を並べて紹介している店もあります。テレビ広告では、キャリアがiPhoneを組み合わせるケースが目立ちます。

 ウエラブルデバイスとしてのスマートウォッチは、メーカーの乱立から、fitbit社が一歩抜け出しているようです。一方で、GoogleAndroidネットワークによる囲い込みを図っているようです。しかし、ここでもAppleは、Apple Watchで孤高を保っています。

 この2、3年縮小傾向にあった、パーソナル・コンピュータは、復活をかけてメーカーはキャンペーンに力が入っています。ここでは、MicrosoftWindowsAppleの競合が鮮明です。販売台数では、Windowsグループが圧倒的ですが、高級機種となると、Appleに軍配が上がるようです。Apple社は、デスクトップPCからタブレットPCまで幅広い製品群を揃えているのに加えて、スマートフォンやスマートウォッチ、iCloudをリンクさせて、パーソナルネットワークサービスをうたっています。そのため、小売店には専用の木製テーブルを用意させ、製品群を一望できるようにしています。ユーザーは、ひとつの製品を購入すると、他の製品も欲しくなり、さらに定期的にアップグレード品を購入させるという戦略のようです。一方のMicrosoftは自社のPC製品として、デタッチャブルのノートブックPCを出しているわけですが、今ひとつ人気が出てこないようです。その他大勢の中で、比較的頑張っているように見えるのが、ASUSなどの台湾メーカーです。実際に製品を生産している強みでしょうか、低価格攻勢に出ているようです。残念ながら、この分野では、日本メーカーの名前は全く見られなくなってしまいました。

 デジタルカメラの動向は、この2、3年大きく変わってきています。コンパクトカメラはほとんど姿を消し、ショウケースは高級機種と交換レンズで占められています。メーカーはほとんど日本のニコンとキャノンで占められています。従来のデジタルカメラに替わって増えているのが、家庭用やオフィス用のセキュリテイカメラです。以前はカメラ単体でしたが、最近はシステムとしセット販売になっているようです。

 ゲーム機は、任天堂、ソニー、Microsoftの三つ巴の戦いが続いています。ただ、小売店によって取り上げ方に偏りがあるようです。もっとも、ゲーム機全体としてトーンダウンしているような感じを受けます。話題になっている任天堂のSwitchが目立って見えるのは、気のせいでしょうか。

 ドローンは、エレクトロニクス製品としてのポジションを確立したようで、品揃えが豊富になっています。安いもので百ドル台から、高いものは千数百ドルのものまで並んでいます。高級機種は、8ロータで、カメラが標準装備されています。結構中国メーカーが多いようです。

 ちょっと異質なのは白物家電です。冷蔵庫に大きなディスプレイが付き、IoT技術を活かして、内容物を管理することを志向しているようです。ここでは、韓国のSamsungLGが熾烈な戦いを続けています。電子レンジなどでは、Panasonicの名前も見られますが、GEHamilton Beachなど、米国ブランドも結構見受けられます。

 全体として、大きな目玉商品は見当たりませんが、各々の製品ごとに、ユーザーの購買意欲を捉えようとする新しい試みが認められます。残念ながら日本メーカーの存在は影が薄くなる一方のようです。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


187回(2017.10.29)

今週の話題

神戸製鋼、日産、そしてさらに、

 このところ、大手メーカーの品質保証体制が問題になっています。最初の火付け役になったのが、神戸製鋼社の出荷検査データの改ざんで、次いで日産自動車の無資格社員による出荷検査、さらにすばる社でも同様の検査処理が行なわれていたことが、明らかになっています。問題なのは、品質保証体制の不備が露見した大手メーカーの経営陣に、品質に対する基本的な考え方が抜けていることです。一応、陳謝した後で、「ユーザーでのトラブルにはなっていない。」とか、「製品仕様には余裕があるので、実際の事故に至ることは考え難い。」というような言い訳をしています。これは泥棒の論理とでもいうべきもので、そのメーカーの品質保証が根本的なレベルで改善されることは望むべくもありません。

 私は、日米の複数のエレクトロニクス部品、材料のメーカーで、品質保証の責任者の立場にありました。程度の差はあるものの、品質保証部門に対する会社の理解が十分なレベルにあったのは、少数派といってよいでしょう。多くのメーカーにおいて、品質保証部門は、経営トップから、製造部門から、そして営業部門から、さまざまな形で圧力を受けます。いわく、「製造は誠実に生産を行っているのに、無責任な検査で出荷が止められている。」「抜き取り検査で見つかった、わずかな不良のために、全体の出荷が止められるのは理不尽である。」、「出荷検査で不良が見つかったときには、その場で検査員が修理すれば、時間も手間も最小に抑えられる。」等々。極め付きは、あるメーカーのトップが公言していたもので、「品質保証は、製品に価値を付け加える訳ではないので、会社全体としての生産性を上げるには、品質保証部門は小さいほどよい。全く無いのがベストで、品質は工程で作り込むものである。」というものです。このトップは、品質保証や品質管理の勉強を多少はしていたようですが、自分の経営哲学に則して都合の良い言葉だけを取り上げ、品質に関する基本的な理念は抜けているように見受けられました。後日談になりますが、品質保証の責任者であった私の主張が、社長に受け入れられることはなく、やがて私は退社することになりました。この社長は、ハーバードのビジネススクール出身のMBAエリートで、若くして社長に抜擢されていたのですが、その後会社の業績は下降線をたどり、十年と経たないうちに、上場停止、廃業となりました。

 日米のメーカーを比べてみると、基本的な品質保証体制に大きな考え方の違いはありません。しかしながら、実際の運用面では決定的な違いが見受けられます。多くの日本メーカーにおいて、製造はもっとも重要な部分とされていて、組織が大きいだけでなく、部門長には会社の実力者が配置されています。一方、品質保証部門は、製造の付け足し程度の組織で、その責任者には、定年目前の気力不十分の人物が配置されていることが少なくありません。それでも、大きな品質トラブルがなければ、このような体制でも仕事は動いています。ところが、問題は小さなところで始まります。出荷前の抜き取り検査で、不合格が出て、品質保証部門としては、規則に則って、出荷を許可せず、製造部門に差し戻します。製造部門としては、作り直し、あるいは選別検査や修理などの処置をした上で、再検査を受けなければなりません。ところが、製造部門としては、そのための要員を抱えている訳ではなく、時間やスペースさえ限られているのが普通で、とても予定通りのスケジュールでは出荷できません。営業部門は納期遅延を起こさないように督促してきます。こまった製造工程管理の担当者は、窮状を部門長に訴え、解決を図ります。大物の製造部長は、品質保証課長との直談判におよび、時間が無い、実質的品質上の問題は無い、最終的な責任は俺が持つ、などの理由を並べて、特採(特別採用)を押し通します。まさに無理が通れば、道理が引っ込むが絵に描かれたような図式ですが、多くのメーカーで見かける構図です。一度通ってしまうと、後は際限なくなり、検査工程そのものや、品質保証部門が無くなってしまったりします。それでも、仕様不満足や、検査記録の改ざんがいつまでも見つからないわけはありません。やがて、小さな欠陥がきっかけとなり、会社そのもの破綻に至りかねないことは、最近の事件が示す通りです。

 このような品質問題が起きる背景に、日本製の品質に対する(悪い意味での)信頼があります。製造する人間はわざと不良を作ろうとしているわけでは無い、という都合のよい性善説に従った理解があります。また、日本製品は過剰品質で、そのためにコスト高になっているという神話もかなり広がっているようです。一方で米国の品質保証システムは、性悪説に従っているかのように見えます。そこでは、人間は本質的に怠け者で、きちんとルールを決めずに放っておくと、品質や生産性はどんどん悪くなるという考えです。その典型的な例といえるのが、MIL規格やUL規格による管理です。そこでは、仕様だけではなく、検査方法、データやサンプルの保存管理なども、厳格に決められており、個人の作為が入る余地はあまりありません。現実に米国では、MIL規格は軍の調達品以外の民生品でも適用されている例が少なくありません。

 さて、皆さんの会社の品質保証体制は大丈夫でしょうか。事が発覚してからでは、遅すぎます。このような大手メーカーの品質保証体制が問題になっている今こそ、改めて自社の体制を見直してみてはいかがでしょうか。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)

dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


186回(2017.10.8)

今週の話題

CEATEC JAPAN 2017

 10月3日から4日間、千葉の幕張メッセにおいて、恒例のCEATEC JAPAN 2017が開催されました。最新の日本のエレクトロニクス産業の動向を見るには、年に一度の機会ですので、二日目に出かけました。

 最寄り駅の京葉線海浜幕張駅から、今年はちょっと様子が違います。駅構内やメッセに至る道筋にある案内の表示は相変わらず控えめですが、数は増えているようです。受付も小規模で、地味です。来場者は、ネットで登録をし、自分でプリントアウトした登録証を、自分でホルダーに入れて入場します。

 会場のフロアサイズは昨年とほぼ同じです。ということは、展示会の規模は小さいままで、大手メーカーの顔ぶれもほとんど変わりません。ただ、来場者の数は、明らかに増えています。午後になると、人の波は大幅に多くなり、通路から溢れました。

 展示の様子は、総合電機メーカーと大手部品メーカーとでは、かなりスタンスが違っています。大手電機メーカーは、揃い踏みと言いたいところですが、ソニーは出展していません。また、経営再建中の東芝も、出展を控えたようです。海外の大手メーカーは、中国のLenovo社だけです。出展した大手メーカーも、ブースはコンパクトにまとめられています。しかし、各ブースは、大手メーカーの方向性を探ろうとする人々で溢れ、なかなかディスプレイを見ることができないような混雑ぶりです。ちょっと気になったのはシャープです。ご存じの通り、シャープは台湾のEMSメーカー最大手のホンハイ精密に買収されましたので、純然たる日本メーカーとはいいがたいのですが、それだけに日本メーカーとの違いが目立ちます。その一つが、8kテレビでしょう。ほとんどの日本メーカーが自社でのディスプレイパネル生産から撤退する中で、社内での生産を続けている強みをアピールしているようです。

 各社に共通するキーワードはIoTです。それにAIVR、ヘルスケア、ウエラブル、エコ省エネルギー、物流などが加わります。ただこれだけでは、あまりにも抽象的なので、各社とも具体的な製品のイメージを出すのに腐心していることがうかがえます。アピールしているのは、家庭生活における利便性、安全性です。それでも、実際の製品となると、実際の形があるものにするのには苦労しているようです。もの作りを強みとしてきた日本メーカーとしては、苦労するところかもしれません。その点、白物家電で一日の長があるパナソニックは、製品のコンセプトがわかりやすく、一歩リードしているようです。メーカーの製造現場での、効率の良い生産管理システムも何社かで紹介されていました。このように、実際に使われるシステムは、商品化のイメージが作りやすいのでしょう。

 部品メーカーは元気で積極的です。大手メーカーはいずれも、大手総合電機メーカー並みの大きなブースを並べています。TDK、村田製作所、太陽誘電、ニチコンなどの受動部品メーカー、アルプス電気、オムロンのようなモジュールメーカーが、それぞれ得意分野でアピールしています。部品メーカーは製品コンセプトがはっきりしているので、展示もわかりやすくなっています。それに加えて、省エネルギー、物流システムなどで、総合電機メーカーを越える具体的な提案をしています。人気も上々で、人でいっぱいで、近づくこともままなりません。大手半導体部品メーカーの出展はほとんどありません。わずかに、ローム社が、ブースの一部に展示した程度です。現在の、日本の半導体業界の状況を考えれば、仕方ないことかもしれません。JAE、TE、SMKなどの大手コネクタメーカーの出展もなかなか意欲的ですが、新製品の内容がそれほど画期的でなかったせいか、人の入りは今ひとつです。

 残念ながら、期待していたプリント基板メーカーの出展はほとんど見当たりませんでした。わずかに、フレキシブル基板メーカーの山下マテリアルとフジクラがささやかな展示をしていたのが認められた程度です。山下マテリアルは、大電流基板や、高周波回路用など特殊回路用基板を中心とした出店でしたが、フジクラは、光ファイバーと超電導が中心で、フレキシブル基板の影は薄くなっていました。

 自動車メーカーからは、ホンダと米国のテスラだけでした。ホンダはクリーンエネルギーについてアピールし、テスラは最新の電気自動車を展示しています。

 海外からの出展は増えているように見えます。ただし、大手企業は少なく、ほとんどは中小企業です。台湾は大きなパビリオンを用意し、多くの中小企業が出展しています。大部分は電子部品の受託加工メーカーですが、小型ディスプレイメーカーが少なくとも3社ありました。日本では、このようなモジュールを製作するメーカーがあまりないので、この分野は台湾メーカーに席巻されそうです。韓国、米国、中国(昆山)、韓国、インドもまとまったスペースに多くの企業が出展しています。インドは今回が初めての出展だと思うのですが、多くのメーカーは、ハードの製品ではなく、ソフトを売り込んできているようです。1社だけですが、ポーランドからの出展がありました。Advanced Graphene Productsというベンチャー企業で、グラフェン素材を様々な形に加工して販売しているとのことでした。

 総じて見ると、日本のエレクトロニクス業界にもいくらか回復の兆しが見えるようになってきているようですが、業種によってかなり差が出ているようです。部品業界がかなり活況を呈しているのに対して、大手総合電機メーカーは、まだ方向性がはっきりとさだまるには至っていないようです。CEATEC JAPANが世界の民生エレクトロニクスの情報センターの位置を取り戻すには、もうしばらく時間がかかりそうです。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


185回(2017.9.3)

今週の話題

回復に向かう台湾プリント基板業界、その他の地域は?

 ほとんどの電子機器は、大なり小なりプリント基板を使います。しかも、新規のエレクトロニクス製品を立ち上げるにあたっては、まずプリント基板の製作から始まりますから、業界の試作モデルの動きを見ていれば、新製品のリリース状況が、ある程度推定できると言われる所以です。特に台湾は、世界の民生用エレクトロニクス製品の生産基地と言われるほど、市場シェアが高いので、そこで消費されるプリント基板の動きは、世界のエレクトロニクスの先行指標となっています。

 その台湾プリント基板産業は、2016年に、2009年以来となるマイナス成長を記録しました。これは、プリント基板の主要な需要家であるパーソナルコンピュータの低迷が続いた一方で、スマートフォンの成長が鈍化しているためです。今年に入っても、出荷状況は不安定で、例年の動きとは異なる、毎月上下を繰り返す状況が続いていました。年初からの出荷額累計は、マイナス成長が続いていました。しかし、第2四半期も終わり近くなって、プラス成長が安定して続くようになってきています。例年下期に入ると、台湾のエレクトロニクス産業は、年末商戦へ向けてのスパートがかかります。プリント基板の出荷も、直線的に増大します。今年は、上半期は不安定だったものが、下半期に入って、順調な成長傾向に戻ってきているようです。年初から7月までの出荷額累計は、前年同期比で2.6%のプラス生長になっています。この傾向が続けば、2017年通期の出荷額の成長率は、5%を越える可能性も出てきます。

 このような市場好転の背景には、パーソナルコンピュータ市場の回復があります。世界的には、未だにマイナス成長の領域にありますが、台湾メーカーに限ってみれば、プラス成長の領域に戻ってきています。米国内の量販店の展示を見ても、韓国、中国、日本メーカーの製品の影が薄いのに対して、台湾ブランド、および台湾製米国ブランドの製品には勢いが見られます。加えて、スマートフォンの新機種立ち上げが始まったことがあります。昨年に比べて、立ち上がりが1ヶ月ほど早まっており、しかも増加率が大きくなっています。このような市場の変化は、特にフレキシブル基板の需要に大きく反映されています。7月の出荷額では、前年同月比で、硬質基板が1.5%の成長に留まっているのに対して、フレキシブル基板は26.6%の大きな伸びになっています。年初からの累計でも、9.9%と二桁に近い成長を果たしています。通期では、ほぼ確実に二桁成長となるでしょう。台湾のフレキシブル基板生産の中に占める、米国アップル社が占める割合はかなり大きいのですが、今年はiPhoneの発売から10年の節目に当たりますので、9月には意欲的な新製品の発表が予定されているようです。当然のことながら、そのためのプリント基板の量産は始まっています。

 日本のプリント基板業界は、相変わらず足踏み状態が続いています。6月にはいくらか戻したものの、年初からの出荷累計は、金額で0.2%の成長、数量では、8.4%の増加となっています。つまり、生産量は増えているのに、売り上げは横ばい状態なのです。ただし、内容は、コアとなる主要品種によって大きく違っています。フレキシブル基板のコアになる、両面多層回路の6月の出荷額は、前年同月比で、47.7%の大幅増なのに対して、数量では5.3%の増加に留まっています。日本の大手フレキシブル基板メーカーの主要ユーザーは、海外のモバイル機器メーカーです。ユーザーが、販売単価の単純な値上げを受け入れることはありませんので、新モデルの立ち上げに伴い、高付加価値製品への移行が進んでいるものと考えられます。

 一方硬質基板のコア製品である、ビルドアップ基板は、金額で8.6%の減少、数量で7.6%の増加というアンバランスが生じています。背景には、基板メーカーが、仕事量を確保するために、ユーザーの値下げ要請を飲まざるをえないという構図が浮かび上がってきます。硬質基板メーカーの主要ユーザーは、国内の機器メーカーです。これらのメーカーの業績は低迷が続いているので、基板メーカーとしては、限られたパイの奪い合いとなりがちです。もう一つのコア製品であるリジッド系モジュール基板も低迷しています。出荷額で、12.7%の減少、出荷数量で2.6%の増加となっています。ここでも販売単価の下落が顕著です。モジュール基板の主要なユーザーは、半導体メーカー、半導体パッケージメーカーです。このところ、世界の半導体業界は好調で、着実に業績を伸ばしています。しかし、日本のモジュール基板メーカーは、すっかり取り残されているようで、韓国メーカーや台湾メーカーに市場を奪われているようです。

 順調な回復基調にあると言われる北米市場でも、プリント基板産業の業績はあまりかんばしくないようです。今年になって2月以降のB/Bレシオは、ずっと1.0より大きな値を維持しているのに、実際の出荷は増えていません。毎月の受注額はプラス成長を果たしているのに、出荷額の方は、マイナス成長の状況が続いています。年初からの出荷額の累計は、前年同期比で4.4%の減少となっています。今後、大きな改善の兆候がなければ、2017年もマイナス成長ということになりそうです。

 ドイツのプリント基板業界は、昨年から荒っぽい動きが続いています。年初から、6月までの出荷額の累計は8.1%の増加ということになっていますが、下半期まで維持できるかどうかは不透明です。

 韓国では、プリント基板業界の統計データがないのでわかりにくいのですが、出荷額の合計は、2013をピークにして、3年連続で減少しています。ここにきて大きいのは、Samsung社のスマートフォン、ギャラクシーノート7の発火事故の影響です。最近になって、失地を回復すべく、ギャラクシーノート8をリリースしましたが、2017年に、どの程度の効果が出せるのかはまだ未知数です。

 こうしてみると、世界のプリント基板業界全体としては依然として足踏み状態である中で、台湾だけが2、3歩先行してきているようです。台湾のプリント基板業界は、規模が大きく、技術的にもリードしているので、しばらくは、業界を牽引していくものと考えられます。注目していくべきでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


184回(2017.8.6)

今週の話題

アメリカ市場で復活するシャープ?

 シャープの親会社である台湾のEMSメーカー最大手Hon Hai Precisionは、米国と中国で新たにフラットパネルディスプレイとテレビの生産を開始することを公言していますが、最近になって米国市場でテレビの販売を開始することを発表しました。もちろん、シャープのテレビ技術とブランド力を活用してのことですが、それに先立って新しいシャープの新しいブランド名を作るというアナウンスがありました。これを聞いた時に、「アレッ」と違和感を感じました。というのは、シャープが台湾のホンハイに買収されてからも、アメリカ市場では、液晶テレビを初めとしていくつかのシャープ製品が販売されていたからです。北米市場で長い実績のあるシャープブランドを、あえて変更する必要性があるとは思えません。

 ちょっと気になるので調べてみたところ、なんと米国における「SHARP」や「AQUOS」などのブランド名を、中国の大手電機メーカーである海信集団に、去年売却していたのです。ですから、現在アメリカで販売されている電気製品は、日本や台湾のシャープの製品ではなく、中国メーカーのシャープ製品という、

ややこしいことになるのです。シャープとしては、米国でのテレビ事業の再開にあたって、「シャープ」ブランドの買い戻しの交渉をしたようですが、相手にされなかったようです。

 念のために、米国の量販店の様子を調べてみました。現在でも、「SHARP」の名前がついた大型液晶テレビや電子レンジが並んでいます。ロゴはかつての「SHARP」と同じです。よく見ると、後ろに「ROKU」との意味不明の添え書きがしてあります。しかし、日本製、あるいは日本ブランドであることを示す表示は見当たりません。はっきりしたメーカー名の表示もありません。よくよく見回したところ、梱包の底に、小さく「Made in China」の表示が見つかりました。表示の上では、嘘を言っているわけではありませんが、消費者が日本メーカーの「シャープ」と誤認識してくれることをねらっているのは明らかです。

 同じような話が、かつての大手電機メーカーだった三洋電機でもありました。ご存知の通り、「サンヨー(SANYO)」のブランドで世界的に知られていた同社は、2008年の世界同時不況による事業低迷から、自社努力による再生を諦め、2011年に、パナソニックに吸収合併され、その後のリストラにより会社としての実態も名目もなくなっています。ところが、米国では依然として「SANYO」ブランドのテレビやオーディオ製品が販売されているのです。この場合も中国の電気メーカーが、米国市場における「SANYO」ブランド名を買収し、自社製品の販売に使っているのです。量販店で調べてみましたが、やはり明確なメーカーや生産地の表示はありません。ご丁寧なことには、梱包の箱の表には、はっきりと「50 YEARS IN THE US!」と印刷されています。ここまでくると、虚偽の表示スレスレですが、結果的には表面的な表示に惑わされる方の負けです。ある筋から聞いたところによると、パナソニックはサンヨーのブランド名を十数億円で売却したのだそうです。中国のメーカーにしてみれば、ずいぶん安い買い物だったことでしょう。この程度の広告宣伝費用で、しかも短時日で、信用のあるブランドを構築することなど、ほとんど不可能でしょう。

 これらの例を見ていていろいろと考えさせられるところが少なくありません。まず感じるのは、日本メーカーのブランドの価値に対する認識の低さです。何十年もかけて築き上げたブランドの、市場における信頼感は、簡単にお金で評価できるものではありません。一方、安く売りに出ているブランドに目をつけて、すばやく自社製品のプロモーションに活用するすばやさには驚きです。ブランドがあるからといって、すぐさま売れるわけではありません。表示の切り替えには、それなりに準備が必要でしょうし、実際の販売店にはそれなりの売り込みと説得が必要でしょうから、1年足らずの短時間で必要な作業を完了させることは、それなりの能力と言えます。おそらくほとんどの日本メーカーにとっては、実現困難なことでしょう。実務的な作業としてはともかく、自尊心や見栄から、他社が使っていたブランド名を使うことなど思いつきもしないでしょう。

 それにしても、今回の事例で考えさせられるのは、思いもよらない形で、中国製品が欧米市場に入り込んできていることです。メーカーの買収やブランドの買収以外の手法もあるのかもしれません。改めて、米国で販売されているものを見渡してみると、疑わしい代物が少なからず見つかります。逆の目で見れば、東芝のブランドなどは、かっこうの標的になるでしょう。気が付いたら、周りは中国製品で固められていた、ということになりかねません。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
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183回(2017.7.23)

今週の話題

M-Tech Japan 2017

 6月21日から3日間、東京ビッグサイトで、恒例の機械要素技術展(M-Tech)が開催されました。合わせて、設計・製造ソリューション展、3D&バーチャルリアリティ展、医療機器開発・製造展も開催されました。エレクトロニクス関連の部材を主に扱う展示会ではないのですが、機械加工や表面処理などで、エレクトロニクス分野ではなかなかお目にかかることがないユニークな技術に出会うことがあるものですから、私は毎年出かけることにしています。普段出会うことのない地方の中小メーカーに接することができるのも楽しみです。

 今年の場合、主催者側の発表によれば、2450社が出展したとのことで、ビッグサイトの東ホールは、各社のブースで埋め尽くされておりました。人出も相当なもので、3日間で十万人近い来場者があったとのことです。こうなると展示ブースの中はもちろん、通路や休憩所も人でいっぱいで、ちょっとベンチに座って一休みということもままなりません。よくこれだけ人が集まるものだと思いますが、インターネプコンなどの他の展示会に比べて、来訪者の目的が違っているようです。

 エレクトロニクス中心の大規模展示会では、業界の動向や、競合メーカーの動きを調べることを主目的に人を送り込むことが少なくありません。ところが、M-Techの来場者の多くは、メーカーで現場を預かるエンジニアのようなのです。女性の比率は、ぐっと小さくなります。彼らは、製造現場で課題を抱えていて、それを解決するための技術や、それを請け負う受託メーカーを探しているのです。最終製品の形態は種々雑多なものです。彼らは次世代の主流となるような画期的な技術を求めているわけではないので、対象となるのは中小メーカーで、多くは地方に拠点を置いている企業が多くなります。M-Techはそのようなメーカーとユーザーが出会う機会を提供する格好のイベントということができます。

 ところが、ここで問題があります。これらの地方の中小メーカーは、専門の営業スタッフを抱えているわけではないので、自力で中央の展示会に出展するには高いハードルがあります。そこで、県を初めとして積極的な地方自治体は、独自に大きなブーススペースを確保して、そこに地元の企業でユニークな技術を持つメーカーをまとめて、出展の斡旋をしています。各企業は、煩雑な準備作業や経費を最小限にして出展することができます。ただし、ほとんどの企業は、最小限度のブーススペースですので、展示できる内容は限られてしまいます。ブースのディプレイは垢抜けしているものではなく、来場者の目に止まりにくいものが少なくありません。今年の場合、多くの海外のメーカーが同じような方式で参加しており、台湾、韓国、タイ、中国などが巨大なブースを構えています。おそらく、出展社の半分以上は、このような大型集合ブースでの参加と考えられます。さながら大規模地方物産展の様相です。地方でまとめられているので、その自治体のブースに収容されている業種は雑多です。このような方式は、特定の技術や製品、メーカーを探しているエンジニアにとっては、あまり効率の良いものではありません。特定の技術がまとまったエリアにあるわけではないので、何社か候補のメーカーを比べてみようとすれば、各自治体のブースをローラー作戦で回らなければなりません。これには多大な時間と労力を要します。3日間通いつめた挙句に、成果がゼロということになりかねません。このようなイベントの主催者は、どうしても、出展社と来場者の数を増やすことに多くの労力を割くようですが、展示会の規模がここまで大きくなった現在は、より効率の良い展示会を目指してもらえないものかと思います。

 M-Techは元々、機械部品の加工技術を中心にして始まった展示会だと思います。現在でも、最も単純な機械部品であるネジやバネを主要製品として出展している企業が少なくありません。部外者から見れば、技術的にはかなり成熟しているように見える単純な機械部品でも、未だに新しい技術が開発されていることに感銘を受けました。しかも、国内での製造で、ビジネスが成立していることに驚きです。

 そのような状況でしたので、私は全体を見て周ることは、早々に諦め、一部の区域だけで、我慢することにしました。それでも、いくつか興味深い技術に出会いました。そのひとつは、医療機器のゾーンにあった会社です。この会社は、各種診断装置で肌に触れるセンサーモジュールを作っているとのことでしたが、電極部は伸縮性の素材の上に、導電性インクをスクリーン印刷で回路形成しているとのことでした。ブースの説明員によると、主要工程は国内の自社工場で処理しているとのことでしたが、自分たちが、印刷エレクトロニクスや伸縮性回路の量産を行っているとの意識はほとんど無いようでした。このケースは、必要に迫られて(ニーズ)、材料やプロセスを選択したもので、自社保有技術を活用して(シーズ)製品を開発したのではありません。どうしても、エンジニアは自分の開発した技術に思い入れがありますから、自社技術を中心に考えがちですが、ビジネスとして成功させるにはニーズ優先で考えるべきということを教えてくれているようです。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


182回(2017.7.2)

今週の話題

JPCAショー(続き)
           透明回路、伸縮性回路

 今年のJPCAショーでは、フレキシブル基板メーカー、材料メーカーの展示において、いろいろと新しい試みが認められました。中でも、共通の話題となっていたのが透明フレキシブル基板と、伸縮性フレキシブル基板です。両者とも、何年か前から見かけるようになってはいたのですが、最近のウエラブル・エレクトロニクス、メディカル・エレクトロニクスの進展に伴って一気に具体化した感があります。

 透明フレキシブル基板については、少なくとも4社のメーカーが出展しておりました。圧巻だったのは、沖電線のNPI(新製品紹介)プレゼンテーションだったと思います。会場に準備された椅子は満席状態で、多くの聴衆が立見席での聴講となりました。沖電線の説明によれば、基材は透明なポリイミドフィルムで、回路の透明性と耐熱性を確保するために、旭電化研究所と協力してめっき法により銅張積層板を開発しています。ベースに使われた透明耐熱性フィルムについては具体的なメーカーが明らかにされていませんが、複数のメーカーがあるとのことです。また、今回の開発に使われた材料は、透明ポリイミドフィルムのようですが、沖電線は他の耐熱性プラスチックフィルムを使って、機能性のフレキシブル・デバイスの可能性を指摘していました。沖電線は、このフレキシブル銅張積層板をエッチング加工して、両面スルーホール構成の回路を形成しています。また、プロセスの詳細は明らかにされていませんが、カバーレイについても、透明で、耐熱性のある材料、プロセスを開発しています。

 沖電線が自社のブースに展示したのは、複数のLEDをはんだ付け実装した三次元立体モジュールで、回路の耐熱性、柔軟性、透明性をアピールしていました。

 透明フレキシブル基板に関係して、材料メーカーによる透明耐熱性フィルムの展示は見受けられませんでしたが、透明カバーレイについては何社かの材料メーカーに積極的な動きが見られました。ただ、多くはスクリーン印刷を想定したインクタイプの材料で、ラミネーションを想定したフィルムタイプの材料は、1社が地味に紹介しているだけでした。インクタイプの材料でも、耐熱性と透明性を兼ね備えるためには、結構技術的なハードルが高いようです。そのような中で、透明ポリイミド樹脂を使った、三和化学の製品は、かなり完成度が高いように見受けられました。しばらくは、透明で耐熱性のあるフレキシブル基板の話題が続きそうです。

 一方、ウエラブル・エレクトロニクスの進展に伴い、伸縮性フレキシブル基板の話題もたくさん見受けられました。伸縮性回路と言っても、大きく分けて、二つのタイプがあるようです。ひとつ目は、細長いフレキシブル基板をスパイラル状に整形したもので、以前固定電話の受話器に使われていたカールコードの構造に似ています。フレキシブル基板の構成自体には、細長いこと以外には特別なことはあまりないのですが、極細ケーブルとなると、回路密度や整形後の信頼性にそれなりのノウハウが必要になるようです。多くのメーカーが、内視鏡やカテーテルのようなメディカルデバイスの用途を狙っているようです。

 もう一つの伸縮性回路のタイプは、ベース材料、導体材料自体が伸縮性を持っているものです。具体的には、ウレタンやシリコーンのようなゴム材料、さらには絆創膏などに使われる布材料が注目されています。このような場合、原理的に導体材料として銅箔が使いにくいので、現実には厚膜印刷回路が使われているようです。それでも、回路パタンとしては特殊なものになりそうです。結果として、回路加工プロセスとしては、スクリーン印刷が中心になります。このようなコンセプトの回路は、医療用の診察装置の電極として多くの実績があるのですが、特に材料メーカーとしては、より高い機能を付加することで、製品のマージンを大きくしようとの目論見のようです。さらにヘルスケア用の使い捨てデバイスとなれば、ある程度の量も出ると、期待が膨らみます。ただ、市場が大きくなると、参入メーカーも増え、競争も厳しくなりますので、価格は下がり、マージンも小さくなります。スクリーン印刷は、設備と材料があれば、比較的容易に実用化ができてしまいます。競争の厳しい市場で勝ち抜くには、それなりの工夫が必要です。ただし、安易な工夫はすぐに真似されるか、より優れた製品に取って代わられますので、定常的に新しいアイデアを創出していかなければなりません。その会社に総合的な体力が求められます。チャレンジする会社の成功を祈っています。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


181回(2017.6.19)

今週の話題

JPCAショー 2017

 プリント基板専門の展示会としては世界最大級のイベントであるJPCA SHOW 2017が6月7日から3日間、東京ビッグサイトで開催されました。何分にも、日本のプリント基板業界は長期縮小傾向にありますから、そろそろ新しい動きなど見られるのではないかと、出かけました。

 展示会場の大きさは、ほぼ昨年と同じくらいでしょうか。ただし、会場が細長くなっているので、大きくなっているような印象を受けます。出展社の顔ぶれは、だいぶ変わってきています。基板メーカー大手のCMK、イビデン、日本メクトロンといったところは健在ですが、展示製品の件名は多いものの、新規性のあるものはあまり見当たりません。かつて常連だった大手メーカーの名前が見えなくなっています。かえって中堅クラスのメーカーの存在感があります。今回は韓国と台湾のメーカーの出展はほとんど見られませんでした。代わって、中国の基板メーカーの出展が目立ちました。ただし、台湾メーカーに関しては、業界団体であるTPCAが、一大キャンペーンを張っているのが目立ちました。

 人出はずいぶん多くなっているように感じました。受付には朝から長い行列ができて、受付だけで30分以上かかるような状況でした。事務局に確認したところ、前年比十数%増加しているとのことです。海外からのビジターもかなりのもので、特に韓国と台湾からと見られる来訪者が少なくなかったようです。どうも一般庶民の考えることは皆同じで、このような市場の後退局面では、自分の手の内はあまり見せずに、同業他社の動きは確認しておきたいという後ろ向きの姿勢が見えてきます。

 かつて、プリント基板用の主要材料といえば、銅箔と銅張積層板でした。ところが、今年の材料メーカーの展示を見てみると、銅箔と銅張積層板関連の製品は極めてささやかで、ナノパウダー、ナノインクというような機能材料の新しい材料を前面に出して売り込んでいるようでした。意欲的だったのは化学品メーカーで、JCUや奥野製薬などが、半導体パッケージ用途を想定して、回路幅2、3ミクロンの超微細回路を形成するセミアディティブプロセスを提案しています。

 製造装置の展示では、従来タイプの設備の展示が減っています。典型的なのはドリリング装置で、従来の機械的な多軸ドリリング装置が減って、レーザー方式の装置に重心が移っているようです。露光装置やエッチング装置など、かつての主流製品は、目立たなくなっています。代わって増えているのが、フレキシブル基板の後加工装置です。RTRラインでのトリミング装置、補強板仮付け装置、外形加工装置など、細かい加工プロセスの自動化が進んでいるようです。

 基板の実装関係の展示はアクティブで、パナソニック、YAMAHAJUKIなどの主要実装機メーカーはいずれも大きなブースを用意し、デモンストレーションには多くの観客を集めていました。ただし、セールスポイントは細かい改善が中心で、各社とも、より高い生産性、信頼性、操作性などをアピールしています。以前に多く見られたEMSメーカーは、かなり減ってしまい、今年出展したのは、日本メーカーのUMCエレクトロニクス社だけでした。

 フレキシブル基板関連で今年話題になっていた技術が二つあります。耐熱性透明フレキシブル基板と伸縮性フレキシブル基板です。これらの技術については、新しい話題もあるので、次回のニュースレターで、もう少し詳しく紹介したいと思います。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


180回(2017.6.5)

今週の話題

ボストンのサブウェイトロリーバス

 マサチューセッツ州の州都であるボストンは、合衆国きっての古都と言われる都市で、有数の観光地でもあるために、様々の形態の交通機関が集まっています。

市内には地下鉄が5系統複雑に敷設されており、郊外には放射状に伸びる10本ほどのCommuter Railがあり通勤通学者の足になっています。さらに、ニューヨークやメイン州ポートランドに至る長距離列車のアムトラックがあります。その他観光用には、トロリーバスや、モビーダックの愛称で知られている大型水陸両用車があります。

 さて、ボストンの地下鉄についてなのですが、私も5系統の内、シルバーラインと呼ばれている路線が一番新しいことは知っていました。一方で、ボストン空港内には、各ターミナルビルを周る幾つかのバス路線があり、その一つがシルバーラインと呼ばれていて、ダウンタウン方面に行くことも認識していました。しかし両者はまったく別のものだと理解しておりました。何分にも、一方は地下鉄で、一方はバスなのですから。ところが最近になって、前回のニュースレターでも触れたBoston Convention & Exhibition Centerに地下鉄で行くことになり、レッドラインのSouth Stationまで行って、シルバーラインに乗り換えるために、プラットホームを移動して驚きました。なんとそこにはレール軌道がないのです。しかし、他の乗客は当たり前のようにプラットホームで列を作って待っています。やがてやってきたのは、日本の地下鉄のイメージからは程遠い、2両編成のトロリーバスでした。

 しかしながら、そのトロリーバスの動きを見て、謎は氷解しました。シルバーラインとは、電気モーターとディーゼルエンジンを搭載したハイブリッドトロリーバスだったのです。強いて言えば、ハイブリッド・サブウェイ(地下)トロリーバスとでもいえる代物なのです。ダウンタウン地域では、専用の地下道を電気力で走り、郊外に出ると、トンネルから出て、架線のない一般道をディーゼルエンジンで走るのです。私が空港で見ていたのは、電気を取るためのパンタグラフは収納し、一見普通の大型バスにしか見えないトロリーバスだったのです。

 改めて、この交通システムをレビューしてみて、考えさせられるところが少なくありません。レール軌道がなく、トンネルの大きさを小さくできるので、施工費用は大幅に小さく抑えられます。トンネル内ではゴムタイヤを電気モーターで駆動して走るので、地下鉄に比べて、はるかに静寂です。地下鉄の駅と繋がっているので、改札のための業務、設備は最小限度で済みます。ただ、東京やニューヨークの地下鉄のような大人数の乗客には対応できません。おそらく、中規模都市や大規模地下鉄の支線や乗り継ぎ線として、力を発揮するのではないでしょうか。


 地下鉄の駅に繋がっているトロリーバスのプラットホーム
 (バスの上から出ている2本の黄色い線がパンタグラフ) 

 エコロジーの立場からすると、ちょっと不満が残るかもしれません。それは、ハイブリッドとはいっても、ディーゼルエンジンを使っていることです。しかし、二次電池の能力は日進月歩ですので、ディーゼルエンジンがバッテリーで置き換えられる日はそう遠くないことでしょう。(車両メーカーに確認しましたら、そのようなハイブリッドトロリーバスは、もう実績があるそうです。)

 ボストンのトロリーバスを見ていると、ハード面よりも運用に関するソフト面でのノウハウが大切な感じがします。特に、日本の地方都市で、これからの交通システムを担当されている方には、一度ボストンを視察されることをお勧めします。メーカーの方々は、自社のシステムの優れていること、利点ばかり強調します。弱点についてはあまり触れません。その点、ボストンのシステムは、(良きにつけ悪しきにつけ、)かっこうのお手本になるでしょう。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


179回(2017.5.21)

今週の話題

BIOMEDevice 2017 in Boston

 5月3日、4日と、Boston Convention and Exhibition Centerにおいて、医療機器関連のイベントであるBIOMEDeviceが開催されましたので、何年かぶりで出かけました。合わせてMD&M Event, PLASTEC NEW ENGLAND, Design & Manufacturing NEW ENGLAND and ESC (EMBEDDED SYSTEM CONFERENCE) も開催されています。日本ではあまり知られていないかもしれませんが、ボストンを中心とするニューイングランド地方は、医療技術の先進地域で、Massachusetts General Hospital(MGH) を始めとして多くの先進医療機関がある他に、数多くの医療用デバイスメーカーが活動拠点を置いています。その中には多くの中小ベンチャー企業が含まれています。このイベントは、このような医療機器メーカーを対象とした、テクニカル・コンファレンスが主体となっており、メーカーによる展示会はおまけのようなものです。コンファレンスに出席したエンジニアが、自分たちが計画している新しい医療デバイスを製作するのに必要な部材やメーカーを見つけるのを手助けしようという考えのようです。

 展示会には約400社の企業が出展していましたが、いずれも一コマかふたコマの小さなブースばかりですので、全体としてはかなりコンパクトにまとまっています。広大なコンベンションセンターの十分の一も使っていないでしょう。東京ビッグサイトと比べれば、東館のホール一つ程度です。この中で、日本メーカーのキャノンが、EMSメーカーとして、大きなブースを構えていて、目立つ存在となっておりました。

 出展者のサービス分野は実に多様で、様々な加工メーカーが含まれています。エレクトロニクス関連では、機構設計、回路設計から始まって、プラスチック成型加工、金属材料の各種加工、ハイブリッド材料の加工、各種表面処理、レーザー加工、各種印刷、プリント基板の製作、ワイヤーハーネスの製作、基板への部品実装、EMSサービス、検査分析等々、ファブレスメーカーや自分で工程を持たないメーカーが外注を考えている場合、ほとんどのプロセスを見つけることができるでしょう。しかも、個々のメーカーの技術は世界的に見ても、トップレベルか、それに準ずるものです。

 プリント基板関係では、硬質多層基板メーカーが2、3社と、だいぶ少なくなっているのが気になります。一方、フレキシブル基板メーカーは十社以上出展していましたが、地元のメーカーは少なく、多くは中西部や西海岸に拠点を置くメーカーです。それも、基本的に中規模のメーカーで、少量多品種を主に扱っているようです。ただ、いずれのメーカーとも、台湾や中国に協力工場を持っており、量産対応もできるとしています。技術的には、超微細回路というよりは、多層回路、多層リジッド・フレックスの形成、さらにはフライイングリード構造など、特殊な構成が多く見られます。最近のトレンドに乗って、スマートウォッチ用の高密度多層リジッド・フレックス、メガネタイプのウエラブルデバイス用に設計された複雑な構成のフレキシブル基板などが注目されました。米国メーカーも、民生機器の先端部分では関わってきているようです。

 個々の技術でも、医療用機器以外で使えそうなユニークな技術が少なからず見受けられました。3件だけ上げておきます。Sat Plating社は様々なプラスチック樹脂成形物に直接金属メッキを行うプロセスを確立しています。3Dモールド回路の形成に有効でしょう。PhotoMachinning社は様々なレーザーを駆使して、金属箔やポリイミドフィルムに1ミクロン未満の超微細穴を開けています。スブミクロンレベルのビアホールが可能になりつつあります。TechEtch社は異なるエッチャントを使って、複合ラミネート材料の三次元エッチングを実現しています。両面スルーホール構造と、フライイングリード構造を併せ持つフレキシブル基板でも容易に加工できるそうです。

 各メーカーに聞いてみますと、このようなユニークな技術の多くは、既存のユーザーの要求に基づいて、開発されているようです。TQCで言うマーケットインのアプローチと言ってよいでしょう。日本のメーカーの多くが行っているプロダクトアウトのアプローチとは対照的です。このようなアプローチでは、大化けはあまり期待できませんが、医療用機器のように、多品種少量生産で、特殊仕様が多い分野では有効なのでしょう。
 
DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


178回(2017.4.23)

今週の話題

ファインテック、フィルムテック・ジャパン

 機能材料の主要展示会であるファインテック・ジャパンが4月5日から3日間東京ビッグサイトで開催されました。元々、この展示会は有機材料素材を中心としていたと思うのですが、順次高機能フィルム展、高機能プラスチック展、高機能金属展、高機能セラミックス展、光・レーザー技術展、光通信技術展などが加わり、どんどん規模が大きくなりました。今年はそれに接着・接合EXPO、映像伝送EXPOが加わりました。事務局の発表によると、出展者は1600社を越えたそうで、拡張されたビッグサイトの東ホールのフロアのほとんどがブースで埋め尽くされました。来場者の数も相当なもので、初日からブース間の移動もままならないほどの混雑ぶりでした。そろそろ限界に近いようで、次回は装いを新たにして、年末の12月上旬に幕張メッセでの開催になるとのことです。

 とにかく、1日や2日でこのような大規模で、大混雑の展示会を、一通り見て回るということは、ほとんど不可能のような感じがします。私の体力を考えると、使える時間は1日足らずですので、はじめから、ファインテックとフィルムテックに限定して見て回ることにしました。それでも、気になるブースで話し込むと、15分や20分は、すぐに過ぎてしまいます。全体をレビューするなどということは、及びもつきません。気になったところだけを、ピックアップしてみることにします。

 大手の機能材料メーカーは、この展示会を重要視しているようで、いずれも大きなブースを用意しています。目立ったのは、大日本印刷、トッパン印刷、東洋紡、帝人、ユニチカ、クラレなどです。ただ、各社ともこれぞというような目玉製品はあまりなく、たくさんの小型新技術を並べています。それでも、多くの来場者が押しかけ、ブースの中に入ることもままならぬような状況です。そのようなわけで、個々の新製品について聞いて回ることは困難な状況でしたが、強いてまとめてみると、多くはディスプレイ、それもフレキシブルなOLEDパネルへの適用を目指しているようです。関連して、タッチパネルスクリーンへの応用も想定している様子が伺えます。ただ、ここに集まったビジターの多くは、同業他社の調査員のようで、すぐにビジネスに繋がることはなさそうです。なにしろ、日本国内には、OLEDパネルやタッチパネルのメーカーが極めて少ないのですから。

 キーワードとして、結構目に付いたのはウエラブル・エレクトロニクス用、メディカル・エレクトロニクス用の伸縮性材料と透明エレクトロニクス材料です。これまでフレキシブルな電子材料といえば、ポリイミドフィルムやPETフィルムが中心でしたが、伸縮性はありませんでした。そこで、多くの素材メーカー、特に繊維メーカーが伸縮性のある導電性材料の開発を進めているようです。また、これまで透明な導電材料といえば、ほとんどITOでしたが、ここへ来て、ピードット、銀ナノワイヤ、薄膜メタルメッシュなどの実用化が進んでおり、今回もそれぞれの分野で複数のメーカーが新技術を紹介していました。ちょっと気になったのは、ドイツのFraunhofer研究所が、幾つかのメーカーをまとめて、透明導電性フィルムをRTRで生産するシステムとしてアピールしていたことです。いずれにせよ、この分野はしばらくホットトピックスになりそうです。

 地味な展示でしたが、新しいピエゾフィルムにも注目したいと思います。これまで使い物になる有機圧電材料といえば、ポリフッ化ビニリデンぐらいでしたが、今回帝人はポリ乳酸の積層フィルムで圧電体を試作したものを発表しています。この分野も、ウエラブル・エレクトロニクスがらみで話題になりそうです。

 今回の展示で、プリント基板のメーカーはほとんど見られませんでしたが、台湾から中堅のフレキシブル基板メーカーが、少なくとも2社出展しておりました。展示サンプルを見る限りでは、最近の高密度回路、多層回路、実装技術の進歩は目覚ましく、台湾のフレキシブル基板メーカーの技術レベルは、日本の大手メーカーに比べても遜色がなくなってきています。

 印刷エレクトロニクスについては、ほとんど見ることができませんでしたが、高精細の印刷技術は一段と進んでいるようで、中沼アートスクリーンは6ミクロンのL/Sでのスクリーン印刷を実現したとのことでした。

 今回の展示会は、個人的には、なかなか興味深い新技術やメーカーを見ることができました。ただし、メーカーの説明員に聞いてみると、用途や応用技術について明確な見通しを持っているケースは少なく、実用化までにはもう数ステップの階段を越える必要がありそうです。

DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


177回(2017.4.2)

今週の話題

東芝の行方

 日本の大手電気メーカーが低迷状態に陥ってから随分経ちますが、このところ東芝の巨額損失の問題がメディアを賑わしています。振り返ってみれば、護送船団方式の日本の電機メーカー全てが経営危機状態となってしまいました。そのような中で、サンヨーはパナソニックに吸収合併されて業界から消え、シャープは台湾のEMS最大手のホンハイ社の子会社となってなんとか生き延びていますが、事業の方向性はほぼ親会社によって決められるようになっています。(だからこそ、シャープは生き残れたわけで、それ自体は悪いことだとは言えません。)最近、海外のメディアがシャープについてのニュースをリリースする時は、“ホンハイ社の日本子会社の”と言う枕詞が必ず付いています。

 日立製作所は、重荷になっていたHDD事業を売却し、パナソニックはプラズマディスプレイ事業をクローズし、ソニーは多くの事業を切り離して、それぞれなんとか黒字化を果たしました。それでも、かつてのように、日本メーカーが世界のエレクトロニクス業界を引張っていく状況には多くの隔たりがあります。

 そこへ出てきた東芝の問題です。「東芝よ、お前もか!」という思いを持たれた方は少なくないでしょう。個人的な話になりますが、私は東芝とは40年近いビジネス関係を持ってきています。私は東芝の技術カルチャーには共感を覚えましたし、実際に技術先導で多くのプロジェクトが成功裏に進められました。私は部材のベンダーの立場でしたが、東芝は“信頼できる親方”というイメージでした。「東芝のエンジニアの要求であれば、かなりの無理をしてでも実現してやらなくては」という感覚がありました。実際に、それでほとんどうまくいきました。ところが、今回のWestinghouse問題です。まさに裏切られたという思いです。

 今回の問題が顕在化してから、米国量販店での日本ブランドの製品の動きに注意するようにしています。ある量販店で見た光景はショックでした。フロアに東芝ブランドの大型テレビが梱包のまま積み上げられ、その上に値札が付けられています。現物の展示はありません。その隣には、なんとWestinghouse社製の大型テレビが同じように積み上げられているのです。値段は同じです。東芝やWestinghouseが自社工場で組み立てていたとは考えにくいのですが、実際のメーカーの表示はありません。最近、東芝のテレビが売り場に並ぶことはありませんでしたので、これは明らかに、近々まともなメーカーのサービスが得られなくなることを見越しての、在庫一掃バーゲンセールです。だいたいWestinghouseが液晶テレビを販売していたことなど聞いたことがありませんでした。Westinghouseといえば、日本では原子力発電設備のメーカーという認識だったと思いますが、実際には総合電気メーカーとして液晶テレビの販売も行っていたのですね。ちなみに49インチの4Kテレビの価格は449.99ドル(5万円足らず)です。

 ところで、同じ売り場に、今は無いはずのサンヨーブランドの液晶テレビが堂々と展示されています。しかもご丁寧に、「米国で50年」と実績を強調する表示が見えます。もちろん、これはあの日本メーカーのサンヨーではなくて、そのブランド名を購入した中国メーカーの製品です。しかし、中国製であることを示す表示はありません。まさに、“サンヨーは死んでブランド名を残した。”ということでしょうか。ちなみに販売価格は、32インチサイズの液晶テレビで148ドル(1万7千円)です。少し地味ですが、シャープの液晶テレビも展示されています。こちらも、日本製とも台湾製とも表示がありません。しかし、以前に比べて、展示面積は確実に大きくなっています。これは、シャープ自身の努力の結果だとは思えません。明らかに、親会社のホンハイのネットワークによるものです。それでも結果オーライの範囲でしょう。このように、米国の家電量販店の展示を見ているだけで、間接的ではありますが、主要メーカーの動向が透けて見えてきます。

 さて、東芝の場合を考えてみますと、サンヨー、シャープのいずれのケースもあまり参考にならないかもしれません。しかし、残された時間はあまりにも少ないようです。今の経営陣に、この大きなハードルを越える能力があるかどうか疑問ですが、最悪のシナリオを想定しなければならない状況が近づいているようです。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


176回(2017.3.12)

今週の話題

蒸気漏れと黒かび騒動

 以前にご紹介したことがありますが、米国の家屋には標準的に地下室があり、そこにガス、水道、電源などのユーティリティーが収納されています。拙宅も例外ではなく、セントラル・ヒーティング用のボイラーと温水用の大型ヒータータンク、および関連する配管類が複雑に走っています。少し前のことになりますが、旅行から自宅に戻り地下室に入りますと、中は熱気と水蒸気に満ち、床には水が溜まっていて、保管してあった書類や書籍が水浸しになっていました。とにかく、当地では温水無しでは冬を越せませんので、早速業者を呼び、修理を依頼しました。ところが、その業者が言うには、拙宅の温水タンクは型式が古く、もう部品が入手できないので、全体を交換しなければならないとのことです。配管の繋ぎ直しを含めると、日本円で50万円を越える費用になってしまいます。同じ費用をかけるのであれば、トータルでコストダウンになるガス瞬間湯沸かし器に変える方が得だというのです。ちょっと判断がつきかねたので、何人かの知人に聞いてみたところ、驚いたことに、ほとんどが、最近温水タンク方式からガス瞬間湯沸かし器に変えたか、機会があれば変えたいとのことなのです。それで、私も決心がつき、ガス瞬間湯沸かし器を導入することに決めました。

 さて、瞬間湯沸かし器が設置されて、また驚きました。この瞬間湯沸かし器は日本からの輸入品で、メーカーはリンナイなのです。業者に聞いてみましたが、国産品の選択肢は無いとのことです。以前の温水タンクはヨーロッパからの輸入品でしたから、設置業者にしてみれば、調達先が大きく変わったことになります。

 私が興味を持たなかっただけからかもしれませんが、これまで米国内で、リンナイのガス湯沸かし器の広告など見たことがありません。一方、湯沸し器という設備の性格上、一般民生機器では要求されないような高い信頼性と安全性、それに加えて、施工業者が扱いやすいようなソフト面でのサービスが必要になります。リンナイが、そのようなハードルを乗り越え、米国で新しいビジネスを創りだしているということは尊敬に値することですし、他の分野で米国市場に参入しようとしている日本メーカーにとっては、学ぶべきところが大きいでしょう。

 今回の蒸気漏れ事件には後日談があります。瞬間湯沸かし器が設置されたからといって、地下室の水たまりや湿気が取り除かれたわけではありません。溜まっていた水をはき出し、除湿機を回しっぱなしにして、なんとか従前の状態を回復するには、2、3週間かかりました。その後になって気がついたのですが、高温多湿の状況で、地下室には黒カビが繁殖していたのです。これまた専門業者に見てもらったところ、このカビは発がん性の化学物質を放出する危険性の高いもので、しかるべき方法でクリーニングしなければならないとのことなのです。私は、地下室を実験室兼書庫、倉庫として使っていたので、中身はかなり多様です。中にある家具類、試験装置類、部材サンプル類、資料類を全て搬出処分した上でのクリーニングになります。高価な試験装置、実験装置と改めて入手が困難な資料類は業者に清掃してもらった上で残すことにしましたが、他は涙を飲んで廃棄することにしました。これまでに私が収集した各種文献やパンフレット類は一万件を超えていたと思いますが、その8割以上が廃棄処分となりました。収集のために費やした時間と労力、費用を考えると慙愧に堪えません。地下室の壁や天井に張り巡らされている断熱材も除去対象です。業者は巨大な産業廃棄物用のダンプコンテナを用意しましたが、これがほぼ満タンとなりました。

 さて、クリーニングですが、工場などで使うクリーンルームとは逆になります。地下室の中に巨大な送風機で空気を排気して、内側を負圧にします。カビの胞子などの危険な化学物質の放散を防ぐために、排気装置にはヘパフィルターが装着されています。作業者は、使い捨てのフード付き防塵服に身を固め、さらに高性能のマスクとゴーグルを装着するというものものしさです。

 まず空になった地下室で、大型バキューム掃除機で床に溜まっている塵埃を吸い取った後、高圧ジェットの水洗装置で天井、壁、床のカビを吹き飛ばしながら、汚れた洗浄水を高性能バキューム装置で吸い取ります。しつこい汚れはグラインダーを使って、削り取ります。それでも細かいところは、手で拭き取らなければなりません。これらの一連の作業のために、業者は高圧洗浄水と高性能バキューム装置を装備した専用の大型バンを用意しています。

 拙宅の地下室は約100平方メートルありますが、最終的に業者がクリーニングに要した時間は5日間で、平均して3、4人の作業者がかかりきりになりました。最終的に私がクリーニング業者に支払った金額は8500ドルで、日本円では百万円近くなります。この他、断熱材の再装着、家具や棚などを新たに購入する費用がかかりますが、おそらく数千ドルが追加されることになります。湯沸かし器を含めた合計のコストは、日本円で200万円近くになってしまいます。このような想定外の大きな臨時出費は、個人にとっては大きな負担です。幸い隣人が知恵を授けてくれ、家の保険会社と交渉した結果、一万ドルまでカバーしてくれることになりました。当初はコストの大きさに途方にくれましたが、いくらか気分が楽になりました。無駄になるかもしれませんが、アメリカでは保険に入っておくものであることを思い知りました。

 業者や知人に聞いたところでは、このような家のトラブルは決して珍しいことではなく、けっこう多くの人々が経験しているようです。最近日本でも、家庭の黒カビ対応の薬剤などが販売されていますが、米国のそれは、はるかに大規模で、安全性に神経質なものになっているようです。このようなところにも、米国の経済力と技術力の高さをうかがい知ることができます。良い勉強になりました。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


175回(2017.2.26)

今週の話題

コンバーテック・ジャパン 2017

 2月15日から3日間、東京ビッグサイトで、コンバーテック・ジャパン2017が開催されました。おそらくこの展示会は、元々エレクトロニクス関連のものではなく、材料の加工技術を主体としたものだったのでしょう。フィルム加工やラミネーションなどの大型装置が大きな部分を構成しています。しかしながら、機能材料、先端材料となると、どうしてもエレクトロニクス、それも基礎技術に関わってきます。コンバーテックも、展示ブースの過半数は先端エレクトロニクス関連、それも基礎技術といってよいでしょう。展示会の規模も次第に大きくなっており、今年は東館の1〜6ホールの全てを埋め尽くしています。来場者の数もかなりのもので、会場全体を埋め尽くしています。

 コンバーテックの特徴の一つは基礎技術の紹介が多いことですが、関連して、内外の様々な研究開発機関や大学が独自のブースを持って、最新の開発技術を展示しています。NEDO(新エネルギー・産業技術開発機構)はもっとも広いブースを用意して、様々な新規材料技術を展示しています。 AIST(産業技術総合研究所)、 JST(科学技術振興機構)、理科学研究所なども、それなりに大きなブースを構えています。その他、聞いたこともないような名前の研究機関やコンソーシアム(私が知らないだけかもしれませんが)のブースが並んでいます。

 海外からの参加も目立ちます。ドイツは巨大なパビリオンを用意し、有名なFraunhofer Instituteを筆頭に多くの新規技術を持つベンチャー企業を紹介しています。台湾と韓国のブースもかなりの大きさです。その他、私が見つけた国としては、スペイン、イタリア、スイス、オランダ、チェコ、タイ、イラン、中国、カナダなどです。意外なのは米国で、小さなブースで、幾つかの州の企業誘致をささやかにしていたことでした。海外からの出展で気になるのは、ディスプレイがあまりにも地味なことです。せっかくのユニークな技術も、これでは日本ではアピールしません。表示パネルを日本語にしろ、とまでは言いませんが、もう少し訴える展示がありうると思います。この辺りは、事務局がもう少し親切なアドバイスサービスをすべきでしょう。

 世界から集まってきたユニークな新規技術を見て回ることは楽しいものです。ただ、私自身、見て回ったのは半日だけですので、展示会の全貌を語ることはとてもできません。せめて2日は必要です。一方、目につくのは流行語の氾濫です。今年多かったのは、ウエラブル、フレキシブル、IoTなどです。その他、定番として、ナノ、CNT、グラフェン、3Dなどの名前も氾濫しています。残念ながら、技術そのものは玉石混淆で、大部分は石です。石の中には、磨けば、玉になりそうなものも少なくありません。典型的なのが、表面処理や表面改質の技術です。プラズマ処理やコロナ処理の技術を売り込んでいる会社は少なからずありましたが、最終用途への効果が、今ひとつはっきりしないためか、なかなか具体的な用途に繋がっていないようです。

 印刷エレクトロニクスは、コンバーテックの大きなテーマの一つで、多くの企業や団体が、様々な形で参加しています。3Dプリンターは、今年も人気で、大きなブースに多くの観客を集めていました。ただし、細かな部分で技術の進歩は見られるものの、次第にその限界が明らかになってきているようです。当初万能テクノロジーであるかのように語られていただけに、期待はずれの感じは拭えません。フィギュアの細かい細工ができるようになっても、ちょっと使えば飽きてしまいます。

 従来型の印刷エレクトロニクスはそれなりに進歩が認められるようです。特に応用技術の展開が広がっているようです。従来のフォトリソグラフィ/エッチング技術ではできない分野での応用が、実用化に繋がっています。加工技術としては、相変わらずスクリーン印刷が中心ですが、インクジェット印刷機でも、かなり完成度の高い装置が紹介されておりました。エレクトロニクス用グラビア印刷機やフレキソ印刷機も進歩が認められますが、応用開発が進んでいないようです。


DKNリサーチ、沼倉研史(マネージング・ディレクター)
dnumakura@dknresearch.com Haverhill, Massachusetts, U.S.A.


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